ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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男として生きている提督。

決して正義など背負わない。

彼を応援してくださいね。


第4話 帰るところの条件

「つつッ、冷やすと疼きやがる」

まだチタン製の眼窩カバーが馴染んでいないことを自覚する提督だった。

 

彼は罪のない艦娘に無駄な殺生をさせたくなかった。

思わず飛び出した自分を笑ってしまう。

 

何もできなかったときと変わらない。

むしろ流れ弾で負傷するなど、もはや減退しているのではないか。

見殺しにしてしまった艦娘を思い出す。

眼球を失ったくらいでは贖罪にならないと思えて苛立ちさえ覚えていた。

 

「今日もどうにか生き延びた。

 感謝すべきだろうが・・・・、死に損ないだな」

ふと食堂を見回した時、艦娘たちに混じって深海棲艦たちも鍋をつついているのが見えた。

自分の負傷以降、この鎮守府に当たり前のように入り浸っているらしい。

ふと、このまま彼女たちを説得して、講和できないか。

せめて、正式な休戦あるいは非戦闘海路(シーレーン)の確保はできないものか。

 

おそらく深海棲艦()も一枚岩ではないだろう。

ここに来ている深海棲艦たちとは別の派閥が、戦闘を継続しては意味がない。

そう考えると次の手が思いつかなかった。

 

提督は、ブツブツと独り言を繰り返しながら、私室に入った。

外から戻ると中尉と別れて、食堂には向かわなかった。

一応、支配者として艦娘たちに睨みを効かせることができたので、もう必要はない。

きっと艦娘たちは、不快な緊張から解き放たれ、せいせいしていることだろう。

「これでいい。

 理不尽な命令には従わず、生き残ってくれれば海軍のためになる

 そして・・・・」

 

提督は、ふと独り言を止めた。

まだ灯りを点けていない私室に気配を感じた。

(間違いなく誰かいる)

よく気配というが、狭い部屋では、体温のような匂いのようなモノを常人でも感じ取ることはできる。

 

提督は、誰何する。

「誰だ、何の用だ?」

「「「・・・・」」」

返事はなかった。

窓から断続的に注がれる灯台の射光で、畳床に敷かれた布団がもぞもぞ動くのが観察できた。

 

「高雄、お前か?」

提督は、普通の艦娘は私室に用事はないと思っていた。

 

「このヤロー、何が高雄だよ!」

「てーとく!どういうことですか!」

「あ、あの、もう高雄さんとそういう関係なんですか!」

ガバッと布団が跳ね上げられ中から3隻が現れ、目の前に立っていた。

 

「生巡、眼鏡、ブキ(吹雪)、お前たち何してんだ。

 それもパンツ一丁で」

3隻はどういうわけか下しかつけていなかった。

正確には靴下は履いたままというマニアックな姿だった。

仄明るい部屋で艦影と声から、艦娘が誰なのか認識できた。

 

「うっ、そ、それはだな・・・・」

天龍は俯いてしまった。

「ちょ、ちょっと様子を見に来ただけです」

大淀は軽く握った手を口元に当てて黙ってしまった。

「お、お布団をあっためておきました!」

吹雪はへんな踊りを踊るように両手で何かを表そうとした。

 

次の瞬間、私室のドアが力強く開かれた。

そのドアを背にしていた提督は、カタパルトから放たれるように吹っ飛んだ。

「ウオッ!」

「にゃ!」

「ヒャッ!」

「キャッ!」

 

突然飛んできた提督に抱き着かれるよう形になった3隻。

 

「て、て、て、提督ゥ?」

「ほほー。

 先を越されたな」

ドアを開けたのは、長門だった。

彼女は今、若干の後悔をしていた。

眼前には、3隻を同時に蹂躙している提督の姿があった。

 

「ウー、ウー。

 小型艦艇が好みだったの?

 戦艦じゃダメなの?」

意外にも長門が取り乱していた。

 

「ちょっと待て。

 長門、お前の勘違いだ。

 俺は、今吹っ飛ばされたんだぞ」

提督の言葉には説得力がなかった。

左手は生巡に抱きしめられ、顔は振り向くまで眼鏡に抱え込まれ、右手は駆逐艦の股間に挟み込まれていた。

 

「まあ、落ち着け」

武蔵は、長門を宥めるようにその肩に手を置いた。

 

「武蔵、お前は判っているようだ。

 長門、旗艦経験が泣くぞ、冷静になれ」

提督は、武蔵の落ち着きを見て、このまま場が収まると思ってホッとした。

 

「何、3隻程度すぐに撃沈される。

 我々が殿(しんがり)を務めれば済むことだ。

 焦ることはない、夜はこれからだ」

フフフンと微笑んだ武蔵の目はハートマークだった。

 

「ちょっと待てー」

提督の叫びが営舎まで届くのだった。

 

 = = = = =

 

「ニヒヒ、ブラックな提督も大変だね、中佐」

「ったく。

 俺としたことが」

畳床に座り、中尉と差し向えで酒を飲む提督。

 

ついさっき、中尉が私室にやってきて艦娘たちを諭して追い出した。

 

「中佐、もう艦娘ちゃんたちを食べちゃったら?」

「貴官、とんでもないこと言うな。

 提督が備品に手を出すのは、風紀違反だぞ。

 それに艦娘が無抵抗なわけないだろ。

 溜まりに溜まった怒りで、はらわたを引きずり出されるまであるな、クヒヒ」

提督は、殺されることに自信があった。

そうなるように仕向けてきたことを疑わなかった。

 

「まあ主砲で内臓が・・・・なっちゃうかもね」

「だろう?

 そこいらにぶちまけて、一巻の終わりだ」

「ぶちまけられて、1かん(・・)逝っちゃうよね」

提督は、中尉の言葉が何かズレているような気がした。

 

彼女の表情が気になった。

「貴官、急にニヨニヨし始めて、どうした?」

「小官の情報だと深海ちゃんたちからも狙われてるよ」

「司令官だからな、当然だろう」

「困ったもんだね、ニシシ」

「ああ、そうだな、キヒヒ」

ふたりはくいっと呷って、盃を空にするとお互い注ぎ合った。




中尉が大接近?

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