とある瞳の情報観測   作:ゆーま@疲れたよ…

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6 魔術師:錆びた歯車は軋みながらも回りだすⅡ

 だが、

 

「ふっ!」

 

 キィン!

 神裂が刀を鞘から抜き、振ると甲高い音と共にそのまま直進するはずだったゴム製の弾が真ん中から2つに割れて神裂の足元に落ちた。

 

「うっそぉん」

 

 灰次は信じられないといった顔で刀を鞘に収める神裂を見つめる。

 すると彼の瞳に神裂の姿が映ったことにより、赤い匣がその存在を解析していく。

 

(筋肉量は常人よりもかなり多い、けどあくまで人間並み、脳波もいたって正常。初速200m/s以上もある弾丸だぞ? 石川五右衛門かよ……)

 

 これが魔術なのか。

 そういえば先程見た『人払い』とやらもそこになにかあるのはわかったが、それが何かは解析することはできなかった。

 もしかすると魔術とやらはこの瞳では解析できないかもしれない。

 灰次の中で魔術というものの危険度が一気に引き上げられる。

 その考えを知ってか知らずか、神裂が腰を落とし刀に右手を添え、握り

 

「来るというのなら、七閃!」

 

 微かに動いたと思った瞬間消えた。

 それと同時にけたたましい風切り音と共にいくつもの斬撃が灰次へと襲いかかる。

 灰次はそれに身構えるがそれ以上動かない。彼の能力により斬撃の軌道が見えているのだ。

 灰次の瞳には7つの鋼線が自分のすぐ横を通り過ぎて行く未来が映し出されていた。

 その一瞬きした後、予見した通り斬撃は地をえぐり、鋭い疾風を起こし、切り裂いたアスファルトの破片を飛ばしながら灰次のすぐ傍を通り過ぎていった。

 そしてカチン、という音共に神裂の手は何もなかったように消える前の位置に収まっていた。

 直線的にえぐられたアスファルトの刀傷は深く、人がまともに歩けるような道ではない。そんな惨状が先の技の威力を物語っていた。

 だが灰次はそんな光景にも怖じけず安心したような、されど冷めた口調で呟く。

 

「……ははっ、そりゃあそうだよな、魔術なんてあるわけないよな。何をビビってたんだよ、くっだらねぇ」

 

 神裂は魔術による神速の抜刀術による斬撃の衝撃と見せたかったのだろう。

 だが実際はどうだろう、ただ鋼線を振り回しただけだ。

 全て見えていた灰次にとって先ほどの一撃は魔法を謳うタネも仕掛けも丸見えのただの手品。

 何が来るかと身構えていたが、いざ見てみれば拍子抜けだ。

 『人払い』とやらが解析できないのはよくわからないが、銃弾を切り落とせたのはあの手の動きがあれば可能だろう。

 魔術師なんてただの妄想。

 魔術なんてなく、この女はイかれた身体能力を持ったメンヘラ野郎だと結論づけることにした。

 正直、あの筋力レベルで体の一部が消えるほどの動きができるのかは謎だが、目の前で起きた事実なのだから認めざる負えない。

 しかしあの動きまではできないにしろ自分も身体能力には自信がある。

 だから

 

「おいおい、その程度かよ自称魔術師、いや、詐欺師さんよ」

 

 挑発しながら首にかけられたゴーグルを持ち上げ、目の当たる位置へと持ってくる。

 確かに先程の攻撃の威力、速度なら人体に当たれば豆腐を切るよりも楽にぶった斬られるのは目に見えている。

 だが自分ならば当たらない自信があった。むしろ当たっても問題ないという根拠があった。

 灰次の挑発に神裂はムッと片眉を釣り上げる。

 

「その程度、ですか。初見でそんなこと言われたのは初めてですね。……ならば今度は加減なしでお答えしましょう」

 

 そう言うと神裂は腰の刀に手をかけ、

 

「七閃!」

 

 再び消えた。

 それと同時に灰次は神裂の方へと駆け出す。目の前に砕かれたアスファルトと砂埃が舞い上がり壁が()される。

 その中にはチラリときらめく白刃が見えた。

 次の瞬間、えぐり飛ばされたアスファルトの欠片が容赦なく体を打ち付け、暴風による轟音と鋼線が空を切る鋭い風切り音が耳をつんざく。

 先程とは違い、鋼線の機動は直線的ではなく変幻自在に変わっていく。

 まるで凶悪な台風の中だ。

 だが灰次には見える。鋼線の描く軌道が。瞳の奥に眠る赤い匣が灰次に確実な未来を教える。

 一撃で致命傷にもなり得る鋼線の軌道を巧みにかわしながら着実に神裂へと距離を詰める。

 無数に飛来するアスファルトの欠片が頬を薄く切り、又、ゴーグルにあたって粉々に爆ぜる。

 それでも灰次は目を神裂から離さず、息をつくまもなく襲いかかる鋼線を避け続ける。

 灰次と神裂との距離は15メートルほど。普通に走れば3秒もかからないがその三分の一にも満たない時間が灰次にはとても長く感じられた。

 もしここで目を閉じるようなことがあれば次に目に浮かぶのは、膝から崩れ落ちる首から上のない自分の体であろう。

 次々と迫る死線を5、6とかわし、そして最後の7本目を身をかがめて避けきった瞬間、拳を握り、力いっぱい地を蹴った。

 技の発動時に消える神裂の手は既に動きを止めている。

 全て避け切ったと安堵し、一歩、二歩と進んだところで瞳は映した。

 

「――七閃」

 

 頭上から降り注ぐ、避ける隙間さえもない鋭き刃を。

 横に避けようと後ろに下がろうと頭から三枚おろしにされることは目に見えている。

 だがそんな絶望的な状況にも灰次は、一雫の冷や汗を額から流しながらも口には笑みを浮かべていた。

 

「まだ詰んじゃいねぇさ!」

 

 頭を庇うように腕を持ち上げ、そのまま速度を落とさずただまっすぐに突っ切る。

 神裂はこの時点で目の前の少年は気が狂ったのか、もしくは自分が情けをかけるとでも思っているのかと考えたが次の瞬間にはそんなものは霧散した。

 コンクリートをも軽々と砕く程の威力を持つ鋼線が灰次の腕へとくい込む。

 

「っつぅ!」

 

 だがくい込んだ鋼線は灰次の腕を寸断するどころか、学ランの袖に傷を付けることも叶わず動きを止めた。

 灰次は脅威のなくなった鋼線を振り払い、振り払った腕をそのまま体の背後へもっていき、

 

「クッソ痛ってぇんだよ!」

 

 驚愕する神裂の顔面向けて拳を振り抜いた。

 

「っ甘い」

 

 神裂はすぐ顔を引き締め、上半身を逸らしそれを避け、ガラ空きになった灰次の腹部へ向けて刀の柄でカウンターを放つ。

 それを先読みしていた灰次も同様、上半身をひねって紙一重でよける。その避けるついでに神裂の腕を掴み、思いっきり引っ張った。

 体がぐらついたが神裂は動かされまいと足に力をいれ踏ん張る。

 それを筋肉の動き、神経の電気信号が見えている灰次が見逃すはずがない。

 神裂が足に力を入れた瞬間、今度は逆に神裂側へと押し返し、軽く足を払った。

 

「な――」

 

 ただそれだけで両足は地を離れ、体は仰向けになるように浮いた。

 灰次は袖から拳銃を取り出し、呆気にとられた顔をする神裂の額に向け、引き金に指をかけた。

 

「これで」

「ッまだです!」

 

 体が宙に浮いているのにも関わらず神裂は刀を抜刀し、振り抜いた。

 バランスもあったもんじゃない、本来の威力の半分も無い斬撃。

 もちろん刃の先が灰次の胴を捉えることはできず、神裂は受身を取れず背から転倒したが、灰次の射撃を阻止するには十分な一撃だった。

 灰次は引き金を引くタイミングを逃し仕方なく神裂から距離をとり、神裂はすぐ立ち上がる。

 どうやら転倒のダメージはほぼ無いに等しいらしい。

 今銃弾を放ったところでまた切り落とされるのは目に見えている。

 戦況は振り出しに戻されたと思われたが、

 

「いやぁー痛い痛い。この学ランさ、学園都市特性の防弾、防刃チョッキなんだぜ? それも衝撃緩衝材入りの。それなのにあの威力はやべぇわ。骨折れちまうかと思ったぜ」

 

 不利なはずの灰次は嬉しそうに、神裂を馬鹿にするようにニヤついている。

 

「何が、おかしいのですか」

「んー? いやぁ、あんたが勝敗条件を理解してないのが滑稽でさ」

「……勝敗条件?」

 

 灰次は自分の足元を指差す。

 

「?」

 

 それでも神裂は理解できない。

 

「もーしょうがないなぁ、ネクストコ○ンズヒーント、位置関係」

 

 そう言いながら今度は自分の立っている位置と神裂が立っている位置を交互に指差す。

 

「位置? ……っ!」

 

 そこでようやく神裂にも理解できた。初期の位置が灰次と神裂は反対になっていた。

 先程の攻防の前は自分が通さないようにしていた寮側にいたが、いつの間にか灰次が寮側に立っていた。

 恐らく入れ替わったのは自分が転倒させられた時だろう。

 ……もしかするとあれは銃弾を命中させるためではなく、ここを通るため? あるいはその両方か。

 だとしたら近づかれた時点で負けは決まっていたのかもしれない。

 だが神裂はまだ諦めない。

 

「まだ私が負けたと決め付けるには早すぎるのでは? 貴方が寮につくまでにカタをつけることができれば私の勝ちです」

 

 再び神裂は刀に手をかけ抜刀の構えに入る。

 確かに灰次のいう勝敗条件がそういう意味ならば神裂の言葉は理にかなっている。

 だけど灰次は甘い甘いと言いたげに溜息をつきながら首を振る。

 

「残念だけどそりゃあ無理だ。俺はアンタの心が読めるんだぜ? アンタが考えることなんて丸見えだ」

「そんなもの無心になれば……」

「あー、アンタほどの達人だったら無心になれるかもな。だけど深層心理って知ってるか? 人間いくら考えないようにしたって完全に無心で行動するっていうのは無理なんだよ。まっ、それ抜きにしたって俺には武器の軌道が見えるから避け放題。それに直撃してもノーダメ(ノーダメージ)なのは証明済みだぜ?」

 

 灰次は勝ち誇った顔をする。

 

「それにアンタには奥の手ってのがあるっぽいけどそれをやったら俺は確実に死ぬんだろ? アンタにはそれができるか? 誰のためでもなく人を殺すためだけに」

「……」

「ははっ、無理だよなぁ。さっきからアンタの考えること読んでるけど魔術師なんて名乗ってるくせに考えることはまともだからな」

 

 そこから神裂は何も言えなくなる。

 電球が切れそうなのかチカチカと点滅する街灯が灰次と神裂を照らしたり消したりを繰り返す。

 

「以上を踏まえアンタが俺に勝つなんて不可能なんだよ。あーあ、実に無駄な時間だった。さっさと寮に帰って飯……めし?」

 

 踵を返して歩を進めようとしたところでなにか違和感を覚える。なにか忘れているような。

 点滅を繰り返す街灯が目に入る。街灯の隣に立つ神裂は悔しそうに刀の鞘を握っている。静寂の暗闇で自分は空を見上げる。星がチカチカと瞬く。

 つい最近似たような光景を見た気がする。

 完全下校時刻を過ぎて暗い街中、確か散々誰かを馬鹿にした気がする。

 なんだったか……。

 

 ……ああ、そうだ! 昨日のことだ。

 昨日は途中から街の一部が停電していたから街灯はついていなかったけど、とあるスキルアウトのリーダーを散々追い詰めて殺したんだ。

 同じとは言えないが今の状況と少し似ていた。

 そうか。昨日はそのまま帰って飯をつく……って…………ない。

 …………あれ? そういえば冷蔵庫の中身は?

 

「……食材買いなおしてねぇぇぇえええ!」

 

 急に大声を出したことにより何事かと神裂の肩がビクッと震えた。

 

「あー、なんだ。すまん、さっきの戦いなし。ってことで好きなだけ向こうでも眺めてろバーカ!」

 

 そう吐き捨てると灰次は寮に続く道を通らず、神裂を横切って来た道を走って戻っていく。

 神裂は何が起こったのか分からず、その背中が見えなくなるまで呆然とただただ眺めていた。

 




 こんな感じ

    寮                     来た道
    ←                      →

    神裂                           灰次
   ( ∵)〈えっ…                 ε=ε=ε= ヘ( `Д´)ノ〈バーカ!
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