ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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提督は、ばれていないと思っています。

間抜けなのに提督やってます。

彼を応援してくださいね。


第48話 送られ狼

「そろそろ送って行こう」

「えー、今日泊って行くー。

 みんなとお話ししたいよぉ」

「中尉、外泊は、中将に迷惑がかかるぞ」

 

「それを言われると考えちゃうなぁ。

 中佐、わたしを誘拐したことにしない?」

(コイツ、とんでもないことを言いやがる)

「じゃあ、艦娘の誰かが拉致したことにするか。

 犯人役は、解体になるけどな」

見回すと駆逐艦は身を寄せ合って視線から逃れようとしている。

 

「仕方ないかぁ」

「仕方ないのかよ!」

 

 = = = = =

 

「中佐、これから予定ある?」

「どうした、寄り道か?」

夜の湾岸道路を走行(はし)らせていた時だった。

 

「うーん、小官、疲れたからどこかで休憩、痛い!」

俺は、助手席の中尉の側頭部に手刀を打ち込んでいた。

 

「もう、中将(パパ)に言いつけてやる!」

中尉が、プンプンとわざとらしくふくれてみせてくる。

 

「俺から中将に叱ってもらうように電話するわ!」

「それは勘弁」

年頃の娘の悪ふざけにしては度が過ぎる。

他に誰かが居たら、ここまでではないのだが。

 

「中佐、結婚しないの?」

「相手が居れば、結婚するんだがな。

 見てくれが大したことない上に、甲斐性もないしな。

 出会いにも事を欠くありさまだ。

 てか、貴官、抉るようなこと聞くなよ」

「そうか。

 相手、もういないのか。

 クフ」

 

どこか嬉しそうな中尉に大人げなくムカついた。

「なんだよ。

 嬉しそうに」

「仕方ないなー。

 わたしがもらってあげる」

「まるでイヌ・ネコ扱いだな」

(中将のところでは、そういう認識なのだろうか?)

 

「違うよ。

 継いで欲しいんだって」

「誰が?」

中将(パパ)

「何を」

「ウチの家系」

「貴官には、軍医の兄弟がいたと思うが?」

「軍人の息子が欲しいんだって。

 わたしもそろそろ寿退役(ケッコン)したいなって」

中尉は、キャッと照れながら顔を隠す。

その仕草は、容姿にふさわしく女らしい

 

「そうか。

 他所を当たってくれ」

「どうしてよぉ」

「もうすぐ到着だからだ。

 与太話もおしまい」

軍区統括鎮守府がもう目と鼻の先。

 

「与太話って」

「中将の話が出た時点で判るって、キヒヒ」

「・・・・バレてたのね。

 もうちょっと、乗り気になってくれてもいいじゃない。

 プンプン」

「現実味のない話に乗り気も何もないだろう」

 

鎮守府の通用門脇にクルマを停める。

「めんどくさいから、ここまでな」

「部屋まで送ってよぉ」

「入府手続きのハードルを上げてどうすんだよ。

 ほら、行け」

中尉を降車するように促す。

 

「はーい。

 じゃ、またね」

中尉は、クルマを降りると小さく手を振ってきた。

 

「おう。

 ジムに顔を出すわ」

俺は手のひらをヒラヒラさせて返した。

 

≪バンッ≫

中尉が軍用車のドアを閉める。

その音は、結構響いた。

その音を確認しようと通用門の詰め所から憲兵が覗いてきた。

 

サーチライトが軍用車を照らし出した。

 

詰め所の中で憲兵が電話で何かを話していた。

サーチライトが興味を失くしたように、周辺を探り始める。

 

中尉が入門するのを見届けて、クルマを出発させた。

 

 = = = = =

 

「中尉殿って、気さくな方でしたね」

「偉い人がパパっぽい」

「スタイルもよかった」

 

「てーとくのこと、良く知っていましたね」

「ふん、胸はオレの方が大きいけどな」

「胸が大きい方が好みかどうかは、わからないぞ」

戦艦の一言が、艦娘たちの心に少なからず動揺を与えた瞬間だった。




たびたび話に出てくる中将。

海軍は、主流の穏健派と過激派に分裂しかかっています。

元帥、中将は穏健派。

上級大将、大将は過激派。

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