中尉から艦娘たちは、情報を得ました。
彼を応援してくださいね。
俺は、食堂の入口の前で深呼吸している。
うっかり心にしまっていたことを口走ったため、いたたまれなくなって私室に逃げ込む。
しかし、覚悟を決め、転身してここに立つ。
何人かは、聞いていたはず。
顔を合わせず、声を聞かないのがマシだと言い切った俺が、ノコノコ食堂に顔を出す。
厚顔無恥というか、無神経というか、情けない話だ。
情けないのは自覚しているが、恥はかきたくないという我儘には自信がある。
もう一度深呼吸。
≪ガラッ≫
「きゃ、てーとく。
あー、びっくりしたぁ。
中尉がお待ちですよ」
(眼鏡よ、俺の方が、突然戸が開いたことで、心臓がバクバク鳴っているぞ)
「中佐、みんなに【待て】ってしておいたから」
「おう、そうか。
よき理解者だな」
「フフン。
それくらい気が利かないと、良き妻にはなれませんからね」
ふんすと鼻を鳴らす中尉。
覚悟を決めて食堂に入る。
見回すと満員で、机が一つ空席になっていた。
その机を指さす中尉が、手招きしている。
元はと言えば、俺が誘ったので、当たり前に中尉の隣に座る。
「中佐、ふたりきりで食べる?わたしは、誰か同席して欲しいな」
中尉は、コクンと首を傾げて覗き込んでくる。
「そうだな。
大食いの4人、同席しろ」
この人選には、思惑があった。
間宮が料理を作るのには限界がある。
人数を絞り込んだうえで、皆がお預け状態で、先に食事をするという特別待遇。
依怙贔屓をして、艦娘を平等に扱わないと見えるだろう。
大食いたちは、駆逐艦たちを大事に思っている。
俺と同席するよりは、後で、駆逐艦たちと食事をする方が嬉しいはず。
(今までに勘違いしているヤツがいても【騙されるところだった】と思うだろう)
俺への信頼の目を摘んでおくのに好手と言える。
= = = = =
『中尉殿の言ったとおりだ』
『提督、優しいっぽい』
『いくら間宮さんでも一度にたくさん作れないもんね』
艦娘たちは、中尉からの事前情報で状況を理解した。
≪くーーー≫
誰かの腹の虫が鳴った。
「おいおい、客の前でみっともないヤツがいるなぁー。
解体してやろうか?」
「すまん、わたしだ。
久しぶりにお粥以外を食べられるので、つい、な」
戦艦が、手を挙げて白状してきた。
「なんだよ、皆がお預け状態なのに待ち遠しいのかよ」
素直な態度が気になったので、嫌味を混ぜて言ってやった。
「提督が初めて
喜んで、鎮守府の艦娘を代表して同席させていただく」
(そう来たか。
やり返す方法を心得てるってことか)
「間宮、遅いぞ。
俺は執務室に戻るからな」
「そうはいかない」
「だぞ」
隣りに座るサイドテールの正規空母に腕を掴まれ、中尉にも肘の関節を抑えられ痛い。
(俺は、この席に誘導されたのか!)
動けないところに間宮が人数分を料理を持ってきた。
「わー、美味しそう」
中尉が子供みたいに喜んでいた。
「中尉どのリクエストのハンバーグです。
召し上がってくださいね」
その言葉は、なぜか俺に向けられているように聞こえた。
間宮は、微笑んでいた。
≪≪いただきます!≫≫
俺も腕を解放されて、おとなしく食事をすることにした。
目の前のハンバーグは、掛け値なしに美味そうだ。
「うん、美味い」
思わず言ってしまった。
厨房に戻って支度をしている間宮が泣いているのを数人の艦娘たちが目撃した。
= = = = =
「ごちそうさまでした。
間宮、また来るから、お願いしていいかな」
「はい、喜んで」
食事を終えた中尉は、間宮に次の約束を取り付けていた。
「仕事、さぼるなよ。
次来たら、これがないと食わせないからな」
そういって、俺は中尉に食券を渡す。
「中佐、ナニコレ?」
「食券だよ。
これを出さないヤツは、元帥でもダメだからな」
「えー、ケチー」
「今、財政立て直し中で、本当なら有償だが、特別に俺のおごりだ。
ありがたく思え。
間宮、食券の無い部外者には、飯出すなよ」
俺はブラックでケチだ。
中尉の提督への理解は、相当なものでした。