とある瞳の情報観測   作:ゆーま@疲れたよ…

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 ふざけないと気がすまないタチです。はい。


8 喧嘩:蛇が喰らうは弱者の肉Ⅱ

 

 

 北山灰次は運やら運命、非科学的なものや宗教的なものを信じない。

 宝くじがあたっても確率的にはありえる、目の前で目当ての物が売り切れてもタイミングが悪かったで済ます。

 不幸だー、と叫んでいる奴を見ると、何言ってんだコイツと思うほどに。

 だからこの場合口から零れた言葉は

 

「めんどくさいなぁ」

 

 灰次の目の前には髪を染め、ピアスをしたりタバコをふかす、見るからに不良! といったガラの悪そうな3人組みの男が立ちふさがっていた。

 なるべく早く支部に行こうと裏道を通ったのが悪かったか。

 

「テメェが噂の最近超能力者(LEVEL5)になったって奴だな」

 

 3人組の内一人が話しかけてくるが正直こういう奴らには関わりたくない。

 どうせ話の内容なんてカツアゲか喧嘩がしたいがためのいちゃもんだからだ。

 どちらにせよ風紀委員(ジャッジメント)に所属している以上こうやって絡んできた以上は取り締まらないといけない。

 だけどそれでも灰次は彼らと絡むのに気乗りはしなかった。

 なぜならば暗部の仕事ならともかく、表の活動をしている時に関わると気軽に殺すことができず、生きている以上遺恨が残り高確率で報復に来る。

 だからこそこういう奴らには関わりたくない。

 それに右手に持った箱に入ったケーキやらババロアが大変なことになりそうだから。

 

「違いまーす。人違いでは?」

 

 だからとぼけた。

 まだ超能力者と認定されてから2ヶ月も経っていないのだ。

 そうそう目立つ特徴がなければ……

 

「嘘ついてんじゃねぇ。灰色に脱色した髪、首に無駄にゴテゴテしたゴーグル、それに真夏に学ラン着るバカなんてそうそういねぇよ」

 

 かなり目立つ特徴があった。

 確かに真夏にこんな暑苦しい格好するやつなんていないだろう。

 だがこの学ランは灰次の体を守るいわば鎧だ。

 超能力者になったはいいが最下位という順位のせいか名を上げようとするバカ共に絡まれることも多くなった。

 だから不意をつかれて大怪我をするより目立ってリスクを減らす方を選んだのだ。

 

「あれ? バレちゃった? 許してちょんまげ☆」

 

 そっとババロアやら入った箱を地におろし、こつんと頭を小突いてウインクしながら舌を出す。もちろん片足を軽く上げるのも忘れない。

 女がやるならまだしも男がやれば最上級の煽りを不良たち向けて平然とやってのける。(そこにシビれる! あこがれるゥ!)

 身元がバレたなら見栄の張りたがりな馬鹿な不良共は名を挙げようと襲いかかってくることは間違いない。

 だったらとっとと暴力に訴えてもらうのが手っ取り早い。

 暴力を振るわれれば風紀委員として正当に返り討ちにできるからである。

 それにこうやって絡んでくるのはよっぽど身の程を知らない武装無能力集団(スキルアウト)か、馬鹿な不良どもだ。

 そんな奴らなど『情報観測(パンドラ)』があれば武器を使われたって大した驚異にはなりえない、所詮不良A,B,Cだ。

 

「くっそウゼェ。っていうかめんどくせぇ」

「おい、さっさとやっちまおうぜ。こんなバカでも一応超能力者、コイツを殺れば俺達の株も上がるってもんだ。それに……俺たちには『力』があるだろ?」

 

 不良Aがゲンナリとした顔を浮かべる一方、不良Cは不敵ににやりと笑った。

 

「ああ、そうだな。せっかく手に入れた力だ。華々しいデビューといかせてもらおうか!」

 

 不良Aの手元にバスケットボール大の火球が現れる。

 すぐさま灰次はソレを左の瞳の匣、パンドラで解析する。

 発火能力者(パイロキネシスト)

 文字通り火を出現させる能力で、学園都市では割とメジャーな能力だ。

 この火球の大きさから見て能力強度(レベル)は大体中能力者(LEVEL3)くらいだろうか。

 

「死にさらせぇぇぇ!」

 

 火球が灰次に向かって放たれる。

 ゴオオオオ! 、と周りの酸素を燃やしながら肥大化し迫る様はなかなかの迫力だ。

 しかし、ただ惜しいのはなんの変化もなく直線的に飛んでくる点だろう。

 と、頭の片隅で考えながら灰次はそれを難なく避けた。

 

「チッ、外したか。だが次は――」

「ねぇって」

 

 次の火球を発現させるより早く袖から拳銃を取り出し、不良Aの額を撃ち抜いた。

 撃ち抜いたといっても、もちろん弾は風紀委員に支給されるゴム弾であって不良Aはただ昏倒しただけである。

 

「よくこの程度で挑んでくるねぇ。灰次さんは正直びっくりです」

「ハッ、あいつは俺らの中でも最弱。そう余裕ぶっこいていられるのも今のうちだけだぜ」

 

 どこの四天王だ。……一人足りないが。

 心の中でそうツッコミを入れながら不良共の思考に目のピントを合わせる。

 不良たちの思考がパンドラによって目視化される。

 

(噂に聞けば第8位は能力は見たものの分子の構成を読み取るんだったか。だったら俺の『水流操作』能力でも……)

(確かこいつの能力の情報を見るだけって話じゃねぇか。だがどんな能力でも関係ねぇ、俺の『倍速変化(シャープアクセル)』が最強だぜ)

 

 順に不良B,Cの思考。

 二人共灰次の能力について知っている情報が違うのは、灰次が意図的に情報操作を行いいくつかわざと間違った情報を流したからだ。

 恐らく灰次の能力を完全に理解しているのなんて能力の研究に携わった研究者くらいのものだろう。

 まぁ、別に能力がバレたところで対策のしようがない能力だから全然問題ないのだが。

 それでもここまでうまくいくと流石に笑いが隠せず口元が緩む。

 

「チッ、ニヤニヤとムカつく顔しやがって。今度は俺が行くぜ。いいよな?」

「おお、ヤッちまえ」

 

 今度は不良Bが前に出てきた。

 どうしてまとめてかかってこないのか。

 一緒に来たほうが勝率は微小だが上がるというのに。

 計算もできないのだろうか。

 ……できないからこんな馬鹿っぽい風貌なのだろうなと結論づけることにした。

 そんな事を考えている間にも不良Bが手を前に突き出し、不良Bの目の前に水の壁が現れた。

 

「これでテメェの銃弾は届かねぇぜ?」

 

 水の壁のサイズは横186センチ、縦211センチ。厚さは2.1センチ、どこもほぼ均等。

 小型のサブマシンガン程度でも十分貫ける程の壁だが、生憎弾はゴム弾。抵抗が大きすぎるし、さらに言えば灰次のもつ小型拳銃ではあの壁を破るほどの威力はない。

 だが灰次に言わせればその程度の障害どうとでもなる。

 それにも関わらず勝ち誇った顔でドヤ顔をする不良Bを殴りたくなるのは仕方ないことだ。

 あまりにムカつく顔をしているから目のピントを合わせ、不良Bのさらに詳しい能力情報を読み取る。

 ――、一度に操れる水の量は中々多いが操れる塊はひとつだけだが、水が繋がっていれば どんな形状にもなる。しかし能力使用中はその場から動けないらしい。

 随分重大な欠陥のある水流操作のLEVEL3だ。

 これでどうやって勝とうと思ったのか。

 

「どうした? 撃ってこねぇのかよ。ビビって――」

 

 パァン!

 不良Bの声を遮るように灰次は空向けて撃った。

 

「どこ向けて撃って――」

「さぁさぁ、ここで灰次さんから問題です。今俺が空向けて撃った弾は何秒後に地上に衝突するでしょうか。弾速は秒速214メートル、重力加速度は秒間9.8メートル毎秒と定めます」

「はぁ? 急になに言ってんだ」

「いやぁ、お前らみたいな馬鹿な不良がどこまで馬鹿なのか知りたくてさ」

「喧嘩売ってんのかテメェ」

「ハハッ、お前が何言ってんだよ現在進行形で喧嘩中じゃねぇか。バーカバーカ」

「テメェ!」

 

 煽られた不良Bは額に青筋を浮かべて凄み、水の壁の一部を数本の鞭に変える。

 

「やーん触手に襲われるぅー」

「うっぜぇ!」

 

 緊張感もない棒読みが癪に障ったのか不良Bは水の鞭を一斉に灰次へと襲いかからせた。

 だがあらかじめ思考を読んでいた灰次にそんなものが当たるわけもなく、鞭は地面へと衝突し爆ぜた。

 

「さーって問題の答えはいかほどー?」

「んなもんわか――ウゴッ!」

「約40秒でしたー」

 

 急に不良Bが膝をつき力なく前のめりに倒れた。

 今は霧散しているが水の壁を破ったわけでもなく、ただ話していただけで急に倒れた。

 不良Cも何が起こったのかわからず目を丸くしている。

 

「ビー太! オイ、なにしやがった!」

「そいつマジでBっていうのかよ……いやいや、説明したじゃん。空に撃った()偶々(・・)そいつの()に当たっただけだって。たま(・・)だけに」

 

 所々強調して言う。

 もちろんそれは偶然などではない。

 灰次の能力で観測された弾速、弾の軌道、大気の流れなど計算し尽くした必然の結果であり、この必中の射撃技術は能力自体に攻撃力のない灰次の所謂必殺技のようなものである。

 

「偶然当たったからって――」

「そんな威力はないって? お前ホントに学園都市の人間かよ。エネルギー保存則なんて中学で習うだろ」

 

 エネルギー保存則、それは『孤立系のエネルギーの総量は変わらない』という物理学の法則の一つである。

 例としては物体を垂直に打ち上げた場合、発射点に戻ってくるときには打ち上げた瞬間と同じ速さになっている。

 つまり今回も不良Bに当たった弾の威力は発射直後の威力と大差ないのだ。

 

「……うるせぇっ! 俺にはそんな偶然通用しねぇぞ!」

 

 ごまかすように吼え、不良Cは猪のように突っ込んできた。

 なんの作戦もなく、自分ならばよけられると考えて突っ込んでくる不良Cに呆れながら拳銃を向ける。

 だがそこで不良Cの口元がニヤリと笑う。

 

倍速変化(シャープアクセル)

 

 瞬間、不良Cが視界から消えた。

 直前まで目のピント(パンドラ)を筋肉の動きと生体電流にむけ、動きを先読みしていたにも関わらず不良Cが消えたのが一瞬理解できなかった。

 ステルス系の能力? いや、そもそも灰次の能力にはそういう系統の能力は通じない。

 ならば考えられる能力は絞られる訳で――

 

「っつ!」

 

 刹那、懐から顎に向けて拳が放たれ、それを顔ごと上体を逸らしなんとか紙一重で躱す。

 空を向いた視点をすぐさま下へ向けると姿勢は低く、拳を顔の前で構える不良Cがいた。

 脇をしめ、素早いパンチを繰り出せるよう特化した構え……ボクシングの基本姿勢。

 

「おうおう、よく避けたな! じゃあこれでどうだ!」

 

 先ほどの大ぶりなアッパーとは違い動きを最小限にまとめたジャブ。

 灰次の考えでは姿勢が崩れた状態でも十分によけられる速さだった。だが視界に捉えていたはずの拳が消え、次の瞬間には腹部に連続した痛みが走る。

 

「かっ! はっ、……ゲホっ、っつ」

 

 ジャブが連続で腹部に直撃したようだ。

 学ランの前を閉じていなかったせいで威力は軽減されることなく灰次の腹に突きささる。

 一瞬息が詰まり、顔を歪めながら腹を押さえて2歩,3歩と後ずさる。

 

「ハッ! どうよ俺の倍速変化の味は!」

「はっはっ、はぁー……ふぅ。自分の動きを瞬時に倍速まで上げる能力。連続使用可能時間1秒以下、LEVELは他の奴らと同じで3ってところ、だな」

 

 呼吸で痛みを和らげながら、直前目に入った不良Cの能力の情報を口にする。

 秒速10mを秒速20mに、時速100Kmを時速200Kmに。

 使用可能時間が短いとは言え厄介な能力だ。パンチの速度が倍になるということは単純に考えて威力も倍になるということだから。

 

「ほぉーう。流石情報観測様々ってところか! だが残念だな、テメェを倒して今日から俺がLEVEL5に名を連ねることになるだろうよ! 『倍速変化』!」

 

 肉薄してきた不良Cの速度がグンと上がる。

 だがただ速くなるだけならば付け入る隙はいくらでもある。

 

「おら、よっとぉ!?」

 

 直線的に拳を突き出してきた不良Cに対し、体を引いて足をかけて転倒させる。

 その様子に灰次はやはりとほくそ笑む。

 体が速くなっただけで脳はそのまま。つまり不良Cは頭が体についていけない状態にあるということだ。

 先ほど遅れを取ったのは飽くまで自分の慢心。

 ちゃんと能力を使っていれば厄介であっても恐るほどの相手ではない。

 

「グッ、ならこれなら!」

 

 すぐさま立ち上がると今度は左右にステップを踏みフェイントを交えつつ、能力を駆使した右フック。

 灰次はそれを一瞬手を背にやった後、すぐさまその腕で防いだ。

 ――ゴキリ。

 骨が砕けるような嫌な音。

 

「あがァッ!」

 

 ビルの谷間に悲痛な悲鳴が響く、がそれを発したのは灰次ではなく、殴った側の不良Cだった。

 

「おーおー、面白いくらい綺麗に砕けたな。流石『倍速変化』様ってか、ハハッ」

 

 砕けた右手を庇いながら膝をつく不良Cを笑いながら見下す。

 灰次の手には拳銃でもなくナイフでもなく、黒光りする合金製のトンファーが握られていた。

 パンチの威力が倍になるということは拳にかかる負荷も倍になるということだ。

 柔らかいものならともかく、硬いものを本来ある力以上の力で殴ったなら当然殴った側はただでは済まない。

 

「テ、テメェそんなもんどこから出しやがった……」

「んー、知らなかった? 俺ってば体中に武器隠し持ってるから一部から『武器商人(ウエポンスキーパー)』なんて呼ばれてんだよねー」

 

 と言いながら学ランの内側を見せる。

 そこには数種の手榴弾、ロッド、ワイヤー、拳銃の弾倉など様々な装備で武装されていた。

 

「だからこの学ランだけで20kgオーバーだぜ? 肩がこるのってなんのって――」

「糞がァ!」

 

 不良Cは能力を駆使して砕けた拳とは反対の拳、左拳で殴りかかってくるも、

 

「無駄だって」

 

 先ほどとは違い防ぐだけではなく、拳の破壊を目的としてトンファーを迫る拳めがけて振り下ろした。

 灰次が能力を使っている以上狙いは外れることなく、かつ効率的に不良Cの拳を破壊した。

 

「がぁぁぁあああ!!」

「聞いてきたこと答えてんのにいきなり襲ってくるのって卑怯だよなー。だからそんな悪い子にはぁ……」

 

 にたり、と口元を歪め、袖から拳銃を取り出し、拳の痛みに地をのたうち回る不良C向け、撃った。

 

「が、ああああぁぁぁああああ!!」

 

 弾は不良Cの右肩の付け根に命中し、辺りには悲痛な絶叫が響く。

 

「俺の能力って人の能力の情報を見るだけじゃないんだよねー」

 

 今度は連続して弾を弾く。

 

「あああああああああああああああああぁぁぁぁあぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 声にならない声が場を支配する。

 左右股関節に弾は当たり、まともに四肢を動かせなくなった不良Cは痛みに悶えその場で幼虫のように蠢く。

 

「俺のこれ(能力)って人体の弱点や攻撃が来る軌跡が前もって見えるんだよねー。だからお前がどれだけ速くなっても防げるし、効率的に痛みを与えられる」

 

 灰次の顔が愉悦に歪み、手元の小さな拳銃の銃口が爆ぜる。

 不良Cに対し4度目の射撃は人体の急所、鳩尾をえぐった。

 

「お、げぇええ、かはっ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 胃が急に圧迫されたせいか不良Cは仰向けのまま自分の顔に赤の混じったゲロをぶちまけた。

 酷い臭気が立ち込めるが、痛みで気にすることができないのかひどい顔で相変わらず悶えるだけだ。

 

「ねえ痛い? 痛い? 痛いならもう二度と俺には絡まないでねー。次はもっと痛くしちゃうからさ、まあ聞こえてないか。ハハハッ」

 

 灰次の顔にはいつもの気だるそうな顔はなく、人を傷つけることに快楽を覚えるキチガイじみた笑顔がそこを支配していた。

 

「じゃあこれ以上あんたらに取られる時間もないし……じゃあ、おやすみ」

 

 その言葉を最後に、パンッ、と軽い音と共に路地裏を支配していた絶叫はぴたりと止まった。

 しん、と静まった裏通りで一度息をつくと灰次の顔もいつものやる気のなさそうな顔に戻っていた。

 興奮が止み、静かになると別のことが気になってくる。

目の前のゴミ(不良C)から流れるゲロの臭いがひどい。

 さっさとこの場から離れようとした時、足元に落ちていた音楽プレイヤーを見つけた。

 

「これってこいつらのか? ま、戦利品として貰っとくかぁ」

 

 灰次は音楽プレイヤーを拝借すると地に置かれたケーキ屋の箱を拾い上げ、大通り向けて踵を返す。

 

「あーあ、無駄に時間食ったじゃん」

 

 そういいながら携帯の時計を見るととっくに2時を回っていた。

 これは着く頃には3時のおやつにちょうど良くなるかなー、とのんきなことを考えながらいつかのように、大通りへと消えていった。

 

 

 




不良
A…エイジ
B…ビー太
C…カルロス・マッケンジー
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