新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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ムーファタウン:後編

 

 リジアに逃げられたヒロが疲れ果てている頃――。

 

 ポケモンリーグの会議室で山のような書類に囲まれた四天王たちは頭を抱えながらそれぞれの業務をすすめていた。

「ねえ! あたしヒロに呼ばれてるんだけど!」

「タイミングが悪いというかなんというか……」

 フィルが苦笑しながら書類にサインをしてランタへと手渡し、まとまった書類をランタが別室へと運ぶために離席する。電卓片手に何かの計算をしながらリッカが「問題なし」とアリサに流してそれにアリサがサインをする。コマリタウン周辺の橋の修理に関する修繕費と予算の案件だ。

「急に帰ってきたかと思ったら全部今日の18時までに処理しろとか馬鹿じゃないの!?」

 用事が全員なかったからいいもののいきなり現れたチャンピオンに書類を押し付けられた4人は不満や苛立ちを隠しきれていない。

「マジねーわ。でも俺がチャンピオンになるのはマジ勘弁」

 ランタが戻ってきて再び処理が終わった書類の束を運びに外へと向かう。ブツブツとぼやきながらも真面目に役割をこなすランタを見ながらリッカは舌打ちする。

「あの馬鹿チャンピオン……一度氷漬けにして湖に沈めないとわからないのかしら……!」

 基本ローテンションなリッカが露骨に怒りを露わにしているのは珍しくその様子にフィルは困った顔でたなしめた。

「仕方ないだろう。この地方で最強だからあれはチャンピオンなんだ。不満があるなら誰かが代わりに勝ってチャンピオンになるしかない」

「それができたら苦労してないでしょ」

 アリサが死んだ目で書類を数えながら「ワコブ……ハマビ、レンガノ……グルマ……よし、8枚ぜんぶ揃ってる」と自分に言い聞かせるように呟き、フィルに縋るような目を向けた。

「フィル~! 弟待たせてるしレグルス団の手がかりになるかもしれないから任せてもいい?」

「まあ、アリサががんばってくれたからギリギリ間に合いそうだしあとは私がやっておくよ。経理はリッカがやってくれるし、ランタも確認くらいならできるだろうから」

「つーかあの馬鹿は!? 押し付けるだけ押し付けてまたどっかいったの!?」

 気づいたときには既にリーグから消えていたチャンピオンに更なる怒りが募る。リッカはいつの間にか片手に藁人形を持ちながら「腹をくだせ……」と呪詛を呟きながら指で腹部を押しつぶしている。

「とりあえずできるだけ早くは戻るつもりだから! みんなごめん!」

 アリサは上着を急いで羽織って、窓から飛んだかと思うとボールからオンバーンを繰り出してそのままオンバーンに乗ってムーファタウンを目指した。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 シレネが嬉しそうに室内に入り、かわいらしい少女の顔からすっと無表情へと切り替わったかと思うと何の変哲もない壁をコンコンとノックし、強く押すと隠し扉が現れてその中へと無言で入り、そこにいた人物を見るなり吐き捨てた。

「で、今回のみっともない失態……どう言い訳するの……?」

 ヒロに向けていた顔とはかけ離れた軽蔑するような視線にリジアは気まずそうに頬を掻く。

「すみません……」

 心底申し訳なさそうに椅子に座った様子をシレネは不愉快そうにリジアを睨む。

「あまりに無様な無能っぷりを……晒すようなら……幹部の方々に報告するけど」

 袖で隠れた腕を捲るとそこにはレグルス団のシンボルが入ったリストバンド。

 それを身に着けているシレネが紛れもなくレグルス団だということを証明していた。

「気をつけるからそれは勘弁してください……」

 申し訳なさそうに頭を下げるがそれを見てますます不愉快そうに眉をしかめるシレネ。

「まあ、どうせあなたはお気に入りだもの……たいした罰なんてないでしょうね……」

 嫌味のつもりなのか、わずかに嘲笑気味に言うとリジアはなぜか真面目な顔で答える。

「そんなことはありません。確かに幹部の方にはよくしてもらっていますが、分不相応な扱いをされたとは思っていませんので」

 あまりにもまっすぐに、生真面目なまでの声音にシレネはこれ以上の嫌味は通じないと判断したのか目を細めてリジアを見下ろす。

「……前にも言ったかな。私、あなたのそういうところ大嫌い」

 心の底から嫌いとシレネは言う。けれど本気で嫌っているならばこうやって会話もしないだろうとリジアは考えていた。

「だいたい……私がジュンサーの変装までして……交番で待機してたのに……あなたはヒロ君と楽しそうにお話してるなんて……ふざけているの……?」

「その節は申し訳ないと思っていますがあれと話していただけで怒るのですか? あの失礼で迷惑な男のこと好きなんですか? ええっと、ヒロでしたっけ」

「……うん」

 照れながら言う様子に「本気ですか」と驚きながら目を見開くリジアはシレネの言葉の続きを待つ。

「ヒロ君、かわいいから好き。きっと……一目惚れっていうのね。ドキドキしちゃうの」

 リジアはシレネの言葉を胡乱げに横目で見ており反応がいまいち悪い。

「手足を封じて、ずっとお世話したくなる感じだよね……」

「バイオレンスなんですよあなた」

 シレネは普段こそ取り繕っているもののどちらかといえば過激で、しかも残虐行為に躊躇がない。素の実力もリジアより高く、目をつけられたヒロを少しだけリジアは哀れんだ。

「私だけのものにしたいなぁ……。リジア、今回のこと、悪いと思っているなら協力してくれるよね……?」

 シレネの言葉になぜかリジアは悩んだように自分の髪を弄りながら数秒置いてから答えた。

「まあ、協力の内容次第です」

「曖昧なのは嫌……リジアって、本当に……面倒くさい……」

 

 ――別にあいつがシレネに気に入られたところで私には関係ありません。でも、協力するのもなんだか気が乗らないんですよね。

 

 口にするとおそらく地雷だとわかっているためリジアは心の中だけに留め、隠し部屋をぐるりと見渡す。

「相変わらず大量の卵」

 孵化装置に入った卵は部屋に大量に並べられており、いっそ不気味なほどだとリジアは考える。しかし、シレネはくすくすと笑った。

「かわいいでしょう? どれも優秀な個体、それか貴重なポケモンの卵ですよ」

 孵化装置をよく見るとメモに詳細が記載されており、中にはトゲピーだのヒンバスだのの卵がある。他にも『両親ともに優秀個体』なども書かれていて、命を扱っているとは到底思えなかった。

「これだけの卵、どうするんですか?」

「一部はアジトに送って戦力の増強に。一部は金持ちに売ります」

 さらりとなんでもないように言ったシレネにリジアはかすかに眉を顰める。しかし、一応仲間だからか直接何かを言うわけではないがリジアとしては相容れない考えなのだろう。

「あなたもいる?」

「私は結構です。自分の手持ちで事足りますから」

 シレネの育て屋業はあくまで表の顔。裏では預かったポケモンとメタモンや別の種のポケモンをあわせて卵を作らせ、それを回収している。また、トレーナーの個人情報を利用して、優秀なトレーナーや強いポケモンを持つトレーナーを襲撃し、それ知るための情報先の一つでもある。

 評判が良ければ良いほどトレーナーが集まる母数は多く、儲かるため金銭面での組織への貢献もできる。極めて効率的だがその一方で非人道の極みでもあった。

 シレネのメタモンの一匹がシレネの方へと乗り、つまらなさそうなリジアにシレネは言った。

「……なぁに? 不満でも、あるの?」

「いいえ。私は組織のためなら文句などありませんよ」

 組織のためなら、と強調する裏には暴走して組織に被害が出ることだけはするなという意味でもあった。シレネは当然と言わんばかりに不敵に微笑む。

「だいたい……あなたポケモンのことどう思ってるんですか? 自分の手持ちにすらこんなことして思うところはないんですか」

 自分の手持ちであるメタモンを利用し、ここにはいないブーバーンも卵をあたためるために使っている。シレネ以外がしているのならばそれほど嫌悪感はないとリジアは考える。シレネだからこそ、おぞましいと感じてしまうのだと。

「ポケモン……? 好きですよ?」

 怪訝そうなリジアに満面の笑みでシレネは言う。

「だって教育のしがいがありますし、なによりお金になりますから」

 全く悪びれもせず言うシレネにリジアは「そうですか」とだけ答えて、これ以上会話をしても無駄だと悟ったのか早々に会話を打ち切った。

 

 

 

 

――――――――

 

「ヒ~ロ~?」

「姉さんごめん。謝るから、マジで悪かった。だからつねるのはやめてくれ」

 笑顔でキレられながら両頬を思い切りつねられ、イヴが足元でがんばれーと無責任に煽っている。助けてくれ。

「もう! すぐに来られなかったあたしも悪いからあんまり言えないけど抑えとくのが無理なら次は警察に預けたほうが良さそうね」

「あいつめちゃくちゃ逃げ足早いんだって……」

 言い訳がましく主張するも姉さんも呆れたように頭を抑えてため息をつく。

「つーか、用事はもう大丈夫なのかよ」

「え? ああ、うん……いきなり馬鹿が帰ってきたと思ったら溜まってた業務捌く羽目になっただけだし……しかもいつの間にかあたしらに全部押し付けてまたどっか行ってるんだもの……次は殴って椅子に縛り付けてでも逃さないわ……」

「は? まあ、急に呼んだのに逃して悪かったよ……」

 とりあえず思い切りつねられたものの姉さんも落ち着いたようで少しだけ会話でわかったことを伝えると「うーん……」難しい顔をされた。

「微妙に信憑性が増してきたわね……」

 何の話だろう。そういえば俺そもそもレグルス団の話ほとんど知らないんだよな。人のポケモンを奪うってくらいで。

「あくまで噂にすぎないから話半分だけど、レグルス団は一般人を洗脳して手駒を増やしてるっていうのよ。下っ端の実力も下手なトレーナーより高いし、ないとも言い切れないのよね」

 洗脳、という言葉に胸がざわついた。リジアのポケモン好きは紛れもないものだと思っている。とっさの行動であんなことをする奴がポケモンを道具と思ってるはずがない。

 だから、もしかしたら本当はいいやつなのかもしれないという期待がある。そして、その可能性を強める噂もあるときた。

 ――どうにか、正気に戻せないだろうか。

「ヒロ、顔に出てる」

 姉さんの言われて自分の顔に触れるがなんのことかよくわからない。すると呆れたように姉は続けた。

「助けてやりたいって見え見えよ。まあその子が本当はいい子かもしれないっていうのは話聞いても絶対にないとも言えないからいいとして、私が心配してるのはユクシーの話が本当ならそれすらレグルス団の仕込みじゃないかって不安なのよ」

「レグルス団がユクシーを操ってると?」

「だってあいつらシンオウのポケモンよ。理由もなしにここにいるとも思えないし、記憶を失ってる状態で優しく手を差し伸べられたら……って考えてもおかしくないじゃない」

 確かに辻褄は合う。というかそっちの方が自然だ。偶然ユクシーに出会ってその後行く宛がないなんて地元なら自分が記憶を失っても相手が自分を知っているのがいるだろうしおかしな話だ。シンオウに住んでたとしたらもっとおかしい。こことシンオウは遠く離れているため子供が着の身着のまま来れるはずもない。泥棒のようなことをしていたとは言っていたがそれでわざわざこの地方に来る理由もないし。

「一応そっちも調べておこうかしら……。数年前から行方不明者と照らし合わせたりして……うーん、やることが増えたわ」

「ユクシーが関連してるとは限らないんだし無理するなよ姉さん」

「まあ関係ないならそれでいいのよ。できること、やっとくにこしたことはないんだから」

 正論だ。あとになってやっておけばよかったとなるより調べて無駄だったの方が後悔は少ない気がする。

「……あんまり入れ込み過ぎないでよね。姉ちゃん心配してるんだから」

 本当は一般人トレーナーの俺を巻き込みたくはないと姉は言う。優しい姉の言いたいことはわかる。でも、ここまで関わり合いが続くと嫌でも気になるというもの。

「とりあえず……姉ちゃんは戻らないと。次は絶対早く来るけど無茶はしないでよね」

 ポケモンセンターも人が増えてきたのはもうすぐ夕方だからだろうか。姉が頭を掻いたかと思うと横にいるオンバーンがおろおろしながらチルと顔を合わせている。見知った相手が急激に変わって驚いてるような反応だ。

「チルット、進化してたのね」

「ああ、この前な」

「成長早いわねー。そんな強い相手と戦ったの?」

「一緒に旅してるやつが結構強くてさ」

 ジム戦するために特訓に付き合ってもらったイオトとエミはジムリーダーに勝てると断言するだけあって実力は確かだ。多分他の新人トレーナーと比べてもあの二人のせいもあって成長が早いのかもしれない。

「ふーん……まあまた今度、一緒に旅してる子も紹介しなさいよね。今日は急ぐからまた今度」

 そのまま姉さんはオンバーンを連れてムーファタウンをあとにした。急に呼んどいて悪いことをしたと反省し、3人が帰ってくるのを待つかと泊まってる部屋へと行くとベッドに蹲ったエミがいることに気がついた。

「あれ、戻ってたのか」

「あー……うん……」

 具合が悪そうな声を絞り出したかと思うと喋るのも億劫そうに寝返りをうつ。

「貰ったクッキーに当たっちゃってさー……」

 要するに腹痛らしい。机の上にチョコクッキーの箱が適当に置かれており、中身はまだたくさんあった。

「どうしたんだよこれ」

「貰った」

 貰ったとは言うがこの町での名物というわけでもなさそうだし誰からもらったのか。

 箱を手にとるとイオトが疲れたような顔をしながら部屋に入ってくる。

「あ~、疲れた」

「イオトも帰ってきたのか」

「何? クッキー食べてたのか。俺も一つ貰うわ」

「あ、待っ」

 静止も聞かず、一つクッキーを口にするともぐもぐと咀嚼している間、徐々に表情が変わっていく。笑顔からどんどん無表情へとなったそれを見てやばいと直感でわかった。

「……これ、何」

「エミがもらったらしいクッキー。そしたらエミが腹壊したから食べないほうがいいぞって言おうとしたら……」

「そういうこともっと早く言ってくれねぇ?」

 まだ腹痛には至っていないようだが顔色が悪い。口にした時点で違和感があったのだからそもそも美味しくないのかもしれない。

「たっでーまですよー! モーモーミルクいっぱいもらえたですー!」

 両手いっぱいに袋を抱えて帰ってきたシアンは本来は隣の部屋なのだが見せびらかしたいのかこちらへと入ってくる。

「あり? エっちゃんとイオくんどうしたです?」

「クッキー食べて腹壊したんだって」

 イオトとエミを置いて夕飯を食べに行くことにし、恨み言を背中にぶつけられながらシアンとポケモンセンターの内部にあるレストランへと入る。

 料理を食べながら今日の出来事をシアンにつらつらと話すときょとんとした顔をされた。

「ほあ。あのみつあみ女に同情するとかヒロくんも大概お人好しでいやがりますね」

「そ、そうか?」

「だって、生きるために悪いことをしたっていうの、そもそも言い訳ですよ」

 まあ、シアンの言いたいことはわかる。理解はできる。が、シアンはなぁ、お嬢様だからなぁ。そう考えるとちょっと向こうに肩入れしてしまう。

「みんながみんな、満たされた生活してないんだぜ?」

「詭弁ですよ。特に子供なら保護してもらうとかいくらでもあるでしょーに」

 うーん。シアンはどうもリジアに対して否定的らしい。考え方は千差万別だからシアンを否定することもできない。

「まあ別にボクには関係ねぇですけど。次会ったら叩きのめしてやるですよ!」

「お前バトルでアレに勝てんの?」

 初対面時ふっつーに負けてたのにどこから来るんだその自信。

「ボクも成長してるですよ! まだヒロくんの手持ちには及ばねーですがコツコツとレベルもあがってるです!」

 俺の知らないところでレベルが上ってたらしい。いつの間に。

 シアンのカモネギがネギを掲げて自己主張してくる。そうか、お前も強くなってるのか。がんばれカモネギ……えっとネギたろうだっけ?

「もーちょっとでシャモすけが進化しそうなんですけどねぇ」

 ワカシャモのシャモすけはもぐもぐと飯にがっついており、こちらの話を聞いていない。まああと一歩ってところなんだろう。

「ようやく憧れのバシャーモですよ! なんとか言いくるめてアチャモをもらったときを思い出すですよ」

 シアン曰く、女の子なんだからかわいいポケモンにしなさいと両親から言われ続け、ワンリキーだのドッコラーだのは即却下され、誕生日にもらえるポケモンを決めるので大揉めしたらしい。

 そして、アチャモかわいい!と訴え続け、両親もまあそれなら、と納得してしまった結果がこのワカシャモであった。進化させる気しか感じないのによく丸め込んだな。

「まあそれの一件に関してはあいつは感謝してるんですが……それ以外がどーしても……」

「あいつ?」

「家出する原因の婚約者ですよ。元々家族ぐるみで付き合いがあったのもあって、そいつに捕獲を頼んだらしーです」

 両親からアチャモをもらい、喜んでいたところ、その人物が捕まえてくれたということを聞き思わず真顔になったシアンは両親を不安にさせたとのこと。そんなに嫌いなのか、その婚約者になっちゃった女の人。

「なーにが『お前、どうせバシャーモがよかったんだろ。大事にするんだぞ』ですよ! 人のことわかってるみてーなこと言いやがって!」

「めちゃくちゃいい人じゃん」

 しかもめちゃくちゃわかられてるじゃねぇか。婚約のことはさておきなんでそこまで嫌うのか。

「……なんていうか……昔はまだよかったんですよ。あれも」

 懐かしむように頬杖をついて視線をレストランに設置されたテレビに向ける。

「3年前ですよ。あの事件のせいであいつは最低やろーになっちまったです」

「あの事件?」

「おぼえてねーですか? 突然チャンピオン交代したあれですよ」

 記憶をたどるとそれらしいニュースを思い出す。3年前だったかは忘れたがそういえば急にチャンピオンが負けたとかで新しいチャンピオンに代替わりしたっていう。

 だが、新チャンピオンはプロフィールの一切を非公開。表に出るのは四天王だけで未だにチャンピオンの顔も年齢も性別も不明。

 まあ俺は前チャンピオンにも詳しくないというか、当時の俺はあんまり興味がなかったのもあってその辺の知識には疎い。

「まあ、ぶっちゃけると現チャンピオンにボコボコにされてチャンピオンを降りることになって以来、めちゃくちゃ理不尽で横暴になっちまって、正直関わりたくないくらいには面倒なやつになっちまったですよ」

 ん? 話を聞いてるとどうも婚約者が元チャンピオンみたいな感じだけどマジか。ていうか俺の周りリーグ関係者多くね? イオトとエミもどっちかに四天王の身内とかいたりしねーだろうな。

「2年前まではチャンピオンとの再戦を何度もしてたみてーですが……結局勝てないままみてーですよ」

「今のチャンピオンそんなに強いのか……」

 この地方で最強の座を守り続けているチャンピオン。興味がないと言えば嘘になる。だが、まだジムバッジも1つの俺には遠い話だ。

「まあ、あんなやつの話はいいですよ。飯がまずくなるです」

「そんなに嫌ってやるなよ」

「ヒロ君はあいつと会ったことがないからそんなこと言えるですよ。会って会話したら……いやそもそも会話成立するかすら怪しいですけど…………まあ、こいつ最低だって思うですから」

 逆に気になってきた。まあ、会うことはないだろうけどもし会ったときはシアンの期待を裏切りたいなぁ。

 

 ぐだぐだと食事を終え、腹痛に苦しむ二人に薬局で薬を買って帰り、ムーファタウンでの二日目を終えて、明日の朝に備えて眠りにつくのであった。

 

 

 

――――――――

 

 

 また、夢で記憶を見ていると気づくのにそう時間はかからなかった。

『ヒロくんどうしたの?』

 いつも夢で見る少女は二つのみつあみを揺らしながらこちらをじっと見つめてくる。相変わらず顔は思い出せないが感情は伝わってきた。

 少女の手を握りながら、幼い自分は顔を背けながら小さな包を少女に押し付ける。

 怪訝そうに包を受け取り、中を確認した少女は「わあ!」と嬉しそうな声を上げた。

『くれるの?』

『たんじょうび……だって言ってただろ』

『こんな素敵なものをもらえると思ってなかったの! ありがとう!』

 プレゼントに渡したものは”赤いリボン”それだけ。それだけなのに少女は心の底から喜んでいた。

 本当はリボンを二つあげたかったのだが見栄を張っていいのを選んだ結果、一つだけしか小遣いで買えなかった。それが少し恥ずかしくてあまり少女を見れなかった。

『さっそくつけていい?』

『一つしかないのにどうするんだよ』

『ちょっとまってね』

 みつあみをほどくと長い髪が少し波打っているような癖がついており、それを一度一つにまとめ、それを三つにわけてどんどん編んでいく。編み終わったところでリボンを結ぶとにっこりと笑って俺に顔を近づけてくる。

『どう?』

『どうって、言われても』

 ゆるめに編まれたみつあみは少し右側に寄っている。編むときに右側で編んでいたからだろう。少し不格好で、なんて言えばいいかわからなかった。

『に、にあってる……』

 絞り出した言葉に少女ははにかむ。

『ありがとう、ヒロくん』

 古ぼけたフィルムのように世界が色あせていく。この先は思い出せない。鍵がかかった部屋のように閉ざされており、自分自身のことなのに掴めないでいた。

 

 

 

 

 

 

 寝苦しくて目が覚めるとグーにのしかかられていた。

 また記憶の夢を見た。

 こう、何度も見るとそろそろはっきり思い出してもいい頃だが相変わらず曖昧で、あと少しなのに、というところで記憶が欠けている。

「なーんか誰かと似てるような……」

 あれ、冷静に考えるとあの髪型ってリジアと同じだな。リボンの色も一致する。髪はうろ覚えだが似たような色だった、ような。特徴が一致しすぎてできすぎていると思ってしまうほどに。

「いやいやいや……まさかそんな……」

 自分に言い聞かせるようにブツブツと呟いているとイヴが寝ぼけて起きてしまう。もう一度寝なおそうとイヴと一緒に布団に入り、夢とリジアを照らし合わせる。

 似てるところは多い。が、少女の儚いふわふわとしたイメージとあのリジアが結びつかなくてどれだけ要素が似ていても打ち消してしまう。

 ただ、もしあの少女がリジアだとしたら。

「……あのリボン、まだ持ってるってことになるんだよな」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 翌朝、着替えて町を出る準備をしながら、腹痛を起こした二人の様子を見る。回復したようだがまだ顔色はあまり良くない。

「大丈夫か? もう少し町に滞在するか?」

「いや……俺は平気……」

「僕も気にしないでー。昼頃には普通になってると思うし」

 あんまり無茶するなよと思うがまだ留まると言っても二人はいいってと言いそうだし朝食を済ませたら隣のハマビシティを目指すつもりだ。

 シアンが地味にモーモーミルクをいっぱい詰め込みながら荷物の整理に苦戦しているのを横目に、ポケモン世界の収納力はすげぇなと改めて感心する。重くて持てなくなりそうなくらい荷物があるのによくもまあこんなまとめられるな。

 ポケモンセンターを出て少し先の町の入口の方へと向かうと、きょろきょろと視線を動かすシレネがいた。

「あれ、シレネ?」

 こちらに気づいたシレネが手持ちのラッキーと一緒にぱたぱたと駆け寄ってくる。なにかと思い、足を止めるとシレネは気まずそうに言葉を選んでいるのか数秒してから口を開く。

「あの、厚かましいお願いなのはわかってるけど、この子をもらってくれないかな……?」

 そう差し出されたボールが開いたかと思うとあくびをしながらコリンクが飛び出してくる。

 コリンクは俺を見るなり前足で脛の当たりをこつこつして、きゃっきゃと楽しそうだ。

「前に……卵から、孵った子なんだけど、貰い手がいなくて……うちで預かるのも限度があるから、手持ち6匹いないって言ってたし、もしよかったらって……」

 育て屋に来るのはだいたい手持ちが揃っているトレーナーばかりだから今更コリンクに興味もないらしい。だから俺ならと、急いで旅に出る前に来たのか。

「俺はかまわないけど……いいのか?」

「……うん……コリンク、ちゃんとヒロ君の言うこと聞くのよ?」

 シレネがコリンクと目線を合わせようとしゃがむもコリンクはつんとシレネを無視した。あまり懐いていないらしい。

「その……押し付けるみたいでごめんね……?」

「いや、いいよ。俺ポケモン好きだし。よろしくなコリンク!」

 足元にいたコリンクを抱えるとシレネへの反応とは打って変わって楽しそうにはしゃぐ。あっかわいい。撫でたい。とりあえず名前をつけよう。

「何かあったら連絡してね……」

 その場で見送ってくれるシレネを背に俺たちはムーファタウンから去るのであった。

 

 

 

 

――――――――

 

 ヒロを見送ったシレネがニコニコと笑顔を浮かべながらスキップで育て屋に戻っていく。スカートをはためかせ、浮かれきった様子を見たらリジアあたりは「気持ち悪いですね」などと言いかねない。

 育て屋の隠し部屋でパソコンを開くと地図のようなものが表示され、ムーファタウンから少し先の位置に点滅する光があった。

「ヒロ君……見守ってるよ……」

 恍惚とした表情で画面を見つめ、手持ちであるブーバーンは卵を抱えながらシレネの様子を見て呆れたように鳴いた。すると、シレネは不愉快そうにブーバーンを睨む。

「何よ。いいから、さっさと卵温めなさい。全く……」

 ぶっきらぼうな言い方にブーバーンも適当に頷くとシレネから距離を取って抱えた卵とともに隠し部屋の奥へと引っ込んでいく。

 

 ――ヒロの知らないところで、少しずつ、何かが変わっていくのであった。

 

 

 

 




●シレネ
ブーバーン♀
メタモン
ラッキー♀
他不明
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