生き残ることはできるか?
彼を応援してくださいね。
「うーむ、俺って傍から軽そうに見えるのかぁ。
声も高めだし」
大本営へ出頭し戦果報告ののち、そのままTV番組の取材が始まった。
ありきたりの日常、勤務風景を収録され番組ができた。
今、その番組を見終わった。
「チクショー、ちらっとしか映ってねえ」
「・・・・か、顔が引きつっていました」
≪≪ワイワイガヤガヤ≫≫
テレビが食堂にしか置いていないので、パトロール艦隊をのぞく鎮守府の艦娘たちも一緒に番組を見て各々思うことを思ったり会話したりひとりごちたりで賑やかだった。
「提督、私が映ってしまってよかったのか?」
野良眼鏡戦艦が不安そうに尋ねる。
「番組の終わった後で心配するな。
お前は、この鎮守府預かりで保留中だ」
「うむ、ご配慮に感謝する。
気持ちと言ってはなんだが、どうだろう、そろそろ私の被害担当艦として性能を寝床で確認するというのは?」
≪≪ブ、ブーーーッ!!≫≫
お茶を啜っていた何隻かが盛大に噴き出した。
= = = = =
「ふーん、ブラック鎮守府の提督らしからぬ人間像か。
次の獲物はこいつにするか」
とある鎮守府でTV番組を見ていた1隻の艦娘が山積みの食料を抱えて厨房から出ていった。
= = = = =
≪おい!寝てんじゃねえよ≫
声が聞こえたら太腿に衝撃があった。
「ぎっ」
しゃべろうとして喉が渇いて声が出なかった。
髪が掴まれ顔を上げさせられる。
知らない顔だった。
姿勢を保っていられない。
≪オラ、提督さまに面見せろって≫
さらに髪が引っ張り上げられる。
(お願い、助けて)
誰でもいい、わたしたちを助けてください。
≪なんだぁ、艦娘が提督に逆らうのかぁ!あぁーー!≫
『動けません』
声にならない声しか出ない。
≪オラ、さぼってんじゃねえ。飯作れってえ≫
≪・・・・・・・・・きろって、おら、眠るんじゃねえ。
襲われたいのか、クヒヒ」
(わたし、眠っていたんだ)
執務室でふたりっきり、晩酌していたのを思い出す。
目の前には、とても
「提督、ありがとうございました」
思わず抱きついていた。
初めて逢った時のことを時々夢に見る。
口汚く怒鳴り、蹴りつけ、手荒に扱う男だった。
最初の印象は最悪でした。
でも落ち着き精神的に余裕ができてくると徐々に分かり始めます。
最初にこの方は、シンクの掃除をしてくれた。
雨水を濾して煮沸した水は腐り、洗う落としべき汚れもこびりつき調理器具はまともに使えない状態でした。
下水のような悪臭が漂って触れることも躊躇する状態だったのに。
振る舞いが粗野なのはこの方の演技だ。
何かの事情があるのだろう。
食堂でみんなにお粥を作った時、こぼさないように丁寧に掬っている。
提督自ら弱り切った艦娘たちにお粥を食べさせる。
その隠れた優しさは気が付かないほど小さな仕草。
そのあとは、自分でも不思議なくらい見てしまう。
風に揺れる寝ぐせ、ヒゲの剃り残し、見つけてしまった若白髪。
ひとり暮らしみたいな状態で身ぎれいにしている。
少しだらしなかったら、身の回りの世話をしてあげられるのに。
スキがないのは考えものです。
それほど大柄ではない提督の胸は、思ったより大きい。
トクントクンと鼓動が聞こえ、そのリズムが心地よく身体が温かくなっていくような気がする。
いつまでも聞いていたいように思えるが、その思いを振り払う。
「提督・・・・」
抱きつくのを止め、身を起こす。
彼の手をとって、自分の胸に押し当てる。
その手に自分の手を重ね、顔を上げてじっと彼の目を見つめる。
彼はわたしの目を覗き込んでくる。
わたしは目をつぶり、顎を上げて彼を待つ。
≪・・・・・・・・・きろって、おら、眠るんじゃねえ。
襲われたいのか、クヒヒ」
(えっ!えっ!今のも夢?)
わたしは提督の胡坐を枕にした状態で目が覚めた。
わたしは、すごく恥ずかしくなって、動かないまま狸寝入りに移行した。
(提督、間宮は無防備ですよ。
いろんなことをしても起きませんよ。
さあーーー来い!)
間宮の覚悟も空しく、提督に頭を撫でられ心地よいまま再び眠ってしまった。
次に目を覚ましたのは、畳床に敷かれた布団の中だった。
なぜか布団に潜り込む。
それから提督が起こしに来るまで、掛け布団がゆっくりと大きく上下していた。
そろそろ布団を干さないといけないかもしれません。