彼の野望からどんどん逸れていきます。
彼を応援してくださいね。
静かな海だった。
風も吹いていない。
浮遊物がなければ、ここで海戦があったとは思わないだろう。
しかし、爪痕は残っていた。
たも網で掬い(救い?)上げる。
弱っているがボートのデッキに降りるとトコトコと自力で歩いた。
方向は、それほど間違っていないはずだが、艦隊も深海棲艦もいなかった。
「こちら、レットゥング・アイン。
我の進路指示、オクレ」
返事がない。
「こちら、レットゥング・アイン。
我の進路指示、オクレ・・・・」
「こちら、レットゥング・アイン。
我の進路指示、オクレ」
繰り返し呼び出すも、返信がない。
(鎮守府を放棄したのか)
海流に流されているのに気が付いた。
水中のパラシュートアンカーのロープが張りつめている。
その先にチビたちじゃないチビが混じっていた。
深海棲艦艦載チビ、空中戦の末、海水浴をすることになったのだろう。
弱って沈んでいきそうなヤツを掬いあげる。
まだ元気の残っている個体が、離水できずに騒ぎ出す。
≪ヴボオオーーーンバシャシャーーン≫
海面に7.62x51mm NATO弾を叩きこむと水柱が上がる。
護身用の汎用機関銃で交渉を申し込む。
実際、効果があるかどうかわからなかった。
数百m先の標的に向ける銃弾を数m先に使用するのだから、弾き飛ばせる程度の効果はあるだろう。
「小官の権限で停戦を提案する。
異存なければ、応じてもらいたい。
応じない場合、貴君らの救助を中止する」
流線形やら丸っこいやら、異形のチビたちが静かになった。
「協力に感謝する」
俺はせっせとチビたちを掬う。
(次があれば、投網でも準備しておこうか?)
「こちら、レットゥング・アイン。
我の進路指示、オクレ」
チビたちを掬いながら、鎮守府との連絡を試みる。
≪ザッ・・ち・・じゅ・応・・・います・ザリ≫
(通信状況が悪いな。
電波が干渉しているのか?)
「こちら、レットゥング・アイン。
我の進路指示、オクレ」
チビたちも空母と通信しているようだが、うまく行っていないようだった。
そのうち、深(海棲艦艦載)チビたちが一方向に向きだした。
「お前たちの母艦がそっちにいるのか?」
深()チビたちとの意思疎通は、どの程度できているかわからない。
チビたちが頷いてくる。
こっちは会話ができるわけではないが、表情で判るような気がする。
「行ってみるか」
ボートから見える水平線は、10kmも離れていない。
海流に徐々に流され、会敵予想位置から逸れた事も考えられる。
チビたちが元の場所から流れてきたなら、確かめるしかない。
「残存者がもういないか、飛べるものは上空から確認しろ。
ここまでしたんだ、残すようなことはしない」
志願してきたチビと深チビの何機かを放り上げるとヨタヨタと滞空を始める。
「ビデオ持たせて、盗撮に使えそうだな」
空を見上げているとスネに激痛が走る。
チビたちが俺のスネをサンドバックのように殴る蹴るを繰り返していた。
「いい度胸だな」
汎用機関銃に手を伸ばすと妖精たちはデッキに張り付くように伏せた。
船体を破壊するわけにはいかない。
「お前ら、何やってんだよ」
チビたちと深チビたちをとにかく洗濯網に放り込んむ。
何やら抗議をしているようだ。
「フネから落ちても、引き返せねえぞ」
チビたちは黙った。
「どうだ、残存者はいたか?」
チビと深チビが指し示す。
最後の数深チビを掬い上げ、網に放り込むと確信したわけではないが、深チビたちの示す方角にボートを向ける。
数分後、海上でにらみ合う艦隊と深海棲艦戦艦級を見つけた。
「良かった。
全員、まだ生きてるな」
汎用機関銃を構えて、威嚇射撃の準備をする。
ふいに深海棲艦が魚雷を放った。
咄嗟に引き金を引き、入水前の魚雷に1秒で約20発の銃弾を叩きこむ。
炸裂しなかったものの、舵部に命中弾があり、魚雷は入水後迷走していった。
続けて、最大船速で戦艦級に向かう。
給弾ベルトの続く限り、深海棲艦の足元の先の海面に銃弾を撃ち続けた。
巻き起こる水柱は戦艦級が着弾を認識するに充分だった。
深海棲艦の眼前を掠めるように通過したときには、撃ち尽くした後だった。
ボートの舵を切り、船体をバンクさせながら信地旋回ばりで向きを変え、深海棲艦と対峙する。
クラッチを切り、ボートはアイドリング状態で浮遊する。
操舵稈で深海棲艦の後ろに回り込むようにボートをスライドさせながら、目の前の敵を観察する。
ニカッと笑うそいつには、見覚えがあった。
嗤う深海棲艦