ブラック提督は、据え膳をどうする!
彼を応援してくださいね。
時間は少し遡る。
畳床で飲み交わしていた中尉の様子がおかしい。
ペースが速くなってきた上に何やらブツブツとつぶやいていた。
「貴官、どうした?
気分が悪くなってきたか?」
「え?
う、ううん、大丈夫。
ねぇ中佐、初めて会った時のこと覚えてる?」
中尉が何の前触れもなくしんみりとなった。
「?・・・・覚えてるぞ。
任官でいきなり情報部に配属されたのは驚きだったからな」
「やっぱりかぁ」
怪訝に包まれた俺をほったらかしにして、中尉は落胆を隠さなかった。
「わたしが兵学校の3号生だった時だよ」
「うーん、そのくらいの時には江田島には行ったことはなかったはずだが・・」
「パパの名代で親戚のところに行った時なんだよ」
「なるほど、それならあるか。
てか、そういわれても記憶がない」
俺が頭を傾げている姿を見て、中尉はクツクツと笑う。
「中佐、直後の大怪我でやっぱり記憶がなかったんだね」
中尉は予想していた口ぶりだった。
「あの日、突然の襲撃で路上にへたり込んでたのを助けてくれたんだよ。
あと護衛の戦艦を庇ってくれたし」
中尉の言葉は、深海棲艦襲撃と庇いきれなかった戦艦を思い出させた。
「庇いきれてねえ。
無様に俺のほうが助けられたんだ」
戦艦の最後の言葉を思い出す。
「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの・・か」
「それ、彼女とのお別れの・・」
無意識に口にしていた艦娘の言葉。
「そうか、覚悟の上での出撃だったんだね」
中尉は何か汲み取るように頷いた。
「アレを覚悟というものか?
仕方がないって、諦めてるじゃないか」
「彼女は諦めていないよ。
陸に留まって迎撃することだってできたんだから」
彼女たちは一緒に過ごして心を通わせていたのかもしれない。
「わたしは、あの時初めて人が肉片になるところを見て、竦んじゃったけどね。
彼女をかばいに行った中佐は、勇敢だなって思った」
彼女はタハハと笑った後、上目遣いで身を乗り出してきた。
「おっと、申請漏れがあったな。
貴官、ちょっと席を外すぞ」
「はーい」
中尉はえらく素直に返事をした。
= = = = =
「貴官、なぜそこに座る?」
「えー、だってー、寂しくて死んじゃうよぉ」
「だから、なぜそこに座る?」
「ここは小官の専用エリアであります。
それから中佐は小官を抱き枕に使っても問題ありません」
横向きに膝に座る中尉、腕を俺の首に巻き付けてくる。
「ささ、右手の邪魔にならぬよう留意しておりますので申請書をどうぞ」
言葉とは裏腹に上半身を捩って上目遣いで覗き込んでくる中尉。
追いかけて執務室に入ってきたときには、制服と中の
中尉を見下ろすと胸元が露わになっていた。
≪コンコン≫
ドアがノックされた。
『貴官、早く離れなさい』
『艦娘ちゃんたちにブラックなところをアピールできるよ』
『仕方ねぇな』
どうも言いくるめられた。
「入れ」
入室を許すと荒潮が入ってきた。
= = = = =
荒潮が退出すると中尉の積極性が加速する。
「ちゅーさー、チューぅ」
「こらこら、やめろ。
あんまり揶揄うなら、泣かすぞ」
「やったー、いい声で鳴くから、前戯はやさしくしてね」
すかさず中尉の頭に手刀を打ち込む。
「いったーい。
もう、そういうプレイはイヤですってばぁ」
頭を摩りながら抗議の視線を向けてくる中尉に諫める視線で返す。
「中佐、わたしの気持ちわかってますよね」
「いーや、わからん。
そもそもだ、貴官は選り取り見取りなんだぞ。
それこそ将来有望な士官がいるだろ」
中尉の言葉に少しぎくりとさせられた。
酔っているから勢いで言っているのは判っているつもりだ。
このまま流されては退役後の生活設計に絶対響く。
「貴官、一時の快楽に身を任せるとヤケドするぞ」
「その時は責任取ってくれたらいいですよ。
パパに挨拶してもらえばオッケーだよ」
小首をかしげてニッコリ微笑む中尉。
たぶん冗談だ。
冗談だと思いたい自分がいることに俺は薄々気づかされていた。
ブラック提督(自称)は殊の外奥手でした