想いは、思い出は。
彼を応援してくださいね。
「今日は、ここまでだ」
制服を整える提督。
畳床には、ぐったりと重なり合う軽巡2隻。
「ったく。
お前たちは、少将麾下の艦娘という自覚を持てよ」
片膝を畳床に預け、文机に肘をつく提督は呆れ顔だった。
「くっ、やっぱり、敵わねえ」
「ちゅーさ、・・・・相変わらゲスです。
性的虐待です」
口では悪態をつきながら照れを隠しきれない2隻。
「いい声で鳴いてたよな、キヒヒ」
(久々に切れの良い虐待だったぜ)
「お前たちは、何度もおびき出されているのに、懲りねえな」
『ちゅうさは、相変わらずで・・、うるさいうるさい!次はぜってぇーオレが勝つからな!」
「そうです!次にはあなたの魔手に耐えて・・・・キ・して、ぉく・で、ぃか』
か細い小声から、大声で啖呵を切ってくる生巡’と鼻息が荒かったが萎んでいく眼鏡’。
眼鏡’に至っては、最後の方が聞こえないほど小声だった。
「わーった、わーった。
てか、もうおねだりかぁ?
クヒヒ、しつけーな。
次は、口が閉まらず、涎をながすことになるかもな、キヒヒ」
俺は、おそらくは醜い顔で、嗤ってやった。
ブラックな提督には、2隻は怯え、俯いて動かないように見えていた。
((・・だめ、服がこすれても声が出そう))
= = = = =
少将ズ艦娘2隻は、船台の斜面に立っていた。
パトロール艦隊以外の艦娘が見送りに集まっていた。
提督の鎮守府には、運転免許を持つ艦娘が居なかったため、自力で帰る運びとなった。
「まったく、ご苦労なこった。
少将と一緒に帰ってりゃ、楽だったのによ」
「べ、別にいいだろ。
たまには休みが欲しかったんだし、提督の見てる前じゃ、てめぇを痛めつけてやれねえからな」
なぜか耳まで赤くなっている生巡’。
「提督に送っていただくのは、ご迷惑をおかけすることになると思ったからです。
それに天龍さんと一緒にあなたを懲らしめないと気が済みませんでしたから」
「そうか、それで返り討ちに遭ってりゃ世話ねえな、残念だったよな。
メスの匂いが漂ってたぞ、クヒヒ」
「にゃにゃにゃ!そんなの想定内よ』
眼鏡の奥で目をグルグル回す眼鏡’、こっちも顔が真っ赤になっていた。
いつの間にか肩に座っていたチビたちが耳を引っ張る。
「おいおい、何だよ、いつの間に・・」
チビたちに促されて、後ろを振り向くと殺意をむき出しで俺を睨む艦娘たちだった。
(部外者いなくなるのを待っているってわけか)
少将ズ艦娘が出港の用意を整えた。
「空母、あいつらの直掩を出してやれ。
少将から預かった以上、無事に帰投させねえとな。
帰りは、パトロールに出ている連中に合わせて帰らせろ」
≪≪はい≫≫
空母たちが戦闘機のチビたちを出撃させた。
「じゃあな。
少将の役に立て」
提督が軽く敬礼する。
「「中佐」」
少将ズ艦娘が何か言いたげだった。
「早く行け。
チビたちの燃料がもったいねえだろ」
提督の言葉で萎れた艦娘2隻は、トボトボと歩くように出港する。
「もう持ち場を離れるんじゃねえぞ。
懲りずにまた来やがったら、セクハラ程度じゃ済ませねえからな、クヒヒ」
追い討ちかけるような言葉。
提督はその言葉で彼女たちが不愉快になり、鎮守府に戻って愚痴をこぼすだろうと思った。
(お前らは俺を憎む分だけ、少将の株が上がるってもんだ)
「うるせー、お前に何をされてもオレは怯まねえからな。
提督から許可もらったら、また来るから相手しろよ!」
「中佐の指図は受けませんから。
次はこちらが手加減しませんかねら。
女の子みたいに泣かせてあげますよーだ」
2隻は揃って、べーとばかりに舌を出してきた。
「ったく、懲りねぇヤツらだ。
さっさと帰れ」
提督は、呆れていた。
わざわざ苦痛を感じにやってくるというその神経が判らなかった。
「「言われなくても」」
今度はそっぽを向く2隻。
「まあいい。
気ぃ付けて帰れよ」
提督は、ヒラヒラと手を振り、踵を返して庁舎に戻っていく。
提督は見ていなかった。
口角を吊り上げ瞳を潤ませた2隻の顔を。
そして、2隻は鎮守府の艦娘たちに千切れんばかりに手を振り、スキップのように飛び跳ねるながら帰投していった。
鎮守府の艦娘たちは、提督のさりげない言葉の威力を知った。
鎮守府のお客さんは、皆帰っていきました。