色々考えているようです。
彼を応援してくださいね。
「うーん、柄はこの向きでいいか」
俺は、割と真剣に駆逐艦のスカートを眺めている。
裂け目に布地を当てて思案中。
この布地がアレなのだ。
淡い桜色の生地に濃い桜色で図柄がプリントされている。
その図柄が海軍の徽章<桜に錨>だから、買っておいた。
本来の用途は別にあるのだが、どうせハギレが残ることになる。
有効活用するのに都合がよかった。
ショップの人間がいうには、スカート類は使われて尻の部分がテカるくらいが高く売れるとか。
駆逐艦のスカートは、ちょうどいい具合じゃないかと思う。
知ってるわけではないが。
裂けた折りヒダの一か所だけ当て布で補修するとアクセントになって、いいんじゃないかと考えた。
艦娘の女の子っぽいところに食いつくやつがいるんじゃないか。
取らぬ狸のなんとやらで運針する。
軍隊生活では、支給品の補修は自分でする。
俺は割と器用な方なので、縫物は苦にならなかったのが幸いした。
30分ほどでできた。
縫い目は均等、ほぼ直線、布地も撚れず、図柄の位置も思った通り。
納得のいく仕上がりだった。
(後は、眼鏡に写真を撮らせたら、揃えて持ちこみゃ金になるってか、ククク)
いい副収入があったものだ。
副業ではないので、業務上問題ない。
艦娘も重複しているから、鎮守府がバレなければ、誰がやったかも知られない。
「てーとく」
「うん、何だ?」
「・・そのスカートがそんなにお気に入りなんですか?」
「いや。
いや、そうじゃないな。
お気に入りというより、貴重品だな、クヒヒ」
『わたしも破こうかな』
「なんか言ったか?」
「わたしのユニホームも新調できるんですよね?」
「ああ、ただ月次予算の関係で逐次になるがな、全員分新調だ。
眼鏡、古いユニホームなんだが、着用した写真を撮っておくように」
「はぁ」
「なんだよ、その頭の悪そうな返事は」
「な! 着用したところの写真の必要性が判らなかっただけです!」
(ぐ、なかなか鋭いな)
「服だけだと同型艦の区別がつきにくいからだ」
「そうでしょうか?」
「ああ、そうだとも。
少なくとも俺が識別できねえよ。
悪いか! あー、ムカついてきた。
眼鏡、お前だけ新調取りやめ!」
「そんなぁ」
= = = = =
「吹雪さんはいる?」
「あ、はい。
大淀さん、何でしょうか?」
「これを返しておくわね」
大淀は、畳まれたスカートを吹雪に見せる。
「これは?」
「あなたのよ」
スカートを受け取った吹雪は、スカートを念入りに観察する。
「変なことをしないか見張っておいたから、大丈夫よ」
「そうですか、良かったー」
駆逐艦の表情は明るくなった。
セーラー服にバスタオル姿だった駆逐艦は、さっそくスカートを穿いた。
気になった裂けたところに目をやる。
繕ってあった。
紺色のスカートに一本だけ桜色のプリーツ。
海軍の徽章が入っていて、一目で気に入った。
「わー、いいなぁ」
「かわいいっぽい」
食堂にいた駆逐艦たちは、盛り上がった。
「大淀さん、ありがとうございます」
「残念だけど、わたしじゃないのよ」
「え?」
「あの
食堂の空気が一瞬で白けた。
「・・・・」
「どうする?破棄してもいいわよ」
「いえ。
このまま使います」
「そう。
わかったわ」
ひとりの駆逐艦の中で、提督の株が急騰していた。
(大事にします)
ゲス根性でやったことが、裏目(?)に出てしまったようです。
これを知ったら、ただでは済まないのが何人かいるのですが、
どうなることか?