行き違いが何をもたらすか
彼を応援してくださいね。
「中尉殿、昔の提督をご存じなんですか?」
「よく知ってるっぽい?」
「他の鎮守府でも同じなんですか?」
珍客に興味津々提督の過去を質問する艦娘たち。
「はいはい、中佐のことは知ってること教えてあげるよぉ。
まずはぁ、好みのタイプだけどぉ、見境ない」
≪≪えーーーーー!≫≫
「それから----」
中尉の言葉を聞き洩らさないように艦娘たちは集中する。
その中に耳を象のようにしている数隻の艦娘が混じっていた。
= = = = =
世界は軍縮に向かっていた。
俺は、卒業すると大佐まで出世できると噂されていた海軍兵学校を卒業した。
そのまま海軍で過ごしていた。
たまたま御召艦への乗艦勤務がきっかけで、中将(現元帥)に目をつけられた。
そのころは、まだ初心だった俺は、陛下をお迎えする準備のとき、水兵たちを励ましながら、率先して甲板掃除をしていたのが気に入ったとされている。
そのまま何もなければ、中佐うまくいけば大佐で退役。
軍人恩給で余生が送れるはずだった。
ある日、生体兵器の開発と同時期に現れた深海棲艦で、戦争ではない情勢に世界は変化した。
従来の兵器では、
獲物に襲い掛かる狼の群のような攻撃になすすべもなく艦船が沈められる。
対艦ミサイルでは、深海棲艦は的には小さ過ぎ、艦砲では砲塔旋回が追い付かず、それ以上に回避され、通用しなかった。
航空兵力も侮れず、
新たな軍事ドクトリンが構築され、投入されたのが生体兵器<艦娘>たちだった。
彼女たちは、同格の深海棲艦と渡り合うことができ、出没した敵兵力を押し返すことができた。
艦娘たちを運用できる思考の柔軟さが求められ、海軍組織に否応なしに変革がもたらされた。
海岸線に深海棲艦が来襲し、地上にも被害がもたらされるようになってくると各地に大小の鎮守府が建設され、提督が任命されるようになった。
艦娘と言っても、人の思考をすること、1体あたりのコストから、例外があるものの将官クラスが提督(鎮守府司令官)を務めていた。
俺が実家に帰っていた時、その町が深海棲艦の襲撃に曝された。
攻撃を防げるわけではなかったが、海に駆け付けできる限り海軍への状況報告を試みた。
目の前に海へ視線を向けて立つ少女がいた。
そこに深海棲艦の航空機が来襲する。
咄嗟に少女に飛びつき庇う。
背中に衝撃が走り、撃たれたことを自覚した。
艦娘開発の副産物で機銃程度は防ぎきる制服は開発されていて、頭部に被弾しなかったおかげで助かった。
しかし、次に聞こえてきたサイレンに似た音で、血が凍った。
急降下爆撃の咆哮は、正確に向かってきた。
一発の爆弾でも被弾すると制服は耐えきれず、生身の人間では肉が裂けるだろう。
運悪く、いや今では、感心してもいいくらい正確な爆撃で肉が裂けるだけで済んだ。
「こ、こは、危険、だ。
早、く、逃げる・・んだ」
痛みを感じなかった代わりに、意識が混濁し、ひどく寒い。
彼女は自分の上から、俺を静かに横に降ろし俺の手を取り、自分の頬の当てた。
「ごめんなさい。
わたしが、もう少し早く艤装を展開していれば、こんなことには」
そういうと俺の手を静かに置くと立ち上がって艤装を展開してみせた。
対空機銃で航空機を追い払う。
そして、彼女は海に目を向けた。
彼女は、俺を見ようとしなかった。
「行、く、な。
きゅう、えんを、待とう。
きゅう、え、ん」
俺は、身体の自由が利かなくなっていた。
彼女は、反応しなかった。
「い、くな」
「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの」
彼女の言葉に、迷いは無かった。
彼女は、颯爽と敵に立ち向かう。
単艦で特攻していった彼女の爆炎が水平線に巻きあがるのが見えた。
ブラックな思い出でした。
艦娘は、自分が囮になることを選びました。
「わたしたちしか戦えないから、仕方がないの」