新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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VSジムリーダー・リコリス

 

 一匹目。先手で繰り出してきたフワライドにこちらはレンを繰り出す。事件のときに見かけなかったポケモンなので少々意外だが驚くようなことでもない。

 相手の手持ちは2匹。ケイですら3匹だったのになぜそんな少ない手持ちで、と考えているとリコリスさんは妖艶な笑みを浮かべた。

「手を抜いているわけではないわぁ。君は2匹でちょうどよく相手できるって判断しただけよぉ。むしろ――数でやれば勝てるなんて愚の骨頂だわぁ」

それ、博物館で物量攻撃してたリコリスさんが言っちゃうのか。

 レンなら相性がいいし慎重にやれば余裕だろうが、フワライドはやけに隙だらけで、ふわふわ浮いているだけで何も仕掛けてこない。レンは唸っていかくするがどこ吹く風。

「レン! エレキフィールド!」

 先手必勝、かもしれないが突っ込んで返り討ちにされるのも怖いので場を作ることを選択する。不意のさいみんじゅつ対策でもあるがエレキフィールドの効果があれば電気技を当てれば倒すことは容易だろう。

「あらぁ、撃ってこないのねぇ。じゃあこっちが動きましょうか~。フワライド、からみつくぅ」

 フワライドの腕……腕というかひらひらした部位がレンに伸びてくる。しかしレンはそれを軽々回避し、後退する。

「レン! かみなりのきば!」

 フワライドのゆうばくが怖いが直接攻撃しかまだ覚えていないレンはこうするしかない。威力が増しているこの一撃を耐えられるか。

 

「ま、どのみちずっと私のターンってやつよぉ」

 

 レンの攻撃は外れ、フワライドの姿が見えなくなる。

 ――否、そこに確かにいる。しかし小さくなって捉えるのが難しいだけだ。

「確かに当てれば痛いでしょうけど――当たるかしらぁ?」

 小さくなったフワライドはおいかぜによる気流操作でフィールドのいたるところに風を発生させる。それに乗るようにフワライドが移動するものだから攻撃を当てようにも全て外してしまう。

「相手の出方を伺うとかぁ……先手を取るとかぁ、そういうのじゃないのよぉ」

 ねっとりと、声が甘く絡みついてくる。

「出したらどうやっても勝てるようにすればいいだけのこと。先手後手、私には関係ない。だって何しようとも流れを決めるのは私だもの。ねえ――フワライド」

 姿を見失ったフワライドへリコリスさんは呼びかける。

 困惑するレンはバチバチと電気を纏うもののフワライドは攻撃してこない。どこから攻撃してくるかもわからない緊張感にレンを一度戻すべきかと考えるが一歩遅い。

「シャドーボール」

 ほんの一瞬だった。風に流れ、通りすがるような一瞬でシャドーボールを放ったフワライドはレンのきゅうしょを的確に狙い、一撃で戦闘不能にした。

 威力が高すぎる。ジムリーダーが育てたということを差し引いてもレベルは同じ程度まで下がっているはずだから能力変化で特攻をあげたと見るべきか。急所に当てたのはきあいだめ。威力が上がっているのはめいそうか。

「だから言ったでしょう。先手だろうと後手だろうと私には関係ない」

 三日月状に釣り上げた唇がにやりとこちらを向く。

 

「闇に潜むは(かす)かな御霊(みたま)。あなたに捉えられるかしらぁ」

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その頃、ポケモンセンターにて3人は息を潜めて悩んでいた。

 見張りのつもりかポケモンセンター前に陣取っているピカチュウは出入りするトレーナーにお菓子をもらったり撫でられているのが見えるが、それは恐らく顔を知らない相手だからこそ。シアンが出たら間違いなく妨害されるかユーリに知らせるかのどちらかである。

「いっそ倒す?」

 エミが面倒になったのか物騒発言を呟くとイオトが青ざめた顔で言った。

「いやあれは不意打ちや一撃でどうにかなるようなやつじゃない。一度やりあったら音でバレるから相手にするのはナシだ」

「例えるならイオ君のマリルリさんみてぇなやつですからねぇ……あのピカ公……」

 ボールの中からマリルリさんが「一緒にすんな」と訴えかけているような気がしたがイオトは無視して四つん這いで物陰から物陰へと移動する。

「とりあえずユーリの野郎がどうするつもりかわかんねぇですと……」

 シアンも這いずって移動すると動くなとエミがジェスチャーで告げる。幸い、全員物陰にいたからいいがあと一歩で見られていたかもしれない。

「いない、か……。いるような気がしたんだが……」

 独り言のようにぼやいてユーリはピカチュウの元へと向かう。

「まあいい。リコリスのところ行くぞ」

「ぴかぁ~」

 大きく伸びをしたピカチュウがユーリの後ろについてポケモンセンターから出ようとする。安堵したようにシアンが息を吐き、イオトとエミもほっとするがユーリは扉の前でぴたりと動きを止めた。

 

()()()()()、か?」

 

 その言葉はやけにセンター内に響いた。当然、3人にも聞こえておりさーっと血の気が引く。今の一瞬で何に気づいたというのか。

「ピケ。そこで待ってろ」

「ぴか!」

 かつかつと靴音が3人に近づいてくるのがわかる。

(な、なんでこっち来るですか!?)

(うっそだろ)

(やばいやばいやばい)

 シアンは叫びたい衝動をぐっとこらえ、イオトは顔を覆い、エミは冷や汗が止まらない。

 こつ……と靴音が止まると同時に何かを取り出すような物音。それを見てジョーイさんが困ったように駆け寄る。

「お客様、室内でこのようなものは――」

「ああ、すまない。だが――こそこそ隠れているものをあぶり出すにはこれくらいしないといけなくてな」

 イオトとエミは(何持ってやがるんだこいつ!?)と心の中で同じことを考える。シアンはその正体に気づいて、音を立てずにボールからポケモンを出現させる。それと見て、エミも真似するようにパチリスを繰り出した。

「そら、出てこい。出てこないなら――」

 物陰からクルマユ、パチリス、そしてムウマが出てくるのを見てユーリは肩の力が抜けたようにはあ、とため息をついた。

「シアンの手持ち、ではないな。あいつの趣味じゃないし。あいつがゴーストタイプを捕まえるはずもないか……」

 シアンは自分のことを把握されていることへの憤りと、ムウなを捕まえておいてよかったと過去の自分とムウなへの感謝が溢れ出す。

 エミのパチリスの存在もあってか、シアンとは無関係だと思ったユーリはそのままピカチュウと一緒にポケモンセンターを出ていく。

 しばらくして、物陰から幽鬼のように這い出てきた3人はセンターにいるトレーナーから不審な目で見られてたが当人たちはそれどころではなかった。

「よ、よがっだー! あいつ、一度決め込むと割りと思い込むですから……」

 シアンがどっと汗を吹き出しながらムウなを摩擦熱が起きそうな勢いで撫でまわす。ムウなは嬉しそうにふわふわ浮いており、よくわからないが褒められていると思っているようだ。

「まるで、子供の頃食べてたお菓子を今でも好きだと思ってるばーちゃんみてーなやつですよ」

「その例えはどうなんだ」

 顔色が悪いイオトも汗を拭いながらマリルリさんを出すと、マリルリさんはどこか複雑そうな表情でイオトを見上げた。

「何? 比べられたのが不満?」

「まり……」

「えー、マリルリさんが何言ってるかわかんねー」

 はは、と笑うイオトに珍しくマリルリさんは蹴ったり殴ったりせずじっと睨んでいるだけだ。

 一方、肩にパチリスを乗せたエミは口元を袖で隠しながら呟いた。

 

「ジムリーダーのところ行くって言ってたからヒロと鉢合うんじゃ……」

 

 その発言に、シアンもイオトもすっと真顔になって宿泊エリアへと駆け足で向かう。

「戻ってきたら即出発できるようにするですよ」

「急ぎで買い足すものあるか?」

「まとめてくれたら僕が全部代理で買ってくるから」

 3人は妙に息の合った様子でヒロ不在のまま荷物をまとめ始め、勝手にヒロの荷物もまとめだしてしまい、いつの間にか逃亡計画が着々と進んでいた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 相変わらずフワライドには苦戦を強いられていた。

「ミック! だましうち!」

「フワライド! のみこむ!」

 だましうちで攻撃を当ててもたくわえる、のみこむで回復されてしまう。たくわえるのせいで防御があがっているのが厄介だ。

「飽きてきちゃったわぁ」

 何に、と思ったのも束の間。フワライドの気配が完全に消え、背後から忍び寄るようにミックを狙う。ばけのかわで文字通り首の皮一枚繋がったものの危うくやられるところだった。

「ごめんなさいねぇ。私、手を抜くの苦手なの」

 くすくすと笑いながら指先でフワライドに何か指示し、ミックを落とそうとしてくる。

 ここにきてはっきりとスタンスの差を理解できた。ケイやナギサは確かに難しい問題を出す教師だが答えを出せるように誘導したり、あくまで答えそのものはきちんと用意するようなタイプだ。

 だがリコリスさんはまず答えさせるつもりを感じられない。まあわかればいいんじゃないの、とでも言いたげに無理難題を好き勝手放り投げてくる。

 トレーナーによってはこんなの詰むに決まっている。

「はい、つーぎぃ」

 ゴーストダイブによりミックは一撃で倒されて本体が涙目になりながら瀕死となる。手を抜くのが下手っていうか容赦がなさすぎる。

「ドーラ! ハードローラー!」

 ドーラを繰り出してすぐさまハードローラーを指示する。ドーラと相性が悪い相手だが小さくなっているフワライドを確実に当てられるであろうこの一撃で流れを止めたい。

「あらあら、当たっても痛くも痒くも――あらぁ?」

 ハードローラーが当たって、実際ダメージが倍になっていても大した傷にはならない。が、小さくなっていたフワライドが元の大きさに戻って怪訝そうにリコリスさんが首を傾げた。

「あー、どくどく……」

 納得したように呟いてリコリスさんはフワライドを自分のところに戻そうと指示するがここで回復されたり交換されるのは厄介だ。

「今だドーラ!」

 意図を察してくれたドーラは体を丸めて凄まじい勢いでフワライドにぶつかる。まるくなるからのころがる。

 そして、まだわずかに体力が残っているであろうフワライドにトドメをさすべく、ドーラへと叫んだ。

「ベノムショック!」

 どくどくで猛毒状態、かつベノムショックで最後に削ればどれだけ硬かろうがあとは毒で潰れる。ころがるではゆうばくの恐れがあるので微妙な相性ではあるものの、現状における最適解だった。

 倒れたフワライドを見てリコリスさんは「あらあらまあまあ」と面白そうに声を上げる。

「残念。でもちゃんと育ってるようで何より。さて、ここからは本気で行きましょうか」

 嘘だろ今まで本気じゃなかったのかよ。

「さあ肩慣らしは済んだかしらぁ! 行きなさいジュペッタ!」

 ボールから繰り出されたもう一匹は先日イヴとも遊んでいたジュペッタだ。楽しげにぴょんぴょんと跳ねてこちらを見て余裕をアピールする。

 こちらの方が早く動ける、とドーラに指示を出そうと声を出す。

「ドーラ、ころが――」

「させないわぁ!」

 ジュペッタのふいうちによる先制攻撃。からの姿を消したジュペッタをきょろきょろと探すドーラ。ドーラを戻すべきかとも考えるがここで戻してもただ攻撃されるだけになる。まもるで様子をみよう。

「ドーラ、まもるだ!」

「そうすると思ったわぁ」

 影から姿を表したジュペッタのゴーストダイブによりまもるの効果はないものとなり、一発でノックアウトされたドーラに心の中で自分の判断ミスを詫びる。

 そりゃ冷静に考えればそれくらいしか選択肢ないよな。なのになんで悠長に守りに入ろうとした。ちいさくなるのせいで少し感覚が麻痺していたのかもしれない。

「イヴ!」

 イヴなら多少物理に強いので打開策こそないものの泥試合でも相手できるかもしれない。

 すると、リコリスさんはまるで悪役の魔女のごとし邪悪な笑い声をあげてヴェールのついた帽子を取った。その時の動きで前髪の間からちらりと瞳が見える。

「お遊びはここまで! 見せてあげるわ!」

 突き出した手にはいつの間にか指輪がはまっており、よくみると輝いている。その意味を理解した瞬間、血の気が引く。

「見せてやりなさい、ジュペッタ!」

 ジュペッタが光り輝くと同時に弾けるように姿が変わり、それは前世の記憶がなければ驚いていたであろうメガジュペッタ。一層邪悪さを増した笑みがこちらを見つめてくる。

「あら、驚かないのねぇ」

 メガシンカに対する認知度はどうなっているか知らないがそれよりもこちらにメガシンカする手段がない上、手持ちが半分になっている状況でどう倒すかを考えていて取り繕うことすら忘れる。

 あの攻撃力と特性は厄介すぎる。こちらで対応できるのは――

「悩んでいる暇なんてあるのかしらぁ!」

 メガジュペッタが襲い掛かってくる。イヴにすなかけを指示して少しでも被弾する可能性を下げ、はっぱカッターで迎え撃つも全てかわされてしまう。

 メガシンカで単純に能力が上がっただけではない。このジュペッタ、相当に訓練されている。

「イヴ、もう一度――」

「だめよぉ」

 メガジュペッタは完全に間合いに入りシャドークローでイヴを完全に落としにくる。散り際、イヴのすなかけが至近距離にいたことからか当たって鬱陶しそうにメガジュペッタは顔をしかめる。

「ダメージを与えられないからこっちの命中率を下げに来ているのかしらぁ? それならこっちもみがわりよぉ!」

 イヴを戻して次に出すのはチル。ある程度方針は決まっていた。

「チル、すまない! ほろびのうた!」

 出てすぐ、ほろびのうたを発動する。みがわりを貫通するそれをジュペッタがきちんと受けたことを確認してチルにコットンガードを発動させた。

「なりふり構わなくなってきたじゃないのぉ! でもその程度、先に終わらせればいいだけの話よ!」

 

 

 

――――――――

 

 

 リコリスはほろびのうたで少々急くものの、ジュペッタの攻撃力を考えれば残り二匹はすぐに終わるだろうと考えていた。

「チル! しろいきり!」

 コットンガードで防御力をあげてしろいきり。飛び散る綿と霧の白さでヒロの姿が朧げだがこの状態で守りに入ったことから彼も焦っているのがリコリスにもわかった。

(さて、悪いけどさっさと終わらせましょうか)

 すなかけのせいで命中率が下がっているため、外した攻撃が綿を散らすばかり。だが、至近距離まで詰め寄れば当たらないものも当たるというものだった。

 防御があがっているとはいえ、メガシンカしたジュペッタの攻撃にそう何度も耐えられるはずもなく、チルタリスは倒れてしまう。

 あと一匹。残るポケモンはエンペルト。

「エンペルト! ねっとう!」

 ねっとうは躱せなかったジュペッタは不幸にもやけどを負ってしまい、ヒロが少しでも攻撃力をさげようとしていることを察して思わず可愛らしいわるあがきにクスクスと笑いが出てしまう。

 今のエンペルトのねっとうはそこそこダメージを食らったことからかなり優秀なポケモンであることもわかる。これはたしかに切り札だ、とリコリスは考える。

「でもね、一度で削りきれないのなら、もう終わりよ」

 ダメージを受けたことで後退したジュペッタに驚いた様子のヒロ。

 そして、リコリスは懐からそれを取り出した。

「トレーナーが道具を使うのは正式なルールだもの。仕方ないわねぇ」

 

 ()()()()()()()()

 

 体力と状態異常を一度に回復するそれを使った瞬間のヒロの顔を見てリコリスは笑いをこらえきれなかった。

「ごめんなさいねぇ! ジュペッタ! 終わらせなさいな!」

 エンペルトも攻撃してこようとするが無意味だ。速さの問題ではなく、ジュペッタの攻撃が当たればもうそれで終わり。

 シャドークローがエンペルトの急所に当たった瞬間、勝利を確信したリコリスはジムリーダーであるにも関わらず、ひどく意地の悪い笑顔を浮かべた。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 シャドークローが命中し、エンペルトが倒れた瞬間、リコリスさんが勝ちを確信したように笑う。

 本来ならこれは確かに俺の負けだ。

 が、これはジムリーダー戦。いわゆる前世での公式戦と微妙にルールが違う。そう、リコリスさんもさっきそうだったようにトレーナーが道具を使うことがルールで認められている。

()()()()()

 

 きょとんとしたジュペッタの前に、全回復したドーラを繰り出す。

 

 すると身を乗り出さんばかりに驚いたリコリスさんがモニターを見上げて焦りだし、ジュペッタに指示を出した。

「じゅ、ジュジュ! だましうち!」

 ニックネームなのか、焦っているのがよくわかるその指示出し。しかし、ドーラにさせる技はもうまもるで決まっていた。

 

 先程のめくらましもかねたしろいきりとコットンガードは、どうやらリコリスさんは気づいていなかったようで俺の手持ちが一匹復活していることに動揺を隠しきれていない。別に不正はしていないし正規のルールに則った手段だ。ただし、ちょっと気づかれないように意図的に隠したのは事実だけど。モニターにはきちんと状態が出ていたのでモニターを確認していればリコリスさんも気づいただろう、がほろびのうたという時間制限もあって確認する余裕はなかったらしい。

 

「あ――」

 しまった、とリコリスさんの素で漏れた声が聞こえてくる。

 二度のすなかけで命中率は下がり、能力変化はしろいきりで防がれる。攻撃をしてくることは読めていた。しかし、発動に時間のかかるゴーストダイブはこの時間のない状態で使うのは無謀。となれば必中技を使ってくるはず。となると一番、ここで復活させるべきだったのはドーラになる。

 守りきると同時に、ジュペッタがほろびのうたによってその場で倒れ、しん……と静まり返った空間で俺はリコリスさんを見た。

 

「一匹でも生き残っていれば勝ち、ですよね――!」

 

「はぁ……旅立ち一年生に負けるなんてねぇ……」

 残念そうにジュペッタをボールに戻したリコリスさんに反応するように、画面にWINの文字が浮かんで俺の勝利を告げる。

 ギリギリだった。

 

 モニターに勝利を告げる表示が流れ、ギリギリの戦いに勝ったことに安堵して肩の力が抜けて柵により掛かる。

「あっぶねぇ……」

 念のためにふっかつそうを使っておいて正解だった。誰に使うか悩んで結局まもるを使えるドーラにしたのだが咄嗟の判断だったので正直大丈夫か心配だった。ギフトさんのところで買ったふっかつそうは強力だがポケモンはあんまり好まないし数にも限りがある。なぜかドーラはあんまり嫌がっていないように見えるがそれは置いておこう。

「はぁ……恥ずかしいわぁ……油断しすぎねぇ……」

 一人悶々としているリコリスさんは倒れたジュペッタにげんきのかけらを放り投げて復活させる。もう元の姿に戻っているので落ち込むリコリスさんの頭を撫でるジュペッタは妙にすっきりした顔をしている。

「こんなだからレグルス団にも無様を晒すのよぉ……ふふ……ふふふ……」

「あ、あの……なんかすいません」

「あー気にしないでいいよ。あと数分もすれば戻るから」

 部屋に入ってきた第三者の声に振り返ると先ほど会ったばかりのオズが呑気にガラガラと手を振ってくる。

「ほーら、リコリス。さっさと立ち直れ。いい歳してうじうじすんな」

「黙らっしゃいオズ! 本当に吊るすわよ!」

「ほら、戻った」

 オズに怒鳴ったリコリスさんは改めて複雑そうな様子を見せたかと思うと「まあ、いいか」と呟いて俺にバッジを手渡してくれる。

「みっともないところ見せたけど……改めてレンガノシティジム突破おめでとう。その証のバッジと賞金――あと私の一押しわざマシンよぉ」

 ドクロのようなバッジと賞金のはいった封筒。金額はあとで確認するとしてわざマシンはなんとシャドーボール。てっきりシャドークローが好きなのかと思っていた。

「で、オズ。何の用かしらぁ。わざわざここに来るってことは何かあるんでしょう」

「ああ、来客ですよーって伝えに。どうせバトル中に連絡するのもどうかと思って俺が直接来た次第だよ」

「ああそう。相手は?」

「お前のご友人」

「……へえ、そう。意外ねぇ」

 オズとリコリスさんのやりとりを横で聞きながらリコリスさん、もしかして友達少ないんだろうかという疑念が湧いてくる。友人が来たと言われてすぐに浮かぶ相手が一人しかいないって……。

「ヒロ君。顔に出てるわよぉ。友達は確かに少ないけれどレディに失礼だと思いなさい」

「あっ、すいませ――」

「ところで、ヒロ君は今後どこへ向かう予定かしらぁ」

 突然の質問に首を傾げそうになるが特に予定が変わらなければグルマシティを目指すつもりだったので素直にそれを口にする。

「道中他の町に寄り道はする予定ですけど、次の目的地はグルマシティです」

「あらぁ、そう……。あそこも強い子だからがんばってねぇ」

 妙に含みのある言い方が気になったものの、リコリスさんは俺から視線をそらしてオズへと向き直る。

「オズ。悪いけど、ヒロ君を裏口から外まで案内してあげなさい。それくらいはできるわよねぇ」

「はいはい。んじゃ行くかー」

「えっ、あ、その、ありがとうございました!」

 表から帰れば早いのだがなぜ裏口なんだろうと疑問に思いつつ、友人が来るからだろうかとオズについていってそのまま、明らかに関係者が使うような通路を通ってジムの外に出た。

「んじゃな~」

 オズとガラガラに見送られ、ポケモンセンターへ向かう途中、ちょっとだけジムの方から嫌な気配がしたが気のせいだろう。

 

 

 

――――――――

 

 

 ポケモンセンターの宿泊している部屋に向かうとなぜか今すぐにでも旅立てる用意をしている3人になぜ、と顔をしかめてしまい、3人から襟首、両腕をそれぞれ掴まれてポケモンセンターから引きずるように連れ出された。部屋に向かう前に手持ちは回復させたし俺の荷物もエミが持っているが急なことに全然状況がわからない。

「何! お前ら何なの!?」

「いいから急ぐですよ! グルマシティに行くんなら次経由するのはどこですか!」

「海沿い方面のラヅタウン!」

「オッケー! ほら、ヒロ荷物持って!」

 エミに投げ渡された荷物を受け取って早足気味の3人についていくが本当に状況がわからない。

「だからお前ら何なの!?」

「あとでちゃんと説明するから早く町から出るぞ!」

 イオトが切羽詰まった様子で町の出口へと駆け出してシアンもそれに続く。エミも嫌そうな顔をしながらそれに続いて、全くわけのわからない俺はイヴとともに顔を見合わせながら3人を追いかけるのであった。

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

「あらぁ? どうしたのかしらぁ」

 突然の来客。そして友人とくればリコリスは一人しか浮かばない。

 

「ふん。親友が襲われたと聞いて見舞いもしない薄情者がいるか」

 

 不機嫌そうに腕を組んだままリコリスを睨んだユーリは眉根を寄せて言う。

「ギフトの容態は思ったより悪いそうだな」

「傷の具合もだけどぉ、ポケモンの呪いも受けたみたいでちょっと厄介なのよねぇ」

 昏睡状態から目覚める気配がなく、経過を見守るしかできない状態だ。

 タイミングからしてレグルス団の仕業だろうとリコリスは判断していた。状況的に、得をするのは彼らだけだ。

「呪いはお前の専門だろ。できないって言うのなら俺の知ってる病院に移すまでだが?」

「出来る限りやってみるわよぉ」

「ふん。ならいいんだぞ」

 苛立たしそうに、けれど少し安堵した様子を見せたユーリに、リコリスは一瞬だけ昔の面影を見る。

 すっかり変わってしまったものの、根は仲間思いの善人なのだ。

「で、一つ尋ねるが――」

 表情は再び厳しいものへと戻り、ユーリは睨むようにリコリスを見た。

「あらぁ? 他に何かあったかしら」

 本気で不思議がるリコリスにユーリは眉間の皺を深めて吐き捨てる。

「とぼけるな。お前、あの馬鹿娘を見ただろう? 脳内までピンク色の馬鹿シアンのことだ! なんで見たなら俺に伝えない? うちのジムトレが偶然この町で見かけたって報告してきたんだぞ!」

「えぇ~、私だって忙しかったしぃ~」

 口ではふざけつつ、リコリスも内心シアンの一件に関わるのは面倒だったことを伏せ、何より同行者の方に気が向いていて正直どうでも良かったなどと口にできないことを考える。

(正直あの馬鹿がなんで新人と一緒にいるのかと思ったけど……ユーリにそれが知られると大変なことになりそうだし)

 シアンよりもシアンの同行者に会わせたくないとリコリスは考えながら対ユーリ用の笑顔を作る。

「それでぇ?」

「あいつがどこへ行くかわかるか? 行き先とか聞いていないか」

「ああ、それならぁ、グルマシティの方に行くっていってたわねぇ」

 ヒロから聞いたことをわざとそのまま口にする。嘘ではなく、紛れもない真実だ。すると、ユーリは眉間の皺を深く刻んだままリコリスを睨む。

「お前の天邪鬼な嘘つきぶりにはもう何年も振り回されたからな。どうせそれも嘘だろう。反対、とすると……チッ……ヒナガリシティにくるならともかくハマビに向かわれたら面倒だな」

「ひどいわぁ。私、嘘なんて言ってないのにぃ」

 心底悲しげに言うリコリスに、ユーリは何言ってんだこいつと言いたげに目を細めた。

「お前、子供の頃俺に何度嘘をついた?」

「30回くらい?」

「108回だな。ミカルゲの亜種でもできてしまうんじゃないか」

 勝手に誤解してくれたユーリを面白そうに見ているリコリスは思わず笑ってしまわないかと口元を抑える。純粋なユーリをからかうのが楽しくてつい嘘を教えてしまったのだがここに来てオオカミ少年のように信じてもらえない。まあ、それをわかっていてリコリスはあえて言っているのだが。昔からある意味とても扱いやすい幼馴染は、野生児並の直感を持っているにも関わらず、肝心なところで嘘と真実を見破れない。

「まあいい。うちの町にくるならいくらでも捕まえる手立てはある。忙しいのにいつまでのあの馬鹿に構ってられん」

 勘違いしたまま去ろうとするユーリに「今度は会議で会いましょうね~」と声をかけ無視され、リコリスは全く気にした様子もなくにやにやとその後姿を見送った。

 

「は……別にユーリに恨みはないけど……シアンちゃんと会っちゃうと、あのクソ野郎と鉢合わせることになるからしょうがないのよ。ヒロ君にも悪いしねぇ」

 ヒロとシアンと一緒にいたあの男、とリコリスは吐き捨てる。

 断言できるほどに、あの男に会えばユーリは暴走するし、更に拗らせることが手に取るようにわかった。それに、このままリーグに戻らないでさっさと罷免されろという気持ちもわずかにある。

 

「だって私もあんなところでチャンピオン(あの馬鹿)が油売ってると思わなかったんだものぉ」

 

 リコリスの独り言にジュペッタは「じゅぺぇ?」と首を傾げ「なんでもないわぁ」とリコリスが呟くと、頷いて100%きのみジュースを飲み始めるのであった。

 

 

 




さっそくモブジムトレ案ありがとうございます。まだ募集は受付中ですが頂いた案は早速番外編や本編に使わせていただきます。今のところいただいた5人は全て採用です。活動報告にてまだ受付中ですのでよろしくおねがいします。
また、そろそろアンケの結果とそれを反映した番外編も書き始めるのでしばらく番外編が続く予定です。
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