きっと騙されているのでしょう。
彼を応援してくださいね。
提督(中佐)は、執務室を抜け、午後担当のパトロール艦隊を見送っていた。
「貴官はそういうところは、治した方がいいぞ」
後ろから声がした。
「トイレで用を足すことは治しようがありませんよ」
そう、ここは、男性用トイレだ。
よほどのことがない限り、艦娘たちには用のない施設。
「ずっと海を見ていたようだが?」
「ここからの眺めが結構気に入っているだけです」
「素直でないな」
「何のことでしょう」
俺は少将と連れションをする羽目になった。
変に焦って、出なかった。
= = = = =
「そうですか。
みなさんが見えなくなるまで、窓から見ていたのですね」
赤城は、哨戒編隊からの電信を受信していた。
「加賀さん、出撃するなら、一航戦としてですよ」
「赤城さん・・・・。
手ごわいですよ」
「望むところです、うふふっ♪」
= = = = =
「みんな、無事に帰ってきてね」
中尉は、執務室から艦隊を見送っていた。
≪コンコン≫
「どうぞ」
「お食事の用意ができました」
大淀がゲストを呼びにやってきた。
「ありがとう。
でも、少将が戻ってこないんだ・」
「すまん、すまん」
中尉が言い終わる前に大淀の後ろに少将が立っていた。
「では、ご案内します」
大淀は、お辞儀をするとゲストふたりの前を歩きだす。
「少将、中佐は居ましたか?」
「ああ、居たぞ。
海を眺めて、すっきりしていたな」
「奥様にセクハラされたって、電話しますよ」
中尉はスマホを取り出し、少将の自宅の番号を表示した。
「ちょ、ちょっと待て。
娘同然の貴官にそんなことをするわけないだろ」
「反抗期です」
スマホを持ったままにじり寄る中尉。
「いやいや、ウチの娘でさえ、そこまででは、なかったぞ」
「おねえちゃんは、きっとファザコンなんです。
世の中の娘は、父親の天敵といってもいいんです」
(先輩、苦労してたんだな)
少将は、末っ子が娘という家族構成の怖さを知った。
「クスッ、人間もなかなか大変ですね」
大淀は、少し緊張が和らいだ。
= = = = =
食堂にはゲス
規模の大きい鎮守府と違い、特別な部屋はない。
厨房から離れたテーブルに清潔なクロスがかけられているだけの質素なものだ。
「うん、中佐らしい」
「そうだな」
付き合いの長いものだけが解るもてなしの気持ち。
少将と中尉は席に着く。
中佐が食堂に入ってくるのが見えた。
真新しい第一種軍装を着ていた。
提督の証である飾緒は付けていなかった。
これも中佐の気持ちだ。
中尉が同席するので、士官の食事会に落としどころを持ってきた。
判っていたのか、少将は最初から飾緒は付けていなかった。
伊良湖と鳳翔がテーブルに料理を持ってくる。
前菜を鳳翔が、主菜を間宮が、伊良湖がデザートを担当した。
「食材は大したことはないし、俺が同席していますが、料理の腕は保証します」
気の置けない仲間の食事会は始まった。
= = = = =
「敵艦隊発見、我敵艦二遭遇ス、我敵艦二遭遇ス」
鎮守府再稼働後、最初の悪夢が産み落とされる。
航空攻撃、初期雷撃で始まった戦闘は、一方的に敵戦力をそぎ落としていった。
= = = = =
哨戒任務の1編隊が、哨戒最遠海域で深海棲艦の戦艦級を再び発見した。
刹那、戦いの幕が一方的に押し広げられる瞬間だった。
航空兵力妖精は、正規空母に<敵発見>を打電。
「提督!
敵艦発見。
戦闘に突入しました」
赤城が悲鳴に近い声で食堂に飛び込んできた。
「眼鏡、警報発令!
総員戦闘配置、周辺鎮守府に情報伝達!
直ちに航空支援出撃!
急げ!」
恐れていたことが起きた。
間違いがないか、繰り返し考える。
「了解!
警報発令!
総員戦闘配置、周辺鎮守府に情報伝達!
直ちに航空支援出撃します」
眼鏡が復唱する。
思わず眼鏡を抱きしめる。
「大丈夫だ。
今度は、誰も
眼鏡の微かな震えが止まった。
≪総員戦闘準備、総員戦闘準備、これは演習ではない、繰り返す、これは演習ではない≫
鎮守府は直ちに警戒態勢に入り、近隣鎮守府に警告する。
「提督、わたしが行こう」
武蔵が名乗り出る。
何もできない臆病な俺は、自らの震える手を噛む。
「いやダメだ。
俺が行く。
今のままじゃ、誰が行っても
単艦で艦隊並み戦力の深海棲艦です。