新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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裏庭修行

 

「ちるちっちー」

「もう少し……」

「ふしゃー」

「じぐじぐ」

 チルの顔乗りだけでなくグーとドーラの体当たりでさすがに寝ているわけにもいかず寝癖で跳ねた髪を乱暴にかきむしる。時刻は6時半。部屋を見るとイオトはまだ爆睡しており起きる気配がない。あんまりにも爆睡していてちょっとむかついたので揺すって起こしてみる。

「おーい、イオトー、朝だぞー」

 すると部屋にイオトのマリルリが手ぬぐい片手に入ってきたのでイヴがひと鳴きして前足を振る。多分朝の挨拶なんだろう。マリルリはジト目でイヴを見つつもこくりと頷いて手を振り返す。イオトのマリルリ、昨日から思ってたけどちょっと変わってるよな。

「おいイオトー、手持ちのが先に起きてるぞ」

「ん……うぅ……」

 揺さぶり続けていると不愉快そうにぐずるイオトの声が布団越しに聞こえる。

「起き、ろよ!」

 掛け布団を無理やり引っぺがすとむくりと上体を起こしたイオトがじっと俺を見る。メガネをかけていないためかやけに目付きが悪く人当たり良さそうな好青年どころかヤンキーっぽい顔で吐き捨てた。

「うっせぇ」

 あまりにも低い怒声に思わずびびり、再び布団をかぶったイオトを前にしばらくかたまっていた。こいつの寝起き超怖い。

 それを見ていたマリルリは呆れたようにイオトに近づき、無理やり布団をはがした後顔面にみずでっぽうをぶっかけて持ってきたてぬぐいでかなり強く顔面をこすり始めた。

「いだっ、いっでででえええええ」

 その様子を見ていたイヴとグーが震えながら抱き合っており、相当マリルリ……いやマリルリさんの迫力にびびりながら俺の後ろに隠れた。正直さっきのイオトより何倍もマリルリさんが怖い。

 仕上げとばかりに枕元にあったメガネをむりやり顔にはめるとマリルリさんはイオトを蹴っ飛ばし体を起こさせる。イオトはさっきとも普段とも打って変わってテンションの低い様子で声を発した。

「……おはよう」

「……寝起き悪いんだな」

 それしかとっさに出てこなかった。

「低血圧で……」

「なおそうぜ」

 寝起きの悪さが割りと洒落にならないからやめてほしい。

 エミの方は手持ちも全員いないので先に起きているのだろう。朝食には少し早いだろうかと部屋の外に出ようとして襖を開くと強面のサワムラーに出迎えられた。

「お、おはよう……?」

「……」

 サワムラーは無言で畳んである俺とイオトの服を差し出してくる。昨日洗濯してくれたやつだ。一応旅の着替えもあるがせっかくなので洗ってもらった方に着替えて縁側の方に出ると中庭の一角でエミの姿を見つけた。

 エミは集中しているのか目を伏せすうっと息を吸い相対するコジョンドに蹴りを打ち込むとコジョンドはそれを腕で受け止め逆に受け流すように放り投げられる。

「……いって……コジョンドもうちょっと手心を」

「コジョ」

 つんとそっぽを向いたコジョンドにやれやれと言いたげなパチリスがそれを横で見ており、朝の鍛錬をしているところに声をかけてみる。

「おはよ。朝から元気だな」

「ん? ああ、ヒロか。おはよう。軽く運動したくなってね」

 コジョンドはふんっと顔を背け道場のポケモンたちの輪に入っていく。マリルリもとてとてとやけに可愛らしい様子でポケモンの輪に混じっていった。

 前々から思ってたんだけどイオトのマリルリとかもそうなんだが手持ちがやけに当たりがキツイっていうか懐いてるように見えない。

「コジョンドと仲悪いのか?」

「いや? コジョンドはちょっとツンデレなだけだから。本当は僕に懐いてるのわかってるし」

「あーわかるわかる。マリルリさんもそうなんだよ。俺のこと好きなくせになー」

 二人して呑気な笑い声をあげる同時に遠くから何かが飛んできて的確に二人の頭に激突する。かなり勢いが強かったのかふたりともその場に倒れ、慌てて何が、と物が飛んできた方向を見ると殺意の高いオーラが漏れたコジョンドとマリルリがこちらを睨んでいた。犯人わかりやすい。

 大丈夫? 本当に懐かれてる?

 二人は一応気絶はしていないようだが頭にダメージを受けたせいか突っ伏したまま愚痴るようにぼやく。

「マリーのやつ……本当……手加減ってものを……」

「甘やかしてりゃつけあがりやがってコジョンドめ……」

「だ、大丈夫か……?」

「……流血してなければセーフ」

 そのセーフは本当にセーフなんだろうか。イオトの日常が心配だ。

 イオトが自分の頭を触って確認しながら起き上がると投げられたブツ、カゴのみを拾ってポケットにしまった。カゴのみめちゃくちゃ硬いもんな。一歩間違えると凶器になりかねない。

「自分の手持ちにあそこまで嫌われるもんなんだな」

「ん? いや、マリルリさんは俺の手持ちじゃないよ?」

 イオトの発言に「えっ」と俺もエミも思わず二度見する。その割にバトルでは息ピッタリだな。

「正確に言えば俺の……まあ、後輩……弟子……、うん。弟子と数年前に交換したポケモン。だから付き合いは長いんだけどなぜかたまに俺に厳しいんだよな。バトルは基本言う事聞いてくれるんだけど……」

 遠目で道場のポケモンとシャドーボクシングの動きで会話しているマリルリを見ながらどこか心ここにあらずと言わんばかりに乾いた笑いを漏らす。

「そういう性格かとも思ったけど弟子にはめちゃくちゃ甘えてたし多分俺のことが気に入らないんだろうなぁ……はは……」

「せ、性格の合う合わないってあるしな、ほら、人間でも」

 むしろ言う事聞いてくれるだけ優しいかもしれない。

「僕の場合コジョンドは卵から孵したんだけどねぇ……そういえばコジョフーの頃から僕にちょっと厳しいんだよな」

 なんかこの二人のせいで俺もいつか手持ちにそっぽ向かれるんじゃないかって心配になってきた。そりゃ個性があれば合う合わないはどうしてもあるだろうし。今の手持ち4匹は懐いてくれてるからまだ……。

「なーにしてるですか。朝ごはんできてるですよー」

 俺達が寝ていた部屋から縁側に現れたシアンはエプロンを着たエビワラーを連れて食卓へと戻っていく。なんかここのポケモン、やけに人間臭いよな。

食卓に行くと既にぐだっと座っているケイがいた。横にいるバルキーにぺちぺちと張り手をされている。朝から元気だなぁと思いつつバルキーの張り手は全然痛くないのかケイは特に表情を変えずあくびをしながら料理が食卓に並ぶのを待つ。

「痛くないのか……?」

「これくらいならまあ」

 バルキーはむぅ、と拗ねたように頬をふくらませるがケイは頭をぽんぽんと撫で朝食を運びに来たシアンが座ったことでようやく食事にありつける。

「ふふふ、ボクの圧倒的女子力に震えるですよ! 褒めてもいいですよ?」

「80点」

 ケイがぼそりと料理の点数を呟くとギャラドスみたいな顔でシアンがケイを睨んだ。

「いったいいつになったら100点になるですか! おめぇの採点は相変わらず厳しいんですよ!」

「和食に関しての妥協はしねぇ」

 シアン、イオトとかエミは点数とか気にせず美味しい美味しい言ってるから気にするなって。って言ってやりたいが多分それ言っても意味ない気がするので言葉を飲み込む。代わりに昨日もあった筑前煮を食べて少し強引に笑顔を作った。

「この筑前煮とかめっちゃ美味いよ! シアンいい嫁になれると思うよ!」

 するとシアンは苦虫を噛み潰したような表情で重々しく、吐き捨てるように言った。

 

「……それ、そこの馬鹿が作ったやつなんですよ」

 

 スッと部屋の温度が二度くらい下がった錯覚に陥る。イオトは聞こえなかった振りをして俺やシアンと目を合わせようとしなかった。エミは「あ、これ昨日も一番美味しいと思ったやつだ」と火に油を注いでくる。くっそ、ピンポイントに地雷を踏みぬいた。シアンの目から光が消えていくのを感じる。

 しかし突出して美味しいと感じるだけあってケイの料理の腕は高い。うん、最初に言ってくれたらこんなお通夜のような空気になんてならなかったのにな……。いい嫁になるとか言っちまった。最悪だ。

「まあ、嫁にはいかねーけど嫁をもらうなら俺より飯が美味いやつだな」

「結構ハードル高いんじゃねーかな」

 シアンのレベルでも中々上位だと思うのにそれ以上を求めてくるってそれは料理人とかそういうレベルになってくると思う。

「それか年上で背の低いおとなしい巨乳の女」

「おめーなんかむっつりだからどーせ誰かに恋しても取られちまうに決まってるですよ! ざまあみろです!」

「そこまで具体的に言われると本当にそうなりそうだからやめろ」

 早く朝食終わらせたい。無心でおかずを口に放り込み、ほぼ同時にイオトと食事を済ませ、自分の分の食器を片付けて「ごちそうさま!」と言い逃げて道場の裏庭に駆け込んだ。

 ジム戦まで道場で修行する許可は取ってある。裏庭がちょうどいいからと聞いていたのでやってきたがなんか、庭というよりちょっとした公園みたいな広さだった。よく見ると森と隣接していることもあって遠くの方は完全に草むらだらけだった。

「さて、修行……だけどどうする?」

 隣にいるイヴに話しかけるが「ふぃー……?」と首を傾げられた。そうだよなぁ、わかんないよなぁ。

「俺相手しようか?」

 イオトが自分を指差すとマリルリさんがげっと顔をしかめてそそくさと離れていく。そんなに俺たちと戦うの嫌なんですかマリルリ先輩……。

「マリルリさん負けるの嫌なだけだから気にしないで。んー、ケイは格闘タイプのジムリーダーだからなー。今の手持ちに俺格闘入れてないし、エミの方がいいか」

 でもエミってまだ飯食ってたしそもそも相手してくれるかわからないんだよな。

 道場のポケモンは相手してくれるのか、というかジム戦で戦うかもしれないから相手してくれない可能性もある。

「ヒロくん、イオくん、ここで修行するです?」

 クルマユを抱え、カモネギを連れたシアンが裏庭に入ってくる。それと入れ違うようにイオトが道場へと戻ろうとする。

「俺エミ呼んでくるわー」

 そういって裏庭から消えたイオトに気づいたのかマリルリさんはハッとしたようにきょろきょろとあたりを見渡し少しだけ、しょんぼりしたように耳を垂らした。なんだ、本当に嫌ってるわけではないんだ。

「ヒロくんががんばってくれねぇとボクは強制送還ですよ。だからめちゃくちゃ応援するですよ」

 

『ヒロくん』

 

 その響きがどうしても夢の誰かを思い出させてじっと背丈の低いシアンを見つめてしまう。

「なんですか? ボクの美少女ぶりに惚れちまったですか?」

「違うけどもっかいちょっと俺の名前呼んで」

「……はあ? ヒロくん」

 呼ぶ声は呆れたような少し間の抜けた声音。怪訝そうに首を傾げるシアンを見てうーんと唸る。

 なんか……こう、近いものは感じるけどもっとこう、夢だと可愛くておしとやかな感じだったなぁ。

「もっとこう……お嬢様っぽい感じで言ってみて」

「え……えっと、ヒロ、くん?」

 ぎこちないけどちょっと近くなってきた。あとはもっと甘えるように言ってたらいけそう。

「もっと甘えるように頼む!」

「ひ、ひろくぅん!」

「よっし! それ! それだ!」

 雰囲気は再現できてる。なんか知らないけどモチベーションが……うん?

 視線を感じて振り向くとこちらを棒立ちで見ているイオトとエミがいた。

「……」

「……」

 イオトとエミが俺を見る目が尋常じゃないほどドン引いてる。何を勘違いされたのかエミなんかは袖で口元を隠しながらも「やばいやばいやばいよ……」などと口走ってる。

「ひどい誤解してる気がするけど別にやましい気持ちはないから! ちょっと! ちょっと名前の呼び方に既視感があったから!」

「よくわかんねぇですけどヒロくんが無理やり言わせて……」

「誤解を! 助長させないで!」

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 とりあえず誤解はなんとかとけ、エミがバトルの相手をしてくれることになったのだが木製のベンチで足をぶらぶらさせながらシアンが聞いてくる。

「そーいやヒロくんってイオくんとのバトルとあのみつあみ女くらいしかトレーナー戦してねぇですか?」

「うん。ていうか俺まだ旅立って2日目だからな? トレーナー戦はおろか野生ともなんかタイミング悪くて遭遇してないし」

 俺はバトルをしてはいけないんだろうかってくらいめぐり合わせが悪い。

 そう考えると旅をはじめてほんの数日でジムリーダーとか結構無茶ぶりだよな。

「野生のポケモンならそこらじゅうにいるじゃねぇですか」

「え? あれ道場のポケモンだろ?」

 中庭と裏庭に格闘ポケモンが多く、自主練をしている姿が見られ、一部格闘タイプではないポケモンも見られるがみな仲良く遊んでいたりバトルし合ったりして平和的な光景だ。

「ああ、道場のポケモンはどっかに道場のマークが入ったバンダナとかタスキとか布とかつけてるですよ。それ以外は全部野生です」

「マジで!?」

 よく見てみるとたしかに腕とかにそういうバンダナをつけてるルカリオとかルチャブルとかがいる中、なにもつけていないワンリキーとかリオルがいる。

「ふーん、野生だったんだあれ」

 感心したようにエミがポケモンたちを眺め、リフティングしていたボールを急に高く蹴り上げ、長い袖から手を出して宙に投げたボールを掴み取る。

「ま、いいや。とりあえず相手するけど僕のポケモン、そこそこレベル高いから攻撃一発でも当たったら相性有利でも倒れると思うよ」

「エミお前レベルダウンアイテム持ってないのかよ」

 イオトが呆れたように自分のレベルダウンウォッチを袖をまくってエミに見せる。

「あー、持ってないんだよねそういうの」

「じゃあ俺の貸すから。さすがにレベル差がひどすぎるだろ。パワーレベリングにもならねぇ」

 操作方法を教えはじめるがエミの表情は優れない。むしろどんどん顔色が悪くなっていく。

「……え、これ触って大丈夫? 頑丈? 壊れない?」

「そこまでびびられると俺まで不安になってくるんだけど。自分のポケナビとかポケフォンとかそういう端末扱う感じでさ」

「……僕さぁ…………昔からなぜか機械に触るとよく機械が爆発したり動かなくなったりするんだよね……」

 目から完全に光が消えたエミに差し出していた腕をとっさに引っ込めたイオトを誰が責められようか。貸すだけでこんな大事になるなんて誰も想像できなかっただろう。

 一動作一動作に気を使いながらエミの手持ちのレベルを俺の手持ちに合わせることに成功し、その一連の流れだけで10分くらい時間を無駄にしてしまった。が、正直全員生きた心地がしなかっただろう。

「……明日にでもショップでレベルダウンアイテム買いに行こう……。俺、自分のが壊されるかもしれないって恐怖に耐えられねぇわ」

「なんか……ごめん…………ポケフォンとかもさ……触っただけでもう4つくらい壊してるからさ……」

 微妙にバトルもしてないのに疲れた様子のイオトを放置し、俺とエミが向かい合う。

 エミは今回コジョンドともう一匹使うとのことだが内緒だと言われバトルの準備に入る。1対1のスタンダードなルール。俺の手持ちは4匹使ってもいいということでバトルを開始する。

「チル!」

「コジョンド!」

 対面の相性は当然だが有利。が、レベルが下がってもそれは全体的なステータスが低下するだけで技や経験は消えない。

「ストーンエッジ!」

 開幕容赦ないストーンエッジによりチルは慌てふためきながら岩を回避する。元々命中率が低めだからか全て避けきることができたがこいつ修行する気があるのかというくらい殺意が高い。

「一瞬で終わらせる気かよ!」

「えー? 基本一手で終わらせられたらそれでいいじゃん。ていうかジムリーダーも絶対エッジ覚えてるポケモン持ってそうだし。格闘タイプの岩技習得なんてサブウェポンとして定番じゃん」

 ド正論に反論できない。

 ともかくチルのレベルをあげるためにも勝たなければ。チルが使える飛行技は――

「チル! そらをとぶ!」

 一度上空に飛んでからの溜め攻撃。当たるまでに時間はかかるが威力は覚えている技の中でも高い。

 が、コジョンドはみきりを使っていたのかなんなく避け、コジョンドはその後驚くチルットにそのままはっけいを繰り出して弾き飛ばした。

「チル!」

 一撃では倒れなかったものの、まひを食らったチルを一度ボールに戻してイヴを出す。

「イヴ、はっぱカッター!」

 イヴのはっぱカッターは急所に当たったのか思ったより効いたらしくコジョンドは顔をしかめ、再びはっけいを仕掛けてくる。が、イヴは麻痺にならずそのまま押し切って二度目のはっぱカッターでコジョンドは倒れた。

「お、運が良かったね。じゃあ僕の二匹目~」

 軽い声音からは想像もできない二匹目が繰り出され、思わずヒュッと変な声が出た。

「ローブシンとか参考になるわけねーだろバーカ!」

 イオトも同じことを思ったのかほとんど罵倒の野次が飛ぶ。もっと言って。ちなみにシアンはローブシンに見とれており恍惚とした、というか女が人前で浮かべちゃいけないレベルの蕩け顔をしていた。

「ローブシン……しゅごい……つよそう……」

 言語が怪しくなってるけどもうこいつは気にしたらだめだ。ていうか俺が勝たないとお前の強制送還なのわかってる?

 ローブシンは無表情でじっとイヴを見下ろし無言で頷くと戦闘態勢に入る。構えるイヴを見てローブシンのステータスを思い出す。確か特防の方が低かったはず。

「イヴ! マジカルリーフ!」

 マジカルリーフは効いているのか効いていないのかローブシンの様子からは窺い知れない。あいつめちゃくちゃ無表情だな。

 ローブシンは大ぶりな動きだが拳に冷気をまとわせ素早くイヴを叩き潰す。それはれいとうパンチでイヴはその攻撃の重さに耐えきれず目を回して戦闘不能となった。

「だから! 参考にならない!」

「冷パンも格闘タイプのサブウェポンとしてなら普通じゃない?」

 そういう意味じゃないんだよなぁ。

 気を取り直してチルを繰り出すとチルの麻痺はしぜんかいふくにより綺麗サッパリ消えていた。やる気を見せる後ろ姿に和みつつもローブシンへとつつくを指示する。一応、効いてはいるんだろうけど元々そこまで威力ある技じゃないのもあって少々物足りない。

 結局ローブシンが圧倒的すぎてチルも早々にダウンし、さすがに待ったをかけたイオトが割り込んでくる。

「ローブシンは無理! ヒロはあとフシデとジグザグマだしいくらレベルさげてようがお前ののその汎用性高いローブシンじゃ全員ベイビィポケモンだわ!」

「えー」

 不満そうにローブシンを下げるエミは先程倒れたコジョンドにげんきのかけらを与えながら言う。

「それなら野生のポケモン相手にしたほうがよくない?」

「いや、トレーナー戦と野生はまた別だし」

 腰に手を当てながらうーん、と唸るイオトは落ち込んだ様子のチルを見てぱちんと指を鳴らす。

「ヒロ、チルットに頼りすぎ。全体のレベルをあげよう。せめてジグザグマとフシデは進化させる」

「えっ、ジム戦までそんな時間あるか?」

 レベルをあげろというがそんな単純な問題でもないだろうし。

「いや、大丈夫。俺とエミの手持ち相手だし。少なくとも今のでどっちかレベル上がってるんじゃないか?」

 そんなまさか、と図鑑を開いてステータスを確認するとイヴとチルのレベルが上っている。イヴはコジョンドを倒したからともかくチルはなんで上がっているんだろう。

「そんな驚くことか? 負けても戦えば経験値はたまるし、何より俺たちのポケモンは元のレベルが高いから経験値が野生と比べて高いんだよ」

「そんな仕組みだったのか……」

 負けても経験値が入るって戦えば戦うだけ成長するんだなぁ。

「といっても、まだレベルが低いからってのもあるけどな。一定越えると全然レベル上がらなくなるし」

「僕も最近ほとんど手持ちのレベル伸びなくってねー」

 びよーんと手持ちのパチリスの頬を引っ張るとパチリスが鬱陶しそうに尻尾でエミを叩く。

「いいなー! ボクもあとで手合わせするですよ! シャモすけを早く進化させてバシャーモにしてぇです……」

 進化することがないカモネギが横でいじけたようにネギで地面に円を描き始める。がんばれカモネギ。強く生きろ。

「チルを進化させたほうが戦力的にはいいんじゃないか?」

 チルタリスになれば能力もあがるし、優位性も増す。

「ジムリーダーって挑戦者の手持ちに合わせて自分の手持ちも調整するからあんまりチルットだけあげてもそこに合わされたら悲惨だぞ」

「満遍なくレベルを上げたほうがいいってことかー……」

「僕はそこらへんにいる野生のポケモン捕まえて戦力補充するのもいいと思うなー」

 だぼだぼの袖で指差す先は裏庭に迷い込んでいる野生のポケモン。それもありっちゃありだけど。というかポケモン増えるのは目的としてはいいんだけど今はそれじゃない気がする。

 どちらの言うことも一理あるが、とりえずはレベルを全体的に上げる方針で行こう。やる気満々のチルには悪いがしばらく休憩だ。

「チル、悪いけどしばらくは他のメンバーのレベルあげるから裏庭で遊んでていいよ」

 そう言った瞬間、チルットはショックを受けたように「チルー!?」と鳴いて俺をつついてくる。痛い、割りと痛い。

 しかし、ずっとではなくふとした拍子にトボトボと離れ木の上に飛んでじっと見下ろしてくるようになる。な、なにを伝えたいんだろう。

フシデとジグザグマもやる気充分でイヴを二匹がかりで小突き始めたので慌てて止めに入り、その後、加減の下手なエミではなくイオトのマリルリさんと野生のポケモン相手に修行を再開した。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「あーあ、あいつら予想通りだな」

 二階の窓縁に腰掛け、双眼鏡で裏庭の様子を見ていたケイは淡々とした様子で4人の修行風景から目をそらす。

「まあ、近くに下手に実力者がいると案外そうなるのかもしれねぇけど……」

 そう呟いて起き上がりバルーンに蹴りをするバルキーを見て、困ったように頭を掻く。

「こりゃマジでお前が勝つかもしれないな」

 そう言われたバルキーは蹴りを止め、にやっと一笑する。この勝ち気なバルキーに自分が負けるという考えは毛頭なく、当然とばかりにトレーニングを再開し始めそれからも視線をそらしたケイはどこともなく空をぼんやりと眺める。

「俺の周り問題児しかいねぇな……」

 それが裏庭の4人に向けられたものだけではないとバルキーが気づくことはなかった。

 

 




活動報告でちょっと今後の内容についてプチアンケ(見る人がいるかは不明)してるのでもしお暇なら覗いてみてください。
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