とある瞳の情報観測   作:ゆーま@疲れたよ…

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9 幻想御手:闇を切り裂く光は終わりを始める鐘の音

 

 

 風紀委員第117支部。

 正座で頭を垂れる(こうべをたれる)男子学生、椅子に座り不機嫌そうな顔でふんぞり返る女子学生が一人。

 

「で、これはなんですの?」

「……ケーキですの」

 

 男子学生の答えに先程より心なしか眉が釣り上がり、女子学生の顔が余計に不機嫌になったように見える。

 

「そんな事を聴いてるのではございませんの。な・ぜ大幅に遅刻をしておいてこんなものを買ってこれたのかを聞いてるんですの」

「えー……、思いっきり何を買ってきてるか聞いてたじゃん」

 

 そういいながら顔を上げる男子学生。というか北山灰次。

 灰次の目に映ったのは先ほどとは打って変わってニッコリと笑う女子学生。

 しかし残念ながらその目は笑っておらず、額には青筋が伺える。

 

「え、と。もしかしてものすごく怒っていらっしゃいますか、白井オセロ様?」

 

 そう灰次の目の前にいるのは白井オセ……黒子。

 決して交互に白と黒の石を打ち合い、同じ色で違う色の石を挟むと色が変わるボードゲームではない。

 

「く・ろ・こ、ですの。怒っているように見えまして?」

「いやいや、どう見ても怒ってるでございませんか?」

「怒っているように見えるなら能力を使って原因を見てみては?」

「んじゃ言葉に甘えて……っ?!」

 

 灰次が左目に赤い匣を浮かび上がらせようとした瞬間、何かに頭を押さえつけられ視点は自分の腿に向けられた。

 

「あらあら、下を向いていては能力を使っていても意味はありませんわよ北山先輩?」

 

 なるほど白井に押さえつけられたのかと納得しかけるが、何故か押さえつけている本人の声が若干遠い。

 それに手で押さえつけているにしては声の聞こえる位置が高すぎる気がする。

 まさかとは思うが

 

「あの、白井さん? もしかして俺の頭、足で踏んづけてたりしません?」

「あらあらあら、足置きと勘違いしていましたの。ごめんあそばせ」

 

 とは言うが灰次の頭から一向に足をどけない。

 

「やっぱ怒ってるよね? おこなの? ねえ、おこなの? って痛ってぇ!」

 

 頭からかかる重圧が一層大きくなり額が勢いよく床とキスをした。

 正座の体勢から頭を下げることになったのでその格好は土下座をしているようにしか見えない。

 

「その煽るような喋り方やめてくださいますか。少々頭にきますの」

「えー、この喋り方にムカついてたわけ? そんなのずっと俺この喋り方って痛だだだ!」

 

 白井の足が灰次の頭をぐりぐりと押し付け、灰次の額で床を雑巾がけしていく。

 

「お前そんなにいじめっ子キャラだった!? 何をそんなに怒ってんだよ!」

「何を怒っているのか……ですって?」

 

 白井の声のトーンが一段と低くなり、体をワナワナと震わせている。

その雰囲気の重さに思わず背に冷や汗が流れる。

 

「え、まさか俺なんかやっちまった系?」

「何を怒っているのかって……ムッキィィィィィ! それは怒りますわ! 本当ならば今日は非番でお姉さまとケーキバイキングに行く予定でしたのに幻想御手の件で進展があったからと呼び出され! その後に通報で能力者達と戦闘になるし、そこで……と、とにかく散々ですの!!」

「え、えー……、俺全然関係ないじゃん」

「あら、関係ないことはありませんわよ? ちゃんと携帯を確認してますの?」

 

 白井に頭を踏みつけられたまま携帯を取り出して画面を確認する。

 すると不在着信が2件。

 2件とも発信者が『オセロゲーム』となっていた。

 もちろんこれは白井黒子のこと。

 

「北山先輩がすぐ駆けつけてくれたら偏光能力者などに遅れはとりませんでしたのに」

 

 頬を膨らませ、そっぽを向いて拗ねる仕草はとても可愛いらしいが、それはあくまでも八つ当たりで人の頭を踏みつない女の子に限る話。

 それもその仕草は床の雑菌数を数える灰次の目には写っていない。

 

「あー、すまん。こっちもパトロールしてたら不良に襲われて気づかんかった」

「ほほう、パトロールですの……?」

 

 何故だか再び白井の声が低くなり頭上からプレッシャーを感じる。

 

「一体どちらまでパトロールに行っていたんですの?」

「え、えっとちょっち第三学区の方まで……」

「第三学区の方まで初春に遅刻を黙ってもらうためにケーキを買いに行ってきたと?」

 

 あ、やばい。これ完全にばれてるやつだ、と次に自分の身に待つ折檻に身構えようとしたとき、タイミングよく扉が開いた。

 

「こんにちわー、黒子いる? って、あんたたち……なにやってんの?」

「「あ」」

 

 扉から顔を覗かせたのは茶色の短髪、御坂美琴だった。

 そして彼女が部屋に入ってくるなり見たものは、額を床にこすりつけ土下座する男と、それを椅子にふんぞり返りながら踏みつける可愛い後輩。

 経緯を知らない彼女はこの光景をどう見るか。

 一人はどうゆう状況なのか理解するため、一人はどう言い訳するか、一人はどうやってこの場から抜け出すか考えるため、完全に硬直した。

 

「あー、ごめん、邪魔したわね」

 

 何秒、何十秒そうしただろうか。

 最初に動き出したのは御坂だった。

 御坂はバツの悪そうな顔をし、部屋に入ることなく扉を閉めた。

 残されたのはその場で固まった白井と、相変わらず土下座のままの灰次だった。

 

「ご、ごご誤解ですわ、お姉様ー!!」

 

 白井もテレポートで御坂を追って、部屋から消える。

 

「ふぅー、やっと解放された。……なんもやることないな」

 

 頭を上げ、その場で伸びを一つ。

 そして特にやることもなく、手持ち無沙汰なのに気づいた。

 

「……とりあえずケーキ食べよ」

 

 一人、残された灰次は、白井が御坂の誤解を解き、帰ってくるまでお茶することに決め、箱に入ったケーキに手を伸ばした。

 

 

    ◆

    ◆

    ◆

 

 

「北山先輩ッ!」

「おぉうっ!?」

 

 ケーキを食べ終わり、コーヒーで一服していると急にバンッ! と大きな音をたてて扉が開いた。

 

「なんだオセ……白井か。超電磁砲(レールガン)の誤解を解くのに随分とかかったじゃねーか」

 

 いつもの調子でケラケラと笑いながら言うが、何故か白井の方は顔を強ばらせ切羽詰まっているようだ。

 

「んで、そんな不細工な顔してどうしたよ?」

「一言余計ですの! それより力を貸してください!」

 

 白井はそう言うやいなや、灰次の手をとり、共にテレポートし支部から姿を消した。

 

 

 

 

 テレポート先は第七学区の病院。

 病院につき、灰次は、

 

「おぇぇ、きもちわる……」

 

 空に飛んでは落ち、飛んでは落ちの連続したテレポートに酔っていた。

 四つん這いでグロッキーになっている姿はなんとも情けない。

 

「情けないですの。さっさと行きますわよ」

「おい、ちょ、やめ、吐くぅっ」

 

 

 

 

 白井に学ランの襟を掴まれ、引きづられながら入ったのは一際広い病室。

 そこには多数のベッドが並べられ、そのどれにも静かに横たわる学生の姿があった。

 そしてその学生の中には灰次にも面識のある人物がいた。

 

「ん、あれって……佐天ちゃん、か?」

 

 黒い艶やか(つややか)なストレートな髪が魅力的な行動力ある女の子。佐天涙子。

 いつもならば親友である、初春飾利と遊んでいるはずだが、今は死んだようにベッドに横たわっている。呼吸はしているようだから意識がないだけだろうが。

 よく見るとベッドに横たわる学生全員そうだ。

 特に目立った外傷もなく、全員がただ意識がなく只々静かに横たわっているだけ。

 その光景はいささか奇妙に見える。

 

「そう、ですの」

「一体どうしたんだ? 新しい病気かなんか?」

幻想御手(レベルアッパー)ですの」

「幻想御手? なんだそれ」

 

 その聞き覚えのあるその単語を思わず聞き返す。

 

「聞くだけで能力が手に入る、また能力のレベルが上がるという音楽ソフトですの」

「へぇー、聞くだけでねぇ」

 

 灰次は学ランの胸ポケットに意識を移す。ポケットの中には音楽プレイヤー。

 支部に来る前、戦闘になった不良たちから失敬した物だ。

 プレイヤーの中には幻想御手というフォルダが入っており、彼らは自分たちは力を手に入れた、というようなことを言っていた。

 つまりそういうことなのだろう。

 

「そりゃすげえな。もう能力開発のカリキュラムとかも必要ないじゃん」

「ですが一つ欠点もありましたの」

 

 そういって白井は静かに眠る佐天の顔を見つめる。

 憂いを帯びたその視線に、灰次はこの場に眠るものたちに起きていることを察した。

 

「ああ、そゆこと。能力が手に入る代わりに寝たきり、植物状態ってことか。んで俺に頼みたい事ってのはこいつらの頭ん中覗いて、この状態を治す手がかりを見つけて欲しいってことでおけ?」

「言い方が悪いですけど……その通りですの。それで――」

「そりゃ無理だ」

 

 即答だった。

 

「なぜですの!? 先輩の能力があれば、ここにいる人を治す方法、せめて手がかりくらいは見つけられるでしょうに!」

 

 灰次のそっけない返事に思わず白井は声を荒らげる。

 それに対し、灰次は変わらぬ調子で言う。

 

「んー、白井はこの能力の事すげー便利に思ってるかもしんないけどさ、ホントはすげー使い勝手悪いんだよ。知ってるか? 植物人間って脳は生きてるけどなんも考えてないんだぜ? ただ本当に電気信号が行き来するだけ。何も考えてねーのに思考を読み取るなんてできねーよ」

「そう……でしたの。すみません、いきなり怒鳴ってしまって」

 

 できない理由があると知り、白井は悲しそうに目を伏せながらも非を謝る。

 

「大体からなんで音楽聞いただけで寝たきりになるのかもわからねえのに、いきなり頭ん中覗いたってなんも分かんねえだろ」

「ん、それならもう判明しましたわ。どうやら『共感覚性』によるものらしいですの」

「は? きょ、きょう……なんだって?」

 

 『共感覚性』。ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚をも生じさせる特殊な知覚現象のこと。(Wikipedia参照)

 

「きょうかんかくせい、ですの。とにかく今、お姉様が幻想御手による患者たちの脳波を調べ、それに当てはまる脳波の持ち主を探していますわ。多分もうそろそろ……」

「黒子! こっちは見つかった! そっちはどう?」

 

 噂をすれば影がさす。

 ちょうど御坂が一枚の紙をもって現れた。

 

「どうやら北山先輩でも治す方法は見つけられないそうですの」

「……そう。じゃあ治す方法は本人に直接聞くしかなさそうね」

 

 そう言って御坂は灰次たちに持っていた紙を突き出した。

 そこに書かれていたのは脳波パターンが一致したというグラフと、木山春生という研究者の写真だった。

 

 

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