無傷で帰る艦娘たち
彼を応援してくださいね。
「おいおい、せっかく勝ってるのに転身ってか?」
「なーんだ、ただのヘタレじゃないの?」
「なあなあ、姉御。
オレたちだけでぶっ叩きにいこうよぉ」
「だな」
= = = = =
「てーとく!艦娘が離脱しました!」
「・・どいつだ?」
「高雄以下8隻、新着のメンバーです」
「・・・・そうか」
「ご存じだったのですか、特命か何かでしたか?」
提督の態度に納得を見て取った大淀はあまり驚かなった。
「眼鏡、あいつらの転属辞令は確認できたか?」
「いいえ」
「そういうことだ。
意図は判らんが、連中がここに来たのは公式じゃない」
「では、脱走艦として追跡しますか?」
「放っておけ。
今は深海棲艦への対処が最優先だ。
損害を抑えれば、俺の評価になるからな、クフフ」
顔を歪めて下卑た笑みを浮かべる提督が居た。
「提督、おむすび召し上がってくださいね。
大淀さんも」
ここは食堂。
指令室はあったが、なぜか
食事、軽食に不自由がないので、作戦に専念できた。
間宮は、提督たちの様子を見ながら、戦況を聞きながら、仕込みをしているのだった。
いつもと違って自前の食事を準備できない提督は、おむすびに手を伸ばす。
「間宮、何笑ってやがる」
「そうですね。
提督がほっぺにお弁当をつけると思ったら、楽しくなってきました」
「ガキじゃねえんだ。
つけるわけねえだろ」
提督は、悪態をつくと一気に一つ目を胃袋に納めてしまった。
二つ目に手を伸ばした時に通信が入る。
「この周波数は、現在海軍で使用中です。
直ちに送信を中止しなさい」
大淀が、コールサインの無い通信に対応する。
片手におむすびを持ったまま、大真面目に話す姿は少し滑稽だった。
「テイトクニ、ツゲル。
キカンノカンムスヲ、ホウイシテイル。
キカントノ、コウショウヲコウ」
「眼鏡、代われ」
提督は、固まりかけた大淀からマイクを取り上げた。
間宮は嫌な予感を感じていた。
「交渉とは?」
「トリヒキガ、シタイ」
「ほう、面白そうだな」
「アリガタイ。
ゴソクロウネガウ」
「場所は判ってるだろってことか」
「フフフ、ハナシガ、ハヤイ」
「俺が行けば、包囲を止めるんだな」
「シンカイセイカンノ、メイヨニカケテ」
「了解した、しばらく待ってろ」
「
提督は、マイクのスイッチを切ると逡巡しているかに見えた。
「間宮、大急ぎで握り飯一つ、塩の濃いヤツ。
味方の呼応があるまで立てこもれ、持久戦だ」
「てーとく!
無茶です、無茶苦茶です!」
大淀は、思わず叫んだ。
「まあ、こういうのもおもしろじゃねえか。
一度同じ釜の飯を食った連中だしな、何もせずに見捨てるのは性に合わねえよ」
「そんなぁ・・・・」
「提督、あの、お夕飯までには帰ってくて下さいね。
わたし、当てつけに朝までだって待ってますか・ら・・ね・・・・」
間宮は握ったばかりのおむすびを提督に渡しつつ、送り出す言葉を絞り出す。
息が詰まって、最後まで言い切るのに苦労した。
「生意気なやつめ。
帰ってきたら、いたぶってやるからな。
お、眼鏡、お前もドジってたら覚悟しとけ」
= = = = =
十数分後、一艘の大型ボートが鎮守府を出港した。
「提督が出て行った。
わたしは後を追いかける」
武蔵は、ためらいなく進路を提督の追跡コースへ舵を切った。
「武蔵!
勝手な行動は・・・・」
「長門、彼女を連れ戻しに行くのは、命令違反にはならないんじゃない?」
「だな、空母群は、鎮守府の防衛を願う」
長門は、空母たちに視線を送る。
「仕方ないですね。
鎮守府はみなさんが帰ってくるのを待ってますよ」
「一航戦の出番ですね。
五航戦の出番は知りませんけど」
赤城、加賀を始め、空母たちは鎮守府に帰着した。
対空防御に自信のある艦娘たちは、戦艦たちに先行して、提督の後を追った。
また、生身で出張する提督。