慣れているみたいです。
彼を応援してくださいね。
施設の正門で身分照会を受けてから、軍用車を駐車場に乗り入れる。
担当下士官が、駆け寄ってくる。
「そちらは、将官用ですので」
「ああ、そうか。
あっちでいいかな?」
俺は、建物から離れた第2駐車場の方を指さした。
「畏れ入ります」
下士官は敬礼を向けてきた。
軽く敬礼を返して、軍用車を移動させる。
ここは、海軍将校クラブ。
軍区統括鎮守府なら、鎮守府内に設置される。
軍区の端の方になると物理的に距離が離れているため、利用しづらい提督も居たりする。
簡単に言えば、鎮守府の場所で不公平が生じて不満が出てくる。
そういう不満を少しでも解消するための出張所みたいなものだ。
ラウンジ、レストラン、パブ、会議室、ジム、プール、公園などの施設を利用できる。
それも将校に限られる。
施設内にも格差があり、階級によって、使える設備が変わってくる。
特に高級軍人になると特権もついてくる。
何名か同行できるようになる。
要するに依怙贔屓して、派閥を形成したりも可能ということだ。
本人は、退官後は民間企業に天下り。
まあ、軍隊も上に行くほど、お役所みたいなところということだ。
所定の場所に軍用車を駐車し、運転中、脱いでいた第一種軍装に袖を通す。
いつもは、面倒なので提督の徽章である飾緒は外している。
今日は、知人とも会うので飾緒をつけてきた。
これでどこから見ても提督とわかるのだ。
クルマを後にして、クラブ入り口へ歩いていく。
さっきの下士官と目が合った。
軽く敬礼すると下士官の顔がどんどん青ざめていく。
雷(気象現象)に打たれたように身体が跳ねて敬礼をする。
実は、俺は提督なので、特別に将官用駐車場を使ってもいい身分なのだが、
軍用車に乗ってきたので遠慮した。
「か、か、か、か、閣下ぁー!失礼いたしましたぁーーーー!」
「貴様ぁー、官姓名はぁ」
「は! じ、自分はー」
「冗談だよ。
アメちゃん、食べるか?」
俺は、ポケットから【飴】を取り出し、下士官に渡しながら、聞いてみた。
「俺みたいな、提督は珍しいか?」
「はい! い、いえ! 失礼いたしました!」
「何をもって、判断した?」
「は!提督の方々は、ご自分で運転なさいませんし、もう少し年上のように感じております」
「しょぼい軍用車を自分で運転するような若造は、提督には見えないと」
「い、いえ、決してそのような。
はっ!もしかして、閣下は【元帥の懐刀】と」
「はぁ?誰だよ、そんな恥ずかしぃヤツ」
「い、いえ。自分の勘違いでありましたぁー!」
「だよなぁー。
俺は、たまたま、提督になれた佐官だよ。
鎮守府も小さい」
俺はもう一つ下士官に【飴】を渡す。
「このアメちゃんは、ワイロじゃないからな。
わかっているね」
「は、はい!任務、誠にお疲れさまです!」
どうも勘違いされている。
仕方ないか、ついこの間まで、ここで活動していたしな。
実は、
平謝りの下士官を後にして、将校クラブの扉をくぐる。
飾緒を見せびらかしにジムに行くか。
= = = = =
ジムに入るとすぐに受付のカウンターがある。
見知った顔が居て、向こうもこっちに気が付いた。
「中佐、こんにちは。これからトレーニ・・・・提督?」
「よう。
そうだよ、提督だよ」
彼は、ここのインストラクターをしている少尉。
俺は、彼の疑問形に答える。
「ご昇進おめでとうございます!」
「昇進はしてねえよ。代将扱いで提督さ」
自分のことのように喜ぶ少尉にくぎを刺す。
なかなかの好青年なので、俺は軍人にしておくのは勿体ないと思っている。
「中佐の声がしたようだけど?」
奥の事務所から、若い女性の声がする。
こっちの声も知っている。
「俺だ俺だ」
「中佐ぁ。お久しぶりじゃないですかぁ」
「1週間も経ってないはずだぞ。
お前は、キャバ嬢か?」
「ひっどーい!
中佐のことだから、艦娘ちゃんたちを好き放題しているんじゃないですかぁ?」
「よくわかったなぁ。
もう全員、俺にメロメロだぜ」
「中佐、中身がオヤジ」
「なかなか、痛いところを突いてくるな」
俺が来たのが知れたら
任職以前の様子を少し書こうと思います。