果たして、甘んじて受け入れるのか。
彼を応援してくださいね。
「うわー、軍艦のおねえちゃんたちがいっぱいいるー」
童女たちは、艦娘たちを見て大はしゃぎ。
それに比べて、童子たちの中には、前かがみになっている子が混じっていた。
そういうお年頃なのだ。
「提督、今日はお招きいただいてありがとうございます」
寮母さんがお辞儀をする。
「俺がこのザマじゃ無かったら、そっちに顔が出せたんですがね」
提督は、自分の顔を指さした。
施設の帳簿確認に外出する必要性があったが、傷が癒えていないので外出許可が下りなかった。
許可を出さないのは中尉。
彼女は、兄の軍医から任されているからと事あるごとに強権を発動するのだった。
本当に権限があるわけではないが、提督は従っていた。
「今はダメです。
鎮守府から出ないという条件だから、退院できたんですからね」
「判っている。
入院が長引いたら、配置転換されちまうからな。
せっかく手に入れた鎮守府がもったいねえ」
提督には、中尉が身を案じているのが汲み取れた。
まだ鎮痛剤を手放せない状態で、チタンカバーの縁に血がにじむこともある。
「ねえねえ、ブラックさん。
後ろのおねえちゃんたちは?」
寮母さんの後ろから、顔を出している童女。
「おお、こいつらは、俺の子分だ」
高雄たちは片時も俺から離れない。
他の艦娘は、鎮守府所属だ。
しかし、員数外の高雄たちは俺個人に従わせることで、生かされることになった。
「クキキ、俺が助けてやったんだぜ」
高雄たちを見回し、皮肉を言ってやる。
案の定、殺意に満ちた視線を射かけてくる。
「へぇー、じゃあ、あたしと同じだぁ」
「おいおい、俺がそんな善行をするわけねえだろ」
「えへへー、寮母さんに聞いちゃったもん。
ブラックさんは、命の恩人だよ」
制帽を脱いで、頭を掻いた。
「バレてたのか」
「すみません。
どうしてって聞くもので」
申し訳なさそうにする寮母さんだった。
= = = = =
「火事だー!!」
施設でボヤが起きたことがある。
施設の子供らで倉庫を掃除していた時だった。
隅に溜まった埃を掃きだそうと荷物を動かしたとき、灯油のポリタンクを倒してしまった。
子供の力で閉められていた蓋は密閉されていなかった。
そこから灯油が漏れ出してしまった。
慌てて一人が駆け寄ろうとしたとき、工具箱をひっくり返す。
工具同士がぶつかった拍子に火花が散った。
運悪く溜まった埃に火花が乗ってごく小さな火種ができた。
床の埃を伝って灯油が滲み、火種にたどりついてしまった瞬間、這うように炎が拡がった。
子供らはパニックになってしまった。
慌てて炎を踏んづけ消そうとする。
灯油を踏んだことに気が付かなかった子たちの靴底へ火が燃え移る。
慌てて外に逃げ出す子供たち。
中佐が施設に来ていて、褒めてもらおうとしたことが招いてしまった惨事。
1人女の子が倉庫の奥に逃げ込んでしまっていた。
外に出るには炎を跳び越すしかなかった彼女は、本能的に火を避けた。
火は拡がり、ポリタンクを溶かし暖められ気化した灯油のガスと灯油に一気に引火してボンと爆発した。
年長の男の子が寮母さんを呼びに行く。
倉庫の外では、子供たちが泣き叫ぶしかできなかった。
「どうした!!」
中佐が、ただならぬ様子に気付き駆け付けた。
寮母さんは男の子の知らせで消防署に連絡を入れている。
「あついよー、あついよー。
たすけてぇー、あついよー」
女の子の助けを求める悲鳴が倉庫から聞こえてくる。
中佐は倉庫に飛び込み女の子を探した。
屋内を仕切るように火が立ち上る。
火の勢いが弱ったところを見つけて反対側に突っ込む。
女の子が恐怖で蹲っていた。
彼女は過去に味わった火の恐怖に包まれ気を失う寸前だった。
もう周りを見る気力がなくなっていた。
中佐は上着で女の子を
消防車と救急車が到着する。
火事はすぐに消し止められ、女の子は救急車で病院に搬送された。
= = = = =
「おねえちゃんたち、ブラックさんは口は悪いけど、優しいからね。
あたし、大きくなったらブラックさんのお嫁さんになるの」
屈託のない笑顔で宣言する女の子。
「何言ってんだよ。
俺は悪党だといつも言ってるだろ」
提督はバツが悪そうに女の子に言い聞かせる。
「お嬢ちゃん、それは人間同士だからよ」
高雄は、しゃがんで女の子に目線を合わせ悲しそうに言った。
「違うもん、ブラックさんは、軍艦のおねえちゃんたちにいーっぱい優しいから、いーっぱいお嫁さんがいるもん」
まだ平らな胸を張り、自分のことのように言い切った。
まとめようと思ったら、まとまりませんでした。