オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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やっとここまで来ましたよ。いままで放置しててごめんよ、緑の蛮族。



実はいい奴だったりする

「いやはや、久しぶりじゃの、あんなに暴れまわったのは。しかし、あのワシと同じ名前の男、大丈夫かの。ワシを庇って足を潰したのじゃから。まあ、専門外ではあるが、治癒魔法かけたので大丈夫じゃ。おい、バルバスや。ごはんの時間じゃよ。はて、どこに行ったのかのう?もし見失いでもすれば愛弟子に叱られてしまうわい」

 

 

カトー先生はしばらくあちこち探したが、バルパスが見つかることはなかった。

 

 

***

 

 

伊丹と一同(美少女)はヤオの先導によってダークエルフたちが避難しているというロルドム渓谷付近に到着した。

 

 

「ここなのか?」

 

 

伊丹はヤオに尋ねる。

 

 

「うむ、同胞はもう少し先だ」

 

「では急ごう」

 

「しかし妙だ。ここら辺では既に同胞が警戒のために隠れていてもおかしくないのだが……」

 

「非常に言いづらいが、そのような事態になったのかもな」

 

「……」

 

 

ヤオは悔しそうな表情を見せる。

 

 

そうしてしばらく木々や岩などを越えていった。

 

 

「もう、あとどれくらいでつくのぉ?」

 

「猊下、あと少しだ。あと少しの辛抱を頼む」

 

 

先導していたヤオの足に当たった小石が上からパラパラと落ちてきた。

 

それを伊丹は振り払う。その石がたまたま横に大きくそれる。

 

 

そして爆発した。

 

 

「「!?」」

 

 

正確には、その小石が地面に触れた瞬間爆発した。

 

 

「みんな、大丈夫か!?」

 

 

伊丹は皆の安否を確認する。

 

幸いケガ人はいなかった。しかし皆かなりびびっていた。

 

 

「な、何よこれぇ!?」

 

「おいおい……この世界には火薬は無かったはずしゃねえのか?」

 

「火薬、違う。魔法」

 

 

レレイが伊丹に返答する。

 

 

「マジかよ……レレイ知ってるの?」

 

 

しかしレレイは首を横に振る。

 

 

「私の知らない魔法」

 

「レレイも知らないとか……一体どんな魔法使いがいるんだ?」

 

 

と手をついた先の石が落ちて今度は別の場所でまた炸裂して地面に霜が降りる。

 

 

「「……」」

 

 

誰もが目を疑う。霜。あの寒い時に出るあの霜である。

 

 

「下手したら炎龍退治より大変な気がしてきた……」

 

「いいわぁ、相手にとって不足はないわぁ!」

 

 

なぜかロゥリィら嬉しそうである。

 

そして独断で突進する。

 

 

「ああ!?そんな勝手に行っちゃ……」

 

「ギャァァア!?」

 

「言わんこっちゃない」

 

 

ロゥリィは雷撃の閃光とともに吹き飛ばされた。

 

 

***

 

 

一同はほふく前進で長い木の棒やハルバードや杖などで進行方向を入念に確認しながら進む。周りから見たら地面をつついて進んでいるのでさぞ滑稽である。

 

 

(これって、ひと昔の地雷探知方法じゃないか……)

 

 

伊丹はこんなことなら地雷探知機でも持ってこりゃよかったと思うのであった。もっとも、魔法なので探知してくれるか分からないが。

 

 

「こんな魔法、初めて」

 

 

目の前に小さな魔法陣みたいなものの痕跡を見つけたレレイは、それをノートに必死に描き写していた。

 

 

「あの、レレイさん。今そんなことしている場合では……」

 

 

この地雷原(魔法仕様)のせいで大きく遅れてしまってる。テュカも相当怯えていた。

 

 

「なんなの!?このダークエルフを送り届けるだけなのに私達がこんな目に遭う必要ないわよ!」

 

「ええい、まどろっこしぃ!こんな卑怯な戦法を使うのはどこの誰よぉ!」

 

(うちは人のこと言えないかな……)

 

 

ロゥリィの愚痴に伊丹はなんの返答もできないでいる。

 

一応日本も地雷禁止条約を批准してるので、自衛隊は保有していない、はずである。多分、少なくとも地雷は。

 

 

***

 

 

なんやかんやでやっとダークエルフたちが隠れ住んでいると言われる洞窟付近まできた。

 

それまでに爆音は数回聞いてる。大きな怪我をしなかっただけでも良しとしよう。

 

 

「3種類の魔法がわかった。火、氷、雷」

 

 

レレイが作成したメモを見せる。研究のために多少あちこち焦げたりボロボロになりながらも成果を残す姿はまさに賢者の鏡である。

 

 

「だけど真似はできなかった。魔法陣を描くだけではだめ」

 

「が、がんばったな。とりあえず怪我をしなくて何よりだ」

 

 

伊丹はレレイの魔術師根性に正直驚いた。

 

 

(ドンパチやってるときに同じようなことしなければいいけど……)

 

 

そう思いながら洞窟の方を双眼鏡で観察する。

 

 

見ると2人の見張りがいた。

 

資料で見た通り、緑の鎧、緑の肌をした人のようだ。いや、人というより亜人だろう。下顎が少し出ていて牙のようなものが出ていた。そしてなによりも、背が高くてガタイがいい。

 

アメちゃんの海兵隊に出てきそうなムキムキである。めちゃ強そうである。

 

 

「なんだあいつら……」

 

「あいつらだ。同胞を襲った緑の蛮族たちだ!おのれ、もしや今頃同胞は……男どもは殺され、女子供は嬲られたのか!?畜生め、この身はどうなってもよかったものを、代わってやれないのが悔やまれる……同胞よ、許せ!」

 

 

そんな一人芝居を無視して、伊丹は64式小銃の安全装置を切り替え、一人の頭部に照準を定める。といってもかなりの距離なのでアイアンサイトではかなり難しい。

 

 

呼吸を整える。

 

引き金のあそびの部分まで指を引く。

 

そして引き金を、引いた。

 

 

「!?」

 

 

見事に片方の見回りの眉間に弾が吸い込まれていった。

 

 

「ソコニダレカイルノカ!?」

 

 

どこの言葉かは知らないが、もう片方は何か叫びながらあたりを捜索する。

 

 

耳が良くないのか、思ったほどこちらの音に気づいてないのかもしれない。すぐにこちらに向かってこなかった。

 

そしてもう片方を狙おうとしたときにこちらに向かってきた。

 

 

「ナニカキコエタ」

 

(やべ、気づかれたか!?)

 

 

伊丹は急いで照準を定める。先ほどより近いので狙いやすかった。

 

 

(悪く思うな……)

 

 

伊丹は引き金を引く。反動が肩に来ると同時に目の前の蛮族が後方へ飛ばされる。

 

 

「よし。クリアだ、ヤオ引き続き先導を……」

 

「ウグ……ナンダコレハ……魔法カ?」

 

「嘘だろ……」

 

 

64式小銃の7.62mm弾を受けてなお敵は立ち上がった。

 

 

そしてまた走ってきた。

 

 

「畜生!くたばれ!」

 

 

伊丹は単発でなんとか数発撃ち込んで倒した。

 

倒した敵を確認する。

 

 

「マジかよ……」

 

 

胴体に撃った弾の数発は鎧を貫通せずに受け止められていた。それどころか弾いた痕跡もある。一応、貫通した数の方が多いが。

 

 

(帝国兵の鎧が通らない可能性があったから89式(5.56弾)ではなく64式(7.62弾)を使用してるってのに……)

 

 

伊丹は状況思っていたより軽視していたことを実感した。

 

 

(くそっ、こんな弱気じゃ炎龍どころじゃねえ!)

 

 

そう思ったとき、目の前で火花が散った。

 

 

「伊丹ぃ!何ぼけっとしてるのぉ!?」

 

 

別の蛮族が現れて斬りかかってきたのをロゥリィが受け止めたのだ。

 

 

「コムスメ、ヤルナ!」

 

「何言ってるかわかんないけどぉ、面白いわぁ!」

 

 

ロゥリィは鍔迫り合いをしている蛮族に蹴りを入れ、よろめいた隙に切り捨てる。

 

 

「「ウォォォオオ!!」」

 

 

雄叫びを上げて何人かが突入してくる。

 

レレイ、テュカとヤオも各々の特技で応戦するが、接近戦で有利なのはロゥリィだけだった。

 

 

「ちっ!」

 

 

伊丹は連発に切り替えて撃つ。

 

 

「ウグ!?」

 

 

上半身裸で二刀流の蛮族が襲いかかってきたが5、6発ほど腹に当てる。

 

 

「グガァァア!!」

 

 

しかし倒れなかった。

 

 

「はあ!?」

 

 

伊丹は知らなかった。()()の生まれながらにしての特殊能力、または加護、『狂戦士の怒り(Berserker Rage)』を。

 

 

受けるダメージを半減する。

 

 

だから銃弾の5、6発は耐えれるのだ。

 

 

「グオォォオ!」

 

 

そして斬りかかった。

 

ちなみに、この加護にはもう一つ能力がある。それは……

 

 

「小銃が真っ二つに!?」

 

 

攻撃力の倍加。

 

 

伊丹がとっさに小銃でガードした結果、二刀流の攻撃で押し切られてしまった。

 

64式小銃の名誉のために補足するが、二発めで折れたので決して小銃が弱いわけではない。相手が強すぎたのだ。

 

 

「マジでピンチっ!」

 

 

事実上、伊丹は攻撃手段を失った。

 

しかし運のいいことに、斬りかかってきた相手も剣が壊れてしまったようで、素手での殴りあいになった。

 

 

(これならまだ勝機は……)

 

 

たまたま躱した相手のパンチが隣の枯れ木に当たる。そして枯れ木は真っ二つに折れた。

 

 

(……ねーわ、これ絶対かてねえよ!)

 

 

伊丹はチョコチョコと逃げ惑う。

 

 

「オノレ!貴様ソレデモ戦士カ!?」

 

 

よく分からないが、罵倒しているようである。

 

 

だが運命の女神は決して伊丹(一応の主人公)を見捨てなかった。

 

相手が放ったパンチを紙一重で躱す。躱しちゃったのだ(主人公補正)。そしてベストタイミングが来る。

 

 

ー 素人が殴るときは掌底の方がいいよ ー

 

 

そしてなぜかたまたま思い出す友人からの助言。

 

運と運と主人公補正からなる幸運によって、伊丹の掌底が相手の顎にクリームヒットした。

 

いかに精強と言えど、顎を起点に脳を揺さぶられれば耐えられる者なし。

 

それは見事なクリテュカルヒットを叩き出し、相手の脳は頭蓋骨の内壁に叩きつけられ、それが跳ね返って逆に叩きつけられるようにして揺れる。これが脳震盪である。

 

結果、ヘビー級ボクサーのような相手を一撃でダウンさせたのだ。

 

 

「か、勝った……?」

 

 

見ると相手は白目剥いて伸びてる。

 

しかし囲まれてしまったようだ。

 

レレイやテュカは魔力とスタミナ切れ、ヤオの刀もボロボロ。唯一の希望ロゥリィは戦えそうだが、それでもあちこちケガしていた。

 

周りは30人以上。

 

数の問題ではない。普通の人間ならロゥリィと戦えば怯えたり怯む。

 

しかし彼らは逆に喜んでロゥリィの前に出で来たのだ。(とも)が現れたと言わんばかりに。

 

そして、強い。

 

強い、恐れない、多いの最強コンビである。これで優秀な指揮官と統率力があれば最強の軍隊ができるに違いない。

 

 

「クソ……万事休すか……」

 

 

しかしここで諦める訳にはいかない。ここで諦めたら美少女たちがあーんなことやこーんなこといろいろされちゃうかもしれないから。

 

 

(紳士としてそれだけは避けなければならない。例え自らの命と引き換えにしても……)

 

 

伊丹が覚悟を決めかけたときだった。

 

 

「ちょっと待った!ちょっとお前ら待ってくれい!」

 

 

聞き覚えのあるしわがれたような声がした。

 

 

***

 

 

「族長!これは……一体どういうことですか!?」

 

 

伊丹たちは蛮族たちに連行されて洞窟に入った。

 

そしてそこには予想を遥かに上回る光景が広がっていた。

 

 

ダークエルフと蛮族が仲良く暮らしていた。

 

 

「ヤオよ、お前には苦労をかけたな。実際、我々と彼らは話し合う機会を設けた結果、お互い似た境遇であったことが分かったのじゃ。そして協力しようということになったのじゃ」

 

「なんということだ、この身がやってきた今までの努力は……罪は……」

 

 

ヤオは頭を抱える。

 

なんてこった、それはこっちのセリフだと伊丹は思った。

 

ダークエルフたちがもうちょっと様子を見ていたらこんなことに発展していなかったかもしれない。テュカもこんなことになっていなかったかもしれない。

 

だが、いまはそれよりも気になることがある。

 

 

「どうしてぇあんたがここにいるのよぉ!?」

 

「うるせーな、お嬢ちゃん。どこに行こうと俺の勝手じゃねえか。あと口には気をつけな、俺様は恩人なんだぜ」

 

 

なぜか目の前には喋る犬(バルバス)が蛮族に紛れて座っていた。しかもドヤ顔で。

 

ホントにお前はどこから湧いてきた。

もしかしてこいつすごいの?ホントは只者じゃないの!?と伊丹は思考を巡らしていた。

 

まあ先ほどこいつが止めてくれなければ伊丹たちの命はなかったかもしれないので命の恩人と言えば恩人だが。

 

 

「キー!何が恩人よ!?状況を説明しなさいよぉ!」

 

「バルバス、説明が欲しい」

 

 

レレイもロゥリィに賛同する。

 

 

「しゃあねーな。まあ簡単に言っちまうと、こいつらは俺の知り合いみたいなもんだ」

 

「「え?」」

 

「話せば長くなるから割愛するけどな」

 

「ちょっとぉ!説明責任を果たしなさいよぉ!」

 

「まあまあ、ロゥリィ落ち着いて」

 

 

周りを刺激したくないので興奮したロゥリィを落ち着かせる。

 

それにしても、蛮族たちは嫌に静かだ。同胞たちを殺されたのでもっと怒るもんだと思っていたが。

 

 

「ところでバルパス、彼らは怒ってないのか?俺たち……その、何人か殺しちゃったし……」

 

 

伊丹の問いをバルパスは聞きなれない言葉で彼らに話す。

 

そしてそれを聞いていた彼らの一人が伊丹に目を向けると口を開く。

 

 

「オルシマー、戦う、死ぬ、誇り。強い相手、敬う」

 

 

片言で特地の言葉で話した。一応意思疎通はできそうだ。

 

 

オルシマー?彼の名前か?

 

 

と伊丹は疑問に思ってると、バルバスが補足する。

 

 

「彼らオシルマーは、戦いは崇高なものだと思っていてな。別に恨んじゃいねえよ。それどころか強いお前らに敬意を表してるみたいだぜ」

 

「オるしマーという種族なのか?」

 

 

この世界特有の種族かもしれないと伊丹は頭にメモする。

 

 

「分かりやすく言えばオークだ」

 

 

「「え゛!?」」

 

「オークって、あれ?お姫様とか女騎士とかのくっころの定番のあのオーク?」

 

「言ってることよくわからねえが、多分そのオークだ」

 

「あれ……でも資料のオークは定番の豚顔だったような」

 

 

伊丹の言葉に先ほどのオシルマー(オーク)が反応する。

 

 

「豚顔?やつら、弱い。倒した、食った」

 

 

今、さらっととんでもないことが聞こえたような気がした。気のせいだよね?お願いだから空耳だと言ってくれと伊丹は内心叫んでいた。

 

 

「豚みたいな味、うまかった」

 

 

「「……」」

 

 

誰も反応できなかった。ロゥリィでさえ青ざめている。レレイも額から汗が湧き出ていた。

 

 

(えーと……これは共食いなのかな?種族的には違うかもしれないけど……あれ?オークって豚?それとも人間?なんだかわけが……)

 

「今度、獲る、お前らに、やる」

 

「「遠慮します!」」

 

 

見事にハモった。

 

 




いつからこの小説格闘小説になったんだろう。そのうち日本から鬼が来そうだよ……

「エフッ、エフッ」

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