ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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命拾いをした提督。

敵戦艦の砲撃を受けた艦隊を追います。

彼を応援してくださいね。


第19話 がんばったゲスの本分

羅針盤(ジャイロ)を見ながら、進路は鎮守府に設定はしたが、直帰はできない。

 

砲撃で倒れていた駆逐艦は大丈夫だろうか。

動ける妖精(チビ)を飛ばし、捜索する。

 

今、提案した救難部隊の実地検証をしていることになる。

現場に向かう速度において回転翼機ほど速くはないが、高速艇ならほぼ同時に数隻の艦娘を救助でき一隻づつピックアップするより短時間で収容できること、荒天下でも運用できることが優位性だと思っている。

漁船よりも全高の低いこのボートは、敵に視認されにくい事で生存率を上げるはずだ。

 

捜索に出したチビが、帰還中の艦隊を見つけた。

鎮守府に直行せず、迂回進路を取っていた。

おそらくは、追跡されたとき、時間を稼ぎ少しでも鎮守府の防御態勢が整うようにと考えたか、鎮守府に侵攻する深海棲艦の側面から仕掛けるための進路とも考えられた。

 

彼女たちは、俺が鎮守府に出した命令を知らない。

だから、鎮守府にいる仲間のため、捨て駒になる覚悟で移動しているのだろう。

 

俺のことはともかく、仲間のことを考えろと言いたい。

お前らが犠牲になったら、その悲しみは計り知れないということを。

俺の命令に拘束されることなく、自分たちで生き残る道を探すようにと仕向けてきた。

 

まだ不充分だったということか。

さらに努力することを心に誓った。

(まずいな、目的が変わってきている。

 俺は悪党としても、もっと努力しないと)

 

俺は、私腹を肥やす努力を重ね、評価を上げて出世したい。

評価を上げるために何時(なんどき)でも冷静に命令の出せる覚悟のできた提督にならなければ。

それでいて艦娘たちが命令を無視してでも生還することが大事なのだ。

損失は、評価を下げるから。

 

日頃、戦艦や空母の、特に生巡の渋々従っている態度を見、懲罰(いやがらせ)が上塗りされて、俺は嫌悪の対象として確定している。

命令無視に踏み切るために何を仕込むべきか。

 

 = = = = =

 

「吹雪ちゃん、大丈夫っぽい?」

「うん、掠っただけだから。

 でも、調子が悪くて最高速度が出せない」

「提督、来てくれたね」

「わたしたちだけ逃げてきたけど、大丈夫かな」

「信じよう。

 だって、自分で言うくらいぶらっくな提督だよ。

 ピュアぶらっくだよ。

 すぐに逃げてるって」

「ぽい、ぽい」

 

「ううー、夜戦だったらこんなことには」

「川内さん、夜戦でも敵わないと思います!」

「鬼怒さん、言葉に棘がある」

「ていとくが来なかったら、あそこで全滅でしたよ」

「やっぱり?」

「やっぱり!」

「「提督(ていとく)、大丈夫だよね?」」

 

艦娘たちは、なぜか提督も無事だと思っていた。

生きていて欲しいと思う気持ちの裏返しかもしれない。

 

誰ともなく猛スピードの何かが追いかけてくることに気が付いた。

警戒し、艦砲射撃の準備をしたが、すぐにやめた。

待ち人(きた)る。

 

 = = = = =

 

「こうも早く追い付いたか。

 駆逐艦の足が遅くなっているというところか」

海面の乱反射の中に人影を見つけた。

 

洋上で人影と言えば、人類の制海権を揺さぶる今では、艦娘か深海棲艦だけとなっている。

ただ、南方の帆走カヌーなどに被害が出ていないので、標的対象には条件があるのだろう。

自分が見逃されたことに重ねて思案してみたが、艦娘たちの無事な姿を見て、答えを探すのを先送りにした。

 

 = = = = =

 

「全員、無事か?」

≪≪はい!≫≫

俺の問いかけに張りのある声で答えてきた。

問題はなさそうだ。

 

「訓練のおかげです!」

「逃げ足が早くなったっぽい!」

吹雪と夕立が、興奮気味に特訓の成果と強調する。

 

「元気そうだな。

 じゃあ、誰も見ていないし、お前たちの味見といこうか、クヒヒ」

ここでブラックなところを見せておかないと真面目(いいひと)な提督と思われてしまう。

 

≪≪ええーーーー!≫≫

(((みんなに見られながらは、恥ずかしい、でも)))

俺は、困惑を隠せない艦娘たちの反応に手ごたえを感じた。

 

「ていとく、あの・・・・」

「なんだ、鬼怒。

 逆らうのか、ああぁ?」

「いえ、日差しが強いので、日焼けしちゃったら、みんなにバレちゃうかなって。

 一緒に汗かいちゃったりは、別にいいんですけど!」

(こいつ、頭打ったのか?)

提督(ていとく)!順番はどうしたらいいですか?≫

(こいつら、攻撃でおかしくなったのか?)

 

俺は、艦娘たちを早く工作艦に診せる必要性を感じ、急いで鎮守府に帰ることにした。

 

全員の乗ったボートが帰投中、なぜか艦娘たちは不機嫌で一言もしゃべらず、話し掛けても無視される提督の姿があった。




全員、無事生還。

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