新しい人生は新米ポケモントレーナー   作:とぅりりりり

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【】でポケモン喋ってますが人間には聞こえてません。


マリルリさんの恋

 それはヒロが入院したばかりの頃――。

 

 

 

 私はマリー。この世で最強かつ最高にかわいいマリルリである。今日も今日とてクソメガネの手持ちをやっている。

 まあ、今はヒロの入院中とかもあってシアンのお守りなんだけど、病室にいる時くらいはどうせなんもないでしょ。そう決めつけて病院内をレッツ探索。

 といっても普通の人間向け大型病院だし、院内ショップとか庭くらいしか見どころないんだよね。

 というわけで早速庭へ出向いてみる。入院中の人やその手持ちが気晴らししてたり、中では出てこれない大型ポケモンがトレーナーの安否を気遣ってるのが見える。大きいポケモンは室内だと迂闊に出てこれないのがこういうとき大変だよなぁ。

 噴水はテッポウオモチーフの彫像が水を出しており、噴水ソムリエ的には65点といったところかな。

「きゃーっ!」

「皆さん落ち着いて室内に避難して下さーい!」

 急に騒がしいなと思ってそちらに目をやるとどうやら野生のスピアーが入りこんだのか、人やポケモンを襲おうとしている。まったく、わざわざ人の住処に来るなんて。

【オラァ! 食いもんよこせー!】

 鬱陶しいのでオボンのみを投げつけてこちらに注意を引きつける。オボンのみはスピアーの野郎に命中してじゃっかん潰れて地面に落ちた。

【なんだぁ、このマリルリ!】

【それやるから帰りなよ。迷惑かけんな】

 まあ当然半分煽ってるので怒りの反応は読めていた。激怒したスピアーがこちらに飛んでくる。こっちのレベルが下がってても余裕で勝てる相手だ。軽くのして住処へ戻すとしよう。

 そう考えて拳を構えようとした瞬間、スピアーにぶつかってきた青い影が私の前に立ちふさがる。

【乱暴者め! 僕が相手だ!】

 それは凛々しいオスのマリルリだった。スピアーが怯み、更に怒りを増したところに警備員の人間とガーディーがやってきて、スピアーは一目散に逃げ出した。

【大丈夫かい? 怪我してないかい?】

 こちらを心配してくるオスのマリルリが妙にキラキラして見える。恐らくだが、私がきのみを投げたくだりは見ておらず、私が襲われてると思って助けに入ったのだろう。

【う、うん……全然へっちゃら……】

【よかったー。君みたいにかわいい子が傷ついたら大変だからね】

 

 ――しゅき……。

 

 優しい、勇気があって紳士的……これはもう人間で言う結婚では?

 いや、早まってはいけない。ご主人様もイオトのクソ野郎に騙されて――

【君は入院中のトレーナーさんの子かな? 僕はここのナースの手持ちで、病院にきたポケモンとよく遊んでるんだ。よければ一緒に遊ぼうよ】

【あそぶ~!】

 もうしゅき……本能的にしゅき……。ご主人様一筋だったけどご主人様の次くらいにしゅき……。

 運命の相手――マリルリのあおたろ君と出会って私は世界が一変した。

 何しても楽しい。幸せ。おやつも一緒に食べるといつもと段違いに美味しく感じる。

 ヒロ、入院してくれてありがとう。お前の犠牲は私を初恋へと導いてくれた。

 

 

――――――――

 

 

 

 ヒロが入院してからそこそこ経過したけど、あおたろ君に会いに行くことばかりで頭がいっぱいな私は最近ヒロがどうなのかは知らない。

 なんかイオトが一回あおたろ君と私が遊んでいるときに入り込んできたが、あおたろ君の主人と意気投合でもしたのかすぐどっか行ってしまった。ま、ここのナースさんだし変なことはないでしょ。それよりあおたろ君だ。

 せめて退院するまでに何かしら告白なりしておかねばこのままバイバイすることになる。それはいけない。

 

 

【どう? 可愛く見えるかな!?】

【えー、いきなり何いってんの】

 やっぱり告白するならいつもより気合を入れてかわいさを磨かないと。かわいさをアピールするならばオシャレにも気を配らねばいけない。イオトの手持ちとしてバトルに明け暮れて以降ほとんどしていなかったけど、久しぶりにリボンを引っ張り出してみた。ご主人様がくれたピンクのリボンだ。古いからちょっと流行とは違うかもしれないけどお気に入りの一品である。

 まあ、アークのやつが私のかわいさを理解できるとは思ってないけど一応だ。どうせガリアは当たり障りのないことしか言わないし。

【お前普段からかわいいじゃん】

 素のトーンでアークに言われてきょとんとしてしまう。あれ、こいつお世辞じゃなくて素だよね、今の。

【アーク……あんたかわいいとか言えたんだ……】

【ていうか普段からかわいいって思ってたんだ……】

 ガリアも後ろで驚きのあまり口元を抑えている。アークってメンタルがガキだからそういうのと無縁だと思ってた。色気より食い気か遊びの馬鹿だと思ってたからめちゃくちゃ衝撃だ。

【なんで驚かれてんの】

【だってマリーみたいなゴーリキーも真っ青な物理主義者をかわいいと思え――】

 なんかガリアが余計なこと言ってる気がしたのでじゃれつくで壁の模様にしてやった。ふんだ。早くあおたろ君に会いたい。

 

 

 そんなこんなで今日も一匹で病院へ。シアンはコジョンドいるし大丈夫でしょ。

 あおたろ君も毎日相手してくれるしきっと両思いのはず。でもなあなあはよくない。ここらではっきりさせておかないと。

 あ、でもたまにはヒロの様子見てから行くか。というわけでヒロの病室にお邪魔する。

「あれ、マリルリさん? 一匹できたのか?」

【マリーちゃんだー。なんだか久しぶりなの】

 ヒロもイヴも元気(いやヒロは怪我してるけど)そうだ。今日の私はひと味違うぞ。

「マリルリさん、今日いつもと違うな。かわいいなぁ」

【マリーちゃんもオシャレしてるのー】

 へへへ、そんな褒めるなって。まあ最強で最高のマリルリこと私だし? やっぱりかわいいに決まってるんだよなぁ。

 まあ長いはするつもりはないのであばよと手を振って病室を出る。ここからが私の今日の本命だ。

 

 いつもの庭に向かうとあおたろ君がほかのポケモンと一緒にいるのが見える。

【あおたろくーん、いつ構ってくれるのー?】

【最近他の子ばっかりなんでしょ? ずるーい】

【えーと、それは――】

 なんか、お腹の辺りがむかむかする。

 あおたろ君に近付こうとしたところで甲高い女の人の悲鳴が聞こえる。またこのパターン、と思ってそちらを見たらスピアーが群れで庭に現れたのだった。数にして十数匹。

【きゃー! あおたろ君助けてー!】

【ひええっ! あ、あんないっぱい僕だって――】

 あおたろ君が危ない。でも助けに入ったらか弱い子のイメージが台無しになって――

 

 いや、そんな場合じゃないだろ!

 

 アクアジェットでスピアーの群れの中心に飛び込んで全員叩き落としてやると、まだ援軍がやってきてそれも全部バブルこうせんで撃墜する。

 勢い余ってリボンが落ちたけどあおたろ君や庭にいる入院患者やナースさんを守らないといけない。

 少し遅れて警備員とガーディがスピアーたちを捕まえて今度こそ襲撃がないように遠くにやつみたいだ。

 少しだけ汚れてしまったがこちらは無傷。警備員さんもありがとうと言ってくれた。やっぱりか弱いのを演じるとか向いてない。そんなことで誰かが傷つくくらいならゴーリキー顔負けと言われても甘んじて受け入れよう。

 それに、あおたろ君だってきっと私のこと惚れ直してくれただろう。これが私だもの。

【あ、あおたろ君。私、あおたろ君が好き! あおたろ君のこと守るから!】

 ぽかんと見ていたあおたろ君に駆け寄る。けど、なぜだろう。心なしかあおたろ君の顔色が悪い。

 きょとんと首を傾げてあおたろ君の言葉を待つと、予想してなかった答えが帰ってきた。

 

【いや……ちょっと、僕より強い子とか怖くて無理……】

 

 

【挿絵表示】

 

 

【え……】

 

 完全にドン引きした様子で、彼は言う。オシャレだってして――ああ、そうだ、ご主人様にもらったリボン落としちゃったんだった。先程まであおたろ君の近くにいたポワルンやピッピおぼつかない足取りでリボンを拾う私を見ているのがわかった。これ、つまりその……振られたってことでいいのかな……。

 

 というかそもそも、最初からたくさんいるメスの一匹だったんだ、私……。

 

【ねーあおたろ君。何この子】

【え、いやぁ……し、知らない子だよ】

【だよねー。あおたろ君のガールフレンドならあんなだっさいリボン、恥ずかしくてつけてられないもん】

 

 ――は?

 

 このメスなんつった? ご主人様がくれたリボンをダサいとかぬかしたのか?

 失恋、自分のみっともなさ、ご主人様をバカにされた様な気持ちに理性が完全に吹っ飛んだ。

 

【ああああああああああああっ!! 殺すううううう!! お前ら全員殺すうううううう!!】

【ひえっ! うわあああああああああ!!】

【きゃああああああああああああああ!?】

「ちょっと何!? ポケモン同士の喧嘩!?」

 あおたろの野郎を筆頭に襲いかかるがナースさんや警備員さんが寄ってくるのに気づいて全力で逃げた。バーカバーカ! 一生やってろヘタレ男! どくびし踏んで死ね!

 全力で走ってるせいで時々ナースや医者とぶつかりそうにもなるがヒロの病室へと駆け込むと本を読んでいたのかヒロが顔を上げた。

「あれ、マリルリさん? シアンなら――」

「マ゛アアア゛アアアアアァア゛アアアアア゛ッ!!」

「マリルリさん!? えっ何どうし――」

「マア゛ア゛リイ゛イイイイ゛イイイイイイイイウル゛アアアアアアァァアアアアアァーッ!!」

 ベッドに寝ているヒロの胸ぐらをつかんで揺さぶる。かわいいって言ったじゃん! 言ったじゃん! お前のかわいいガバガバかよ!

「まっ、マリルリさ、ちょっ、死ぬ、死ぬから待っ」

「マ゛リ゛イイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

 言葉にならない絶叫しか出てこない。もうまぢむり……つらい、な状態である。

【うわあああああああああああああああああん!! イオトー! イオトォ! ご主人様に会いたいよおおおおおお!】

 せめてご主人様に会うくらいしないと心が落ち着かない。無理。ご主人様のところに帰して。ご主人様によしよしされたい。

「ちょっと! なんですか!?」

 絶叫に驚いて駆けつけたナースさんの気配を感じて窓からダイナミックお邪魔しましたで逃げ去る。ガラス片なんて痛くねぇ! むしろ心のほうがずっと痛い。

 泣きたいというか涙しか出てこない。イオト、イオトを探すしかない。

 もうイオトのこととかどうでもいいからご主人様のところに帰りゅのおおおおおおお!!

 

 院内を駆け回っているとようやくイオトを見つけたのだがイオトがなぜかエミと一緒に走っていた。よく見ると後ろに女の人が鬼のような形相で二人を追いかけている。しかも二人。片方はあおたろの主人だ。あいつまた女の子ひっかけてやがった。

 

 ――やっぱオスってろくでもないんだ! うわあああああああん!!

 

「マリルリさん!? え、ちょっと待ってなんでこっちに――」

「馬鹿、止ま――」

 一瞬止まったイオトとすぐそばのエミもろともばかぢからでふっとばして退散する。バーカ! もうおまえなんか頼らないもんバーカ!

「マリルリさ……」

「ようやく追い詰めたわよ! 覚悟しなさいこのホモ野郎!」

「ちが、ホモじゃないってば!」

「じゃあ責任取りなさいよおおおおおお!!」

「僕無関係! 無関係だってば――」

「この泥棒ニャース! 男のくせに! 男のくせに!」

 あーあーきこえなーい! 私には関係なーい! 不誠実なオスは死んじまえ!

 ところでホモってなんだろう。まあいいか。

 

 

 暴れても暴れても心が静まらない。いっそ世界を滅ぼしたい! デレデレしていた自分を殺しに過去に行きたい!

 

 

抑えきれない感情を迸らせて病院内を駆け回ったせいで後に「あおいあくま」という謎の噂がまことしやかに囁かれたとかいないとか。

 

 

 

――――――――

 

 

 その後、シアンがコジョンドと一緒にポケモンセンターに戻ってくると全身ボロボロで顔に怪我しまくったイオトとエミがこの世の終わりのように沈黙していた。その横で魂が抜けたように虚空を見つめるマリルリさんがぽつんと座っており、アーケオスのアークが子供をあやすようにおやつを前に持ってくる。

【ほら、これでも食え。うまいぞ】

【うん……】

【ほれ、あーん】

【うあー……】

【なにこれ……】

 よくわからない状況にコジョンドが困惑する。普段のマリルリさんならあり得ない光景に恐怖すら抱く。

 アークはいつも無駄にテンションが高いのだが今回ばかりは年長者としては落ち着いた様子でマリルリさんにつきっきりでいる。

【俺はよくわかんねーけど返ってきたらイオトたちが満身創痍でマリーのやつが幼児退行した】

【本当に何があったの……!?】

 おやつを口元に持っていけばもきゅもきゅと咀嚼はするのだが目が完全に死んでいる。暴れた結果、燃え尽きたのか心が生まれたてのルリリ並かそれ以下になっているようだった。

【ほーら、よしよし。ジュース飲むかー】

【のむ……】

 ストローをちゅーっと吸う、と思ったら一気の吸い込んでじゅっ、ずる、とジュースが空を主張する。けぷ、げっぷをしたかと思えば情緒不安定なのか急に泣き出したりもう手の施しようがない。

【これ、しばらく使い物にならないかしら】

【まあ、落ち着くまでは優しくしてやったほうがいいぜ】

 

 失恋による傷心モードはしばらく続くことがほぼ確定したことを悟ったコジョンドは呆れつつも仕方ないとマリルリさんの頭を撫でるのであった。

 

 

 

 

 

 

「二人とも、どうしたですか」

「……ちょっと……色々……」

「……うん……色々……」

 

 シアンに問われたイオトとエミは複雑そうな顔で虚空を見つめながら脱力していたのだがマリルリさん含め、手持ちたちにはどうでもいいことだった。

 

 

 

 




この時のイオトとエミに何があったのかは次の話で。
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