ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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状況は深刻です。

提督が出て行って、何ができるでしょう。

彼を応援してくださいね。


第16話 試み

(頼む、間に合ってくれ)

 

先行した、航空妖精がわずかに進路を変えて、離れて見えなくなった。

艦隊が移動しているとわかった。

(よし、逃げ回れ)

「こちら、レットゥング・アイン。

 我の進路指示、オクレ」

すぐに無線を飛ばす。

 

≪進路、南南西、会敵約10分後≫

「了解。

 発令、駆逐艦を護衛に空母前進、楔形陣形。

 戦艦、巡洋艦は盾として、被害担当。

 敵艦艇と遭遇した場合、鎮守府を放棄、少将の指示に従え、以上。

 ・・・・少将、もしもの時は、お願いします、オワリ」

 

俺は、後悔している。

パトロール艦たちに化物と遭遇しても【位置だけ把握したら逃げろ】と命令するべきだった。

 

これほど焦っている自分に驚いてもいる。

変われていなかった。

艦娘を彼女たち(・・・・)を自分の評価のために消費する覚悟ができていなかった。

 

道具を使い、手入れをし、やがて消耗する。

それは大事なことで、数ある正しい答のひとつだと思っている。

だから彼女たちと距離を置き、俺はただの使い手だと認識させておこうと考えてきた。

 

俺は彼女たちに生き延びる技量が備わるように思いつく限りを仕込んできた。

それでも艦娘が轟沈して(死んで)しまってたら、それは運が悪かったと思えるように。

 

しかし、実際には、脆い自信だった。

 

戦闘状態になったと聞いただけで、震えが止まらない。

小破さえも回避して欲しい、いや、回避しろ。

 

背中の鈍い疼きで、どっと冷や汗が噴き出す。

 

海上を60ノットで疾走していても遅く感じる。

(急げ、早く、早く、早く!)

 

 = = = = =

 

少し時間を遡る。

 

3人の将校が、ドックに向かっていた。

「中佐、貴様が出るというのは、アレか」

「はい、俺が行っても化物には勝てませんが、艦娘を連れて帰れますから」

少将は知っていた、中佐がかつて大本営に具申した計画を。

 

「・・・・」

中尉は、目を充血させて、無言でふたりについて来ている。

中佐はその様子に気が付いた。

「中尉、大丈夫。

 俺はブラック【憎まれっ子世に憚る】だ」

「・・・・」

中尉は、俺の軽口に反応しなかった。

 

「中尉、中佐は英雄願望を持っていない分、無茶はしない」

「嘘、うそ、ウソ、嘘よ!

 背中の傷は何!

 変な笑い方をしなくなっているのは、なぜですか!

 お願い、いかないで。

 聞いてくれないのは解っています。

 だけど、言わせて。

 いかないで、お願い、ウウウ・・」

「中尉」

心の内をぶちまけて俯いた中尉に掛ける言葉を俺は見つけられなかった。

 

ドックの隅に大型ボートが浮いている。

 

具申した計画、行方不明や著しい被害を被った艦娘を捜索、救難救助の専門の部隊の設立。

目の前のボートが、その実験船。

 

武装はない。

トリマラン(三胴船)でウォータージェット推進、船体の間の空間に空気を送り込み船体を浮上させる。

左右の空気を移動させると船体をバンクさせ高速のまま旋回できる。

海面が静かなら75ノット、深海棲艦の航空兵力以外からなら逃げ切れる。

 

これしかない。

 

そして実験船をこの場で操縦できるのは俺だけだ。

 

「行ってくる。

 情けない顔をするな。

 貴官らしくないぞ」

目に涙を溜めた中尉に笑いかける。

おそらく歪んだ笑顔だろう。

 

「・・・・」

中尉が目をつぶると、両頬を雫が伝う。

少し背伸びをして顎を上げてきた。

 

「おっさんを揶揄うんじゃない。

 そういうのは、好きになったイケメンとするもんだ」

俺は、中尉の頭をわしゃわしゃと撫でた後、振り向かずボートに乗り込む。

 

エンジンを始動させる。

低い唸るような排気音で、ある程度落ち着いた。

 

浮上用のエアポンプを起動させると喫水線が下がっていく。

魚雷の上を素通りできるかもしれない。

 

柄にもなく艦娘の無事を信じて、ドックから船を出港させた。

 

「いいのか、声を掛けなくて。

 あいつは言っても信じないかもしれないが」

「帰ってきたら、噛みついてやります」

少将は不器用な後輩たちが、幸せになるように祈りながら、制帽を振って中佐を見送る。




提督は、どのくらい間に合うでしょうか。
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