舞台で起こった異変を目の当たりにした裏方や他演者たちは困惑しつつもスタッフに混じるジムトレが慌てて軌道修正するためにライトを落とし、無理やりナレーションをねじ込んだ。
仮にもしリジアが一般人ならここまで慌てなかっただろう。ジム関係者はリジアの顔を知っている。このまま演技を続行することはほとんど不可能だ。せめて場面を変えて仕切り直すしかない。
当然ながらイオトたちもその状況を把握したのだが──
「あ? どうなってんだ?」
「ねえ僕もうこれ脱いでいい?」
「昨日からずっと一緒にいたグレイシアがあのみつあみ女だったってことです?」
「え? 何、どういうことだよ?」
あちらこちらを見ながら明かりの落ちた舞台の様子を伺うが案の定リジアが手持ちと猛ダッシュを決め込み、アンリエッタとヒロもそれを追う。このままだとまともに劇が成立するのかというまわりの不安がイオトたちにも伝播していた。
一方、サーラは顔面蒼白で同じく猛ダッシュでリジアたちを追う。
「やばいやばいアンリに怒られる……! せめて捕獲しないと……!」
自分の勝手で指名手配犯をポケモンに変えたことや黙ってたこと、舞台を台無しにしかけたことなど無数に怒られる理由が浮かぶサーラ。せめて捕まえないとどうなるかを想像して顔が青と通り越して白くなっていた。
――――――――
「来るな来るな来るなぁ!」
手持ちなし単独。どう考えてもジムリーダーに適う要素がなく、必死に館内を駆ける。裏方どころか一般人エリアまでもつれこみざわざわとした空気が肌を伝う。一方混乱しつつもリジアを追いかける俺と、先程までとはいって変わって表情を削ぎ落としたアンリエッタさんがそれを追い、裏方たちはなにがなんだかわからずに走り抜けていく3人に小さく悲鳴を上げる。
「お、おい! 待てって! というかなんでグレイシアに!? い、いつから?」
「昨日からずっとに決っているでしょう! バーカ! それに待ったら捕まるでしょうが死んでくださいこの変態!」
さすがに焦っているのかぽんぽん暴言が飛び出すリジアにえぇ……と脱力しかけるもすぐ近くの言葉に表せぬほどぞっとする殺気に声が引っ込んだ。
「僕に舞台を捨てさせるな……っ!」
心底不愉快そうな声でアンリエッタが叫ぶとラランテスとエルフーンを繰り出し、逃げるリジアを追う。エルフーンのおいかぜですばやく二匹ともリジアに接近しあと一歩、というタイミングで壁に阻まれ二匹とも立ち止まった。
飛び込んできたのはニャオニクス。そう、リジアの手持ちである。やっぱりさっきの舞台でのやつらもリジアの手持ちだったようだ。どこに隠れていたのかぞろぞろと勢揃いしてリジアを守るように取り囲む。
「みんな!」
嬉しそうに合流を喜ぶとオーロットが目を回しているゲッコウガとグライオンを抱えて現れ、おそらくあれで手持ち全員が揃った。……どうやって回収したんだろうと一瞬考えたがあれか、ゴーストダイブか。
「ネネ! テレポート!」
テレポートで逃げられそうになり慌てて前に出ようとするがアンリエッタさんがそれを止めるように俺の肩を引っ張る。
するとテレポートできないのかきょとんとしたリジアとネイティオが顔を見合わせた。
「あっぶなーい! 間に合った!」
ぜえぜえと息を切らすサーラと傍らにいるヤミカラス。ヤミカラスの目がリジアたちをじーっと見つめておりそれがくろいまなざしであることを悟る。
「汚名返上! だから怒らないよね? ね?」
「あとで洗いざらい話してもらうとするよ」
「怒らないでー!!」
怒られないのは多分無理だと思う。
完全に逃げる手を失ったリジアが歯噛みしているとアンリエッタさんが前に出て低い声で言った。
「抵抗しないなら危害を加えるつもりはない。だけど……抵抗及びこれ以上長引かせるつもりなら容赦はしないよ」
完全に舞台の邪魔をされてキレている。不愉快そうでも顔が綺麗なのはさすがというか本当に顔がいいんだなと場違いなことを考えるがこれまでのジムリーダーを思い出すと穏健だなと安心する。コハクみたいに問答無用で攻撃したらさすがに止めたけど。
じりじりと距離が詰まっていく中、突然耳に不快な音が鳴り響き、思わず耳を塞ぐ。するとアンリエッタさんの手持ち以外、裏方さんの手持ち含むポケモンが混乱状態に陥っていた。とっさに塞いだからか俺は頭がくらくらする程度で済んだがトレーナーも混乱しているのか目を回しているのが遠くに見える。
平然としているアンリエッタさんとその手持ちは一瞬だけ怯むだけで済んだからかワンテンポ遅れてリジアに攻撃を仕掛けようとする。
しかし、混乱したヤミカラスとサーラがぐるぐるその場を回っているからかくろいまなさしの効果が切れて慌ててテレポートを初めその攻撃は空振りに終わった。
「チッ……今のは……仲間でもいたのか?」
すぐ近くにある出入り口のホールまで走ったアンリエッタさんを、混乱するサーラたちを置いて追いかけるとちょうど曲がり角で誰かとぶつかったらしく、申し訳なさそうに相手に手を差し伸べていた。
「ご、ごめんね君。大丈夫……ん?」
不思議そうにしているアンリエッタさんからぶつかった相手を見る。
見覚えがあると思えばキスミ博士の研究所で見かけたぐるぐる眼鏡の小柄な少女だった。裏方ではなさそうだし観客だろうか?
「いってて……ハッ!?」
アンリエッタさんの顔を見るなり飛び退いた少女はなぜか来た方向へと戻って一目散に逃げていった。
……そういえばキスミ博士の助手と思ってたけど違ったしなんなんだろうか。
逃げていった少女を追いかけようとして舞台のことを思い出しとっさにアンリエッタさんの手を掴むと驚いたような顔をされる。
「舞台はどうするんですか!」
その声に急に冷静になったようにスッと怒りの熱が引いていくのが感覚でわかった。
「あ、ああ……そうだ。一応フォローしてくれてると思うけど戻ろうか……」
はあ、とため息にも似た息を吐いてアンリエッタさんは微笑む。
「ごめん、ありがとう。ちょっと冷静じゃなかったね」
まあ、もちろんアンリエッタさんが冷静じゃなくなる気持ちも理解できるので責めるとかそんなことはない。むしろ俺の知る限りではかなり人格がまともなジムリーダーだ。ケイとナギサに並ぶ。
駆け足で舞台の方へと戻ると、すぐ戻ってこれないことを想定してかナレーションで話をまとめていたらしく、カーテンコールにはギリギリ間に合って安定とは程遠かったものの舞台は幕を下ろした。
――――――――
テレポートでアジトに戻ってきたリジアはその場に膝をついて落ち込んでいた。大失態ももちろんそうだが舞台上でのことを思い出して急に恥ずかしくなっていた。
(ポケモン状態のときうっかり受け入れそうになってしまった……)
自己嫌悪に近いなにか。人間じゃないからいいかと思った自分が腹立たしく、キスする前に戻ったことを少しだけ寂しく思ってしまった自分の不安定な感情の機微を唸りながら振り払う。
すると、映像通信の通知が届いたので慌てて応じると耳をつんざくような叫びが聞こえてきた。
『バーカ!! 何目立ってんのさ! お前のせいで警戒レベル引き上げられたらどうしてくれんの!』
通信の相手はココナである。ぐるぐる眼鏡を外して今にも噴火しそうな火山のごとく顔が赤い。
「ご、ごめんなさい……」
『おかげで秘密兵器の音波くん2号まで使う羽目になったじゃん!』
音波くん2号とポップ体で書かれた文字がある謎の機械。それを指さしてココナは憤怒の形相でリジアをなじる。その横でゴニョニョがココナをなだめるように袖を引っ張るのが見え、画面越しでも伝わるほど深く反省を示すリジア。
「すみません……本当にすみません……」
『二度と来んな! イリーナ様にも! 私は間抜けで馬鹿な木偶の坊だって! 自己申告しろ!』
「そ、そこまで言いますか!」
『当たり前じゃん! あーもうムカつく! ウチまでジムリーダーに顔見られたじゃん!』
もう話したくないとばかりに通話を打ち切られ少しだけしょんぼりしながらリジアはふらふらと報告のために立ち上がるのであった。
――――――――
大成功とは言い難いものの無事終わることができたことを祝して打ち上げが開かれる。場所はホールを借りておりピザやお菓子など様々な食べ物を注文し並べている立食形式だ。
乾杯の音頭とともに皆無礼講でわいわい話初め、和気あいあいとした空気だ。
アンリエッタさんはあのあとサーラをきつく叱ったあと打ち上げ強制不参加に処し、この場にはいないが外でおそらく拗ねている。
イヴはアンリエッタさんの手持ちと仲良くなったのかポケモンフードのところで一緒におやつを食べている。グレイシアがリジアだったからなぁ。代わりに新しい友達ができたのでまだよかったが。
そこそこの人数で賑やかな打ち上げなのだがアンリエッタさんはなぜか一人で端っこに座って何かを見ている。
何をしているんだろうと近寄ってみると俺に気づいたアンリエッタさんが顔を上げて微笑み、横にどうぞと手を示してくれる。遠慮せず隣に座ると読んでいたそれを一枚手渡してくれたので目を向けると少し拙い文字で書かれた感想文らしきものだった。
「今日見てくれた子が何人か書いてくれたらしいんだ」
観に来た子どもたちの中には孤児なんかもいるらしく、そんな子たちにも演劇の楽しさを伝えたくて企画したのだと。
文面にはとても楽しかった、とか将来役者になりたいとかが書かれており、それを見てアンリエッタさんはフフッと笑った。
「僕はね、子供たちに夢をあげたくて役者を目指したんだよ。……まあ他にも理由はあるけどね」
「夢、ですか?」
「うん。僕も子供の頃、家族で観に行った舞台に心を惹かれて夢中になったんだ」
だからこそ少しでも触れられる機会を。それが一瞬の思い出になろうともわずかでも心になにか影響を与えられるのならとアンリエッタさんは語る。
「君、子供は好きかい?」
「うーん、あんまり考えたことないですね」
子供に関しては特に好きも嫌いもない。正直にそう答えるとアンリエッタさんはそれも人それぞれだから当然と受け入れる。
「僕は子供たちが大好きだよ。まだ彼らは蕾なんだ。だから、花開く前にたくさんの物語や価値観に触れてほしいんだ」
成長する子供たちの未来に思いを馳せながら彼女はにっこりと笑ってもらった手紙をしまう。
「もちろん、君のような新米くんも僕にとっては蕾だよ。ジム戦で僕に咲き誇る姿を見せてくれると嬉しいんだけどね」
そうウインクして懐から封筒とチケットらしきなにかを取り出す。
「遅くなったけどこれは今日の報酬だよ。他の子にもちゃんと分けておくように。色々迷惑かけたから多めに入れておいたけどもうすぐ華祭りだから無駄遣いしすぎないように」
まるで保護者みたいなことを言って厚さだけでもそこそこ入ってるのがわかる封筒を受け取り、一緒に渡されたチケットを確認するとアンリエッタさんは補足するように言う。
「それはオマケだよ。もらったはいいけど僕は忙しくて行けないし期限も近いからね。誰か誘って行ってみるといいよ」
受け取ったそれは遊園地のペアチケットだ。ラバノの端の方に位置しておりチケットの有効期限がたしかにもうすぐ切れる。
アンリエッタさんが誰かに呼ばれ、俺に断りを入れてその場を離れると見計らったかのようにイオトたちが近づいてきた。
「おー、報酬じゃん。一人頭いくら?」
「僕は多め」
「他にもなんかもらったです?」
「これラバノ遊園地のチケットじゃん」
ゴウトは知っているのかペアチケットを見るなり納得したように呟く。
「ペアチケット3枚ならここにいる全員確かに行けるけど、俺はパスかなー」
ゴウトはそんなに遊園地とかに興味ないらしい。じゃあ2枚使っていつもの4人で行くか……と思っているとエミがすごく地を這うような声を出す。
「何が悲しくてこれと遊園地に行かなきゃいけないんだよ僕はいかないからね」
これ、と示されたイオトはなにか考え事をしているのかスルーしている。そしてシアンはなにかひらめいたようにチケットを持つ俺に飛びかかる。
「そのチケットボクに一枚よこせですよー!」
「お前なにもしてねぇだろ今回!」
まあ別にペアチケットは3枚あるし1枚減っても別に困らない。というかシアンは誰と行く気なんだ。俺たちと行く気配は皆無なのだけは確かだが。
「あ、俺も1枚もらっていい?」
そして何か考えていたイオトもどうやら他に誘いたい相手がいるのかチケットを要求してくる。まあ今回は頑張ってたし損はしないからイオトに1枚渡す。
さて、1枚残ったがこれどうしようか。リジアと行けたらいいけど当然ながら無理。期限を考えると明日にでも行っておきたいくらいだ。
うーむ、遊園地か……。いつものメンバーでいけないとなると他の知り合いを誘うべきだけど……。
普段世話になっている誰かを誘うか、と考えても異性だと途端にデートっぽくなるなと考えるが気にしすぎだろう。向こうも俺にそういうのはないだろうし。
候補はナギサとかリコリスさんとかユーリさんあたりか。コハクは……まあムカつくけどそれこそちゃんと和解するべきだし考えておこう。シレネは……世話にはなっているがなんか怖いので保留。ヨツハは忙しいっぽいので除外。あとはケイとかか。
さて、誰を誘うかな……。
というわけでアンケートによるお試し選択肢です。遊園地に誘う相手を選択肢の中から選んでいただき一番多かったキャラを誘います。
※注意事項
・本筋には大きく関わらないためこの選択肢が本編に影響を及ぼすことはほぼありません(個人ルートに入るなどはない)
・あくまでお試しなので選ばれなかった相手は番外編集の方で掲載するかも
・この選択肢は"誰と行く"かではなく"誰を誘う"かなので誘いを断るキャラもいます。判定に失敗して断られた場合候補から除外されたキャラを誘います(今回の場合はシレネ等)。
・投票期間はこの話を更新から1週間を予定していますが伸びたりする可能性もあります。
・一緒に行けることになった場合個別での掛け合いがありますが本編には影響がないので気楽に選んでください。
お試しなので誘った場合の反応をある程度分類していますので参考までにどうぞ
ナギサ ★★★★☆(ほぼ確定で応じてくれる)
リコリス ★☆☆☆☆(絶望的に断られる)
コハク ★★☆☆☆(気が向いたら来てくれる)
ユーリ ★★★☆☆(都合があえば来てくれる)
ケイ ?????
誰を遊園地に誘う?
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ナギサ
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リコリス
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コハク
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ユーリ
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ケイ