ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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鎮守府に居座る深海棲艦たち。

自給自足で間宮達の調理請負。

彼を応援してくださいね。




第45話 失ったモノ得たモノ<後編>

俺は食堂で取り囲まれていた。

それも深海棲艦たちにだ。

 

隣に中尉が当然のように座っている。

 

「あー、休戦というわけでもないんだな」

「ソウ、ソチラガ シカケテクレバ ムカエウツ」

レ級がにこやかに恐ろしいことを言ってくる。

 

「眼鏡、成り行きをかいつまんで説明しろ」

深海棲艦側の言い分があるだろうが、この状況は身内に説明させて、反論を聞く方が手っ取り早いと判断した。

 

「てーとくが負傷なさったのを目の当たりにした彼女たちが、憤っている姿を見て、なんとなくです。

 てーとくのご指示もありましたし」

大淀の言葉だと肝心なことがわからないままだ。

深海棲艦側から手を出さない理由が見当たらない。

(そもそも俺が負傷したことに腹を立てるか?)

 

「レ級だっけ?

 どうして俺がケガをして、腹を立てたんだ?」

「あなたガ、カンサイキタチヲ、スクッテクレタノガ、ニドメダッタカラ」

「なんだ、その程度のことでか?」

俺は、深海棲艦の返答に拍子抜けしたものを感じた。

 

「ワレラニ テキヲ スクウキハ オキナイガ、スクワレタコトニハ トクベツノナニカ・・」

「感情があるのか?」

「カンジョウ?」

「物事を理論的じゃなく主観的に肯定したり否定したりすることと言えばわかるか?」

「ナルホド。

 マミヤガ、カコウシタモノヲ タベルト サラニ タベタクナルコトモ フクマレルナ」

「まあな。

 その場合は、食いもんの好き嫌いだな」

 

深海棲艦たちの大部分は自覚していないが、感情を持っているとわかった。

攻撃にさらされると恐怖を感じているとの報告が入っていたが、疑似的なものだと思われていた。

昆虫などが身の危険を慌てて回避行動をとる程度ではなかった。

 

複雑な【感情】を持つ可能性があるということだ。

 

肩のチビと深()チビを交互に見て、イメージが重なった。

 

レ級と飛行場姫に目をやる。

きょとんと俺を見る瞳には確かに感情らしいものが見てとれた。

 

突然、右のわき腹に激痛が走る。

視界の効かない方には中尉に座っているはずだが、何が起きた?

「ちゅーさー、見境ないのはダメだぞー」

可愛く聞こえるのは声だけで、わき腹の激痛は半端じゃなかった。

 

「いててて、俺は傷痍軍人だぞ。

 いててて、すげー握力で掴むんじゃねぇよ、千切れるだろ」

「フンだ!」

中尉の顔を見ようと振り向くと顔は逸らされ見えなかった。

視線を落とすと中尉の鷲掴みが痛み通りの場所を攻めていた。

真面目に痛い。

 

「そういや、8隻はどうした?」

重巡と駆逐艦が見当たらない。

 

「お気になりますか」

ドスの効いた低い声が後ろからしたので、思わず振り返る。

見えない右側に余計に振り向いたためにバランスを崩してしまう。

「イヤン」

身体を支えようと繰り出した手は、何か柔らかいものを掴んだ。

声がしたのは、その瞬間だった。

「いきなり掴んじゃ痛いよ。

 もっと優しくして」

声の主は中尉だったと気が付いた瞬間、嫌な汗が噴き出す。

「あー、中尉。

 今のは不可抗力だ、すまなかった」

「・・・・わかってますよ。

 あーあ、もう!」

中尉は、俺の謝罪が気に入らなったらしい。

 

後で改めて謝っておこう。

後ろに控えていた眼鏡に確認する。

 

「あいつらはどうした?」

「・・・・謹慎中です。

 反省を促すことで鎮守府全体が賛成しました。

 解体するなら、直ちに準備いたします」

眼鏡の返事は無表情だった。

 

そら恐ろしいものを感じたが、それが何かなのか判らなかった。

「反省してりゃ謹慎を解いていいぞ」

俺にとっては大した問題じゃない。

むしろ鎮守府に深海棲艦が出入りしている方が重大だ。

 

「謹慎を解くなら、てーとくご自身が直に彼女らに下命なさるのがよろしいと思います」

「そうか?

 眼鏡、なんか不機嫌か?

 スケベスカートの分際で、俺に対する反抗だったら、恥ずかしい目にあわせるぞ、キヒヒ」

俺の軽口に反応しない眼鏡は、あくまで無表情だった。




謹慎中の8隻、どうなっているでしょうか?

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