新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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グルマジム戦開幕

 

 それからというものの、ケイの元で修行を続け、ケイの超人的能力を見せつけられると同時に、自分の体力の無さを思い知らされることとなったが、ケイ曰く「まあ最初よりはマシ」と一応及第点はもらえた。

「今後も無理のない範囲で体力つける運動を日課にしとけ。メンタルの方は難しいからできることを積み重ねていけ」

「あい……」

 明日にジム戦を控え、とりあえずさすがに今日は一旦グルマシティへ戻ろうと着替えに戻ろうと起き上がる。へとへとだが明日朝ギリギリになって戻るのもアレだし、名残惜しいが仕方ない。

「なんだったらうちのジムトレになるってのも一つの手だぞー」

 ケンガが呑気に勧誘してくるがそれの決定権はケイだと思うんだけどどうなんだろう。

「ジムトレになったら今より厳しいけどな」

「今、より……?」

 ここ連日のスパルタは手加減していたということなんだろうか。いったいどんな訓練してるんだよ普段。

「俺たちはここ数日楽な仕事多くてありがたかったけどなー」

「お前ら、こいつの修行の付き合いの間の戦績はちゃんと記録してあるから終わったらそれを元に特別修行メニュー組むぞ」

 ケイの何気ない一言で四人は「えっ」と振り向き固まる。四人のうち約一名だけ嬉しそうだけど俺は知らない。何も見えない。

「当たり前だろ。つーか二日目の四人抜きの時点で合格ラインはリョウジだけだ。一度戦った相手に舐めきった戦法かましたアオイとケンガは論外。ヤツデは一日目で戦わなかったがそれを差し引いても下手くそかよ。お前ら頭がラッキーセットじゃねぇんだから楽できると思ってんじゃねぇ。リョウジも合格ライン通ったからって気を抜くなよ。お前はその分特別コースだ」

 容赦ないケイの発言に四人ともうなだれ、俺のコハクへの挑戦が終わった後、彼らがどうなってしまうのかはわからないが、多分俺の修行よりきついのだけは察した。

 俺は多分、将来的にジムトレになるとしてもワコブジムはちょっと向いていない気がする。ケイ、厳しい上にストイックすぎる。今はまだお客様対応も少しあるだろうけど本格的に身内になったら一切容赦がなくなりそうだ。

「明日、一応俺も顔出すつもりだがジム戦中はもうお前一人でどうにかするしかない。俺の言ったこと全部忘れないようにして冷静にやれ」

「といってもほとんどファイトルールしかしてないからあんまり参考にならないんじゃ……」

 確かにケイとの修行で手持ちのレベルとかコンビネーションは上がったものの、主にファイトルールばかりしていたのでジム戦ではあんまり意味がない。ジム戦はオーソドックスなノーマルルールだし。

「お前、教えてもらっておいて文句つけるとはいい度胸だな」

「ずびばぜん……」

 頬をつねられるという子供じみた状況だがケイの力が半端ないせいでめっちゃ痛い。

 まあ、でも確かにイオトとかエミと比べるとためになることも多かったし結論から言えばよかったんだろう。コハク戦が終わった後でもリジアたちと対面したときに役立つだろうし。

 ケイに教わって改めてわかったのはイオトやエミの教える気のないバトルの修行態度だ。あいつら、訓練に付き合うとか言いながら自分がバトルしたいだけだったんだ。いやレベルはたしかに上がったけどそれだけだった。畜生。

 ジムトレたちに見送られながらグルマシティに戻るためチルのそらをとぶで高く飛び上がる。まだ正直この移動は慣れない。というか普通に気持ちよさと怖さが半々だ。飛んでいる他のポケモンに襲われたらシャレにならないというか落ちたら死ぬ。

 あんまりそういったマイナスなことを考えるのもよくないのでケイからの教えをひたすら頭で反芻しているとグルマシティが見えてくる。夕方だというのに人の賑わいが遠目からでもわかった。でも、昔はもっと――。

 コハクの事情を考えると少しだけ気が重いが、やるしかない。

 

 

 

 ポケモンセンターに戻るとイオトとエミがテレビを見ながらくっちゃべっていた。

「つーか飽きた。俺もう映画借りて見るくらいしかやることねーわ」

「だよねー。ヒロ、早く終わって次の町行かないかな」

 こいつら殴っても許されるかな。

「ん? あ、戻ってきてたのか。明日頑張れよー」

「イオト、お前……」

 完全に他人事の言い方に思わず呆れる。こいつ、人の旅についてきてるだけの癖になんでこんな態度でいられるんだ。

「もう少し親身になるって気持ちはないのかよ」

「なんで?」

 なんで、と返されてもはや言葉を失う。こいつはそういうやつだった……。足元でイヴがまるでドンマイ、というようにぽんと足を叩く。

「実際他人事なんだろうけどイオトも一緒に説得するのに付き合うとかさぁ」

「えー、俺あいつ嫌いなんだよね。何もかも自分が基準で、自分ができることは他人もできて当たり前。できなければ凡人認定してナチュラルに見下してくるし」

 要するに他人の気持ちを考えないタイプの天才って言いたいんだな。いや、でもイオトもそういうところあるぞ、と言いかけて口をつぐむ。思っていても言わないほうがいいことはこの世にたくさんある。

 そんなことを話しているとなぜかぼけーっとしているシアンが宿泊エリアからふらふらと出てくる。具合が悪いんだろうか。

「シアン、大丈夫か?」

「……はいですよー」

 声に覇気がない。重症らしい。

「ヒロがいない間急にこんな風になってさ。調子狂うんだよね」

 エミがそう言いながら隣のサーナイトにポケフォンの操作を代理してもらっている。自分で触ると壊すからだろうけどその光景はシュールだ。

 ぼーっとしたままのシアンは椅子に座って備え付けのテレビを見ているが完全に集中してみているようではないらしく、時折「うー……」とか「ひゃー……」とかよくわからない声を上げている。

「たっだいまー! さすがにそろそろ買い食いも飽きてきただろうからヨツハのおすすめディナー買ってき――」

 いつの間にか当然のように一緒に行動しているヨツハが戻ってきたらしく、俺に気づいて「あっ、言ってくれたら多めに買ってきたのにー!」と困ったように大きな声を出す。

「今日は何?」

「テイクアウトでカレー買ってきたよー! ここのお店美味しいから雑誌にもよく載ってるくらいでねー」

 どうやら俺が戻ってきても大丈夫なようにテイクアウトで済ませていたらしいが最終的に俺の分がないんだからなんのためなのかわからない気もする。

 まあ一応ケイというかサワムラーがお弁当包んでくれたのでそれがあるからいいんだけど。

 

 明日に備えて早めにベッドに入り、緊張は少しあったものの、ケイのしごきですぐに眠ってしまうのであった。

 

 

――――――――

 

 

 ジム戦当日。予定の時間の10分前にジムの前に立つ。ケイも来ているが今日は着物だ。ジャージと着物の使い分け、未だによくわからないんだが恐らくバトルするかしないかの差な気がする。

「ちょっと耳貸せ」

 入ろうとするとケイに耳打ちされ足を止める。肩を後ろに引っ張られてびっくりするがケイの一言でそれを打ち消すことを投げつけられる。

「どんなことになってもお前、テンパるな。あと避けに専念しろ」

 それだけ言ってケイがジムの戸を開く。今のはいったいどういうことだろうか。とにかく冷静でいろということだけはわかるので息を吐いて気合を入れ直した。足元でイヴもやる気十分と前足で自分の顔をペチペチしている。

 

「よくきたねー。逃げても良かったけど」

 

 第一声が遠回しに来るなというコハクの発言。ジムの入り口にコハク以外のジム関係者はいない。ケイと俺、そしてあとで観客席に行く予定の4人。

「で、のこのこきたわけだけど、改めて確認しよっか」

「俺が勝ったら琥珀印の撤回と、他所へのリークはしないという約束だ」

「そだね。でもさ、これアタイにメリットないよね。まあジムリーダーが挑戦者とのバトルをメリットで考えることがあり得ないんだけど」

 だからさー、と意地悪く笑うコハク。その顔を見てケイはほんの一瞬だけ――本当に一瞬すぎて恐らくコハクは見ていなかっただろう。あいつは俺の方にしか視線が向いていない。

 

「君とのバトル、アタイはファイトルールでのみ受けるね。元々ルールの条件確認してなかったし」

 

 コハクの発言にぽかんとして言葉がとっさに出なかった。その瞬間、ケイを思わず見たが目で何も言うなと言われた気がして押し黙る。

 まさかケイ、これを想定してファイトルールの特訓したのか!?

 そんなことを考えていると意外なことに反応を示したのはイオトだ。

「ばっかじゃねぇの!? ジムリーダーが初挑戦の一般トレーナーにファイトルールで挑むとか違反行為じゃねぇか! ファイトルールをやっていいのは一度そのジムリーダーからバッジを入手したことあるやつに限るはずだろ!」

 なんというか、イオトが声を荒げると思ってなくて驚きを隠せない。他人事みたいな感じだったのに急に反応が変わった。

「そうだね。でもアタイとのバトルはファイトルールしかしないから。そっちだってリークをするなって言うんだからこっちも多少条件つけたっていいでしょ? 普通に考えたらヒロは擁護なんてできないことしかしてないってのにアタイが全部悪いみたいになってるの、納得行かないんだよね」

 イオトの様子がみるみる変わっていく。軽蔑というか、本気で嫌悪している顔だ。

「リーグから罰を受けてもいいのか?」

「そもそもファイトルールを受ける側は納得して了承してるんだし、アタイが勝てばそっちもこのことは内緒って条件じゃないと。そうじゃなきゃ取引にならないよね」

 ファイトルールは双方の合意の上で行われる特殊ルール。その際にありとあらゆる怪我の責任は自分にある。つまり、受けた時点で責任を相手に追求できない。

 今回の場合、コハクはジムリーダーとしては明確に違反行為だがファイトルールで受けることを了承しなければそもそも相手をするつもりはないだろうし、取引が成立しなかった時点でコハクも俺の行動をリークする可能性がある。

 どのみち、受けて勝たないなら意味がない。たとえ受けない選択肢でコハクを罰することができたとしても俺の行動はバラされて家族に迷惑がかかる。受けて負けたらコハクに屈することになるが、それならせめて受けた方がマシだ。

「わかった。お前とのバトルはファイトルールでやる」

「へぇ、度胸あるね? ああ、ジムトレたちとは通常ルールでいいから。じゃあ君が勝ったら琥珀印の撤回とリークをしない誓いをする。アタイが勝ったら君はアタイのファイトルール提示を申告しない。それでいいね?」

「構わない」

 

 ――なんか、ちょっとだけケイが肩を揺らして笑った気がするけど気のせいだろう。

 

 すると、イオトが腕を掴んで珍しく真剣な顔をして小声で言う。

「お前、ファイトルールわかってんのか? 下手したら大怪我しかねないしお前じゃまだ無理だ」

 ああ、そういえばイオトたちにファイトルールの修行したって言ってないんだった。でもここで言うとコハクにもバレるので今は黙っておこう。

「わかってるって。それでもやらないといけないし、手持ちたちを信じてるから」

 エミはずっと黙っている。その表情はよくないものの、口出しをしない方がいいと思っているらしく、癖で口元を覆い隠している。

 シアンも少し不安そうだがこじれるだろうし見守るだけに留まっている。

 ヨツハも困った顔をしているが肩に乗ったエイパムがまるでがんばれーと応援しているようで止める様子はない。

 

「だから嫌ならやめてもいいんだよ? そっちが条件を確認しなかったのが悪いんだからさ」

 

 嫌ならやめろってこいつそれしか言えねぇのか。

 当然受けるので、イオトの制止を振り切ってジムの奥へと向かうために前に出る。が、その前にケイが言った。

「俺は結果を見てやれないが、わかってるな?」

 ケイも忙しいだろうにここまで付き合ってくれた。さすがに最後まで見てくれとも言えないので仕方ないだろう。そして、ファイトルールでの教えを忘れるなという意味。

 当然、まずはジムトレを越えないといけない。ケイの一週間の修行は全部これを見越してのこと。

 あとは俺と手持ちで乗り越えるだけだ。

 

 

 

「さーて、グルマジムへようこそ挑戦者。二度と歯向かうことができないくらい叩きのめしてあげる!」

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

「ま、予定通りだな」

 一人ジムから離れ、メールを打ちながらグルマシティを歩くケイ。

 コハクの傲慢な部分は彼女の欠点の一つ。その思い上がりは恐らくファイトルール強要という形で出るのは想定していた。一般トレーナーにマウントを取れるルールの一つかつ、好戦的なコハクが取る手段としては一番ありえるもので、かつたとえそれを他者に追求されてもうまく躱せると思い込んでいるであろう傲慢さ。

 当然、これを秘密裏に上に報告した時点でコハクは罰せられる。が、ケイはそれだけでは物足りなかった。というより、コハクは公的に罰するだけで心を入れ替えるような人間ではない。

「利用するようで悪いが、ああいうのは鼻っ柱徹底的に折っとかないとな」

 その表情はいつも通りではあるが隠しきれない笑み――ただし見たものが戦慄するようなものだった。

「さて、ヒロの勝敗はともかくこれで俺の勝ちは確定だ。ま、勝とうが負けようがあいつにとっても悪いことにはならないが――」

 ぼりぼりと頭を掻きながらここ最近の修行を思い出す。未熟なところは多いうちは勝っても負けても得るものがあるのでケイとしてはどちらでもよいと思っていた。だが――

 

「せっかく俺が付き合ってやったんだから勝てよな」

 

 わずかに師としての矜持か、勝ちを願わずにはいられなかった。

 

 

 

 




ヒント:ファイトルールをヒロに提示したことを密告しないという条件にケイは含まれてない。
次はジムトレ戦なのでコハク戦はまだです。
地味に番外編集も更新してるのでよかったらそちらもどうぞ。
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