ハメてはいませんが、不機嫌になる艦娘
彼を応援してくださいね。
「くっそー、記憶がねぇ」
「き、貴様ー、わたしに何をしたー!」
「何をしたのかもな」
「わ、わたしは覚えていないんだぞー。
どうしてくれるー!」
「て、てーとく。
せ、責任とってください!」
「なんだよ、奴隷としてこき使って欲しいのかぁ?」
「提督。
あ、あの、きちんとできていましたでしょうか」
「全く記憶がない」
艦娘たちが朝食を終えた後に執務室に押しかけてきた。
記憶がないからどうしようもない。
艦娘たちも記憶がないようだ。
具体的に説明しろと言ってもはぐらかす。
= = = = =
「なあ、眼鏡」
「何でしょうか?」
「お前は、かろうじて覚えているんじゃないのか?」
「・・・・だったら、責任とってくれるんですか?」
「何すればいいんだ?」
「そ、それは、その・・・・」
眼鏡は顔を逸らしたまま、動かなくなった。
「分かった。
俺のできることなら、やってやろう。
で、どうなったんだ?」
「あ、あの。
・・・・そ、それはですね」
「それは?」
「それは・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「眼鏡、お前も覚えていないんだな」
「ギクッ、ヒュッヒュ、ヒュー」
眼鏡の奴、口笛が吹けていない。
「・・・・めーがーねー」
眼鏡は、事務用の机を執務室に持ち込んでいる。
その机は執務机に並べて置いている。
ちょっと手を伸ばすと眼鏡に手が届く。
で、俺はたぶん嘘を吐いた眼鏡の髪の毛を掴む。
これは悪手だと知っている。
しかし、俺みたいな心の狭い人間が艦娘たちの信頼を得られるわけがない。
そうなると権力、恐怖を植え付けるかで、抗う気持ちを削いでおかないと我が身が危ない。
我ながら、見苦しい限りだ。
「い、痛い。
すみません、すみません。
覚えていません。
で、でも、そ、その、てーとく」
言葉少なに身体を縮こませたままだった。
「バーカ、嘘を吐くなら、もっとうまくやれ。
まあ、
何をどうすればいいかわからんだろうな」
掴む手を放し、眼鏡の頭を小突く。
頭を押さえ、恨めしそうに睨んでくる眼鏡。
「そうそう、その眼だ。
美人だと、様になるから、得だよな」
軽口を叩いてはみせたが、
「う、うーーー、そんなお世辞に誤魔化されませんから」
口角をヒクヒクさせる。
見方によっては、にやけているように見えた。
「・・・・眼鏡、お前はもうこの部屋で仕事しなくていいぞ」
「え!」
「ほら、アレだ。
これから、俺は艦娘をとっかえひっかえ連れ込む。
その時にお前が仕事してっと、邪魔なんだよ」
言ってしまった。
どうして、こんなことを言ったのだろう。
コイツと一緒にしてしまっても気を使う必要もないのに、悟られてはいけない。
悟られてはいけない。
「おっと、間違いだったな。
お前も一緒にすればいいんだ」
そうだ、俺を憎め。
なれ合いじゃ無力な人間といつまでもやって行けない。
人間は、特に男は、概ね我儘だ、俺みたいに。
近隣のイケメンみたいなヤツはそうそういない。
提督の身辺調査をして、大本営には報告している。
度が過ぎると配置転換が起きる。
ただ、人格だけで務まらないのも事実。
だから、俺でも提督として着任できた。
元帥や中将は、ほんと甘ちゃんだ。
人を見る目がない。
= = = = =
眼鏡は、昼飯を食いに行った。
俺は、私室で針仕事をしていた。
ここの
知られたら、舐められるからな。
「ふふ、悪ガキどもめ。
おっさんを舐めるんじゃねえぞ。
うーん、中尉の分も作らないとな。
あいつ、なんでか、俺が構わないと中将に言いつけるっていうもんな。
年頃の女の子だったら、手製の手鏡入れとかはどうかな?」
せっせと運針する提督には、威厳もカッコよさもなかった。
執務室攻防戦は、停戦です。
鎮守府機能再開に向けて動き始めす。