ユーリさんとのデート(仮)を乗り越えた次の日、なんだか全員が揃うののは珍しいなと思いながら朝食をみんなで囲む。
「お前らどこ行ってたんだよ」
「俺はー、ほら、デート?」
「僕は身内からの呼び出し」
エミはまあ仕方ないとしてイオトお前……朝帰り……。
マリルリさんはぷんすかしながらイオトの脛にシュッシュッとパンチを繰り返している。痛い痛いと口ではいうがたいして効いてなさそうだ。
「ヒロ君こそ昨日どこいってたですか?」
「そうだよ。起きたらいないしびっくりしたんだぜー」
そういやゴウトを普通に置いていったのは申し訳なかったな。
でもあの場にゴウト連れて行かなくて正解だったし……。
「いや、昨日ユーリさんとデートすることになってさ」
俺の言葉を聞いた瞬間、イオトが飲んでいたドリンクを盛大に吹き出した。
吹き出した液体が目の前に座っていたエミにかかって「あのさぁ……」とキレる一歩手前の空気になる。マリルリさんがどこからかふきんを取ってきてエミに手渡しているのが見えた。アシマリもびっくりしておろおろと大丈夫?と言いたげな顔でエミを見つめている。ちなみにイオトはまだむせていた。
「ユーリさんって……あのユーリさん? なんでまた」
「いやー、前にちょっと縁があって……」
「へぇ~いいな~、俺にも紹介してくれればよかったのに」
ゴウトが羨ましそうに自分のパンをヒコザルに分ける。そういやゴウトってどこのジムクリアしたんだっけ? あとで聞いてみるか。
「……なあ……」
ようやく呼吸が整ったイオトが口元を拭きながらなんだか複雑そうな目を俺に向けてくる。いったいどうした。あとエミに謝ったほうがいいぞ。
「……その……なんかそいつ……なんか俺……たちのこと聞いてきたりしなかったか?」
「え? あー、昨日じゃないけど前に聞かれた事はあるな」
「……き、昨日は何の話したんだ……?」
なんか妙に挙動不審というか、イオトらしくない。というかユーリさんとイオトって面識あったっけ? エミはシアンの家で一回顔合わせてはいたはずだが。
「昨日は普通にジム戦の話とかー、あとはユーリさんからの頼まれごととか? 大した話はしてないぞ」
「そ、そっかー……」
なんか安心したような納得したような顔してるがエミがじとっとイオトを睨んでいるから早く謝っておけって。
「そういやシアンは昨日なにしてたんだ?」
「ボクですか? ふふーん、ボクもデートですよ!」
ゴウトが話題を変えようとシアンに声をかける。食べかすが口元についてるのをシャモすけに拭かれながら得意げに答える様はいつも通りすぎて安心感すら覚える。
「シアン彼氏いるの?」
ゴウトが驚いたように聞くとシアンはでれでれに崩れた顔でニヤニヤしながら答える。
「か、彼氏ってほどじゃねぇですけどぉ~! うぇひひひ、将来的には~」
「へ~、俺会ったことないよね? どんな人?」
「キクジっていうですよ! 今度紹介してやるです!」
シアンが名前をいった瞬間、今度はエミが盛大に飲んでいたモーモーミルクを吹き出した。
エミがゲホゲホと咳き込む中、マリルリさんはモーモーミルクを浴びたイオトに雑巾をぺいっと投げる。
イヴが床に飛び散ったそれをくんくん嗅いでたのでばっちいから舐めないように引き離し、シアンを見る。
「しっかし結構頻繁にデートしてんな? 相手忙しいんじゃねぇの?」
「なんか今ラバノに仕事関係で来てるからタイミング合わせやすいって言ってたです。華祭さまさまですよ!」
物好きだなぁと思っていたけどなんか意外と相手も本気だったりするのか……?
まあ、騙されてるとかじゃないならいいんだが。
今日はイオトもエミもいるし、シアンとゴウトも一緒だ。せっかくなので華祭のイベントを見に行こうという流れになる。
出し物はたくさなるのでどこに行くかはパンフレットについてるステージ案内を見て相談することとなった。
「バトル系ステージは?」
「観戦メインじゃねぇですか」
「こういうのって事前に参加申請するだろうしな……」
イオトが真っ先にバトル系ステージに食いつくけどシアンはいまいち乗り気ではない。まあ俺は構わないけどエミもあんまり乗り気ではない。
「自分でバトルするのが楽しいんであって僕は人の見るのはそこまで……」
「コンテスト系のステージとかどうです?」
今日の日程にコンテストステージがある……が、正直今日のステージ内容はそんなにパッとしない。コンテストステージの全日程確認してみたが意外なことにゲストに姉がいない。アンリさんはそこそこ見かけるが忙しいんだろうか。
「えー、コンテストとかつまんねーじゃん……」
イオトがめちゃくちゃ不満そうなのでこれもパス。
ぺらぺらと今日以外の日程を見てみると明日のステージで四天王チャレンジステージなんてのがある。……興味あるな。四天王の誰かとバトルをすることができるという催しだ。
せっかくなのであとで参加申請してみよう。抽選なので外れるかもしれないが。
すると、ゴウトがふと特殊ステージを見て首をかしげる。
「なあ、この『魅せバトル』ってなんだ?」
そう言って指差したところにはたしかにそう書かれていたが詳細は不明だ。
「バトル……コンテストバトルとは違うっぽいけど」
「じゃあせっかくだしそれ行ってみる?」
エミもイオトも興味はあるみたいでとりあえずこれを見に行く流れとなった。道中に明日のステージ参加申請できる場所もあるので忘れずに申請しておこう。
ということで各々支度を済ませて特殊ステージエリアへと向かった。
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明日の参加申請も済ませ、開始よりもまだ少し早い時間だが特殊ステージエリアへとたどり着くとそこそこの観客で賑わっている。
ステージアドバイザー、グローによるエンターテイメントバトル!と書かれており、結構有名人らしいがやはり詳細はわからない。
ふと、視界の隅にわたわたと慌てるジュペッタの姿が見える。
見覚えがある……というか忘れもしないあのジュペッタ。そう、苦戦を強いられたリコリスさんのジュペッタである。
「どうしたんだ? リコリスさんは?」
気になって近寄ってみるとジュペッタはハッとしたように俺に近づいてきて何かを伝えようと小芝居のような動きをしてみせるがちっともわからない。
なんか、リコリスさんが……うーん、喧嘩してるのか?
「あのねぇ、慈善事業じゃないのよこっちだって」
「わかってるわよ。1戦、1戦だけ盛り上げるためにお願いよ」
「嫌よ」
ジュペッタに案内されてやってきたステージ裏の入り口でリコリスさんが誰かと取っ組み合いをしていた。
この地方、ポケモンバトルじゃなくてトレーナーが物理主義すぎない?
リコリスさんの方がやや不利そう、というか相手は……きらびやかな衣装に化粧はしているが、体格が……男である。女装……している成人男性だ。
「じゅぺ〜! ぺっ、ぺっ!」
「あら、ジュジュ、どうし……」
リコリスさんがジュペッタに反応してこちらを見ると俺たちの姿を確認して女装の人を突き飛ばす。
「ヒロ君たちじゃないのぉ。どうしたのかしらぁ」
「いや、リコリスさんのジュペッタがなんか助けを求めていたので来てみたんですけど……」
「ああ、悪かったわねぇ。ジュジュもありがとう。でも気にしないでぇ。このクソブス置いて帰るところだから」
「誰がブスよ!」
女装姿の男性は思わず叫ぶも俺たちのことを思い出してごほん、と仕切り直し、優雅な仕草で挨拶をする。
「アタシはグロー、ヨロシクね。時間があるならもっとおもてなししたいところだけど……」
裏声で女性的な口調。率直に言うとオネェというかそういう分類の人物だ。
「リコリスが勿体ぶって話がまとまらないのよね〜。ちょっとくらい出てくれてもいいじゃないの」
「出る? そもそもなんで揉めてたんですか?」
どうやらグローさんは元々このステージに出る予定のトレーナーに前々から指導していたようだが当日になって連絡がつかなくなってしまってらしく、困っていたところにリコリスさんが顔を出して代役を頼み込んだ……が、この通り喧嘩になったようだ。
「このブスがあろうことかオフで遊びに来ている私に無償奉仕しろっていうのよ」
「きぃー! ブスっていうほうがおブスなのよ! 本当に口も性格も昔から可愛くない子ね」
「気色悪い声を出すんじゃないわよブス野郎」
「お黙り厚化粧!」
「それはお互い様でしょう!」
醜い争いだ……。
「だいたい私はジムリーダーなのよ? 叩き潰すことに長けてはいるかもしれないけど観客を意識して戦わせるのはアンリとかあのへんの仕事だっての」
なんだかリコリスさん、いつもの甘ったるい喋り方ではなく少し素っぽくなっている気がする。キャラ作ってんなぁ……。
「ホント昔から融通のきかない子ね〜」
グローさんは頬杖をつくようなポーズを取ってため息をつく。
「なら他にできそうな子とかいない? アンリ君は忙しいからさすがに無理だし……」
「……そーねぇ……ほら、そこにいるの。実力は一応私が保証してあげるから」
若干面倒臭そうに俺たちの方を示してみせるとグローさんは目を見開いて驚いたように俺たちとリコリスさんを交互に確認する。
「あらあらあらぁ? あんたが男を認めるなんてよっぽど舞台に立ちたくないのねぇ」
そして、俺のことを改めてじっと見てから思わず後ずさるほど顔を近づけられ、数秒の沈黙の後、グローさんはばっさりと吐き捨てる。
「地味ね」
失礼だろこの人……。俺を見るなりそれだけ言って興味を失くしたようにイオトへと視線を移す。
「……ンンンン……悪くはない、ケド……駄目! アタシの勘が囁いてるわッ! こいつ自分のためにしかバトルできないタイプの男よ! 独りよがりはNG!」
「え、えぇ……?」
イオトもイオトでどうやらお眼鏡に叶わなかったらしく、困惑しつつもなぜか笑って誤魔化すイオトはどこか安心したようだ。
「……こっちの子は……悪くはないんだけど……」
「えっ?」
自分に話題が振られると思っていなかったのかゴウトは驚いたように自分を指差す。しかしグローさんは手でバッテンを作って首を横に振った。
「この子おバカな気配がプンプンするわっ! アタシの指導が聞けない子はアウトよ!」
「ば、バカじゃないし!」
いや、まあ、うん。否定も肯定もできないというか……。
「んで……」
自分は関係ないと言わんばかりの態度を取っていたエミにもグローさんは視線を向ける。一番長くジロジロとエミを見ていたかと思えば肩を勢いよく掴んで「ヨシ!」と叫ぶ。
「華もあって頭も足りてそうでアタシの話を聞きそうね! 時間がないわ、お着替えしながら説明するわよ!」
「は!? ちょっと勝手に何言って――」
エミが問答無用で引きずられそうなのに抵抗しようとするがリコリスさんのジュペッタとマリルリさんが後ろから後押しするようにエミを更衣室へと押し込み、扉越しに聞こえる怒声と悲鳴がしばらく聞こえていたが数分で静かになり、逆に不安になってきた。
「……やーっぱわかるものなのねぇ」
ちらりとイオトを見たリコリスさんの言葉の意味はよくわからない。イオトはさっきからリコリスさんを見ようともせず、更衣室の扉を眺めている。その背中に、リコリスさんは嫌悪感丸だしで吐き捨てた。
「アンタが勝手するのは私の知ったことじゃないけど余計なことしたら呪い殺すわよ」
それだけ言ってリコリスさんはジュペッタを連れて出ていこうとし、俺を見る。
「ああ、そうだ。ヒロ君、キスミの話、受けておいて損はないわよぉ」
「え、なんでその話……」
俺の問いに答える前にリコリスさんはステージから去っていく。あの人も大概マイペースだが意味深なことだけ言ってもやっとさせるのやめてほしい。
「イオ君、まるで知り合いみたいな感じでしたけどなんかあったです?」
「さあな〜。誰かと勘違いしてんじゃね?」
イオトの表情は見えない。けれどどこかイライラしているような気が……
「おまたー! ってリコリス帰っちゃったの?」
グローさんが勢いよく更衣室から飛び出したかと思うと目をぱちくりさせててやれやれと両手を広げる。
「そんなだからいつまでたっても独り身なのよねぇ、あの子。まあいいわ」
失礼すぎる発言に続いてエミが姿を見せる。その姿は意外と言っては失礼だがいつも低い壱でまとめている髪を高い位置で結んでいつもより爽やかな印象になっている。
服装も、いつものダボっとした格好ではなくて爽やかではあるが上品なトレーナー衣装。普段体のラインが全然出ていないからか凄く新鮮だ。
女と間違えるほどの顔立ちではあるが、服装の印象かちゃんと男に見える。大人って感じではなく少年っぽい方向ではあるが。
「素材がいいからあんまり手を入れなくてもよくなったわ〜」
「おー! えっちゃんかっこいいですよ!」
「へー! すっげー印象変わったな〜」
シアンとゴウトが感心したようにエミに近づき、3人で記念に写真を撮ろうとしている。エミも、女装とは違ってちゃんと男っぽい扱いだからかまんざらでもなさそうだ。
「ほー、こうしてみると普通に男だな……」
「なんでちょっと残念そうにしてんだよ」
イオトの発言、普通に怖いからやめてほしい。エミにも聞こえてるからかすごい眼光だぞ。
「エミ君にはステージでの話も済ませたし、あとはチャレンジャー枠の子が来たら準備完了ね!」
「僕はやるなんて一言も言ってないんだけどな……」
そう口では言いつつやらないとは言わないあたり、エミの機嫌は結構いいようだ。最近、ずっと不憫だったもんな……。
そんな中、やけに甲高い笑い声が響く。
「オホホホホホ! 誰かと思えばあの時のみすぼらしい4人組ではないですか!」
突如現れた女は全身フリルまみれの金髪ドリル。おそらくタイミング的に彼女がチャレンジャー枠というものらしい。
4人組、というのは多分俺とシアン、イオトとエミのことだろう。ゴウトと行動し始めたのこの街からだし。
だが……
『どちら様?』
俺たち全員さっぱり心当たりがなかった。