エミは挙動不審と言われても否定できないほどに手をがくがくとあげたりさげたりし、何か言おうとして口をぱくつかせるだけで何も言えない。一方でユーリは変なものを見るような目でエミを見ていた。
(やばいやばいやばい! なんでこいつここにいんの!?)
「お前……」
(終わった……)
ユーリが訝しげに呟き、何もかもが終わったと頭を抱えていたエミは小さく舌打ちする。どうやって逃げようかの算段をしているとユーリが気の抜けた声で言った。
「どこかで会ったことあるか?」
「は?」
予想外の言葉にエミはポカンとユーリを見る。
(まさかこいつ気づいてないの?)
絶対にバレると思っていただけに馬鹿みたいにばくばくと早鳴っていた心臓は落ち着きを取り戻し、言葉選びには気をつけようと心の中で呟く。
「ひ、人違いじゃないかなぁ……」
「……そうか? お前みたいな顔、会ったら忘れないと思うんだが……」
どういう意味だと言いたくなると同時にいや気づかないのかよと色々なツッコミが頭をぐるぐるして頭痛がおさまらないエミはため息を吐く。
そして、ようやく冷静になって目的を思い出してそそくさとユーリから離れようとした。
「何だお前。あ、もしかしてヒロの同行者の一人か」
「え、ああ……うん……まあ……」
「ふーん……」
品定めするような目が向けられ、早く逃げたいのに逃げれない圧。ヒロのこともあるしどっかいってくれないかなと心の中で吐き捨てるとユーリがボソボソと何か口にする。
「こういうのが好みなら俺だって……」
よく聞こえなかったが何か恨みがましい感情を感じ取って直視したくないと背後の気配からじりじりと離れる。
「おい、どこ行くんだ。バトルならこっちだろ」
「あ~いや、ちょっとヒロを助けに……」
「ん?」
あんまり顔を直視されると気づかれかねないため顔を背けながら言うエミは構うなよと苛立ちが隠せない。しかしユーリは気にせずそれについてきた。
「まさかとは思うがヒロのやつ、罠にでもはめられたか?」
「さあ……」
「まあどうせケニスの仕業だろ。で、場所は?」
ヒロのいるであろう石造りの倉庫までユーリは当然のようについてきて、エミは扉を叩いてヒロに声をかける。
「ヒロ、いる?」
「いるー!」
ドンドンと内側から叩く音とともに声がして、どうやってあけるかとエミは錠前を持ち上げて思案する。
無理やり開けるのは手持ちに頼めばできなくはないが壊していいものかという葛藤。使用人に鍵を貰おうにもケニスの仕業だった場合そもそもシアンを負けさせる目的でどこまでが共犯かもわからない。このことを話した時点でシアンを任せられない!と難癖つけられる可能性すらある。
「どうし……」
「お前ら扉から離れとけ」
悩んでいるとユーリがあくびをしながらいつの間にか出したルカリオが構え、エミがとっさに引いた瞬間扉を破壊して中で腰を抜かしたヒロが見えた。なぜかいるユーリを不思議に思いつつもヒロはしれっとした様子のユーリに声を荒げる。
「あ、危ないじゃないですか!」
「下がってろって言ったぞ」
「ていうか何当然のように壊してんの!?」
エミも扉が無残な姿になったことを思わずツッコミ、当の本人のユーリとルカリオは照れくさそうにシンクロした動きをした。
「手が滑ったんだぞ」
「ばうっ!」
飼い主によく似ている瞬間を垣間見た。二人は呆れつつ早く戻ろうと立ち上がって倉庫から離れる。
「チッ、自由時間はここまでか……。おい、ヒロ」
時計を見ながら困ったように舌打ちしたユーリはヒロを呼び止めて言う。
「俺の手持ちがうっかり倉庫の扉を壊したとご両親に伝えておいてくれ。あとで弁償するとな」
そう言い残して「時間がない……」とぼやいたユーリは足早に去っていった。
「……気使ってくれたのかな?」
「多分」
ヒロやエミが壊すとあとあと問題なので泥をかぶってくれたんだろうと解釈し、二人は急いでバトルを行う裏庭へと駆け足で向かった。
――――――――
「このっ……!」
「そんなかっかするなってー」
ヒロが戻ってくるまでの時間稼ぎ。イオトは飄々としながらフユミとのバトルを長引かせていた。
冬の姿のメブキジカやトリミアンも出たが、イオトが全てアークで捌き切り、無傷のアークによる翻弄でろくに決着がつかなかったためイライラしたフユミはユキノオーを繰り出して決着をつけようと猛攻を繰り返す。
アークはすべてをかわしてはいるがあられによるダメージが蓄積されているのと、決着をつけるとヒロが間に合わないことを恐れて逃げ腰だ。
「私を舐めた報いを受けるといい! ユキノオー! ふぶきで決めなさい!」
食らったらさすがにまずいか、とイオトが眉根を寄せた瞬間、ヒロとエミが視界に映り、即座にアークとアイコンタクトをしてあられ吹きすさぶ中ふぶきとほぼ同時にねっぷうを繰り出した。
フユミが「なっ!?」と目を見開き、正面からぶつかりあったふぶきとねっぷうは後者が競り勝ち、ユキノオーはねっぷうの直撃を食らって倒れてしまった。
フユミもねっぷうから逃げるように後ずさるがあられの影響か足を滑らせ、転んでしまい、倒れる直前にイオトがそれを受け止めてみせる。
「はい、俺の勝ち。怪我してない?」
「し、してません!」
「そう。ならよかった。かわいい子に怪我させるのは気が引けるからさ」
バランスを崩さないよう、腰を抱くようにして引き寄せるイオトにフユミは耳まで真っ赤になりイオトを睨む。
受け止められて恥ずかしいのか突き飛ばすようにイオトから離れるとアキコの後ろに隠れてしまった。
「ねーわですよ」
「ないわー」
「引くわー」
「俺勝ったのになんでそんな風に言われんの?」
シアンを筆頭にヒロとエミも若干引いた様子で責めてくる。イオトは納得いかないという様子でアークを見たがアークも「どうかと思う」みたいな顔をしており、味方がいない。
「女の子に怪我させたくないのは普通だろ?」
「恥ずかしいセリフ付きじゃなければまだいいんですけどね」
シアンの辛辣なセリフにエミも神妙に頷いておりバトルの準備をしたヒロも小声で「お前、そういうところだぞ」と呟いた。
「なにかっこつけてんだか。大した顔でもないくせに」
「お前、散々待たせておいてなんで俺にきついわけ?」
ちゃんと場をもたせてやったのにというイオトの抗議はエミに届かず当然のようにスルーされる。
次のバトルはヒロとナツエ。戻ってきたヒロを見てケニスが露骨に嫌そうな顔をしていたが今それを言ったところで面倒なだけなので後回しにし、ヒロは手持ちをしっかり確認してフィールドに立った。
――――――――
トラブルはあったもののどうにかバトルには間に合い、ナツエさんと向き合っている。
ファイトルールで俺の場合、接近されたら終わりなので遠距離に対応できるやつがいいのでチルを出し、相手の動向を伺うことにした。ナツエさんが初手に出してきたのは夏の姿のメブキジカ。
相性もいいのでそのまま押し切ってやろうとチルに指示しようとした次の瞬間、メブキジカのとっしんがチルではなく俺へと向かってきてチルが羽毛でガードしつつメブキジカを抑えた。間一髪といったところでナツエさんの姿が見えない事に気づいてとっさに右に避けると背後からナツエさんによる一撃をすんでのところで躱し、チルのおかげで一旦距離を取ったもののナツエさんの表情に気の抜けたものはなく、真剣そのものだ。
「お行儀よくバトルしてるやつだけを相手にするんじゃないですよねー、旅って。特に今危ないですしー」
先程の一撃、モップを片手に殴りかかってきたナツエさんは柄の部分を俺に向けた。
「ま、私みたいなメイド、かるーく倒してもらわないと困りますんでー」
メブキジカを戻したと思ったらすぐさま飛び出てきたのがマシェード。一瞬で悟った。これファイトルールだとやばい。
「キノコのほうし!」
トレーナーが眠ったらもう終わりと言っても過言ではない。チルのしんぴのまもりでほうしの効果を防ぎ、ナツエさんからも距離を取り続けて反撃のチャンスを伺うしかない。
ナツエさんもほうしの範囲内では思うように動けないだろうし、そうだ、音系の技なら――
「チル、チャームボイス!」
「マシェード、種ボンバー!」
種ボンバー? なんだそれと思うと同時にチルにめがけて大量のタネがぶつけられ、いくつかははたき落としたりかわしたもののすべては処理できず、図鑑を確認するとチルの特性がふみんになっていたり、やどりぎのタネの効果が出ていることに気づいた。
タネばくだんになやみのタネややどりぎのタネを混ぜ込んだってことかよずりぃ!
しんぴのまもりはねむりや毒などの状態異常とこんらんを防げるがそれ以外の状態“変化”は防げない。このままだと消耗激しくて負ける。チルを下げたほうがいいのは頭でわかっているがナツエさんがそれを許さない。せめてファイトルールじゃなければ――
「ちるぅ!」
チルが俺を見て何かを伝えようとしている。
ゴッドバードなら仕留められるかもしれないが隙が大きすぎる上にその間に俺に攻撃されたら危険すぎる。やっぱ鍛えないと駄目かなー!ケイにも筋トレ習慣付けろって言われたし本腰入れないと駄目かなー!
もう骨折はごめんだがうだうだしていても好転しない。ならばとチルに乗ってともに特攻を仕掛ける。
「おっとぉ? マシェード! ムーンフォ――」
「チル、頼んだ!」
ヨツハの教え技で得たはがねのつばさ、使うタイミングなんてそうそうないと思っていたが今ならいける。
ムーンフォースを出す前のマシェードにはがねのつばさがヒットし、チルから飛び降りた俺はナツエさんの背後に着地して一発蹴りを入れ、一本取った形になる。実践ではもっとここからだろうが今回のルール上はこれで勝ちだ。
「おやおや。負けちゃったかー」
やれやれと肩を竦めたナツエさんはモップの柄を肩に乗せ、にこっと笑う。
「ま、長引くと厄介だからって判断したところはいいんじゃない? うちは好きだよ、そういう思い切りの良さ」
多分褒められたと素直に受け取っていい、よな? 実際長引いても戻しても面倒になるのは見えていた。ドーラと入れ替えようとも考えたもののその隙にナツエさんが本体叩きに来ただろうし。
ともあれ、あっさり決着をつけられてよかった。俺だけぐだぐだ長引くのも格好悪いし。
「ヒロ君ナイスですよ! あとはボクがばっちり決めるだけです!」
『それが一番心配なんだよなぁ』
三人揃って同じ不安が声に出た。
シアンの実力がどの程度メイドさんに通じるのか見当もつかない。しかも相手がリーダー格っぽいアキコさんだし。
「全力でやれば多分きっとなんとかなるです!」
だめかもしれないなコレ。
アキコさんとシアンが向かい合い、両者真剣な表情を浮かべ、開始の合図を待つ。
「ほな、お嬢様。お覚悟」
アキコさんのどこか試すような口ぶりを両断するようにシアンは大ぶりでボールを放った。
次の話はちょっとだけキャラまとめとか設定とか人気投票の結果とかです。