新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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寝物語

 

 

 レストランはいわゆるバイキング形式で豊富な料理が食べ放題となっている。ポケモン用ももちろんあり、イヴを筆頭に手持ちがあれがほしいこれがほしいとめちゃくちゃせがんでくる。順番に取るから落ち着いてくれみんな。

「えーっと、イブとドーラがサラダでグーがきのみのグリルでレンがハンバーグでチルが唐揚げ――」

 順番にみんながほしがるものを確認し渡していくところではっとする。

 チル、お前それ鶏肉……。

 ここ深く考えると泥沼化しそうだからやめておこう。

「ヒロ兄の手持ち、すっごい仲がよくてこっちまで嬉しくなるな! やっぱりトレーナーと手持ちは仲良しが一番よ」

 ナギサがホテルの人が泣きそうなくらいの量を持ってテーブルへとやってくる。ちなみにシアンとエミのせいで多分ホテルの人は卒倒しかけてる。二人の量を見て俺とイオトもちょっとドン引きした。

「あいつら、野宿の時あんな食ってたっけ……」

「そういえば道場出た後の食事は割と普通の量だったよな……」

 一応自重していたということなんだろうか。ていうか太らねぇのかよこいつら。

「まだまだいけるですよ」

「ここのご飯美味しいじゃん」

「ふふ、料理長さんもきっと喜ぶよ。私がお礼しにいくといつも泣いて喜んでくれるから!」

 それ多分別の意味で泣いてるんだと思うよ。

「改めて、せっかくきてくれたのに町のトラブルに巻き込んじゃってごめんね。とっても感謝してる」

 胸の前で手を組んで満足そうに微笑むナギサは年相応の少女らしさとしっかり者の顔を見せており、ジムリーダーとして真摯に対応しているのがわかった。

「宿泊施設も軒並み復旧に時間がかかるし、恩人に野宿させるわけにもいかないから滞在する間はここに泊まっていいからね。そういえば何か目的はあるの? 観光?」

「あ、一応ジム戦……かな」

 しようとは思ったけどその前にジムリーダーに出会ってしまったのでなんとも複雑な気分だ。ジムで初対面が普通のはずだと思っていたのにケイも含めてジム戦前に接点ができてしまっている。

 ジム戦と聞いたナギサの顔がきょとんとしたものから楽しそうにくすくすと笑いだして首を傾げていると、ナギサは年齢不相応な勝ち気な目でこちらを見つめてくる。

「へぇ、じゃあ待ってるね、挑戦者(チャレンジャー)さん?」

 彼女も間違いなくジムリーダーなんだろう。この一瞬で風格が違うと肌で伝わってきた。

「にしても君、レグルス団のやつに負けてたんでしょ? よかったねヒロ。余裕じゃん」

 失礼極まりないことをエミがもぐもぐとハンバーグを食べながら言い、こいつ黙ってくれねぇかなぁと口にする前にナギサが恥ずかしそうに言った。

「うん……私はジムリーダーの中では未熟だから……」

 少しだけ寂しそうに窓の外の海を見つめるナギサは年頃の少女という感じがとても伝わってくる。ジムリーダーといっても、あくまで少し普通のトレーナーより強いだけの少女。

「強くなることも当然だけど、町を盛り上げたりとか、みんなの生活を豊かにするとか、そういうことを私はがんばりたいなって思うの。本当はほかのジムリーダーさんみたいに強くなりたいんだけど……」

「いやあれと同レベルになろうとしなくていいですよ」

 ちゃんと咀嚼してから口に何も入れてない状態でシアンは言う。

「ナギサちゃんは十分頑張ってるですよ。見るですよ。あのケイの馬鹿を。道場でゴロゴロゴロンダしてたまーに町のことを手伝うくらいのめんどくさがり。あとはあいつも――」

 いいかけて「いや、あいつのは話はやめとくですよ」と口ごもり、なぜか自信満々にナギサに向かって親指を立てて励ました。

「無理してほかと並ぶ必要なんてねぇですよ! ナギサちゃんは独自路線で全然オッケーなんです!」

「そ、そうかな……?」

 照れくさそうに頬を掻いたナギサを横目に「まあ本人がいいならいんじゃないのー」とエミが茶々を入れ、おかわりとを取りに離席する。パチリスとコジョンドも同行し、また大量の食べ物を持って帰ってくるなと背筋が凍る。

「えっと、シアン、ちゃん? その、よければなんだけど、私とお友達にならない?」

「いいですよ! むしろこっちからお願いするですよ!」

 そういえば同い年なんだよなこの二人。16歳だっけ。

 俺らを放ってアドレス交換とかなんかやっている。イオトは飽きてきたのか自分の飯をマリルリさんに与えて暇をつぶしていた。マリルリさん、不満ながらもぱくぱく食べてるのがちょっとかわいい。

「そういえばさ、あのエンペルト、結局なんだったの?」

 思い出したようにイオトが言うとナギサは少し悲しい目で語る。

 あのエンペルトは元々トレーナーがいたけど海難事故で亡くなってしまい、二度とそんな不幸が起こらないようにとこの海のヌシとして港を守っているのだとか。

 先代ジムリーダーがいたころからずっといるらしいので正確にどれだけ居着いているかは不明だがあまり人と関わりたがらないため町でも実際に目撃したことある住人はそんなに多くないとのことだ。

「私は何度か会ったことあるんだけど……誰のポケモンにもなるつもりがないみたいで、先代ジムリーダーも捕獲できずじまいだったって聞いたかな」

「一時的とはいえよくボールに入ってくれたなあいつ……」

 マリルリさんがなぜかドヤ顔しながらジュースをごくごくと飲んでいる。そういえばマリルリさんなんかエンペルトと口論してたよな。それが原因だろうか。

「……本当は、エンペルトのためにも過去に縛られないで欲しいんだけどね……」

 ナギサとしても難しいところなんだろう。前の主人のこともあるから新しいトレーナーに捕まるというのも複雑だし、今回の一件は間違いなくエンペルトのせいで町に被害が出た。エンペルトが悪いわけではないがこの海にいる限り、再び何かあるかもしれない。

「さて! 私はそろそろ今日のことの報告したりするから帰るね! あ、ジム戦来るの楽しみにしてるけど観光とかもしていってね! じゃーねー!」

 嵐のように自分の分の食器を片付けて去っていくナギサを見送る。エミとシアンがまだ食べているのを生暖かい目で見守りつつ、明日以降のことについて考える。

「明日ジム戦行こうかね……」

「別に急がなくてもいいんじゃないか?」

 イオトはいつの間にかデザートを食べており、マリルリさんも器用に細長く巻かれたソフトクリームをちみちみ舐めながら楽しんでいる。すげぇ、あのソフトクリームマリルリさんの耳より長い。

「イオトはこの町でなにかしたいことあるか?」

「いやー、特に? エミとシアンは?」

「僕もなし~。まあてきとーに観光しようかね」

「ボクは市場とか見てみてぇですよ!」

 じゃあ、明日はその辺見て回るか。ジム戦は明日以降。ここにはどうせ3、4日くらいは滞在するつもりだったし。

 ふと、マリルリさんが何か窓の外を見てイオトに何も言わずにテラスへと出ようとする。

「マリルリさんどこ行くの」

「まりまり」

「わっかんねぇ! でもあんまりフラフラしてないで早めに戻ってきてね」

 やっぱりイオトとマリルリさんは仲良しだと思う。悪そうに見えるけどさ。

 マリルリさんはテラスから海の方へとぽてぽて歩いて行く。多分そのうち戻るだろうがどうしたんだろうか。

「ちなみに二人はまだ食べるのか?」

「今日はこの辺にしておくですよ」

「明日の朝楽しみだなー」

 厨房の人が怯えてるからやめてやれ。

 

 

 

――――――――

 

 

 夜も更け、マリルリさんもだらだらと雑誌かなにかを読みながらイオトのベッドを占領している。

 エミも風呂から上がってぐだっとベッドにうつ伏せになっており、俺ももう寝る準備をしているところだった。

 こんこんと控えめなノック。何かと思って見てみると寝間着のシアンが入り口に来ていた。

「シアン、どうした?」

「寝れねぇので遊びに来たです」

「帰って」

 一応ここ男3人いる部屋なんだけどやめようぜそういうの。

 しかしエミもイオトも気にしないのか入ればーと呑気に言うせいで当然のようにシアンがマリルリさんが占領しているイオトのベッドへとダイブした。イオトはソファから占領されたベッドを見て悲しそうに「あー……」と呟いている。

「なんか面白い話するですよ!」

「無茶振りが過ぎねぇか」

 抽象的すぎてぱっと浮かばない。というかイヴが眠そうに欠伸してるし静かにやってくれ。ちなみにレンは寝ている。

「ボク的には恋バナとかが嬉しいですよ!」

 難易度たけぇよ馬鹿。

「恋バナかぁ……」

「恋バナねぇ……」

 イオトとエミの表情は暗い。特にエミの顔は今までに見たことない陰鬱としたものだった。

「シアンこそどうなんだよ」

 人に求めるなら自分も何か言えと話をそらしてみるがシアンは真顔かつ早口で答える。

「ボクの初恋はカイリキーですよ。以上」

 だめだこいつの恋バナ5秒で終わる。

「イオくんとえっちゃんがだめならヒロくんですよ! なんかねぇですか!」

「え~……俺は……うーん」

 強いて言うならあの夢で見る少女が恐らく初恋なんだが、記憶曖昧だし、そもそもリジアを連想させてしまいそうで口にするのは憚られた。

「子供の頃近所にいた女の子が初恋だけどもう忘れちゃったよ」

 嘘は言ってない。できるだけ平静を装った声で言ったがシアンは疑わしいものを見るような目で見てくる。

「本当ですかぁ? 男の子なんだからもっとこう、面白い話の一つや二つねぇですか」

「そうそうないだろ」

 ていうか野郎3人に恋バナを求めるなよ。

「うー! イオくん何か!」

「……俺の恋愛の話すると後悔するかもしれないけど聞く?」

 やけに声が低い。ガチの雰囲気だこれ。

「ちょ、ちょっぴりだけ……」

 気圧されてかシアンの要求も控えめになっている。ここでチキンになるとかお前。

「いやまあ、俺の初恋は前々から言ってる弟子なんだけど」

「えっ! なんかめちゃくちゃロマンスの香りがするですよ!」

 ていうか例のマリルリさんの元トレーナーだっけ? 女だったことにも驚きだが更にそれが初恋ときた。シアンじゃないが意外な事実に俺もつい身を乗り出す。

「……いや……その……俺が悪いんだけどまあ、色々あってさ……」

 会いにいけないみたいなことを言っていた気がするが喧嘩でもしているんだろうか。マリルリさんもかわいそうに。

 ……ん? そういえば弟子ってことは歳下なんだろうか。あんまり歳上とか同い年に使うような関係ではないよな。こいつロリコンだしなぁ。

 ちなみにマリルリさんは終始微妙な表情で黙っている。マリルリさんが黙っているとなんか不安になってくるからいつもみたいに騒いでお願い。

「なんだ、うん……多分あいつに恨まれてるだろうし……あいつにいい相手ができてたらそれはそれでいいんだよ俺は」

 これ以上は口にするのは憚られるのか話題を打ち切ったイオトは「俺も言ったしエミも言うべきだろ」と話題をエミへと流すとシアンも「そーですよ!」と援護するとエミはすごく嫌そうな顔で枕を抱きしめた。

「僕の話なんて面白くないって」

「面白いかはボクが判断するですよ!」

「えぇ……」

 困惑したようなエミの横顔が一瞬だけすっと無表情になったような気がしたが、すぐにいつもの意地の悪い笑顔へと変わる。

「じゃあせっかくだし語ろうか。長くなるよ」

 そう言うとエミの声音がいつもより高くなり、まるで寝物語を聞かせるような穏やかな語りが部屋に染み込んでいく。

「昔々、とてもかわいい少年がいました」

 それ自分のことなのか。相変わらず自分でよくかわいいとか言えるな。

「悪い魔法使いが塔にお姫様を閉じ込めていると知った少年は塔に閉じ込められたお姫様のために毎日お姫様に会いに行きました。とても――とても美しく、賢くて、素敵なお姫様」

 愛おしむように、懐かしむように、穏やかだけどとても悲しい声。

「いつか二人で外に出ようと、約束します。けれど、悪い魔法使いは狡猾で、隙がありません。悪い魔法使いを欺くために少年は、お姫様だけを外へと逃し、自分は塔に残ります」

 シアンは話を黙って聞いている。イオトも、怪訝そうな顔で、語り続けるエミの顔を見ていた。

「悪い魔法使いは怒り狂って、少年は手足をもがれ、八つ裂きにされましたとさ。おしまい」

 ……少年になんの救いもない後味の悪い結末に、言葉が出てこない。

「……作り話、ですよね?」

 シアンが不安そうにエミのトレードマークであるだぼだぼの袖を見る。それに答えるようにエミは長い袖から腕を出してグーパーと動かし見せつけてくる。

「どこまで本当だろうね?」

 相変わらず本心を掴ませない言葉にイオトの表情は険しくなる。

「だとしても悪趣味すぎないか」

「またまたご冗談を」

 わざとらしく両腕を広げてエミはイオトに嫌な笑顔を向けた。

「哀れな少年は存在しない。いるのは僕だけ。それが答えだよ」

 微妙な空気になったところでシアンが眠くなってきたのか欠伸をしてイオトの使うはずのベッドでそのまま布団を被り始める。

「シアンー? 俺の寝るところだよそこはー」

「おやすみですよ」

「あっちょっ、せめて隣の部屋のルームキー! 待って寝る前にせめてそっち貸して!」

 イオトの訴え虚しくマリルリさんと一緒になってシアンは眠り、イオトの視線を無視して俺もエミも布団で眠りにつく。すっげぇふかふかのベッドだこれ。

「おやすみー」

「おやす」

「おいこら! 俺のベッド! なあおい!」

 マリルリさんにうるせぇとばかりにきのみを投げつけられたイオトは渋々ソファで眠り、慌ただしいハマビシティでの1日目は終了した。

 

 

 

――――――――

 

 静かなハマビシティの浜辺でエンペルトは佇んでいた。

 そして、何かを決意したように頷き、再び海へと戻っていく。

 彼が思い浮かべたのはマリルリと、一時とはいえトレーナーと手持ちになったヒロのことだった。

 

 

 

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