中尉の涙を顧みず、所有物の回収に向かいます。
彼を応援してくださいね。
デッキに4隻の駆逐艦を搭載し、高速艇が海上を疾走していた。
その上空を戦闘機が通過していく。
数機は高速艇に合わせるように旋回しながら待機している。
提督は戦闘機に無線機で呼びかける。
「お前ら、ヤバくなったらさっさと帰れよ。
俺はお前らを見捨てるからな、キヒヒ」
(直掩を先に返したら、提督自身が最も危険じゃないですか。
どうしようもないお方ですね)
駆逐艦たちは思った。
「秋月、照月、涼月、初月。
お前ら、俺を護れ。
うまくやったヤツは、贔屓してやるぞ、キヒヒ」
「司令、お任せください♪」
「提督よ、僕は<
秋月の明解な回答は解り易いが、初月の回答は意味不明だった。
(初月のやつ、緊張のし過ぎで混乱しているのか?)
提督はまあいいかと思考を止めた。
些末なことに気をまわしている場合ではない。
もしかすると色々な意味で鎮守府最大の危機になる可能性があったからだ。
= = = = =
≪鎮守府、こちら第一艦隊、帰投中。
敵航空兵力は後退の模様、オクレ≫
「全艦、帰投。
命令に変更はない」
≪気を付けますから、高雄さんたちの救援に行かせてください、オクレ≫
「全艦帰投です」
≪提督、お願いします、オクレ≫
「全艦帰投してください」
≪一航戦に任せてください、オクレ≫
「全艦帰投してください」
≪・・・・通信終了≫
= = = = =
龍田は秘書艦の当番であることが不愉快だった。
提督に
「龍田、違うよ」
「そうでしょうか?」
海軍士官が龍田の気持ちを見通したように否定すると龍田は尋ねた。
「中佐は自分の留守を
「であれば、提督が出なくてもよろしいかと・・・・」
艦娘なら深海棲艦に対抗できる。
提督は鎮守府から的確に指示を出せるのだからそのほうが合理的なのだ。
「逆、中佐は自分の代わりを誰かに任せられても、みんなの代わりはいないと思ってるから」
「そんな・・」
龍田は中尉の言葉が入ってこなかった。
鎮守府各地に同艦がいる。
代わりどころか同じ艦を何だと考えているのか判らない。
戦力を考えれば、より充実した艦隊構成が可能でもある。
「中佐って、寂しがりやでさ、艦娘ちゃんたち以外にみんなとの思い出も減らしたくないんだよ。アホね」
貶す言葉を口にしていても逆に褒めているように見えた。
「んふふふ~、アホですね~♪
帰ってきたら、揶揄ってあげますね~」
= = = = =
「そろそろだ、お前ら、へばりつけ。
なぁに訓練通りしてりゃ、瞬きの間に片付くぜ、クヒヒ」
提督の言葉をきっかけに駆逐艦たちは船縁にへばりつくように姿勢を低くした。
特殊部隊の侵入作戦に倣って提督が考案した高速侵攻戦術だ。
艦娘の艦隊運動には個体の速力の差が全体に影響する。
艦隊ごと高速艇に乗せてしまえばその差はなくなり、移動速度も格段に速くなる。
一見、誰でも思いつきそうな発想だが、従来の艦艇では喫水が深く雷撃で撃沈されるため、採用されなかった。
「戦闘機から報告、左舷、雷跡あり、数4」
左舷の前に位置する秋月の報告と同時に高速艇のコンプレッサーが唸りを上げた。
海面すれすれまで深度を上げてきた魚雷が高速艇に襲いかかる。
「跳べ!」
高速艇は水しぶきを上げながらわずかだが海面から離れた。
提督は右後方に離れていく雷跡を見送った。
「先を急ぐぞ」
「司令、潜水棲艦はこのまま放置するのですか?」
「秋月、お前はこの
「は、いえ」
「こいつの健脚なら空の連中以外は追い付けねえよ。
バカなこと言ったお前、戻ったら
「は、はい!
秋月、謹んで
提督は気づかなかった。
秋月以外の駆逐艦が周囲の監視を怠らず戦術を思考し始めたことに。
救助用の高速艇が対空駆逐艦4隻分の火力を備えた高機動高速戦闘艦になりました。
独立愚連艦隊の運命は。