深チビたちをチビ質にするのでしょうか?
彼を応援してくださいね。
ボートは、スライドする。
舵はなく、2系統のノズルで進む方向が変えられる。
今は船首を戦艦級に向けたまま回り込んでいる。
敵に曝す投影面積を減らすことと牽制しているつもりだが、あまり効果はないだろう。
目の前にいるのがこいつとは、正直驚きで思考がついてこない。
(いや、待てよ。
他人の空似ってこともある)
武装した尻尾がある。
(やっぱり、似ているだけか)
戦艦級から目を離さないようにしながら、銃を置き、救命浮環に漁師網をかぶせる。
深チビたちの入った毛布用の洗濯網を救命浮環に乗せて静かに海面に浮かせる。
ゆっくりと、あくまでゆっくりした動作で注意深く。
ボートの両舷逆進モードに切り替え、クラッチを繋く。
浮環を転覆させないように静かに後進してその場を離れる。
「・・・・」
戦艦級は、何も言わず、深チビのところに近づいて洗濯網を拾い上げる。
いつの間にか、ボートのデッキには、チビたちが整列し敬礼していた。
戦艦級は、ニカッと嗤い、答礼してきたが、尻尾が頭(?)をもたげるのが見えた。
(ヤバい!!)
アクセルをふかし、一気に加速し舵を切り船体をバンクさせる。
船首を振り回すように操船したら、両舷前進モードに切り替え大きく舵を切りながら、最大加速でその場を離れる。
後ろで巨大な水柱が上がり、充分危険だったことを再認識した。
そのまま戦艦級を軸に時計廻りで旋回する。
離れ過ぎないようにして、予測射撃の旋回が追い付かない船速で戦艦級の右舷をすり抜ける。
「お前ら!撤収だ、てっしゅーー!!
全速で逃げろ、逃げろ!」
俺は、艦娘たちを怒鳴りつけ、戦線離脱を命令する。
聞こえたのか艦娘たちが脱兎のごとく逃げ出した。
逃走を支援するために再び戦艦級へ進路を変える。
真正面に戦艦級の主砲が見えた。
進路を変えて躱す。
はずだった。
主砲は、艦娘たちに向けて発射されたものだった。
着弾位置を確認すると駆逐艦が一隻倒れている。
正確な艦砲射撃だった。
二射目は、直撃するかもしれない。
迷わず戦艦級に進路をとる。
「お前ら、道連れになったら、悪かったな、先に謝っとく」
当てることは可能だが、反撃されてすぐ終わるだろう。
今は、少しでもこちらの意図を測り知ろうとする時間を稼ぎにいく。
うまい具合に反撃はない。
そのまま間近をすり抜け、抜けた先で船体をバンクさせて超信地旋回で戦艦級の後ろを取る。
そう離れていない場所に銃を構えて俺が立つ。
戦艦級は、嗤いゆっくり振り向いてくる。
戦艦級越しに肩を借りながら逃げる駆逐艦が見えた。
(うまく逃げろよ。
思えば、まだ何にもしてねえな。
中尉怒るかな。
こんなことなら、間宮の料理をもっと食ってやるんだった)
ここまできたら神妙だった。
俺は、最期のやせ我慢で戦艦級の目を見続けた。
「チビたちよ、俺は地獄に行くから、お別れだ」
辞世の句が思いつかなかった。
チビたちがズボンのすそにしがみついてきた。
(ダメだ。
こいつらだけでも、助けないと)
そう思ったら、戦艦級の間近にゆっくりとボートを進めていた。
特に警戒もしない戦艦級。
そうだろう、人間一人どうということはない。
「頼む、今、こいつらだけは見逃してくれ。
俺は提督の職に就いている。
そちらにとって充分な戦果になるはずだ」
特に薄っぺらなプライドさえもないので土下座する。
船体に静かに波が当たり、ちゃぷちゃぷと音がする。
頬にひんやりとした感触がしたような気がした。
「マタ アオウ」
確かにそう聞こえた。
恐る恐る頭を上げると戦艦級の姿はなかった。
海原で見渡す範囲に艦影は、なかった。
しがみついてくるチビたちを指でくすぐってやった。
「艦娘たちには、内緒だぞ。
俺はブラックだからな」
チビたちが敬礼をしてくる。
俺は胡坐のまま、返礼する。
「さて、俺の鎮守府に帰るか」
土下座のまま、主砲で撃たれるはずだったのですが、続けます。
どうか皆さま、お付き合いください。