ブラック鎮守府で我が世の春を   作:破図弄

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新章突入

ブラックで統一されきれない鎮守府。

彼を応援してくださいね。


第3章
第1話 真・ブラック鎮守府


「おい、いい加減芝居はやめろ」

「な、なんだよ」

俺の言葉に高雄たちが動転している。

 

「似合わねんだよ。

 艦娘は、性格も設定されているのは知っているんだよ。

 情報部上がりは、伊達じゃねえ」

 

≪≪ザワザワ≫≫

ここは食堂。

提督はわざと直属艦隊と昼食を共にしている。

6人掛けのテーブルを二つ繋げて10人で囲む。

提督の右に中尉が陣取り、残りの席に8隻の艦娘が腰掛けている。

 

「わたしも素のみんなの方がいいと思うな」

「美鳳さま」

「うーん、中尉でいいよ。

 名まえで呼んでいいのは、この場は中佐だけ」

中尉の言葉で8隻が一斉に提督を睨みつつも驚愕を隠せなかった。

 

「そう言えば、名前で呼ぶのは中将だけだな。

 どうしてだ?」

「だってぇ、名前を呼ばれるのって照れくさいもん」

「そうなのか?」

「そうですぅ」

「そうか。

 俺みたいなおっさんなら照れもないか。

 納得納得」

中尉は階級で呼ばれる以外は、中将の娘という立場から【お嬢さま】とも呼ばれる。

ある出来事から美鳳(みどり)と名前で呼ばれることを拒むようになっていた。

 

「じゃあ、美鳳(みどり)・」

≪ガシャーン、カラカラ≫

中尉がいきなり立ち上がった。

そのはずみで金属製の食器が床にぶちまけられた。

「お、おい、大丈夫か?

 どうした、Gでも居たか?」

見えない側の突然の出来事に提督は確認するしかなかった。

「そ、な、・・うん、びっくりしたけど見間違い」

 

「そうか、貴官、ケガはないか?」

「大丈夫・・です。

 それより、何か言うことがあったんじゃ?」

「ああ、そうだった。

 今日、晩飯作ってやろうか?」

「え゛!」

 

 = = = = =

 

≪チャチャチャチャ≫

「中佐、アーン」

「おいおい、子供じゃねぇんだぞ」

「アーン」

「仕方ねえな、ほら」

「パクっ、クムクム」

中尉はたまごにまみれた豚肉を頬張っていた。

 

「ごくん、おいしー」

実にいい笑顔だった。

「そうか?

 仕込みはしたが、安い肉だぞ」

「いいの。

 みんなで食べてるから、おいしいんだよ。

 ねえ間宮」

「はい、提督もご一緒なので」

食材を配って回る間宮が答えた。

 

食堂のテーブルを片付け、床にシートを敷き数個のカセットコンロが並んでいる。

 

コンロの上では、茶色の液体の中で肉と野菜が煮込まれ香ばしい匂いとグツグツと食欲をそそる音がしていた。

 

急きょ執り行われることになったすき焼きパーティ。

 

「もうちょっと待ってくださいね」

鳳翔が具を具合を見る。

「ホウショウ、ハヤク、ハヤク」

戦艦棲姫が椀を差し出しお代わりをねだる。

同じ釜の飯ならぬ鍋を喰っていた。

 

提督は食堂を見回し、席を立つ。

「中佐、どうかした?」

中尉は、何事かあったのかと声を掛けた。

 

「便所だよ、クソこいてくる」

「もう、言葉を選んでよ!」

中尉は中佐の腰をぽかりと叩く。

 

「俺はそんなことは気にしねえんだよ」

グラスの水を飲み干すと艦娘たちの間をぬって食堂を出て行った。

中尉は、それを見送ることはせずにすぐに席を立った。

 

車座に残っていた高雄たちに声を掛ける。

「今から二人っきりになってくるけど、見に来る?

 ニシシ」

いたずらっぽく言った言葉は、高雄たちは看過できなかった。

 

 = = = = =

 

提督は、波の打ち寄せる斜路を一望できる堤防でリトルシガーをふかしていた。

 

今吸っているのは2本目。

じっと海を眺めていた。

 

「中佐、こんなところでウンチしてるの?」

「貴官、小官の前だと発言が豹変するな。

 俺じゃなったら、ドン引きだぞ。

 クヒヒ」

「うん、中佐だから」

そっと提督に抱きつく中尉。

甘くけむい提督の匂いを嗅覚に感じていた。

 

「寒いなら早く戻っとけよ。

 風邪をひかれちゃ、銃殺ものだからな」

「あったかいから大丈夫」

抱きつく力が少し強くなる。

 

しばらく二人は動かなかった。

 

 = = = = =

 

パトロール艦隊が帰ってきた。

岸壁の斜路を登っていくと後ろから4隻の潜水カ級も続く。

「今日はね、すき焼きってご飯なんだって、わたし、今日初めて食べるよ」

「ソレハ ドンナショクリョウナノダ?」

「わかんない、でもね、みんなで食べるからきっとおいしいよ」

「ソウカ、ソレハ【オイシイ】ダロウ」

「さあ、先にお風呂だ、入渠だ」

≪≪おー(オー)≫≫

 

全員浴場に向かって歩き出した。

何隻かは手を繋いでいた。

 

 = = = = =

 

「そろそろ、ビールでも飲むか。

 ったく、のろまどもめ」

「そうだね、心配しちゃうよね、キシシ」

「何言ってんだ。

 俺がモノの心配なんかするわけねえだろ。

 さあて、飲み直しだ」

「水しか飲んでなかったよ」

「言い間違えたんだよ」

提督は一人で歩き出す。

中尉は提督の右腕に絡みつく。

その仕草は慣れていた。

 

 = = = = =

 

堤防が見える倉庫の陰の中に艦娘たちが居た。

身体を寄せ合うように見えた黒いシルエットからは

押しつぶしたような嗚咽のような音がしていた。




ブラックな提督のおかげで艦娘たちは翻弄されます。

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