新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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ハマビシティ大騒動2

 

 

 マリルリさんのハイスピードでど真ん中に突っ込まれそうになって汗がどっと吹き出るほどに肝を冷やしたが直前で上手いこと回避してくれてレンの技だけどうにか成功させる。マリルリさんは単純に強いだけではなく度胸や頭もいい。自分の知る範囲でも相当優秀なポケモンだ。

 が、彼女ナギサと俺を連れて岸まで戻るのはさすがに厳しいらしい。

「よくも邪魔してくれましたね……」

 ずぶ濡れになりながらなんとか這い上がってきたメガネの男は穏やかそうな顔を引きつらせており相当お怒りのようだ。もう一人のチャラそうな男も髪が濡れてセットが崩れたことを気にしているのか「あーあー……」と呟いている。

「何者かは知りませんが、邪魔するようなら消えてもらうだけです」

「そーだそーだ! パイセンやっちまおうッス!」

 チャラい方は多分馬鹿だなと確信しつつ、ナギサの様子を見る。明らかに弱っている。俺の支えがないとまともに立てそうにない。

「ドククラゲの毒はよく効くでしょう? 早く解毒してあげたらどうですか?」

 からかうような言い方にかちんとくる。その隙にこちらを攻撃するつもりだろうにわざとらしい挑発だ。しかし、ナギサの衰弱ぶりからして早めになんとかしてやらないといけないのも事実。

 隙を作ることが相手二人に対してかなり難しいせいで動けずにいるとレンが唸るのをやめて俺の頭へと飛び乗った。

 

「ラーガ!」

 

 トドゼルガに乗って乱入してきたイオトがトドゼルガに大きな波を作らせたかと思うとそのままれいとうビームでその波を凍らせて男たちの動きを制限するような壁を作った。

「ヒロ! 今のうちに!」

「サンキュー、イオト!」

 荒くなった息をおさえようとするナギサにカバンからモモンのみを取り出して食べさせると少しだけ顔色がよくなっていく。が、すぐに復帰するのはやはり難しいのかまだ少しだけ顔色が悪い。

「ごめんなさい……助けてくれてありがとう……ええっと」

「俺はヒロ。とりあえずマリルリさんに引っ張られたのが理由だけどここまで関わったらさすがに最後まで協力するから」

 とりあえず今マリルリさんもイオトと合流すべく先程よりスピードは出ないももの引っ張って移動すると氷を突き破って男たちとその手持ちが現れる。

「次から次へと――! ドククラゲ、ヘドロウェーブ!」

「シザリガー! クラブハンマー!」

 マリルリさんに引かれてクラブハンマーを避けるも素直に逃がすつもりはないらしくこのまま戦闘になりそうだ。

「ヒロ! マリルリさん預けるからそっちの頑張って倒せよー。俺こっち相手する」

 イオトはやや気だるそうにメガネの男と対峙する。トドゼルガもドククラゲを睨んで臨戦態勢だ。水上戦は通常戦よりも足場の問題で制限がかかる。イオト一人に二人を押し付けるわけもにいかない。

 どうでもいいけどメガネ対決だなあっち……。

「らんらん! ジョーズ! さくら!」

 ナギサが自分の手持ちを呼び戻すもサクラビスはほぼ瀕死に近く、サメハダーも体力を消耗している。二匹をボールへ戻したナギサは少しだけふらつきながらもランターンへと乗った。

「今の私じゃたいしたことはできないけど戦うよ!」

「舐めたマネしてくれやがって……覚悟しろッス!」

 チャラい見た目の男はシザリガーをこちらに差し向けてくる。レンはまだ弱いためもう一匹、イヴを出して応戦する。

「イヴ、マジカルリーフ!」

 足場が悪い水上だがイヴ一匹くらい足場に出たところで沈むことはない。マジカルリーフはそこそこ効いているようでシザリガーが雄叫びを上げ突っ込んでくる。

 マリルリさんが咄嗟に回避してくれなければイヴがはさみで捕まっていただろう。

「らんらん!」

 ランターンのスパークがシザリガーに炸裂し、シザリガーがよろめくも血気盛んなシザリガーはまだ疲れを見せない。

「つーか! パンピーが俺らの邪魔すんじゃねぇッスよ! 俺らレグルス団のこと知らねーのか! 情弱かよ!」

 すごい。こいつ、ちょっと喋るだけで頭悪そうってわかる。俺も別に自分が頭いいとは思ってないけどこいつよりは絶対賢い自信ある。

「やっぱりレグルス団……」

 ナギサが怒りを隠しきれない目でチャラ男を睨む。

「何が目的! ここ最近の海の異変もあなたたちなんでしょう!」

「そーッスよ。あー、えっと、あれあれ、あれをずっと待ってるってーのに出てこねぇからちょいと強引な手段に出たってワケ」

 こっちまで知能下がりそうな喋り方してくるなあこいつ。言ってることが抽象的すぎて全然わかんねぇ。

 しかしナギサに心当たりがあったのかはっとしたように表情を変える。

「まさかあの子を――」

 そう呟いた瞬間、海に異変が起きた。

 凪いだ海が荒々しく波打ち、遠くからものすごい勢いで迫ってくる何か。

「まずい! 海を荒らされて怒ってる!」

 ランターンとともにその迫ってくる生き物に接近しようとするナギサはシザリガーによって阻まれる。なんとか振り払おうとするも、シザリガーのはさみでナギサが海に叩き落される。まだ本調子じゃなかったのか慌てて引き上げようと近づくと、接近してきた謎の生き物がナギサを掬い上げた。

 それは怒り狂ったエンペルトだった。だが、通常のポケモンと一緒にするには明らかにオーラが違う。王者の風格と、図鑑で確認するエンペルトの情報より体が一回り大きいことからこのエンペルトは明らかに特別だと察せられる。

 ナギサをランターンの元へ返すとナギサは申し訳なさそうにエンペルトに言う。

「ごめんなさい、エンペルト……あなたの海を守れなくて……」

 怒りに支配されたエンペルトにその言葉は届いているのかはわからない。

 その一方でレグルス団の二人は歓喜を隠しきれないでいた。

「パイセンパイセン! やっと本命ッスよ!」

「よかった~。最初からジムリーダー攻撃すればよかったんだね」

 こちらへの興味を失ったのか、応戦していたはずのイオトすら無視してエンペルトへと近づいていく。

 だが、エンペルトは激しく威嚇するように打ち上げた水を凍らせて男たちへと叩きつける。どちらも寸でのところで躱すも二人の様子は変わらず嬉しそうだった。

「知能も高い、おまけに想像以上に個体として優れている! 絶対に捕まえますよ、キッド!」

「いやぁ、わかってるッス……でも、これかなーりきつくないッスか? リジ姉呼んだ方が――」

「そんな時間あると思う?」

 ナギサとイオトの妨害が同時に入り、男たちの会話は打ち切られる。

 イオトはやや苛ついた様子でメガネの男へと怒声を浴びせる。

「人を無視して捕獲に走ろうなんていい度胸してるじゃねぇか!」

 水上戦闘では俺はマリルリさんに頼るしかできない。正直いってかなり足手まといだ。

 男たちを海から追い出そうと気が立っているエンペルトをチラりと見ると視線が合う。イオトとナギサが男たちとやりあっている隙にマリルリさんに頼んでエンペルトの近くまで移動するとエンペルトに声をかけた。

「エンペルト! あいつらはお前狙いなのわかってるだろ!」

 ぎろりと睨んでくるエンペルトだがここで怯んでたら本当に役立たずだ。

「あいつらの目的はお前を捕獲することだ! だから、一時的でいい! 俺のポケモンになってくれ!」

 他人のポケモンを捕獲することはできない。奪うことはできても捕獲という行為は行えない。野生のままよりずっと守りやすい。

「俺の言うことは聞かなくていいしあいつらをどうにかしたらお前はすぐに自由になっていい! だから、今だけ頼む!」

 エンペルトの視線は冷たい。こちらを品定めするような様子に、気圧されそうになる。

 が、マリルリさんがなぜか突然キレた。

「まりまりまーっ!」

 キレた勢いでかわらわりをエンペルトにおみまいし、驚いてる俺を差し置いて二匹だけでなんか会話し始めた。

「まりっ! まー! まりまりまりいいいい!」

「……ぺる」

「ま゛ぁ?」

 マリルリさん、全然何話してるかわからないけどキレないで。

 説得虚しく、エンペルトがこちらを向くことはなく、代わりにイオトたちの戦いの流れ弾がこちらへと向かってくる。

「マリルリさん回避回避――!」

 直撃こそしなかったものの、ぎりぎりのところで回避したためかバランスを崩して水中へと落ちてしまう。パニックになってはいけないとわかっているものの、咄嗟のことだったので息ができない。マリルリさんヘルプ、と思っているとそれよりも早くエンペルトに引っ張り上げられた。

「え、エンペルト――」

「ぺる」

「え?」

 エンペルトは俺の腰についたボールをこつこつと指して鬱陶しそうに何か伝えようとしている。空のボールを差し出してみると自分からボールに入り、再び海に落ちた俺を面倒そうにボールから出てエンペルトが助けてくれる。

「ん、え、うん? いいのか?」

 自分から言っておいてなんだが意外とあっさり……いやめちゃくちゃ嫌そうな顔してるけど一時的に俺のポケモンになってくれるとは思わなかった。

「あぁ!? サイクパイセン大変ッスよ! クソパンピーにエンペルト先に捕獲されちまったッス!」

 俺が一時的にとはいえ捕獲した(捕獲っていうか自分から入ってくれたんだけど)のに気づいたチャラ男がメガネの男に叫ぶと露骨な舌打ちをしたメガネ男はイオトに笑顔を向ける。

「というわけで、邪魔」

 ボールから出したナットレイがイオトとトドゼルガに絡みついて動きを封じる。

「しまっ――」

「ドククラゲ!」

 トドメとばかりにドククラゲの毒を食らったイオトとトドゼルガは顔色が悪くなっていく。即死するものではないが人間がポケモンの毒を放置していると最悪死亡する。

「こちらが捕獲できないのは残念だけど、力づくで奪えばいいだけのことだからね」

「らんらん! 10まんボルト!」

 シザリガーを相手にしていたナギサがイオトの異変に気づいて振り払おうとするもシザリガーは素早い動きでランターンに接近する。

「シザリガー! ハサミギロチン!」

 シザリガーのはさみがランターンを襲うが効果はなく、シザリガーがきょとんとしてる。

「キッド、君、ジムリーダーの手持ちよりレベルが高いわけないだろう」

「あっ、そーだった」

 やっぱりあいつ馬鹿だ。

「マリルリさん! イオトのところに行ってくれ! エンペルトは力を貸してくれ!」

 マリルリさんは言われるまでもないとアクアジェットを利用した高速移動でイオトたちの方まで泳いでいく。問題はこちら。ナギサとチャラ男、そしてメガネ男。

「エンペル――うわっ!?」

 エンペルトは俺を乗せたまま先程のマリルリさんよりも早く泳ぎ、チャラ男の背後を取る。

「げっ!?」

 あまりの速さに対処しきれなかったのかシザリガーは避けることができずエンペルトのドリルくちばしを食らい、これまでの疲労もあってか一発でダウンしてしまう。チャラ男もその衝撃で海へ落ちて一旦無力化できた。

「これは……エンペルト、想像以上に手強いようですね」

 チラりと、ナットレイとマリルリさんの様子を盗み見たメガネはマリルリさんがナットレイを倒すのを察したのだろう「多勢に無勢か」と呟いて頭をもたげる。

 いやそれよりもマリルリさんなんでナットレイに勝とうとしてるの。相性最悪なんだけど。

「うーん、やっぱり最初からリジアちゃん呼んでおけばよかったかぁ」

「リジア……!」

 知った名を口にされ、思わず動揺する。やはりレグルス団のメンバーだからか。

「キッドー。撤退できるかい?」

「できるように見えるッスか……?」

 さすがにすぐには毒が消えないものの解毒できたイオトと、ナギサ、俺はまああんまり必要ないけどエンペルトがいて逃げるのはかなり難しいはずだ。

「だねぇ。どうする? おとなしく投降する?」

 苦笑したメガネの男――サイクと呼ばれたそれはチャラ男のキッドを見下ろしてふと、何かに気づいた。

 次の瞬間、トロピウスがこの場に突っ込んで激しい水しぶきをあげ、視界が奪われる。危うく落ちそうになったがギリギリ踏みとどまって先程の二人がいた場所を見ると影も形もなくなっていることに気づき、周囲を見渡す。しかし、隠れているわけでもなく、一瞬で消えてしまったのか拍子抜けな結果へと終わってしまった。

「あいつら……」

 トロピウスに誰かトレーナーがいたのが最後にチラっとみえたことから別の仲間の手助けだろう。また、手がかりを失ってしまったことに少し落胆しつつも、とりあえず解毒したとはいえ毒を食らった二人をきちんと診察してもらわなければ。

 エンペルトも一緒に浜辺まで一旦戻って、ヒドイデと戦っていたはずのエミとシアンと合流することにした。

 

 

 

――――――――

 

 

「つっかれた~」

「疲れたですよ~」

 ヒドイデの大群をなんとか沈静化させることに成功したエミとシアンは背中を合わせて座り込んでいた。手持ちにもトレーナーにも大きな怪我はないが大勢を相手にした疲労の色が濃く見える。

 エミは沖の方を眺めながら、はっきりとはわからないもののそろそろ決着がつきそうだなとぼんやり考えていた。

「とりあえず向こう待ちかね。ヒドイデは町の人がなんとかしてくれるだろうし」

 避難がほぼ終わってあとはジュンサーも含めて町の人間が駆けつけてくる。

 が、その中で異質な存在がエミの目に留まる。

 全身を覆うローブのようなものを着込んでいるその人物は体型からしておそらく少女。トロピウスをボールから出したかと思うとそのままトロピウスに乗って飛び上がった。

 トロピウスに乗った少女の顔はフードで隠れて伺えない。だが、エミはその人物と目が合い、息を呑んだ。

 

 ――なんでここにいる?

 

 それはエミだけでなくフードの人物も同じことを考えていた。が、言葉を交わすことはせず、フードの人物は沖の方へと飛んでいってしまう。

「えっちゃんどうしたです……?」

 明らかに様子がおかしいエミを見て怪訝そうにシアンが顔を覗き込む。フードの人物と目があったのはエミだけらしく、シアンは気にも留めていなかった。

「いや……なんでも、ないよ」

 長い袖で口元を隠すと、エミは黙ったまま沖の様子を見つめる。男二人が忽然と姿を消し、トロピウスの少女も消えた。犯人たちを逃したのはあの少女で間違いない。

 胸に浮かび上がった不安を、奥へとしまい込み、エミは戻ってくるであろうヒロたちを待つことにした。

 

 

 

 

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