評決戦争は終わらない。
無数の傭兵、無数の愛機。すべてが乾いた砂漠になった。
その屍の絨毯を踏みつけて、今日も死にぞこないの傭兵たちが魂を削りあって笑っている。
この先に答えなどないことを、皆承知の上だというのに。
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「AP残り30%」
コアを守る装甲の耐久値を示すAPが、HUD上で赤く光っている。
敵機の巻き上げる砂埃が右へ流れる。
ハイブースト、ブーストオフ、右脚を軸に旋回。FCSで敵中量二脚を捕捉。
VTFミサイル発射、すべてシウスに迎撃される。二次ロックオンを待たずに両手のバトルライフルのトリガーを引く。
同時に背後へグライドブースト。強烈なGがかかり、前に突き出る肢体をシートベルトが締め上げる。
バトルライフルから発射されたCE弾は、右に回り込もうとする敵機の左をかすめていく。
敵の高威力CE弾丸が直撃する。残APを確認する余裕もない。自機はまだ動いている、ならば、まだ殺せる。
二次ロック完了、発射。バトルライフルがついに敵機を捉えた。
HUDが表示する敵推定残りAPは三桁、あと一撃。ちらりと見えた自機のAPも同じく三桁、あと一撃。
しかし相手のリロードのほうが早い。ハイブーストでの回避を選択するべきか、だが直感がその可能性を否定する。
よって選択肢は一つ。
右レバーのスクエアトリガーを引く。ハイブーストが機体を右に弾き出す。もう一度、スクエアトリガー。
コックピット下でなにかのパーツがひしゃげる音がする。一瞬体が浮く。直後、強烈な衝撃。
HIT
ENEMY DESTOROY
敵機撃破
極限状態からの解放による恍惚と安堵。頭が真っ白になるような感覚。
『...聞こえ...か。生き...なら応...を』
やがて意識が現実に帰る。ベルトで圧迫された部分が痛み始め、さっきまでは心臓の音のように感じられたACの警告音も耳障りに感じられる。
ハイブースト直後の加速された機体を対象に直接ぶつけ破壊する技術、ブーストチャージ。
大質量の重量二脚から繰り出されるそれは、無傷のACをも容易く破壊するほどの威力を発揮する。
残AP3桁のACなど、ひとたまりもない。
『おかしいな、生命反応はあるんだが。おい、聞こえるかM1。こちらピークォド、応答願う』
機体を右に向かせると、爆発四散したACの破片が目に入った。もしブーストチャージが当たっていなければ、俺がこうなっていたわけだ。恨むなよ。
さて、もう命の危機は去ったわけだが、この機体はそれを理解できないらしい。AP警告音が鳴りっぱなしだ。やかましいったらない。
きつく締められたハッチを開き、オーブンのように熱いコックピットから這い出る。強烈な砂漠の日光がヘルメット越しに目を刺す。
「あーあー、聞こえてるぞ。ピークォドへ、こちらM1。標的は排除したが、機体がボロボロだ。最後の無理な機動でシャフトか何かがやられたかもしれん。とっとと吊り上げてくれ」
機体の上に立ち、快晴の空に小さく光るヘリに手を振る。
『了解、生きているようで何よりだ。すぐに向かう。それにしても、ずいぶんと派手にやったな。砂漠のそこいら中に穴が空いてるのが、ここからでもよく見える。』
「なに、明日には風が綺麗さっぱり元の砂漠に戻してるだろう。誰も咎めはせんさ。」
『違いない。まぁとにかく良くやった。そっちまであと二分だ、日焼け止めでも塗って待っててくれ』
「お気遣いどうも、せいぜい日光浴を楽しんでるよ」
腰を降ろして改めてあたりを見渡せば、ピークォドの言う通り、辺り一帯がまるで巨大な蟻地獄に掘り返されたような有り様だ。硝煙の臭いもまだ漂っている。
この景色は、この勝利の歓びは、いつまで感じていられるのだろうか。
ふとそんなことを考える。
少なくとも、俺があと二分でここを離れるのは確かだ。
ならば。
ヘルメットを脱ぎ、ヘッドセットをコックピットに投げ込む。ハッチから脚をめいっぱい伸ばして、つま先で小突くようにACのシステムも終了させる。
これで耳障りな無線ノイズも、頭の痛くなる警告音も聞こえなくなった。
背伸びをし、深く息を吸い込む。空を抱えるように両手を広げる。体が景色と一体化するような錯覚。
-あぁ、良いものだ。戦いの跡以外、何もない景色。生と死の残像をまだ鮮明に残している弾痕。
この微かな硝煙の薫りは、きっとどんな葉巻よりも美味い。あぁ、あの嫌味ったらしい太陽ですら、俺を祝福しているようじゃないか。
しばらくはこの景色を眺めていよう。そして、この生の歓びを、全身で感じていよう。-
そうやって俺は迎えが来るまで、勝利の歓びを反芻しては悦に浸るのだった。
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