藤丸立香は夢を見る。
国連の一機関に所属し、世界を救う夢。
その夢の中には、幼馴染の少女達によく似たものもいて……
たまにどっちが夢だったんだろう、なんてことを考えてしまうのだった。

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酒天童子祈願の為に書きました(真顔)
羅生門イベ初日あたりで構想はあったんですけど、京言葉はほんにむずかしおすなあ。
……京言葉が間違ってても怒らないでね?


浅き夢見し常ならむ

たまに、ここではないどこかの夢を見る。

そこでは僕はある国連の機関の職員で。

あの二人は人間ではなくて。

彼らと、彼らと同じような存在を従えて、世界を救う為に奮闘する。

 

そうした夢を見る度に、今過ごすこの日常がたまらなく儚く愛しいものに思える。

 

 

 

「起きよリッカ!」

 

 

朝のゆったりとした時間が、鋭い一喝で台無しになった。

わたし不機嫌ですという顔をして、のっそりと体を起こす。

ベッドの傍らで腰に両手を当ててこちらを見下ろしている、金髪の少女。

目をぱちぱちさせていると、ぼやけていた視界が段々とはっきりしてくる。

 

その顔立ちは、未だ幼いといえるかわいらしさだ。

年齢を考慮すれば、年不相応の幼さといえるだろう。

その幼さをより強調するのはその背丈である。

ベッドから体を起こした自分より、目線が多少高い程度しかない。

そんな彼女が着ているのは、白いシャツに紺のブレザーとスカート。

ブレザーは一番小さいサイズだったはずだが、それでも少し袖が長い。

そんな彼女の額に目をやって。何も無いことをつい確認した。

 

 

「おはよ、茨木」

 

「……酒呑が待っておる。はよう来い」

 

 

ぷいと顔を背けるように俺に背を向けて、そのまま茨木は部屋の外へ。

それを見た自分も、ささっと着替えて後を追う。

 

リビングに入ると、茨木は椅子に座って携帯をいじっていた。

そして、もう一人いる黒髪の少女。

彼女は茨木と同じようにかなりサイズの小さい制服を着ていた。

しかし、不思議なことに茨木とは違って、それが妙な色気を醸し出している。

そして、その姿を家庭的な……そう。エプロンでその色気は隠されていた。

 

 

「ようやっと起きはったんやねえ。寝坊助はん」

 

「あはは……おはよ、酒呑」

 

 

席に付いた僕の前に、ふわっとした笑みを浮かべながら、酒呑は皿を置いた。

皿の上には卵焼きと焼き魚。……彼女が出来る数少ない料理のうちの一つである。

続けて置かれたご飯茶碗を前に手を合わせる。

 

 

「頂きます」

 

 

時間にさほど余裕は無い。ささっと魚を解体し、どんどん口に運んでいく。

多少の小骨はしょうがないと割り切って、たまに口直しに卵焼きを食べてみたりもする。

その様子を、僕の目の前に座ってじぃっと酒呑は見ている。

いつものことである。それを見て茨木が軽く鼻を鳴らしたりするのもそうだ。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

骨以外を皿の上から一掃して、僕は手を合わせた。

ちらりと時計を見やれば、本当に時間が無い。

流し台に皿を運んで水に付けてから、階段を駆け上がり鞄を引っ掴む。

階段を急いで降りると、二人は玄関を出たところで待っていた。

 

 

「早うせよ。待ちくたびれたではないか」

 

「のんびりしてはるなあ」

 

 

いつも通り。

茨木は少し怒ったように。

酒呑はくすくすと笑うように。

僕の無様を笑いながら、急かしたように言うのだった。

僕はそれに答えて、ごめんごめんと謝罪にもなっていないセリフを吐きながら、二人の横へと並ぶ。

 

 

「もう十日もすれば、このブレザーも脱がねばならまいな」

 

「せやねえ。ここのところ、随分暑いからなあ」

 

 

そう言いながら、酒呑はぱたぱたと制服を引っ張っては戻す。

中に風を送り込もうとするその動きに、思わず目が吸い寄せられるが、茨木の視線がそれを咎める。

 

 

「なあリッカよ。そろそろ我らの手助けなど無くとも、遅刻せずに済むよう努力すべきではないか?」

 

「おや茨木。随分無体なことを言うんやなあ。無理に決まっとるやろ」

 

 

けらけらと笑う酒呑に、僕は返す言葉が無かった。

数日前に、両親が夫婦水入らずの旅行に出かけてからというもの、未だに一人で時間通りに起きることが出来た試しは無かった。

全く、本当に、申し訳ないとは思っている。――起きられないのとはまた問題が違うが。

 

 

「そ、それはそうとさ。最近風紀委員の方はどうなの?」

 

「うん? そう大したことはない。放課後に歓楽街の方へ行く生徒を見かける、だとかその程度か」

 

「いややわあ、人の楽しみを取り上げようやなんて」

 

 

茨木の言葉に、よよよと泣き真似をする酒呑。

 

――彼女達の見かけの印象と中身はかなり異なる。

日本で金髪というと、染めているのか外国人か、と考える人は多いと思うが、茨木は地毛である。……まあ外国人の血が入っているのか、というと本人もはっきりしないのだが。

酒呑の方は、服装や見た目についての校則は守っているし、髪は黒一色である。だがその中身は刹那的快楽主義者で、今が楽しければそれでいいというタイプだ。

であるので、歓楽街のゲームセンターで遊んでいる酒呑を茨木が注意するといった光景がたまに見受けられる。

 

 

「せやリッカ。今日あたり、一緒にゲーセン行かへん?」

 

「え、いや、僕は」

 

「酒呑……共犯者を作ろうとするのは関心せぬぞ。大体リッカに責任を被せるつもりであろう」

 

「あかんわ……見破られてしもうた」

 

 

酒呑はころころと笑って、茨木は軽い溜め息をついた。

大方、茨木は友人として咎めるように他の風紀委員から言われているのだろう。

 

そうやって話しているうちに、校門が近付いて来た。

校門では家庭科の衛宮先生が身だしなみのチェックをしていた。

それを俺たち三人は問題なく通過し、校舎に入ろうかというところで茨木が口を開いた。

 

 

「リッカ。今日は吾は委員会故、汝が酒呑をちゃんと見ておくのだぞ」

 

「ああ、うん。分かったよ」

 

 

小声で言ってきたので、酒呑には聞こえていなかったようだが「内緒事なんて悲しいわあ」と泣き真似をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

 

机から顔を上げると、教室には暖かな夕日が差し込んでいた。

もう酒呑は遊びに行ってしまっただろう。

はあ、と溜め息をしながら伸びを一つ。

鞄を背負って、教室のドアを開け、さて帰るかと足を踏み出して。

 

 

「ぬわっ」

 

 

足が何かに引っかかり、盛大に転んでしまった。

一体何に躓いたのか、と振り返って驚いた。

 

 

「ようやっと、起きはったん? 待つんも疲れたわあ」

 

 

ドアの影。しゃがんだ酒呑がそこに居た。

いたずらっぽく笑みを浮かべる彼女に、半ば同様しつつ、僕は立ち上がった。

 

 

「いきなり足を引っ掛けるのはひどいじゃないか」

 

「えぇ? 眠りこけておなごを待たすんは、ひどくないんか?」

 

 

半目で睨みながら、少し頬を膨らませて怒る酒呑に、僕は平謝りするほか無かった。

……すまない茨木。今回もダメだったよ。

 

 

「しゃあない人やなあ。ゲーセンには付きおうてくれるんやろ?」

 

「そのぐらいなら喜んで」

 

 

そして僕は、酒呑に手を引っ張られながら、心の中では茨木に謝罪しつつ。

歓楽街の目立たない位置にあるゲーセンまでやって来たのだった。

 

入店すると、早速「まずはこれやな」とダンスゲームの上に誘導された。

二人分の料金を入れようとする酒呑に慌てて自分も出すと伝えたが、後で貰うの一点張り。

あれよという間に曲が始まってしまった。

 

 

「よっ、はっ、ととっ」

 

「あははっ! リッカ! もっときびきび動きいな」

 

 

完全に身体能力に任せて、なんとか付いていっている僕とは違い、酒呑にはとても余裕があった。

日頃からやっている人とはこうも違うのか、と必死で足を動かしている内に、曲は終わってしまった。

結果は当然のように悪かった。ノルマスコアとやらに届かなかったようだ。

 

 

「ふふ、えらい必死に動いてはったなあ。見てておもろかったわ」

 

「そ、それは良かった……」

 

 

こちらを見て笑える余裕がある酒呑とは違い、僕は息も絶え絶えだった。

やはりコツみたいなものがあるのだろう。僕は体力が大してある方ではないが、酒呑とそれほど差がある訳ではなかったはずだ。

 

 

「ほな、次のはウチが一人でやるさかい」

 

「そんな、動くゲームなの?」

 

「さっきのほどやないけどなあ。まあ見とき」

 

 

そう言うと、酒呑は傍らにあった筐体から銃型のコントローラーを引き抜いた。

百円玉を筐体に入れて、引き金を引くと、それでゲームが始まったようだった。

どうやらこれはゾンビもののようだった。周囲の建物がところどころ崩れている中、病院の中へと画面は移り変わっていく。

病院の中だから、ということなのか、画面の奥から次々に現れるゾンビ達の手足にはギブスやら点滴の針やらが突き刺さっていた。酒呑はそんなゾンビ達を的確に撃ち抜いていく。

 

十数分ほど、そうして眺めていると、画面にGAME CLEAR! の文字が浮かんだ。

それと同時に、どや? と言いたげな表情で酒呑が振り向いた。

 

 

「かっこよかったよ」

 

「せやろ?」

 

 

そう言って、満面の笑みを浮かべる酒呑であったが、時間の流れというものは残酷である。

酒呑の向こう側にいた店員が、時計に視線を移してからこちらへと向かって来た。

 

 

「あー君たち、高校生だろ? そろそろ帰った方が良いんじゃないかな」

 

「そないいけずな……」

 

「すいません、もう出るんで」

 

 

なんとか居座ろうとした酒呑の手を取って、僕は店の外へ出た。

振り返ってみれば、酒呑は拗ねたように頬を膨らませていた。

 

 

「帰ろう。また付き合うからさ」

 

「……しゃあないなあ」

 

 

そうして、僕達二人は家路についた訳であるが。

まあ全てが全て、丸く収まるということもなく。

 

家の前で仁王立ちしていた茨木に、二人揃って叱られることとなったのだった。

 

 

「何をしておったのだ酒呑! それにリッカも! 汝には目付役を頼んだであろう!」

 

 

その怒りは、口から火を吐くかと思うほどで。

僕達二人は、ご機嫌取りに多大な時間を費やすこととなったのであった。

 

 

 


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