オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
ピニャは、伊丹、ロゥリィ、テュカそしてレレイを前にして語るべき言葉が見つからなかった。というかまだ目が痛み、鼻水も出る。
この4人中3人も同じ状況らしく、目が赤くなっている。
確かに、ピニャは勝者ではあるが、そのような実感はなかった。何故なら本当にいつの間にか勝っていた、からだ。
空から何かが落ちる音がしたと思ったら城壁外が一瞬で霧に囲まれたように白い煙が辺り一面に広がった。すると外にいた敵全員が苦しみ、悶え始めたのだ。
これは正に奇跡。何の魔法かは知らないがあの大群が一気に戦闘不能になり、これで我々に有利に……と思ったら煙がこちらにも広がって敵の苦しみを妾自身で体験することとなってしまった。
それはそれはもう苦しいとしか言いようのない苦しみだった。目は開けられないわ、開けても涙で視界は見えないわ、皮膚は劇薬を塗ったようにヒリヒリするわ、喉も痛めて咳も出る、鼻水も出る……とても人が耐えられるようなものではない。
にも関わらずどうやらジエイタイはその煙の中を平気で動き回り、盗賊団を制圧してしまった。しかも無血で盗賊団全員を拘束してしまったようだ。視覚がやっと戻った頃には2、30人のジエイタイが数百人の盗賊を拘束して囲んでいた。一体どんな魔法使ったのだと心底驚いてしまった。
よくわからないまま戦闘も終わり、一応の勝者となったのだ。目と鼻と喉をすごく痛めたが。
これにより、今回の捕虜は敵本隊ほぼ丸ごとという今までに事例のない結果となった。
しかし今回の功績はジエイタイのおかげだ。妾のではない。今回彼らは何を要求してくるだろうか?
もしかしたら次は妾たちの番なのか?
よくよく考えてみれば彼らジエイタイと帝国は現在戦争中である。
一体何を要求してくるのだ?開城か?そして一気に攻め落とすのだろうか。今の戦力では到底彼らには敵わない。
攻め込まれたら妾とミュイ伯爵公女を始めとして辱めを受けるかもしれん。一体どんな屈辱を受けるのだ?異世界は底知れぬ……
今なら妾は彼らの足の甲にキスして許しを懇願してしまうかもしれない。どうなるのだ……
とピニャは一人で頭の中で色々と大変なことを考えていた。どうやらこのお姫様は男性経験も無いのにくっころを想像する癖があるのかもしれない。現代日本に来てたら一部の層ではきっと人気者になったであろう。
一方、伊丹と健軍は段取りを決めていた。
「健軍1佐、よくご無事で……」
「何とかな。お前たちもよく守りきったな」
「さっきの攻撃は第4戦闘団で?」
「いや、別の部隊だったな。最後の制圧だけは我々が主導で行ったが」
「ですよねー。第4戦闘団は確かヘリですし。で、その別の部隊は?」
「……どうやら撤収したらしい。後はこの場の先任幹部に任せますとか言って。あと帰りは第3偵察隊に怪我人含めて乗せてもらうよう言われたな」
それを聞いた伊丹はああやっぱり……と心の奥で思った。
「どうした?何かあったのか?」
「いえ、特に。後で怪我人のいるところまで誘導お願いします」
「ああ、よろしく。さて、条約の案はこんなものか」
条約とは堅苦しい表現が多いが、簡単にするとこんな感じ。
一、今回の戦いの捕虜5名くらい連れて帰るから。残りはあげるけど人道的に扱ってね
二、今回の支援の対価として日本から使節とか送るけど安全を保証してね。あとその際にかかる費用はある程度そちら持ちで
三、ジエイタイが管理するアルヌスの組合がイタリカで商売する際は税金とか免除ね
四、ジエイタイは用が済んだら何も悪いことぜずにすぐここ出て行くけど、今後も来るかもしれないからそのとき自由に行動させてね
五、この協定は1年間有効。でも誰も特に止めたいとか言わなかったら自動更新ね
このように、ピニャ側と自衛隊側は協定を確認しあった。もちろん本物はちゃんとした文章なのでご安心を。
この際、人道的の意味が理解できなくて多少の誤解等はあったものの、捕虜を粗末に扱わないということでピニャは合意した。
ちなみに、彼の有名なクラウゼヴィッツによれは、戦争とは相手に自分の要求を力によって飲ませることを指すので、このように思想等を武力をチラつかせて押し付けるような行為自体侵略のような気もしないわけでは無いが、一応ピニャたちも納得してるので大丈夫だろう。
うん、ジエイタイハ侵略ナンテシマセン。だってここ、一応日本国内だもんね。これは侵略ではない……はず
ということで双方はこの条約で合意し、代表のミュイ、そしてその後見人としてのピニャ、そしてジエイタイ側のケングンがサインをし、それを二つ作ってそれぞれの手に渡った。
この際、ピニャはこのような好条件で結べたのはハミルトンの交渉術が予想外に良かったからだと誤解してたりする。
かくして、協定締結も無事終わり、効力は即時発動となり一応の平穏が訪れた。ピニャたちは街の再建に向けてしばらくイタリカに滞在する模様である。
「伊丹2尉、さっきから女の子ばっかり選んでませんか?」
連れて帰るから捕虜の選定を行っている伊丹に栗林が呆れたように言い放つ。
「えー?そんなことないよー。気のせいだよ、きっと。たまたま。」
「そうですかね……」
「もう、分かったよ一人男連れて行けばいいんでしょ」
伊丹は渋々5人目は男にした。つまり4人は女性である(一部人外)。こりゃどう見ても女の子だけ連れて帰る予定だったのは誰が見ても明らかなのだが。
その後、伊丹たちは本来の目的である翼竜の鱗の売却にリュドー氏を訪ねた。
先の協定にやる免税、そして元々カトー先生の知り合いということもあり、話はトントン拍子で進んだ。しかし残念なことにリュドー氏の手持ちの金額が予想より少なかったため、全て売却ができないのだ。
よくあることである。
そこでレレイはこのように交渉した。鱗は今あるだけの金で全て譲る。ただし、物流、物価、相場などの経済情報、それもできるだけ多く、詳細な情報が欲しいと。
リュドー氏はこれには驚いた。経済情報を買うなど今まで聞いたこともないからだ。しかしそれだけで大金が入るならこれも商売である。リュドー氏はこの提案を了承し、できるだけ早めに情報を提供すると約束した。後に、この情報は自衛隊にとって多いに役立つのはまた別のお話。
こうして、長い長い自衛隊のおつかいの旅が終わり、やっと帰路につくこととなった。その際、住民たちは手や帽子を振って見送ってくれたため、彼らは自衛隊を好意的に捉えてくれたと思う。
めでたしめでたし。
***
「隊長、どうして早めに撤収したんですか?」
休憩中の加藤に部下の一人が尋ねる。
「聞きたい?」
「もし聞かせてくれるのなら」
加藤は煙草の火を消すとニコッと笑う。
「面倒くさかったから。強いていうなら健軍1佐連れていったのも全部面倒なこと押し付けるため」
「隊長!あんた鬼や!」
「鬼じゃないよ。鬼畜だよ」
ArAnEl 先生の次回作にご期待ください。
アルドゥイン「は?何か言ったか、ジョール?」
嘘です、ちゃんと続きます。書きます。