新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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グルマジム

 

 

 

 グルマジムの仕掛けはリフトというか、上昇下降の機械がいくつか設置されており、それを使ってジムリーダーのいる場所を目指すものということだけとりあえず把握できた。

 とりあえず先鋒はイヴに任せるとして、どう進んでいこうか。

 今のところ上昇機が2つ。下降機が1つ。ジムの広さからしてそんな複雑な道はしていないと思うが地下があると思うと案外迷路の可能性も捨てきれない。

「とりあえず手がかりもないしまずは適当に――」

 そう言いかけて、機械が動き出したことに気づいて足を止めた。動いたのは上昇機の方。どうやら上から誰かが降りてくるよ――

 

「あっ待ってこれ操作どうやるんですか!? 操作部分新しくなって――あぎゃーっ!?」

 

 猛スピードで上から降りて――いや落ちてきたリフトが派手に音を立てて着陸する。

 土埃が舞う中、声の主が「いたたた……」と立ち上がりながら埃を払う。

「もー、新しくしたなんて聞いてない……! せっかくの先発なのに!」

 現れたのは先日受付をやっていた少女。探検家のような格好をしており、随分と先程のリフトのせいで薄汚れているが年の頃は10代前半くらいだと思われた。

「すいませんお待たせしました! それでは気を取り直して――レイナといいます! 挑戦者、いざ尋常に勝負!」

 なるほど、リフトを使うにはジムトレを倒さないといけないのか。

 先手、カラカラを繰り出してきた少女に最初から出ていたイヴを前に出す。

「さーて、コハクさんの言いつけもあるし本気出さないとっ!」

 上着を乱雑に脱ぎ捨てタンクトップ姿になった少女は熱気がすごい。というかグルマシティのジム関係者は脱ぎ癖でもあるんだろうか。コハクもそうだし。

 カラカラが骨を振りかぶって向かってくるのをイヴのリーフブレードで受け止め、押し返すように強く振り払った。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その頃、観戦中の4人は――

 

「イオ君何してるです?」

「んー、メール」

 携帯端末で何やら文字を打っているイオト。よく見るとエミもサーナイトに代わりに何か文字を打たせているようで二人してモニターに映るヒロをほとんど注視していない。

「えっちゃんもポケフォンばっかりいじって薄情ですよ!」

「いーじゃん。あたしらがその分応援してあげれば」

 ヨツハが気楽そうにモニターに映る、バトル中のヒロを見る。ちょうど終わって、次のエリアへ進もうとしているのがわかる。

 そんなヒロを一瞬だけ見たイオトはテンションが低いのか、いつもよりも低い声で言った。

「今のヒロならジムトレは心配するようなことないだろ。問題はファイトルールの方だし」

 エミも、サーナイトに代筆を頼んだからかつまらなさそうに腕を組む。

「ファイトルールなら僕が得意だから事前にわかってたら教えられたんだけどねー。まあ言わなかったのは明らかに故意だろうね」

 コハクの意地の悪さが透けていると二人は口を揃えて言う。

 しかし、そんなコハクを慕うジムトレたちの戦う姿をみて、シアンは複雑な気持ちになった。

「やっぱ、普段信頼されてるだけあってジムトレたちも迷いなく戦うですよ」

 旅のトレーナーと常日頃町のために活動しているジムリーダー。彼らにとってどちらが正しいかなんて、わかりきっていることだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ――リーグ、四天王会議室。

 

 

「ねえ、ランタとフィルは?」

「ランタなら数日イドースに行くとか言ってたわよ。フィルは私用で実家に戻ってる」

 アリサが資料を整理しながら手伝いをしてくれるリッカの方を向く。資料整理を手伝う二人の手持ちもいてか、広々とした空間はそこまで寂しいものではない。

「ランタ、よくイドース行くけど何しに行ってんだろう。修行?」

「あいつなら彼女に会いに行ってんだよ、多分な」

 アリサが素朴な疑問を呟くとその場にいないと思われた人物がそれに答え、アリサが驚いて振り返る。リッカも「あら」と驚いた様子でその人物――ケイを見た。

「どうしたのよ。別に今日は招集かかってないけど」

 ジムリーダーはリーグに来る用事はそれほどない。会議のためや特別な行事、または事件の際に招集がかかる程度で基本は自分の縄張りでそれぞれの業務を果たしている。

「まあメールで送ってもよかったんだけどもののついでだ」

「ついで?」

「まあ待ち合わせしてる人がいるんだよ、ここでな」

 具体的なことは言わないが、ケイは懐から細長い機械を取り出し、アリサは何、とそれに注目する。

 

 それはボイスレコーダーらしきものだった。シンプルで多機能ではないもののしっかりと集音に優れたグレーの機械は手のひらに収まるほどのもの。

 

「何? もったいぶってないではっきりしてよ」

「まあ一応軽く編集したから一通り聞いておいてくれ。俺はあの人に話しつけるから」

 それだけ言ってケイは会議室から出ていった。

 アリサとリッカは首を傾げたまま机にそのボイスレコーダーを置いてとりあえず再生ボタンを押す。

 ガサガサと衣擦れの音がし、しばらくすると聞き覚えのある声が会議室に響き渡った。

 

『こっちが内々に済ませてるっていうのにそんな風に言うんなら公にしてもいいんだよ。――四天王、アリサの弟が、レグルス団逃亡に加担したってね』

 

 

「ほあっ!?」

 

 

 アリサは驚きのあまり奇声をあげ、続く録音された声に聞き入る。リッカがちらりとアリサを盗み見ると表情が完全に消えていた。爆発一歩手前といったところだろう。

 

 

『君とのバトル、アタイはファイトルールでのみ受けるね。元々ルールの条件確認してなかったし』

 

 

 そして、アリサの血管がはちきれた。

 

 

 ちょうどその時、アリサのポケフォンにメール受信の通知が鳴る。

 

『差出人:バカチャンピオン』

 

 そのメールに気づくのに、まだ数分かかるのだがリッカとアリサの目は完全に据わっていた。

 

 

 

――――――――

 

 

 既にジムトレとの戦いはこれで4人目だ。今はナグモという男とのバトル中で、相手の最後の一匹だ。

 

「ゴルーグ! ほのおのパンチ!」

「イヴ、リーフブレード!」

 

 少しかすったものの、イヴは相手の攻撃をかわしつつリーフブレードを急所に当て、戦闘不能になったゴルーグを確認するとと同時にバトルが終わってほっとする。

「あーだめかー。お疲れゴルーグ。ネンドールもありがとう」

 ボールに手持ちを戻したナグモはまじまじと俺を見ており、先に進もうとしたのになんだか気になって仕方がない。

「な、なんですか?」

「いや? コハクさんが言ってたのとだいぶ印象が違うなーって」

 あの人、俺のことを悪しように言ってるんだろうなぁ……。ここで勘違いは正しておきたい。俺にも非はあるだろうが覚えのないことでとやかく言われたくはないし。

「地底湖で女の子と屋外プレイに臨もうとした上、レグルス団を逃した不良って聞いてたからさー」

 

 くっそ、何一つ間違いがない。どうしよう。

 

「こ、後者はともかく前者はそんなことあるわけないじゃないデスカー……」

「だよねー。ごめんごめん。ま、コハクさんも結構過激なところあるしがんばって~」

 心が痛い。嘘ではないけど本当のことでもない。というかさすがに後者を誤魔化す勇気はなかった。

 微妙に気分が沈んだまま先に進む。イヴの体力を一応回復させながら歩いているとイヴが心配そうにこっちを見てきたら元気になった。我ながら現金だとわかってはいるがイヴがかわいいから仕方ない。

 

 ふと、突き当りにたどり着くとジムトレが渋い顔をして待ち構えていた。既に何度も会ったことがあるシンという男だ。

「この度はうちのバカが大変迷惑を……」

 頭を抱えながら蹲ったシンさんになんかすごい申し訳なくなってくる。こうやって当人じゃなくて周りが胃を痛めてるのはこっちも見ていて辛い。

「いや、その……まあ俺も俺でアレなので……」

「何度も言って聞かせたのに俺の言葉は聞きもしない……本当に申し訳ないがコハクにどうか勝ってくれ……。負けてもどうにか俺がなんとか手を回すのでどうかその……穏便にお願いします……この先にコハクはいるから……」

 ダメだ、やっぱりコハクは野放しにしておけねぇ。こんなまともそうな人に苦労を押し付けやがって。

「じゃあ俺先に進み――」

「いや、バトルはするよ」

 今の流れは完全にバトルなしで進める流れだったはずでは?

「えぇ……」

「いや、ジムトレの基本としてそういう決まりだし、模範的なジムトレとしてはここを特例で進ませるのも、な」

 真面目だ。この人真面目すぎて融通効かないタイプだ。

「というわけでグルマジム、シンが相手になる! ホルード!」

 ボールから繰り出されたホルードに早速イヴをぶつけ、さっさと終わらせようと試みる。

 が、どういうわけかホルードの動きが早い。イヴより先に動き、その立派な前歯を突き立てた。

「いかりのまえばか!」

 イヴの体力が一気に持っていかれた。そのままホルードは高く跳ね、またも素早くイヴへとダイブする。

 その際に、やけに素早い理由がわかった。せんせいのツメを持たせているため、明らかにこちらが早くとも先に攻撃を当てに来ている。運も絡むだろうがハマれば強い。

 とびはねるで残り半分を削られ、イヴを戻すと次に選んだのはエルドだ。

「エルド、かわらわり!」

 ここにきてケイにもらったわざマシンがありがたすぎる。なんか俺、ケイばっかに世話になっていてケイがいなかったらここまで来れていない気がする。

 ホルードはぱたりと力尽きて倒れ、二匹目にシンさんが出してきたヌマクローが立ちふさがる。

「エルド! リーフブレ――」

「ヌマクロー! がむしゃら!」

 しまった、と思ったときにはもう遅い。リーフブレードをもろに食らったヌマクローは本来ならそこで終わりだが、きあいのタスキによってかろうじて踏みとどまり、がむしゃらによってエルドも同様にギリギリの体力で踏みとどまる。

 だが、これは先に相手を潰せばいいだけのこと。

「エルド、かげうち!」

 シンはかげうちを予期していなかったのか、一瞬驚いたように目を見開いてトドメを刺されたヌマクローに申し訳なさそうに視線を向けながらボールへと戻した。

「エルレイドがかげうち……それを把握できていなかった俺の失態だな」

 まあこれゲームだとタマゴ技だし、この世界のタマゴ技って微妙に認知度低いようなところがあるらしいから知らなくても別に悪いことではないと思う。

 というか遺伝技といい教え技といい、ヨツハのおかげでかなり幅が広がったなぁ……。

「俺から言えるのはただ一つ。コハクは必要以上に煽らない。いいな? 潔く降参するのも一つの手だ。人間、体が一番大事なんだからさ」

 目の下にクマをたたえられては反論できない。そうだね、体は大事だね……。

 恐らく最後のジムトレであるシンの先を進むと今までの通路とは雰囲気が変わってくる。もっとジムトレはいたんだろうが、もしかすると最短ルートを通れたのかもしれない。

 

 通路を抜けた先、今までとは違う一際大きなフィールド。その中央にコハクはいた

「思ったより早かったね。結構、うちのジムトレも強いんだけどな」

 スコップを地面に突き立て、不遜な態度で俺を見る。俺も手持ちの回復を済ませたのを確認し、フィールドの真ん中へと向かう。

 ファイトルールは結局ケイとしている間に一度も勝つことはできなかった。それでも、あの経験が今この戦いで活きることを願うしかない。

 

「ルールの確認しようか。ああ、まずこれが君とアタイの命」

 赤と白のハチマキをそれぞれ見せつけ、白を俺の方に放ってくる。

 ルールはダブル。互いにハチマキを装備し、先に相手のハチマキを奪ったほうが勝者となる。もしくは、相手の手持ちを全滅させるというのも勝利条件の一つではある。どういった方針で攻めるかはまだ決めかねているがケイのアドバイス「とにかく避けろ」だけは念頭に置いておかねばならない。

 コハクは二の腕にハチマキを巻いて、俺に確認を促すように見せつけてくる。俺も、腕にハチマキを巻いて結び、深呼吸をして目の前のコハクを見据えた。

 4対6とモニターに出たが恐らくコハクは最初の2体で決着をつけに来ようとするはずだ。あの余裕そうな態度といい、俺に圧倒的実力差を植え付けるだけの舞台でしかない。

 

「はいはーい、改めて恒例の前口上、ちゃっちゃと済ませちゃおうか。よく来たね挑戦者」

 ジムリーダーお決まりのバトル前のやり取り。作業着の上着を肩に羽織ってコハクはにっこりと人のいい笑顔を浮かべる。

「じめんタイプっていいよね! 大地とともに生きるアタイたちにとってじめんタイプは一生のパートナー。大地とともに生きるアタイを、君は倒せる?」

 フィールドに直に立っているからか、フィールドが変形していく際の振動が伝わってくる。まるで大地を揺るがしているような錯覚に目の前のコハクを睨んだ。

 フィールドがファイトルール専用となったことでトレーナーエリアもファイトルールの範囲内となり、安全圏は失われた。

 

「寛容と慈悲を司る我らがグルマの大地の名の下に! 手加減無用、殺す気で来なさい挑戦者!」

 

 

 

 

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