2285年4月1日に発生したクインシー攻防戦は、ガンナーたちの奇襲から始まった。
攻め寄せた数は254人。
全員がコンバットライフルと手榴弾で武装しており、さらに数名はミサイルランチャーを装備していた。
対するはパイプライフルとレーザーマスケットを装備した自警団および、サンクチュアリ自治体連合からの武器供与を受けたミニッツメン。
原作よりも大幅に武装が強化されているとはいえ、これで守り通す事ができたとすれば、伝説に残る奇跡だっただろう。
残念なことに、防御は成功しなかった。
西ゲート前の制圧にかかった時間はおよそ10秒。
文字通り姿を隠すという効果があるステルスボーイを用いて接近してきた敵を把握できず、警備についていた5名は何もできずに射殺された。
そこに唯一の慰めを見出すとすれば、相手が近接格闘武器ではなく銃を用いたことで、警報として作用したことだろう。
銃声が鳴り響き、それは敵襲を知らせる警報として全員に受け止められた。
この世界において、発砲音にはそれだけの意味が持たされている。
クインシー側の反応は早かった。
武装している全ての住民(つまり子供を除く全市民)が直ちに戦闘態勢に入り、駐留していたミニッツメンたちも同様に戦闘態勢へと移行した。
この時、クインシーには無傷の住民が120名、ミニッツメンは87名がいた。
コンコードへの大規模難民輸送作戦では総動員がかかっていたが、基本的にミニッツメンは少数でのパトロールを多数出す事に人員を割いている。
だが、奇跡的な事に、この時は動員された大半の人員が、休養のためにこの街にいたのだ。
立ち上がりは良好であったが、彼らは武器を持っているだけの民間人と、貧相な武装の民兵に過ぎない。
そこから先の戦闘の経緯は、虐殺という形容詞に恥じないものであった。
次の犠牲者は、やはりゲート付近で発生した。
厳重に閉じられていたそれを、血気に逸る民間人たちが開いてしまったのだ。
来客に対して、丁寧な歓迎だと言えよう。
これに対し、ガンナーたちは大喜びで返礼した。
開門していた男たちは一瞬で蜂の巣にされ全滅。
遅れて駆けつけようとしていた人々は、門の向こうから浴びせられる制圧射撃によって皆殺しになった。
街への侵入路はあっさりと確保され、ガンナー達による突入が開始された。
だが、ここでミニッツメンの活躍が始まる。
ツーマンセルで侵入してきたガンナーに対し、レーザーマスケットの一斉射撃が襲いかかったのだ。
各自が好きなように駆けつけてきた住民たちとは異なり、ミニッツメンは部隊単位の行動を行っている。
その結果が、意味のある防御射撃という形で示された。
最初にゲートを越えた8名は即座に灰へと姿を変え、続けて入ろうと試みた集団は完全に足を止められてしまった。
レーザーマスケットは連射速度には劣るが、一発あたりの攻撃力は無視できない。
結果として、西のゲートからの侵入はなんとか食い止めることができた。
だが、クインシーには致命的な弱点がある。
侵入路は、一つではないのだ。
攻防戦の発生から五分。
今度は南西に位置する墓地と隣接する農園で戦闘が発生した。
ここにも当然見張りは配置されていたが、攻め落とすつもりで押し寄せたガンナーたちを押し留められる程の戦力ではなかった。
大した防壁があるわけでもないそこは、あっという間に突破される。
そして、そのすぐ先にある教会が最前線となった。
2285年4月1日12時20分 アメリカ合衆国 コモンウェルス クインシー 教会前
「こ、こっちにも来たぞ」
慌てて積まれた土嚢に身を隠しつつ、ミニッツメン隊員の一人が声を出す。
彼は粗末な武器の代名詞であったパイプライフルを装備している。
今までであれば棍棒でないだけマシというレベルの武器であったが、サンクチュアリヒルズ自治体連合の支援を受けて、その評価は過去のものとなった。
彼の手の中にあるそれは、38口径を使用するものの、ブレを抑える銃身、フルオート機構、簡易脱着ドラム式マガジン、長距離電子照準装置、衝撃吸収ストックで構成されている。
入手性が最も高い(その分、数を使わなければ敵を倒せない)38口径弾を使用しているが、長銃身かつ低反動のこの銃は殺傷能力が極めて高い。
「3カウント?」
引き攣った表情で土嚢に隠れた同僚に、既にしゃがみ込んでいた仲間が尋ねた。
彼はジョッシュと呼ばれており、普段は戦闘よりも物資調達に重きを置いた任務を与えられている。
「お、おう。
よし、装填した、安全装置の解除よし、合図してくれ」
全く動じない態度のジョッシュに勇気づけられたのか、隊員は先ほどまでの動揺を押し殺して手早く戦闘態勢を整える。
彼のほか、同じく身を隠していた数名も同様だ。
「3カウント、2、1、ファイア」
対するジョッシュの答えは簡潔だった。
彼らにはサンクチュアリ自治体連合から供与された豊富な武器弾薬があり、むしろ反撃の時を今か今かと待ちわびていたからだ。
その光景を目撃したガンナーたちは驚愕する。
見慣れない形状のミニガンらしきものが4つ、マシンガン、アサルトライフル、フルオートのレーザーライフルに、見るものに与える心理的影響まで考慮して設計されたとしか思えないパイプライフルらしきもの。
それら全てが恐ろしい発砲速度で攻撃を開始した。
このとき教会正面に迫っていたガンナーは総勢28名。
速やかに都市内に浸透することを目的としていたため軽装であったが、仮にフル改造のヘヴィコンバットアーマーを装備していたとしても、彼らの運命は変わらなかっただろう。
ここで行われたことも虐殺であった。
攻守は逆転していたが。
押し寄せていた28人のうち、最初に死亡したのは15名だった。
供与する武器を選定したジョンは理解していなかったが、この世界において連射ができる銃火器とは大変な殺傷能力を持っている。
そこに豊富な弾薬まで加わるのだから、ガンナーたちが制圧されたとしても無理はない。
彼らはあくまでも無法者に近い準軍事組織であり、正規軍ではないのだ。
「なんだっ!これっ!」「伏せろ!」「撃ち返せ!」
即死しなかった幸運な残りのメンバーは、驚愕したり、遮蔽物に身を隠したり、反撃しようとしつつ射殺された。
ガンナー全員が敷地内に侵入したばかりで無防備な位置にいたこと、防御側が貧弱な火器に慣れており過剰な発砲になったこと、そして、供与された装備が余りに強力すぎたことが理由である。
「撃ち方止め!やめろ!撃つな!やめろって!」
最後まで弾が残ったミニガンたちの射撃を何とか止めさせた時には、戦闘は終了していた。
あれほど恐ろしかったガンナーたちは一人残らず射殺されており、周囲から聞こえてくる別の部隊の戦闘音以外、物音一つしない。
「すげーな、この武器」
油断なく周囲を確認しつつ、最初の隊員が口を開く。
「おれ、このパイプライフルと添い遂げるわ」
その言葉にジョッシュは心の底から同意した。
供与された武器は、見たこともない改造を施されたコンバットライフル、光沢すらある新品のミニガン、弾薬箱から直接給弾できるアサルトライフルなどであった。
その全てが早いもの順かつ取り合いとなっていたが、昔の賭けの負債や戦闘での借り、ジャンケンでの悲惨な敗北まであって、彼は残されていたパイプライフルになったのだ。
誰もが同情していた。
自身の生存もかかっているので絶対に譲れないが、その分も含めて戦闘前から追悼する気持ちで満ちていた。
だが、実際に戦ってみたらどうだ。
横から見ていても、その連射性能、安定性、そして取り回しの良さは優れている。
ジャンクでできている事はそこらに転がっているパイプライフルと変わらないはずだが、あれは絶対に同じものではない。
あえていうなれば、そう、これは量産性の高い軍用小火器と呼ぶべきだろう。
「だいぶ、落ち着いてきましたね」
中央分離帯の残骸に身を隠しつつ、サンクチュアリ自治体連合のプロビジョナー達は状況の変化を感じ取っていた。
自分たちが介入した直後は周囲全てから銃声が鳴り響いており、銃弾、レーザー、プラズマ投射体が飛び交う地獄であった。
だが、現在では戦闘音楽は減りつつあり、全く銃声のしない方向すらある。
彼らは敵を求めて自由に行動する権利は持っていないが、襲ってきた敵対勢力を叩く事が禁じられているわけでもなかった。
そのため、統制の取れた一個分隊としての戦闘行動を行っていた。
なお、この地に訪れた全戦力は護衛の二個分隊および、運搬にあたるプロビジョナー複数名であった。
プロビジョナー、正しくはサンクチュアリ自治体連合供給サービス職員となるが、面倒なのでそう呼ばれる彼らは、実はこの世界において十分な戦闘能力を持っている。
だが、合衆国郵政公社の貨物便から見つかった新品の(そしてフル改造された)制服に身を包み、全員が十分な武器弾薬、防具を身に着けている彼らは、あくまでも運搬が任務だ。
そのため、戦闘参加に伴い一個分隊を護衛として町の一角に籠城していた。
もっとも、与えられた一角全てを野戦陣地として、窓から、屋上から、壁の裂け目から、ありったけの銃弾を盛大に撃ちまくっていたが。
「ありがたいことだが、ここだけ残るというのも格好悪いな」
遮蔽物の向こうに意識を向ける。
「ホラホラ!どうした民兵さんよ!ビビっちまってるのかい!」
威勢の良い女ガンナーの言葉に、思わず苦笑する。
座学で習ったことの受け売りであるが、自治体連合に軍事的サービスを提供する自分たちは、断じて単なる民兵などではない。
規律が有ることは否定しないが、その所属は古の合衆国陸軍の血脈を受け継ぐものだと自負している。
「1秒くれれば、やれます」
11.4mm対パワーアーマーライフルを構えた上等兵が頷く。
規模の急速な拡大から慌てて、しかし書類上にきちんと明記された、サンクチュアリ自治体連合義勇連隊の、陸軍上等兵という身分を持った、軍人である。
「お前とお前、合図で一緒に撃つぞ。そこの二人は手榴弾。
3カウント、行くぞ」
それで戦闘は終わった。
後の調査で『テッサ』という名だと判明した元レイダーらしいその女は、牽制射撃で装甲を持っていかれ、嫌がらせのつもりの手榴弾を回避できずに負傷で動きが止まったところで、対パワーアーマーライフルによって即死した。
2285年4月14日10時05分 アメリカ合衆国 コモンウェルス コンコード郊外 アバナシー・ファーム
「それを、私にやれと?」
真面目な顔で直立しているホリス大佐に再度の質問を行う。
クインシーでの偉大なる勝利!との報告を受けてから三日。
伝令の後を追うようにして現れたコモンウェルスミニッツメンのホリス大隊長殿は、クインシー共々自分達の大隊もサンクチュアリ自治体連合へ加入したいと申し出てきた。
それ自体は、既に歴史が大きく変わってしまっている今、思うところはあるが受け入れた。
いずれにせよ、このあたりの居住地は全て開拓されたか、開拓を始めようとしているから、原作の再現は不可能なのだ。
もっと言うと、既にダイアモンドシティとの不定期キャラバンすら結ばれてしまっている。
だが、それに付随するお願い事は、簡単には頷けないものだった。
「はい、既に大勢は決しています。
ダイアモンドシティのマクドナウ市長や、グッドネイバーのハンコック市長が何を言ったとしても、このコモンウェルスで一番の勢力はここです。
そしてもちろん、クインシーの全市民は、民主的な手続きにのっとってサンクチュアリ自治体連合への加入を可決しております。それも、圧倒的多数ではなく、全員の賛成票で」
ホリス大佐の語調は強い。
彼は合衆国の再建を本気で行うつもりなのだろう。
それ自体は、別に避けたい事ではない。
むしろ大歓迎だ。
国家を運営する連邦政府、その指揮下で国家と国民の安全を確立する合衆国軍、そこまでいかなくともマサチューセッツ州兵、なんならボストン市警察の復興だけでも大歓迎だ。
「誤解があるといけないのですが、私は合衆国の再建自体には賛成しています。
その第一歩として、サンクチュアリ自治体連合が臨時ボストン市となることもです。
連邦が、かつての正式名称であるマサチューセッツ州になることも、大変喜ばしい事だと思いますよ」
そこで言葉を切る。
周囲にいるアバナシー氏を始めとするこちら側のメンバー、プレストンなどのあちら側のメンバーたちは誰も言葉を発しない。
もっと積極的に口を挟んできていいんだぞ。
「しかし、合衆国臨時政府と、その代表でしたか?
いささか大きすぎる組織と役職に過ぎるように感じます」
ホリス大佐からの提案は、片田舎の憂慮する一市民を気取って過度な謙遜に止めようとしている俺からしては看過できるものではない。
支援がなければ滅んでいたという現実を前に、クインシーの人々がこちらの庇護下に入ろうとするのは理解できる。
実際のところ、この世界の現状では徴税を理由に上位者の存在を拒否するよりも、金だけで護ってくれる存在を得ることのほうが、自身とその家族の生存という直接的な意味において価値がある。
クインシーの人々は、それをこの度の戦闘で痛感したのだろう。
もちろん、コモンウェルスミニッツメンのホリス大隊のメンバーもだ。
もはやその存在が歴史の中に埋もれようとしている本部よりも、良質な武器弾薬を提供してくれるこちらの庇護下に入ったほうが、活動目的も自分たちの生命も維持できると判断したのだろう。
「ジョンさん、貴方も本当はわかっているのではないですか?
貴方が作り上げたサンクチュアリ自治体連合は、もはや単なる一勢力ではありません。
かつて崩壊した連邦暫定政府とは比べ物にならないほど、安定して拡大を続ける勢力です。
その証拠に、クインシーの加入に対して貴方がたは大した混乱を見せなかった。
むしろ、予想しており、ただ受け入れるという判断をしました」
彼の言うことは、正直なところ理解している。
クインシーが勝利したということは、取り返しがつかないレベルで歴史が変わったということだ。
だが、それを言い出したらここサンクチュアリも、アバナシー・ファームも、ミニッツメンの人々も、既に正史からはかけ離れた状況だ。
「全く情報がない他の地域のことを考えると、安易に合衆国の名前を使うことは憚られます。
さすがにここ以外に誰も生き残っていないということはありえないでしょうから」
例えばカリフォルニア、テキサス、ワシントンD・C、ネヴァダ、ウエストバージニア。
記憶に残っている範囲だけでも、合衆国の忘れ形見はあちこちに点在している。
独立勢力を立ち上げるにしても、彼らを無視するような言動は慎むべきだろう。
「アメリカ合衆国復興準備委員会。
そのマサチューセッツ臨時本部。
格好をつけるにしても、頑張ってもそれぐらいの名前でしょうかね」
他の組織から見れば随分と尊大すぎる名前であるが、最大限配慮してもこの名前だろう。