いたずら好きな提督。
彼を応援してくださいね。
よしよし、日が落ちる前に乾きそうだ。
干した布団と洗いたてのシーツの気持ちよさと言えば。
そういや、昨日は、ワクワクして眠れなかったんだよな。
機嫌がいい俺は、屋上の物干し場を後にした。
= = = = =
「長門さん、皆さん。
少ないですが、これを召し上がってください」
間宮が大皿を差し出す。
上には、懐紙が敷かれ、一口に切り分けられた羊羹が置かれていた。
「これは・・・・」
長門がある意味的外れの質問をしてしまった。
「あは、これは・・・・あの、・・・・」
間宮は答えなかった。
「ふむ、いただこう」
貴重な甘味を楊枝で刺し、口に運ぶ。
ムクムクと味わい、久しぶりの甘さを堪能した。
頬を何かが伝う。
「長門さん、どうしたんですか!」
「うん? どうかし・・・・どうしたんだ?」
長門は、自分が涙を流していたことに気が付いた。
他の戦艦や空母たちも同様だった。
駆逐艦たちに自分たちの食事や物資を回す毎日。
そのうえ弾薬もギリギリで出撃させられた毎日。
回復も悪臭のするぬるま湯に浸かるだけの毎日。
艦娘だ、空母だ、戦艦だと言っても、女の子には、辛すぎた。
いっそ、ほかのブラ鎮のように壊れてしまえば、楽だった。
しかし、彼女たちは、耐えてしまった。
壊れずに踏みとどまった。
そんな苦労を労うさっぱりした優しい甘さだった。
間宮は、その艦娘たちを嬉しそうに眺めていた。
= = = = =
「よう、ビッチ」
「提督、せめて眼鏡にしてください」
「おっ、お茶美味かったみたいだな、クヒヒ」
空になった湯のみを横目に<眼鏡>の顔を覗き込む。
巡洋艦は、目を逸らす。
「おやおや、羊羹はともかくチョッコレイツはどぉーしたのかなぁ」
ニヤニヤしながら、嘗め回すように<眼鏡>を見回す。
「クサッ!」
俺は思わず叫んだ!
「わたし!臭くなんかありません!」
顔を真っ赤にして反論する眼鏡巡洋艦。
「で、チョコは?」
「あわわわ」
俺が真顔で質問すると狼狽える眼鏡。
「まあいい、元々ワイロだしな、キヒヒ」
「うーーー」
「おー、ずいぶん片付いたじゃねえか、優秀、優秀」
「あ、あの、提督」
「何ィー?」
「わたし、臭いですか?」
「おー臭いぞぉ」
俺は、書類に目を通しながら、眼鏡に話しを合わせる。
「そうですか」
がっくりと机に手をつく眼鏡。
「お前くらいの年頃のヤツは、メスの匂いがプンプンするもんだ」
「え?・・・・それって?」
「メス臭い」
「な、何ですか、それぇ!」
「うるせえよぉ、これから俺は仕事だから、風呂でも入ってこい」
「は?」
「行け!グズ」
俺は眼鏡にキックした。
まともに入ったのか、正面から床に張り付くように倒れ込む眼鏡。
「ふぇーーーん」
泣きながら立ち上がる眼鏡。
「ああ、眼鏡、ヒトキュウマルマルに全員食堂に集合させろ。
食事と風呂は、集合時間だけ外すように通達しとけよ」
「・・・・・」
「復唱しろ」
二発目のキック炸裂。
面白いように二発目も決まった。
「ふぇーーーーん、復唱、えっぐっ、ヒトキュウマルマルに全員食堂に集合」
いじめられっ子のように泣きながら去っていく眼鏡。
俺は、柄にもなく思った。
(いじめっ子に負けるなよ。てか、俺か、キヒヒ)
「チョコレートは、駆逐艦あたりに分けてやったんだろうな」
掃除していない執務室の床に残る複数の足跡から名探偵【俺】は推理した。
巡洋艦<眼鏡>の災難は続きます。
それは、眠るところまで。