ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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とんでもない状況になりました。

提督がなぜ私室に移ったのか。

彼を応援してくださいね。


第28話 パパと呼びます

無人の執務室を見た大淀は、そのまま奥の扉に向かって駆けだし、私室に飛び込んだ。

 

すでに中将が畳床のそばに立っていたが、構わず提督(ゲス)を起こす。

 

「起きろ!このゲス野郎」

思わず叫んでしまった。

海軍上層部の人間(VIP)の目の前というのは非常にマズい。

気が付いたのは、叫んだ後だった。

 

しかし、叫ばずにはいられなかった。

 

昨日の晩、提督の本心が判ったから、おとなしく引き下がった。

以前のように律儀に紳士然と過ごしていると思っていた。

 

それが、中尉と武蔵と眠っている。

ふたり同時に愛したのだ。

自分でも咄嗟に叫んでしまったことが理解できない。

 

じわじわと感情が滲むような錯覚を感じた。

感情は入り混じっていたが、悲しみに傾いているのは意識した。

(誰かとするなら、一言言って欲しかった)

 

艦娘たちは、この鎮守府で誰が最初かと注目してきた。

 

それがふたりとも部外者という事態が、眼鏡の提督のモノ(おんな)になった自負を揺るがした。

提督に告白はしていないが、いずれは夜の相手を引き受けてもいいと思うようになっていたのに。

 

「あー、大淀。

 すまんが席を外してくれないか」

ささやかな依頼だった。

直ちに参謀本部次長の依頼は、実行された。

 

「あー、どうゆうことか、説明はできるんだろうな」

参謀本部次長(シブいおじさま)は、低く強い意志の籠った声で提督に尋ねた。

 

「ええ、話しましょう。

 ・・・・娘さんを俺にください」

提督は床に降りて、土下座して言った。

 

提督は考えた。

このままでは、銃殺される。

しかし、恋焦がれ、行為に及んだと思わせれば。

 

(中将は、俺を買いかぶり過ぎるところがある。

 順当に懲戒除隊か、提督を罷免される程度で済むかもしれない。

 しかし、中尉にしてしまうとは。

 中尉のことだ、抵抗しただろう。

 重い一撃を食らって記憶が飛んだかもな?

 じゃあ、武蔵はどうして居たんだ?)

提督の頭の中で、この事態の起承転結が浮かんでは消えていた。

 

「中佐」

布団の方から、声がした。

鼻と口を手で覆い、瞳を潤ませた中尉が座っていた。

 

「そうか。

 美鳳(みどり)(中尉)を」

中将(中尉パパ)は静かに言った。

 

「パパ、自分は幸せになるであります!」

布団の上で横座りの中尉が敬礼をする。

「ウム、しっかりな」

父は娘に答礼した。

 

「あれ?」

事態を飲み込めない提督は、固まっていた。

 

 = = = = =

 

「閣下、揶揄うのは勘弁してください」

執務室の応接椅子に座った提督は、コーヒーを飲みながらぼやく。

「どうだね、君も家庭を持っていいころだ。

 親バカを承知で、ウチの美鳳は優良物件だと思うが」

中将は、本気とも冗談ともとれる態度だった。

窓辺に立って海を見ているので表情は解らなかった。

 

中将は手に持ったカップを傾ける。

「お、なかなか美味いな」

「ありがとうございます」

「どこから仕入れたね?」

「えーっと・・・・、忘れました」

提督は答えられなかった。

余剰物資の横流し先から、送られたお中元とは口が裂けても言えない。

 

提督は知らなかった。

彼が横流しする医薬品が民間の病院に出回るおかげで、助かった命は数えきれない。

期限切れ寸前だとしても、軍用の医薬品は、生体兵器開発途上で生まれた新薬も多い。

中には、一部の患者にとっての特効薬が含まれる。

医師や患者、その家族が、感謝の気持ちを業者に託していた。

 

情報部は、提督(当時少佐)が怪しいと内偵したが、個人資産がほとんどなかった。

そのため、追及しないと決定し、大本営には報告していない。

 

≪カチャ≫

「おっはよー!」

「おはようございます」

上機嫌の中尉とどこか寂しそうな武蔵が着替えを済まして執務室に入ってきた。




武蔵はなぜか寂しそう。
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