新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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レンガノシティ大炎上

 

 

 リジアは必死に逃げていた。警察やジムリーダーの追手ではない。

 得体の知れない何者かから逃げようと必死に走る。

 もはや町のはずれ、木々が生い茂るような道なき道を必死に進む。

「何が――!」

 想定外の追手にリジアは焦っていた。相手の目的がわからない以上、油断したら危険だと本能が告げている。振り切らねばジムリーダーよりも厄介なことになる。

 声はなく、気配だけがついてくる不気味な感覚に鼓動が早まり、木に寄りかかって呼吸を整える。

「なん――」

 振り返って確認しようとした瞬間、音もなく自分のすぐ近くに現れた顔の見えない人影が手を伸ばしてくる。咄嗟にゲッコウガに身を守らせて再び逃げるがまた音もなく迫ってくるのがわかる。

 そして、人ではなくポケモンが駆けてくる音。目の前に立ったそれは低く唸りながらこちらを睨む。

「あ……あ……」

 口から漏れ出す炎。ゲッコウガに指示を出そうにも震えた体は言うことを聞かず、そのポケモンはトレーナーを狙ってくる。ゲッコウガが庇って事なきを得るが危機的状況だというのに震える子供のように動きやしない。

 目の前にいるのはヘルガーだった。

 ただその一匹で恐怖が蘇り、指示を待つゲッコウガすら舌打ちしかねないほどもたついていた。

「コウガ――!」

 指示を出そうと震える声を絞り出したその時、ヘルガーに飛びかかったポケモンがいた。

 それは見覚えのあるグラエナで、ヘルガーはさすがに不意打ちを食らって飛び退く。

 そして、見覚えのあるグラエナの主人ではない、人物が駆けてくるのがわかる。

 

 

「みつけたー!」

 

 

 なぜだろうか。疎ましい、あの男の声に、どこか安心してしまうなんて。

 

 

――――――――

 

 

 

 リコリスさんたちが見つける前にリジアを見つけようと宛もなく町を走り回る。町は悪夢事件のせいもあるかしっちゃかめっちゃかで他人を気にする余裕がある人間はいない。

 後ろからシアンが「待つですー!」と追いかけてくるが引き止められるのがわかっていて待つはずがない。

「ううううがああああ! 聞けって言ってるだろですー!」

 シアンの絶叫とともに何かが飛んでくる音がして振り返るとボールが飛んできて額にクリーンヒットし、中からカモネギが飛び出して着地に失敗して俺とぶつかりお互い崩れ落ちてしまう。

 シアンのカモネギ、前から思ってたけどちょっとどんくさいところがあるな。

「ほんっとヒロ君といいイオ君といいえっちゃんといい……いい加減ボクを放置して勝手に動き回るなですよ! 蚊帳の外にしやがって! ボクら仲間じゃないですか!」

 シアンの怒りももっともで、少し先走ってしまった自分を恥じる。確かに、リジアのことに関してシアンを無視しすぎた。

「別に……ボクが弱くて頼れないのは百も承知ですよ……。でも、やっぱり何にも言ってくれないのは寂しいですよ」

「悪かった。気をつけるからとりあえず怒らないでくれ」

 あとカモネギはマジでごめん。俺にぶつかって目を回しているカモネギを抱きかかえてシアンは言う。

「急ぎならそれでもいいですけど、何をしたいのかだけ教えてですよ。そしたら、ボクも協力できることが――」

 唐突に、風が吹き荒れ、思わず目をつぶる。次の瞬間、見覚えのある姿が目の前に現れた。

 一人は森で出会った幹部の男。もう一人は下っ端のキッドと呼ばれる男。

「キッド、お前ならグラエナで追えるな?」

「任せてほしいッスよ! グラエナ!」

 グラエナがキッドのボールから出現し、地面に鼻を当て匂いを探っている。すぐさま走り出したグラエナを追おうとするキッドだったがその前にシアンが立ちはだかった。

「あぁん? どけよピンク頭」

「笑止! ボクらを素通りしようなんてそうは問屋が卸さねぇです!」

 構えたシアンをキッドが鬱陶しそうに睨むと幹部の男――テオがため息をついた。

「まさかそんな小娘に手こずるなんて言わないだろうな」

「当たり前ッス!」

 手は貸さないと、テオは遠回しに言っているのだろう。

 この隙にグラエナを追ってリジアを探すというのも考えたがさすがにこの状況でシアンを置いてはいけない。そして、俺を見てテオは舌打ちをする。

「――ああ、だが念には念を入れなければな」

 ワルビアルを繰り出したテオに対してイヴを出そうと構えるが次の瞬間、タネばくだんが降り注ぎ、テオを妨害する。

「あらあらぁ! まさか、まさかまさか、ネズミ一匹のために仲間を引き連れて戻ってくるとはねぇ!」

 怒り心頭のリコリスさんが激情を露わにし、俺を庇うように立つ。リコリスさんのパンプジンも好戦的にテオを睨み、戦闘態勢に入る。

「行きなさい」

 小さく、急かすように俺を見ないで呟かれ「ありがとうございます」と返してグラエナを追った。リコリスさんがいるならシアンも大丈夫だろう。

 グラエナの足跡がかろうじて残っていてなんとか追いかけることはできる。暗くて見失ってしまいそうながらも、微かに聞こえる鳴き声を頼りに進むとようやく、見つけた。

 

「みつけたー!」

 

 俺の声に振り返ったリジアは今にも泣きそうで、俺を見て逃げる様子はない。

 というのも、キッドのグラエナがいるのもそうだがもう一匹俺の味方でもリジアの味方でもないポケモンがいたからだ。

「何――」

 ヘルガーは獰猛な唸り声を出して俺たちを威嚇する。エンペルトを出して警戒するもヘルガーは一歩も引く気配がない。

 一瞬、ジムトレーナーの手持ちかとも思ったがタイプ的にも違うだろうし警察だとしたらトレーナーの姿がないのも不自然だ。

「リジア、こいつは?」

「……わかりません。ただ、私を狙ってきているのは確かです」

 明確に狙いを定めてかつ、トレーナーが出てこない。野生だとしたら余計に謎が増える。

 すると、突然ヘルガーが遠吠えをしたかと思うと光り輝き、ヘルガーを包む。

 それは見覚えのある光景だった。ああ、何度も前世の対戦で目にしたことがある。

「メガシンカ!?」

 メガヘルガーとなり、かみなりのキバがゲッコウガを襲う。ついで炎が放たれ一瞬で燃え広がり、俺たちを囲む。

 れんごくの炎は燃え移ってしまいそうな勢いで広がっていく。エンペルトに消火してもらおうにも間に合わない速度だ。リジアのゲッコウガも火を消そうと水を放っているがキリがない。

 炎のせいか、震えが止まらないリジアの腕を掴んで半ば無理やり抱き寄せて、チルを出す。この炎ではチルもやけどを負うのはわかっていたがこの状況で悩んでいる暇はない。

「チル! 辛いだろうけど少しだけ我慢してくれ!」

 エンペルトを一旦ボールに戻し、リジアとゲッコウガ、グラエナも無理やり引き上げてチルに飛び上がってもらい、一旦抜け出すことに成功したがこのままでは町まで燃えてしまう。

 火の手から離れたところでチルを戻して再びエンペルトを出してできるだけ火の手を食い止めようと試みるが一部分だけでどうにもならない。なみのりも試すが焼け石に水とはまさにこのことと言わんばかりに火は止まらない。

「リジア、ゲッコウガを――」

 援助を頼もうとリジアを見る。しかし、リジアは青ざめながら俺にしがみついて震えているばかりでゲッコウガに指示を飛ばすどころか逃げる気配すらない。

「リジア……?」

 その怯え方はコマリの森のときにも見た記憶があった。あの時もほのおのうずに怯えていたが、今回はその比じゃない。

「いや、熱いの……もう許して……」

 縋るような声に、何があったのかは推し量れないが、それでも余計に守りきらなければと決意が強くなる。

「エンペルト! あまごい!」

 消火をしていたエンペルトに指示し、一旦水を放つのをやめて雨雲を呼んだエンペルトのおかげで範囲こそ狭いものの雨が降り、ほんの少しだが勢いを留められた気がした。

「ゲッコウガ、お前も――」

 リジアのゲッコウガに協力を仰ごうと振り返る。そしてその時ようやく気づいた。

 グラエナがいない。主人を呼びにいったか、どこか別の下っ端を呼んだか。どちらにせよこの場に留まっていればリジアを奪われる。

「ああっ! もうヘルガーの主人絶対許さねぇ!」

 余計な火事のせいでやることが増えて早く誰か来てくれと思わずにはいられない。

 

「へぇ、随分と盛り上がってますね」

 

 できれば聞きたくなかった声。振り返るとさっきのグラエナを連れたメガネ――下っ端のサイクが現れる。確かに誰か来てくれと思ったが敵を増やせとは思ってない。

「リジアちゃん」

 こちらにこいと穏やかな声をリジアに向けるがリジアは動かない。震えこそしていないものの、俺から離れる気配がない。

「リジアちゃん……?」

「先輩……火を、消すの、手伝ってもらえませんか」

「え? 何を言って……」

 この混乱に乗じて逃げるのが悪党としては正しい。俺だってそうするとばかり思っていた。

「先輩の手持ちならできるでしょう……!」

 リジアの声は必死すぎて痛々しいレベルでサイクに投げかけられる。その気迫に、サイクもよくはわからないが仕方ないと言わんばかりにボールからドククラゲとオクタンを繰り出した。

「ハイドロポンプ!」

 2匹とも水を放ち、ゲッコウガも消火活動に加わってエンペルトを含めた4匹の力で火はかなり抑えられ、あまごいの雨もあってか見える範囲の火は消火することができた。

「さて――」

 サイクがドククラゲをちらりと一瞥し、触手を伸ばしてくる。読めていた動きはエンペルトにも伝わったのだろう。庇うように触手をはね退ける。

「うちの後輩を返してもらえないかな」

「断る」

「……君が決めることじゃないだろう、そもそも」

 呆れたように肩をすくめるサイク。リジアの様子を見ると、無表情で俺にしがみついていた腕は力なくおろされる。

「私は……レグルス団のリジア……」

 リジアに突き飛ばされ、俺から離れていこうとするのを引き止めるために腕をつかむ。リジアは先程の弱った様子がまるで嘘のように睨んでくる。

「放しなさい! 先程の件については感謝しますがそれとこれとは別問題です! だいたい、お前に関係ないでしょうが!」

「違う! そもそもリジア、お前は――」

 本当の名前を口にしようとした刹那、強い風が吹き荒れて俺は吹き飛ばされた。

 

 

 

――――――――

 

 

 リコリスは意外にも苦戦していた。

「ふざけた真似をしてくれるわねぇ!」

「ふんっ。ジムリーダーが聞いて呆れる」

 テオが従えるポケモンに問題があった。

 この悪夢事件の元凶にして、リコリスの手持ちがことごとく眠らされる羽目になった相手――ダークライである。

「どんな汚い手を使ってそれを従えたのかしらぁ? さすがは悪党の幹部は小狡いことをするわぁ」

「お褒めに預かり光栄な事だ。礼の代わりに仕留めてやりたいが――俺たちの目的はそれではないのでな」

 突如として炎上したのを確認したテオは不愉快そうに目を細める。

「やはり出たか。忌々しい……!」

 

 

 

――――――――

 

 

 シアンはキッドと戦っていた。そう、ポケモンバトルでなく、トレーナー同士でだ。

「はっ!」

 しっかりと武を修めた動きにキッドは困惑しながらまともに喰らわないよう後退し、冷や汗をかく。手持ちたちも戦っているためこちらにきてシアンに攻撃しろと指示を出せない上にすぐ近くではテオとジムリーダーが戦っている。キッドにとっては想定外すぎて余裕がない。

「どうしたですか! 威勢がいいのは口だけみてぇですね! チンピラ風情がボクと素手でやり合おうとするのが間違いですよ!」

「このご時世にトレーナー本人が強いとか聞いてねーよ!」

 せめて隙を作れればと、キッドは舌打ちする。

 するとその瞬間、グラエナが向かった先が燃え上がり、あっという間に燃え広がっていくのが見えた。

「ヒロ君!?」

 シアンがぎょっとしたようにそちらを振り向き、その隙にキッドは飛び退いてワルビアルを繰り出した。

「ワルビアル! かみくだく!」

 シアンは反応が遅れ、ワルビアルと距離を取ることに失敗する。

「あ――」

 血の気が引いたシアンは、避けられぬ痛みに備えるようにきつく目をつぶる。

 しかし、いつまで経っても痛みは来ない。恐る恐る目を開けてみると、ワルビアルの動きを止めるように蔓が巻きついており、聞き慣れた声も聞こえてきた。

「コジョンド! とびひざげり!」

 フシギバナとコジョンド。そのトレーナーを、シアンはよく知っていた。

「イオ君! えっちゃん!」

 一撃で倒れたワルビアルに、キッドは怯みながら二人を見た。

 イオトは不機嫌そうに、エミは面倒そうにキッドを睨む。

「で、どういう状況だこれ」

 イオトが誰へともなく呟き、エミも答えになっていないような言葉を返す。

「急に火事とかびっくりなんだけど」

「ふ、二人ともどこいってたですか!」

 助けてくれた感謝と、この非常事態に不在だったことがせめぎあい、シアンは思わず怒るようなことをくちにしてしまう。

 視界に映る火事は徐々に弱まっているのが確認できる。あまごいで雨を降らせたのはヒロだろうかとシアンは考えたがエンペルト一匹であの規模の火を抑えられるのだろうか。

 そうしていると、テオがネンドールとダークライを連れてキッドを呼んだ。

「キッド! 引くぞ。サイクと合流して撤退だ」

「ラジャーッス!」

 ネンドールのテレポートでその場から姿を消した二人を追うため、リコリスが服の裾を持ち上げて怒り狂った声をあげた。

「絶対に許さないわぁ! だいたいダークライとか私にメタすぎるのよ!」

 まあ、相性は最悪だろうな、とイオトとエミは心の中で呟く。おまけに幻のポケモンだけあってそもそも強い能力を有しているのでリコリスに落ち度があるとすればダークライを手持ちにしていることを想定していなかった点だろう。

「ぼけっとしてる場合じゃなかったですよ! ヒロ君の援護に行かねぇとです!」

 

 

 

 

 




チルはボールに戻した時点でしぜんかいふくでやけどが治ってます。
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