忍耐の限界に近づく状況。
彼を応援してくださいね。
「高雄以下8隻着任いたします♪」
「あ、ああ。
遠路ご苦労だった。
入渠と洗濯を済ませて待機してくれ」
(重巡と駆逐艦の配属なんか聞いていないぞ)
突然の来訪者に提督は、素が出てしまった。
「てーとく、なんか優しいお言葉ですね」
大淀のドスの効いた低い声だった。
提督ははっとする。
斜め後ろに控えていた大淀に目を向けた。
「なんだぁ?、眼鏡。
嫉妬かぁ?
いつからお前は俺の女になったんだぁ?」
慌ててブラックさを取り繕う。
併せて、眼鏡の細い首を鷲掴みにして、引き寄せ襟元の匂いを嗅いでみせた。
「相変わらずメス臭いヤツだ、クヒヒ」
ボディソープの微香が微かに混じって香る。
「ええ、そうですよ。
わたしはメス臭いですぅ。
お気に召さないなら、香水を支給してください」
大淀は、首を傾げ提督の頭に頬を任せる。
「うるせえよ、俺がお前の好みを知るわけねえだろうが。
さっさと解散だ!」
提督は、捨て台詞を残し、あわただしく去って行った。
眼鏡は、提督を見送り、着任したばかりの艦娘たちへと振り返る。
「ようこそ、ブラック鎮守府へ」
言葉の意味と裏腹に表情は、嬉々としていた。
= = = = =
「あ゛ーー、さっきのは失敗だったなぁ」
俺は、執務室で唸るような声を上げていた。
椅子に浅く座り、だらしなく背中を預け天井を見ている。
第一印象を悪くして、ダメ押しで反感を買うというのが基本戦略だ。
そうすれば、艦娘たちは俺を憎み、命令を無視して生き残ろうとする。
今までそれでうまくいっている。
再会した艦娘たちは、俺を狙っているのがよくわかる。
鋭い視線は、獲物を仕留めようとやる気満々いうことだ。
それでいい。
ゲスな俺を憎む分、ともに戦おうとする提督たちの戦力になる。
戦力の底上げをし、深海棲艦の戦力をはるかに上回ることで到達できる条件。
一日も早く達成すれば、犠牲は少なくて済む。
≪コンコン≫
「入れ」
不意にノックの音がする。
躊躇わず入室を許可する。
≪カチャ≫
「高雄、入ります」
着任したての重巡だった。
「どうした?」
「あ、あの・・、改めて着任のご挨拶をと考えまして」
「そうか。
適当に座れ。
あと、ドアを閉めろ」
「はい」
≪カチャ≫
重巡はスタスタと歩いてくる。
「失礼します」
提督のすぐわきで立ち止まり、提督の向きを自分に向けると膝に座る。
「あ、あの。
これからお付き合いすることになるので、優しくしてくださいね」
視線は逸らしたまま上着を脱ぎ始める重巡は、どこか手馴れているようだった。
「なかなかいい心がけだ。
かわいがってやろうか、キヒヒ」
提督は重巡を抱えて席から立ち上がる。
腰に回された腕に抱えられ、胸を押し付ける形になった重巡は、片手を口元に当て俯いた。
ボタンがはじき飛びそうなシャツの中には、豊満な二つの柔肉が詰まっている。
男女ともに、魅惑的に見える輪郭を形成する。
提督は重巡の手を引き、私室へのドアを開く。
「お前ら、そこで何をしている?」
俺の目の前には、そろそろ見慣れ始めた部屋が見えたはずだが、そうではなかった。
寝床、正確には布団が異様に盛り上がっている。
「えーと、これはだな。
万が一、先を越されたりするとだな」
潜んでいた艦娘たちが仲良く布団から顔だけ出した。
「この武蔵が被害担当艦としてだな」
「ふたりともいい加減本音を言った方がいいんじゃない?」
「てめぇに戦艦の相手は早ぇーてんだ。
先にオレの腰を砕いてからだぜ」
ビッグ7、眼鏡戦艦、生巡だった。
≪ダダダダ!バタンッ!≫
「いないと思ったら、やっぱり。
もうみんな部屋から出てください!」
私室のドアを蹴破るがごとく開け放ったのは、肩で息をする眼鏡だった。
「アラ、高雄サント手ヲオ繋ギニナッテイルノハ提督ジャアリマセンカ?」
壊れかかった自動人形のように歩いてくる大淀。
「お、大淀さん、わたし、わたしぃー」
ビビる提督の手を振り払い大淀に駆け寄る高雄。
自分より少し大柄な高雄を包み込むように抱きしめる大淀。
「大丈夫ですよ。
さあ、みなさんのいるところに行きましょうか。
みんなもですよ!」
提督をひとり残して、ぞろぞろと私室から出ていく艦娘たち。
最後に出る大淀が立ち止まり、振り向かずに言った。
「赤城さん、加賀さん」
≪カタン≫
クローゼットの戸がひとりでに開く。
中から2隻がトボトボと出てきて、大淀のわきを通って廊下に出る。
「てーとく・・・・、メッ!ですからね」
もう提督にとって安全なところが無くなったかもしれません。