格差が広がるブラック鎮守府
彼を応援してくださいね。
(ちくしょう。
イクにあんなことしやがって)
「天龍ちゃーん、イクちゃん、こんな事されてるわねー」
提督のセクハラを目の当たりにして、同型艦に後ろから鷲掴みで胸部装甲を弄ばれていてもそれどころではなかった生巡だった。
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「長門、止めないの?」
「・・・・」
「ちょっと」
「どうかした?」
長門が陸奥の呼びかけで戻ってきた。
伊19の仕草が彼女の可愛い好きの琴線に触れたようだ。
困ったものである。
= = = = =
「加賀さん、わたしたちも準備しましょうか?」
「・・わたしは、・・・・別に何でもないわ」
正規空母は、なぜか胸部艤装を解除する。
= = = = =
ここ執務室に居た艦娘の3分の1は、言い知れぬ感情を抱くに至っていた。
提督の横暴を許していいものか?いやダメだ!
提督が鎮守府の艦娘たちを自分のモノと宣言してから数日が過ぎた。
一部の艦娘への行われる直視できないような仕打ち。
許されるものではないことは明らか。
しかし誰も止められない。
言い知れぬ感情は、ないまぜになっていく。
衆目の中、伊19は、支配者の手にその身を委ね、その身を捩る以外になかった。
(((こんなことが許されていいものか!)))
【いつまで我慢すればいいのか?】誰もが考えていた。
すでに反乱がいつ起きても不思議ではない状態だった。
(((分け隔てなく、平等に横暴しなさいよ!!)))
(((まだ、恥ずかしいからお願いできないだけなのに!
艦娘の価値は決して胸部装甲の厚みだけじゃありません!)))
それなのに、それなのに。
ある特徴が共通する艦娘たちの心の叫びは、微かに艶の混じった伊19の悲鳴に隠れて、やはり提督には届かなかった。
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海軍司令長官の専用休息室では、二人の高級将官が重大問題で考えあぐねていた。
この日、日勤の開始時刻早々に大本営から正式の依頼があったことに起因する。
【民間放送の取材に協力して欲しい】
正式の依頼というのは形式だけで、実質非公式の命令とみなされる。
非公式の命令ということは特に問題はない。
しがらみもあるのが社会だから、珍しくない。
犯罪、背徳行為でなければ、引き受けることも持ちつ持たれつというもの。
が、今回の内容は、微妙だった。
<深海棲艦を単身生身で退けた提督の密着取材>
穏健派が過激派を牽制し、艦娘運用について主導権を握るための画策が仇となった。
「あの鎮守府に着任すると決まったときから、目をつけられていたのかもな」
「かもしれません。
情報部も一枚岩ではありませんから」
「しかし、ずいぶん早く広まったな。
報告書が上がってきたのは、さっきだぞ。
依頼の方が少し早いくらいだ」
「はあ、そのことですが、実は」
中将は、司令長官(元帥)に申し訳なさそうに話すことになる。
中尉(娘)が、中佐の帰還早々つぶやいてしまったため、将校クラブで話題になったのが発端だった。
勤務先の同僚が根掘り葉掘り聞いてくるのに事細かに解説したおかげで信憑性の高い情報として伝播した。
中尉が素直に褒め称えたため、中尉を狙っていた将校たちが悪だくみを巡らせる。
悪評やら風評やらであることないことで、ブラックな提督であると印象付けようとする。
それが本人を知る者たちの目に留まると輪をかけてブラックであることが書き込まれ、大炎上かと思われた。
<ほんと、ブラックだよねぇ ^^
それでね・・・・>
中尉の楽しそうな書き込みが続き、悪だくみ空振りに終わってしまう。
この後、将校クラブのスタッフとのやり取りは、続いていたが途切れることになった。
この途切れたことは、スタッフたちは【大人の時間】だと大きな勘違いをし、気を使って書きこみを終わりにした。
悪口を書き込んでいた将校たちは、突きつけられた事実(勘違い)に挫折を覚え夜を明かすことになった。
原因は艦娘の襲撃だったことは、中尉しか知らない真実だった。
中尉、本当にうれしかったのでしょうが、それが波乱の元に。