「なあなあ、
「なによ」
「なんで俺まで現場に行かないといけないワケ?」
超能力者である御坂美琴と、北山灰次がタクシーに揺られる。
「仕方ないじゃない。黒子が怪我で動けないんだから」
「だからってなあ、俺が出るまでもないじゃん。もし戦闘になっても第三位の超電磁砲様がいれば事足りるだろう?」
「アンタも
タクシー内の空気は決していいとは言えない空気だった。
というより二人の相性が悪いのである。
御坂が火、灰次が油。
これだけ聞くと相性はいいように聞こえるが、
「べっつにー、俺ってばすごい正義漢ってわけでもないしー、今思えば風紀委員に入った理由も意味不明だしー。あ、運転手さんそこのバイパス乗って」
その御坂の言葉に灰次は口を3の字にして、
「だったらやめれば? 本気で風紀委員やってる黒子達にも迷惑でしょ」
「辞めるわけにもいけないんだよなー。風紀委員って必要最小限の武装が許されるし」
灰次の適当な態度が気に入らないのか御坂はムッとした顔で言うが、当の灰次はそれを気にも止めず、袖から小型の拳銃を取り出してクルクルと回して遊ぶ。
「あ、こら、やめなさいって。暴発したらどうすんのよ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。ちゃんと
拳銃側面のスイッチを指で叩いて安全を示してみせるが、それでも御坂の顔は不満げだ。
「それに風紀委員って調べ物とか楽だし、学校の内申も少し優遇されるんだよなー」
「不純。もうちょっと真面目にやろうとは思わないワケ?」
「不純で結構ですぅー。風紀委員に入る奴なんて大抵そうだろ。女にモテたいー、だとか将来のためーだとか。白井のようなやつなんてごく一部だろうに」
このように御坂の怒りという火に灰次が憎まれ口という油を注いでいく。
これが相性がいいと言えるわけがなく、止める者がいなければ二人は常に険悪な雰囲気を加速させ続けていくのだ。
「……やっぱアンタのその態度気に入らないわね」
「ハハッ、そりゃお互い様だ。俺もお前のいい子ぶった
元々いいとは言えなかった車内の空気がお互いの憎まれ口によって更に冷えてゆく。
近寄りがたい重々しい空気の中、車内で一番気まずいのは間違いなく一言も喋ることを許されず、かといってこの場から離れることすらできないタクシーの運転手であろう。
この居心地の悪い緊縛した空気の中、いかにベテランであっても判断力が鈍るのは仕方ないこと。
キキーッ、と甲高い音を鳴らしながらタクシーは急速にスピードを落とし、それを予想だにしていなかった乗員約一名はわわわ、と間の抜けた声を出し、慣性のままに前のシートに頭をぶつけた。
「あいたた、急に何?」
「んじゃ、そゆことでお先。タクシー代よろしく」
「はぁ? ちょ、ちょっと! どういうことよ!」
御坂が何が起きたのか理解できず目を白黒させていると既にこれを予見していた灰次は先にタクシーを降りていく。
「す、すいやせんお客さん。これ以上行けないようでさぁ」
運転手は申し訳なさそうに脂汗でテカる頭を掻きながら、フロントガラスの先を指差す。
指の先には数人の
そしてよくよく見れば先に車から降りていた灰次は警備員の前まで行っていて何か話し始めたようだ。
「アイツっ!」
それを見て御坂も運転手に代金を払い灰次の所へ走っていった。
「ちょっとアンタなにして――」
「ここを通れるようにお願いしてただけだヨー」
灰次の顔には先ほどの車内での剣呑な面持ちはなく、ニコニコと楽しそうな顔をして御坂の言葉を遮った。
なぜ灰次が楽しそうな顔をしているかは、彼の瞳の紅と、四つん這いで落ち込んでいたり悔しそうに涙を流す警備員の方々が物語っていた。
恐らく能力を使ってトラウマや弱みを握り、物言う隙を与えず恐喝していったのだろう。
彼の性格からしてそう思われるのは仕方ない、いや、妥当と言える。
善人が仕方なしにその能力を行使するのならまだいいが、本人がそれを楽しんでいるのがまたタチが悪い。
「……ドS」
「いいじゃねぇか、ここ通れるようになったんだし」
相変わらず楽しそうに笑ってパトカーのバンパーを足場に、封鎖された向こう側へと飛び越えていく。
その際、警備員の一人の肩を叩いて何かを囁いていったのを御坂は見逃さなかった。
一層落ち込み、負のオーラを吐き出し始める警備員に心の中で合掌をし、御坂も灰次の後についていった。
◆
◆
◆
「おお、こりゃあ……」
「なに、これ……警備員が全滅?」
たどり着いた先での光景は悲惨なものだった。
数十名の警備員が力なく横たわり、警備ロボは潰れていたりショートしていたりで機能しているのもは1つもない。
「あ、……おい、超電磁砲。あれ」
車も転倒し煙を上げているものなど動きそうにないものがほとんどだがその中で1台だけ無傷でランプを点滅させているスポーツカーがあった。
そしてその中にはよく見覚えのある花飾りをつけた少女が目を閉じ横たわっている。
「初春さん!」
御坂が彼女のもとへ駆け寄り、車の窓を叩いて声をかけるが反応はない。
「気絶してるだけっぽいな。見たとこ外傷もないし脳波も安定してる」
御坂の後ろからスポーツカー内部を
確かによくよく見れば一定のリズムで初春の胸は上下している。
それは呼吸をし、生きているという証だ。
「彼の言うとおりだ、御坂美琴」
砂埃が立つ道路の真ん中。
砂埃が薄くなっていくにつれて現れたのは病院で御坂が見せてきた写真と同じ顔、白衣を纏った目の下に深い隈をつけた女性だった。
「木山、春美」
今回の事件の犯人、友人を陥れた人物が姿を見せたことで御坂は奥歯を強く噛み締める。
しかしこの場に現れたのは木山ただひとり。
「へぇー、写真で見るより美人じゃん。っていうかそこらに転がる警備員らはオタクがやったん?」
「ああ、そうだ。しかし、いささか暴れすぎたとは思ったが……。ふふっ、まさか学園都市に8人しかいない能力者たちのトップ、超能力者が2人も来るとはね」
対して木山は各分野最強の能力者2人を前に息を軽く吐きだすように不敵に笑う。
能力を持つはずがない研究員が警備員相手にここまで圧倒できるはずがない。
一般の研究者でありながらどうやってこの惨状を引き起こせたのか。彼女の笑みはその点を踏まえて考えるととても不気味なものに感じられる。
御坂が身構え、木山の間に一触即発の緊張感が走る。
が、そんな中、灰次だけはまるで自分は蚊帳の外だと言わんばかりに気を楽にし、あまつさえ壊れた車のバンパーに腰掛け二人を観戦する気満々でいた。
「既に事件を捜査していた御坂君が来ることはわかっていた。が、北山灰次、君が来ることは予想してなかったよ」
「まあ、来る気なかったしな」
あっけらかんとそう言うと御坂がこちらを睨んでくる。
「だがたとえ超能力者2人が相手だとしても私は引く気はないがね」
「そうかい。でも俺戦う気ないから1対1で勝手にやっててくれ」
「ってアンタも戦えっての!」
手をひらひらと振りながら言った言葉についに御坂はお冠のようだ。
電気をバチバチと鳴らし次の瞬間には灰次に襲いかかりそうな雰囲気を醸し出す。
が、思考を読み取り続けていた灰次は二人が次に取ろうとする行動は知っている。
「じゃあ彼の言う通りにやらせてもらおう……か!」
「んじゃ超電磁砲せいぜいがんばれ、……あと足元注意な」
目を充血させたように赤く変えた木山がその場で踏み込むとその点を中心として衝撃波が発生し、アスファルトがガラガラと音を立て崩落していく。
「んな……!」
御坂はすぐさま木山の方を向き直すが既に足場は崩れきっており体が重力に惹かれ沈んでいくのを感じていた。
一方、衝撃波の範囲外、足場が崩れないギリギリの位置にいた灰次はアスファルトがバラバラと崩れ、二人が落ちていくさまを手を振りながら眺めていた。
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