ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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艦娘の機銃が火を噴いた。

血しぶきが散り、眼球が爆ぜる。

彼を応援してくださいね。


第43話 失ったモノ得たモノ<前編>

「・」

 

「・・」

 

「・・・・」

 

シミのない清潔そうな天井(?)

 

ここは?

記憶を総動員しても心当たりがない。

 

周囲を探索でもしようかと思ったら、身体が重い。

それ以前に皮膚の感覚がない。

 

正面以外何かで視野を遮られている。

 

フワフワとした感覚がしだすと意識が遠のいていく。

眠い。

 

 = = = = =

 

何度目かの目覚め。

俺は、生き延びたみたいだ。

 

頭にかなり強い衝撃があったことは記憶している。

色々思い出してみると艦載機(たこやき)を庇ったことまで記憶に残っているから記憶障害は無さそうだ。

 

あれから何日たったのだろう。

実は、意識が戻らず何十年とかだったら、いやだな。

 

相変わらず体が重い。

指が少し動くくらいで寝返りもできない。

 

下の世話を誰かにされていると思うと気の毒やら情けないやらで落ち込んでしまった。

鼻と口にはチューブっぽい何かが差し込まれているようで、固定のテープだろうか、痒い。

 

相変わらず、正面以外何かで視野を遮られている。

少しずつ視野が広がっているような気がするから、包帯だろう。

 

ふと気が付いた。

右目側の感覚がない。

麻痺とは少し違うような気がする。

そして、音があることにようやく気が付いた。

ピ、ピ、ピと規則正しい電子音。

ドラマとかのアレが傍にあるんだろう。

右耳には籠ったような音として聞こえる。

鼓膜が破けてるみたいだが、元に戻ると助かるんだが、どうだろうか。

 

≪ココココ≫

病室の引き戸が開いたようだ。

人の気配がする。

 

その気配を間近に感じ、知っている香りがしたその刹那、見知った顔が覗き込んできた。

「中佐、おはよう。

 お寝坊さん。

 ヒッグッ、エッ、エッ、ゥエーーーン」

中尉が俺の顔の上にボロボロと雨を降らせる。

記憶と変わらない中尉の顔は、俺を安心させた。

 

何か言ってやりたいが、口に突っ込まれた器具のおかげでそれは叶わなかった。

 

 = = = = =

 

「中佐、包帯を取ります。

 骨と皮膚は時間は掛かりますが、再生します。

 ただ・・・・」

「眼球と瞼は、失くなっているんですね。

 戦時の負傷ですから、こういうことも起きて仕方がありません」

軍医の申し訳なさそうな言葉は、提督よりも付き添っている中尉に向けられたものだろう。

その意を汲んで問題ではないことと告げる。

 

「兄様、わたしなら大丈夫。

 これくらいで折れないもん」

中尉の言ったことは提督にとって、どこかズレているような内容だった。

軍医は、中尉の実の兄、中将の息子で階級は大佐。

 

包帯を取ると看護兵が手鏡を提督に渡す。

提督が覗き込むと目からこめかみにかけてチタンのカバーが付けられていた。

一通り観察した提督は、鏡を伏せて軍医の方を見て一言。

「目からビームを出せるようにできませんか?」

 

 = = = = =

 

軍用車が鎮守府に到着する。

運転手の提督を最初に見かけたのは、日直の陽炎だった。

「司令だ。

 もー、やっと帰ってきたぁ。

 みんなを食堂に集合させるね!

 みんなぁー、司令が帰ってきたよーーー!」

嬉しさを隠しきれずに走って行った。

 

提督が、軍用車を降りて一言感嘆を漏らす。

「おー、久しぶりに帰ってきたな。

 これから、またブラック鎮守府の再開だぜ、クヒヒ」

提督は、戻ってきた。

 

顔の右側を覆うような眼帯を着けていた。

酔狂でつけているわけじゃなく、きちんとした理由があった。

むき出しのままだとチタンのカバーが冷えると顔が冷たくなるからだ。

 

提督の性格を知る者にしてみれば、ただの酔狂だと思うに違いなかった。

 

「中佐、みんな待ってるから。

 早く行こ」

治療中は、中尉が臨時で付き添いになっていた。

主治医が兄であることをいいことに無理やりねじ込んだ結果だった。

 

ごく自然に手を繋いで引っ張る中尉。

提督からは顔が見えなかった。




帰ってきたぜ。

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