ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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勝負を挑まれた提督。

勝敗は決しているように思えます。

彼を応援してくださいね。


第30話 パパ帰る(娘と一緒)<中編>

食堂は、緊張に包まれていた。

 

中尉と武蔵がわたしたちの(・・・・・・)提督と一夜を過ごした。

中尉はともかく野良艦娘の武蔵が贔屓されている。

そのことは、容易に受け入れがたかった。

 

確かに提督が着任したときの状況は受け入れがたかった。

しかし、その後は<懲罰>(ごほうび)を甘受して、恭順の姿勢を示した。

 

それなのに鎮守府の誰も提督から相手にされなかった。

自分たちのどこに非があったのか。

誘われたと思っても結果的に相手にされていない。

なぜだか腹立たしい。

 

 = = = = =

 

「中佐!何してるの!」

中尉が怒鳴った。

 

「何って、こうやってこいつらの希望を叶えてやってるだけだ、キヒヒ」

「グーを食らいなさい」

わざとらしい提督の顎に中尉の鉄拳が見舞われる。

 

脳を揺らされた提督は、その場で崩れた。

 

「美鳳、そんなことを続けてるとコイツは誘っても嘘だと思うぞ」

「だってぇー。

 艦娘ちゃんたちとは、スキンシップするのに、わたしはデートの誘いもなしなんだもん」

「早く孫の顔が見たいんだが」

「・・・・できちゃった婚でいい?」

「父親に聞くもんじゃない」

「痛い」

中尉は、中将のチョップを頭で受け止めていた。

 

 = = = = =

 

艦娘の何隻かは、自分でお尻を掴んでいた。

駆逐艦は首を(かし)げる。

 

2隻のバストの豊かな巡洋艦が頬を染め、なぜ心なしか何かを期待しているような表情をするのか今一理解できなかった。

 

間宮の方を見ると唇を尖らせ拗ねているように見えた。

 

 = = = = =

 

「提督、この際、はっきりしてください。

 わたしたちに何もする気はないんですか!」

大淀は、思わず言ってしまった。

 

失神から意識を戻した提督は、虚ろ、あるいは思いを巡らせている様子だった。

柔らかく温かだったが、彼は気付いていなかった。

息をのむ艦娘たち。

食堂は、提督の言葉を聞き洩らさないように静まりかえり、緊張さえ漂い始めた時だった。

 

「何もしねえわけねえだろ。

 お前らが泣き叫ぼうが、やりたい放題に決まってんだよ。

 せいぜい身体を洗って待ってるんだな、キヒヒ」

(どうよ、中将の前だから、何もしないと言い逃れると思ったんだろうが、当てが外れただろ)

 

「提督、早速だが、わたしが引き受けよう」

その言葉で完全に意識を取り戻した提督は固まった。

それまで、失神からうっすらと覚めた提督に膝枕を提供してきた長門が、温かみの籠った笑顔を向けていた。

「な、何言ってやがる。

 お前なんざ、100年早いんだよ」

 

「中佐ぁ」

呆れる中尉。

「貴官、相変わらず、この手の状況判断ができない男だな」

同じく呆れながらも父親の顔を見せる中将。

 

「しょ、小官は、ブラックでして、こんなことは日常茶飯事でして・・・・」

もうグダグダでブレまくった言葉を並べる中佐に、中尉が助け船を出す。

「ハイハイ、中将の前だから、みんな品行方正でお願いね。

 そろそろ、わたしたち帰るから」

「美鳳、まだ少しくらいなら、いいんだぞ」

中尉パパは、娘を想って、言葉をかけた。

 

「大丈夫、中佐が【僕がお嬢さんを幸せにします】って言ってたし」

「中尉、俺のセリフじゃないようだが」

明らかに記憶と違う言葉を聞いて、中佐はやんわりと否定した。

 

「中佐、ウチの娘がそれほど気に入らないのかね」

中将の表情は、誰が見ても不機嫌そうに見えた。

「閣下、おっしゃっていることが小官には理解できないのですが・・」

 

中将にオロオロと身振り手振りで言い訳をする提督。

それを見た艦娘たちは、少なくともその姿を情けないとは思っていなかった。

艦娘たちが敵わなかった戦艦級を退けた提督(・・)の胆力を知っている今では。

 

中将護衛の艦娘たちは、相変わらず中佐の身の回りで見られる光景をほほえましく眺めていた。

 

軽い溜息をついて、厨房で昼食の仕込みを始める間宮だったが、その口はもう尖っていなかった。




すべてはピュアでブラックな提督に告白させるための包囲網が分厚くなってきました。

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