オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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大変お久しぶりでございます。仕事の都合で全然書けませんでした。
すみません。

今回はアル様は出番ないです。すみません

アルドゥイン「なんと、またか!」



解答

 

元の世界(ファルマート)に無事に戻れた伊丹たち。

 

ただ一つ、どうも無理やり分離された副作用か、ハーディの力の一部がレレイに残ってしまった。

 

ハーディ曰く、彼女の魂の一部がレレイの肉体に引っかかってしまった状態とのこと。

 

パワーアップしたかと思うが、無理に力を行使すれば反動で死ぬかもしれないので注意するように、と言われ一同は別れた。

 

面倒な仕事を半分ぐらい押し付けられて。

 

 

「ハーディの奴ぅ、面倒な仕事を押し付けて……自業自得なのに!」

 

「まあ、一部はウチら(自衛隊)にも問題あるやつもいるので仕方ないけど……」

 

「お父さんってホントお人好しだねー。ホントのお父さんそっくり」

 

「それは褒めてるのかな?」

 

「おしゃべりはそこまでにして、もう目的地前でございますわよ」

 

 

セラーナが指を指す先は、旧帝国首都、現新臨時政府(ジパング)都市、ヤマト。

 

ハーディが別れ際にワープをさせてくれたおかげで、旅路はかなり短くなった。

 

 

「どうせなら門の前とかに送ってくれたらいいのに」

 

「そんなことしたら、混乱を招き、不要な血を流すことになるかもしれない」

 

「う……」

 

 

伊丹の愚痴に対し、レレイが鋭い突っ込みを入れる。

 

 

「まあとりあえず、行くか」

 

 

一同は覚悟を決めて足を進める。

 

 

***

 

 

草加と加藤は互いに向かい合って思考を巡らせていた。

 

 

「なかなかの動きですね」

 

「そうかな?」

 

 

そい言って加藤はチェスのクイーンを動かす。

 

 

「それは読んでいた」

 

 

草加は将棋の金でクイーンを取る。

 

 

「それは囮ですよ」

 

 

加藤は囲碁の石で囲む。複数の駒が一気に取られる。

 

 

「ほう、しかし罠にはまったのはお前だが」

 

((……な、なんだこれは!?))

 

 

遠目で見ていたピニャたち全員が思った。

 

チェスと囲碁と将棋を合わせたカオスなゲーム。

 

 

「やはりお前の考えたこのボードゲーム、なかなかいいな。頭を柔軟にするのにはもってこいだ」

 

「でしょう。複雑な戦争はこれがいいです」

 

「そうだな、チェスの駒は正規軍と言ったところか。そして将棋の駒は特地の現地兵か」

 

「そうですね、敵味方双方にいる上、囚われたら利用する可能性もありますし」

 

「で、囲碁の石は何になる?」

 

 

草加が尋ねる。

 

 

戦場の霧(不確定要素)、と言ったところですかね。目に見えない情報戦、サイバー戦、経済戦、心理戦、そして運。そしてもう一つ……」

 

「陸、海、空、宇宙空間、サイバー空間に次ぐ第6の要素か?」

 

「ええ、この世界で初めて実戦に活用できるもの。魔法です」

 

「ひと昔の私なら、核兵器を挙げるがな。しかしこの世界では確かに違うな」

 

「核兵器なんて、所詮70年前の時代遅れの兵器ですよ」

 

「チェクメイト、かな?」

 

「……参りました」

 

 

加藤は負けを認める。加藤はこのカオスなゲームの考案者であるのにも関わらず、実は草加に一度も勝てたことがない。

 

 

「ところで加藤、後ろのメイドが何かしてるがそれは何だ?」

 

「ん?これですか?」

 

 

加藤の後ろでサキュバスなのかメデューサなのかよくわからないが、髪が蛇の吸精鬼のアウレアが顔色悪そうにしていた。

 

 

「どうした?もう無理そうか?」

 

「ゴメンナサイ……今日ハ、モウ無理」

 

「ではもう休め」

 

 

そしてアウレアはフラフラと部屋を後にする。

 

 

「おかしいな……聞いてたのと全然違う」

 

 

加藤は頭を傾げる。

 

 

「何させてたんだ?」

 

「えーとですね、イタリカのフォルマル家から借りたあの吸精鬼に精気を吸われると、死ぬほど気持ちがいいらしいんですよ。実際死ぬみたいですけど」

 

「ほう、どうだった?」

 

「全然ダメでした。痛くも痒くも気持ちよくも特にないです」

 

「そうか。しかしそんな無意味なことを以前からしていたようだが?」

 

「あと記憶のバックアップですね。どうも記憶も読み取れるみたいなので、万一に備えてバックアップとろうかと。ただ、どうも相性が悪いのか、長くはできないみたいですけど」

 

「ふむ、奇妙だな。私も吸精鬼の資料は読んだが、そんなことは初めて聞いた」

 

「そうですよね、彼女も『こんな汚染された精神と記憶、初めて』とか言って初めては吐いてましたけど」

 

「まあ無理はさせるなよ。イタリカはまだジパング民ではないが、いずれなるかもしれないのだから」

 

 

実は現在イタリカは草加らのジパング、そして日米等の交渉場となっており、一応中立地帯となってるのだ。

 

今のところまだ水面下でしか動いてないが、いずれ公式の場とする予定のようだ。

 

 

「カトー少佐、少しよろしいですか?」

 

 

メイドの1人が耳元に囁く。

 

 

「分かった、行こう」

 

 

加藤は眼帯を外して予備の義眼を入れると、城門に向かう。

 

 

 

門の前には見知った顔があった。

 

伊丹と愉快な仲間たち(美少女(?)ハーレム)だった。

 

 

「いい度胸よねぇ、亜神ロゥリィに楯突こうっていうんだからぁ」

 

 

ロゥリィは城門の兵士たちを見定める。

 

ロゥリィのことを知ってる多くの特地民はびびっていたが、元自衛隊の加藤と数人はそんな素振りを見せなかった。

 

 

「伊丹殿の友人たちだな。死人のような目だな……」

 

 

ヤオが呟く。実際に、彼らの目は虚ろだった。

 

 

「これは伊丹2尉、そして猊下にレレイに両刀エルフにエロダークエルフに得体の知れないお姉さん。何しにこちらまで?」

 

 

加藤は上から覗き込み、微妙に仰々しい口調で尋ねた。

 

 

「だ、誰がエロダークエルフだ!?」

「そ、それに両刀エルフってどういうことよ!」

 

 

ヤオとテュカが顔を赤らめて怒鳴る。

 

 

(そりゃあまり馴染みなかったなー、レレイ以外は)

 

 

伊丹はそう納得してしまった。

 

 

「ねえ、カトウ?貴方一体何をしてくれたのかしらぁ?この世界で好き勝手にして、どう落とし前つけてくれるつもりぃ?」

 

 

ロゥリィが加藤を挑発するように話す。

 

 

「猊下、私は貴方の信者ではないし、この世界の神々に敬意をはらいつつも、指図されるつもりはない。好きに生きてるだけだが、何か問題でも?」

 

「へぇ、亜神相手にそんなこと言っちゃうんだぁ。そんな口聞いて、知らないわよぉ?」

 

「俺も知らねえよ」

 

「ムカー!殺すぅ!絶対殺してやるぅ!殺して男嫌いなハーディに送ってやるわぁ!」

 

「そうですわね。こんな真昼間でなければ簡単に突破できますわ」

 

「ロゥリィ、セラーナ、落ち着けぇぇぇえ!」

 

 

今にも暴れそうなロゥリィを伊丹が必死に制する。セラーナも何気に戦闘態勢に入っていたが、なんとか制する。

 

 

「で、伊丹2尉殿、何故こちらに?」

 

「……」

 

 

伊丹は考えた。なぜ加藤が自分を役職で呼ぶのか、試されているのを悟る。

 

 

「俺は伊丹2等陸尉ではなく、伊丹耀司として、来た。そしてこれを返しに来た」

 

 

伊丹はリュックからM4A1カービンを出す。

 

 

「ちょっとヨウジィ、それ唯一の武器じゃない!」

 

「ロゥリィ、俺を信じろ」

 

 

伊丹は小声で囁く。

 

 

「「……」」

 

 

加藤と伊丹はしばらく目を合わせる。

睨み合いではなく、互いの意思を確認するような、駆け引きのような視線。

 

 

「……()()たちを中へ案内しろ」

 

 

そして重い門が開かれる。

 

 

「ようこそ、我々の国へ」

 

「加藤ぉぉぉおお!」

 

 

門が開いた瞬間まず伊丹が放ったのは言葉よりも重い拳であった。

 

加藤はゾルザルが殴られた時より吹っ飛んだかもしれない。

 

 

「ふえー、ヨウジやるぅ!」

 

「有言実行、ジエイタイの鑑」

 

 

ロゥリィとレレイが感心する。

 

 

「|あれふぉろこふしふぁふかふなふぉひぃっはほひぃ《あれほど拳は使うなと言ったのに》……」

 

 

加藤は外れた顎を入れ直し、ズレた鼻を戻すと、何事もなかったように振る舞う。鼻血はこちらが心配になるほど溢れてるが。

 

 

「すまんね、客人殿。まずは伊丹は砕けた拳を魔法で治療してもらうか。話はその後だ」

 

「……お前も顎と鼻治してもらえよ……」

 

「そだね……」

 

 

さりげない伊丹の親切に加藤はうなずいた。

 

 

***

 

 

伊丹は驚いた。まさかこんなところで黒川と栗林に会うとは思わなかった。

 

 

「隊長、ご無沙汰しております。どうしたんですかこの手は?」

 

「色々無茶して……お前は何してたんだ?アルヌスに届けられた仲間にお前たちがいなかったからまさかと思ったが」

 

「酷いことはされてませんわ。ただ、衛生関係が整うまでは手伝ってくれとのことでしたので協力していただけですわ」

 

「そうか。すまんな」

 

「謝ることありませんわ。隊長も無事で何よりですわ」

 

「ああ、それにしても魔法はすごいな」

 

 

レレイと現地の治癒魔法師の力により、伊丹の手は元どおりになった。

 

 

「隊長、じゃなくて伊丹2尉、ご案内します」

 

「……どうした栗林、お前らしくないぞ」

 

「……私は今は自衛官ではなく、加藤少佐専属のボディガードでして」

 

 

なんだか嬉しそうな顔をしていた。

 

 

「な、何かあったのか?」

 

 

一瞬脳裏に栗林が薄い本みたいにあーんなことやこーんなことされて屈服しちゃったことを想像する。

 

 

「ふふふ、義眼のペアルックですよー」

 

 

栗林は動かない方の目を指す。

 

 

(ダメだこれ、ヤンデレルート突入しちゃってるよ、加藤ぉぉぉおお!)

 

 

伊丹は一応の友人の将来を憂うのであった。

 

 

そしてある部屋に案内される。そこそこ綺麗な客室のようだった。

 

そこには2人先客がいた。

 

 

「伊丹、気分はどうだ?」

 

 

と加藤。

 

 

「げげ、ロゥリィ姉様!?」

 

 

とジゼル。

 

 

「ちょっとぉどうしてここにジゼルがいるのよぉ!ジゼル、説明してもらうわよぉ!」

 

「ひ〜!」

 

「まあ落ち着けよ、ロゥリィ」

 

 

伊丹がなだめる。

 

 

「加藤、さっきはちょっとすまんな」

 

「ちょっとか。まあ予想はしていたが。それに伊丹、よくわかったな。もし友人の伊丹耀司ではなく、陸上自衛官伊丹2等陸尉としてきたなら、対応は全然ちがったが」

 

「まあ、腐ってもお前とは一応長い付き合いだからな」

 

「で、その長い付き合いのお前でも分からないことがあるから、来たと」

 

「……そうだ」

 

「単刀直入に聞こう。何が知りたい?」

 

 

伊丹は加藤の目を見る。まるで人形のように不気味な目だった。片方が義眼なのはしってるが、その違いがわからないほど、不気味なほどのポーカーフェイスだ。

 

 

「全部」

 

 

答え兼ねていた伊丹に代わり、レレイが口を開いた。

 

 

「貴方たちの行動の経緯、目的、理由、今後の方針、隠し事、全てを知りたい」

 

 

レレイは淡々と言う。

 

 

「レレイ、流石にそれは……」

 

 

伊丹は少し戸惑う。

 

 

「……いいよ」

 

「「「え!?」」」

 

 

その場にいたほとんどが驚いた。

 

 

「ただし、1人につき、教えられる内容は異なるがな。それに順序立てて説明するから時間がかかる。それでも良いなら」

 

「それでいい」

 

 

レレイが答えた。

 

 

「ということは、私たち一人一人の疑問に答えるということぉ?」

 

「ええ、貴方方が知りたい情報と知るべき情報が一致するかはしりませんが。まあ、付いてきてください」

 

 

***

 

 

「何だこれは……」

 

 

まず案内された庭では軍事訓練が行われていた。

それも特地独特の中世式の軍事訓練ではなく、現代戦、しかもかなり専門的な訓練であった。

 

 

CQB(近接戦闘)……」

 

 

伊丹がつぶやいた。

 

 

「さすがS(特戦)だな、すぐわかったか」

 

「それよりも、いつの間にあんだげ銃を確保したんだよ……」

 

 

獣人や人間が訓練に使ってるのはどうみても紛争地帯やロシアで有名なあの銃(カラシニコフ)だった。

 

 

「デリラ少尉」

 

「はいよ」

 

「はい、でしょう?」

 

「……はい」

 

「ありゃ、デリラさん」

 

「え、伊丹の旦那がなぜここに……」

 

「詳しいことは気にすんな。控えー、(つつ)

 

 

デリラは加藤の号令に俊敏に反応し、銃を胸に斜めで構える。

 

「ほれ」

 

 

加藤はデリラの小銃を取り、伊丹に渡す。

 

 

「あれ、微妙に軽い」

 

 

そしてよく見ると刻印がおかしい。

 

 

東京マ●イ

 

 

「……エアガンじゃねえか!?」

 

「だがそれでもないよりはましだ」

 

 

そしてまた伊丹から取って近くの空き缶を撃つ。

 

貫通した。

 

 

「え……」

 

「日本じゃいわゆる違法改造銃ってやつだ。弾は鉄球だし、至近距離ならベニヤ板ぐらいなら貫通できるしな。そしてこれなら耳が良すぎるヴォーリアバニーたちも撃てる。しばらく最適な兵器の開発が終わるまではこれが代理だ」

 

「新しい兵器?」

 

「そう。まだ開発段階だが、今からお見せしよう」

 

 

そしてデリラは訓練に戻り、一同は今度は屋内に案内される。

 

 

「この部屋に入る前にこれを着るように」

 

 

消防隊が着るような全身銀色の防護服だった。

 

 

「……なに、そんなヤバいもん俺たちに見せるつもりか?」

 

「一応念のためにな……」

 

 

そして着替えて部屋に入ると、いくつものドアがある廊下。

 

そして最初のドアの前に行こうとする直前、爆発が起きた。

 

 

「ぎゃ〜!また爆発した!」

「だからあいつに魔法唱えさせちゃダメっていったのに!」

「私爆裂魔法唱えてないのに!」

「やめい!それを押すんじゃぁない!」

「いいや!限界だ押すね!今だ!」

「エクスプロージョン!」

「今どさくさに紛れて爆裂魔法唱えたの誰だー!?」

 

 

 

そしてまた爆発。幸い、あくまで小規模の爆風と煙だけなのでだれも怪我はしなかった。

 

 

「ゴホッ、ゲホッ!また失敗だわ……」

 

 

煙の中からどこかでみたことあるようなお姉さんが白衣を纏い、咳き込みながら出てきた。

 

 

「アルペジオ……」

 

 

レレイが姉の登場に少し驚いた様子だ。

 

 

「あれ、よく見たらレレイじゃないの。もしかしてこの研究所の見学?それとも研究手伝ってくれるの?」

 

「アルペジオさん、一体なにを……」

 

 

伊丹を始め、皆混乱してきたようだ。

 

 

「あー、紹介し忘れたね。我が国の魔法科学技術研究局長のアルペジオさんだよ。そういやレレイのお姉さんらしいね」

 

「え……?」

 

「ロンデル潜伏中、火薬またはそれに準ずる物を生成するために魔術師を雇っていてね。鉱物魔法というウチらでいう化学に近いところがあったので雇ったわけよ」

 

「うん、給料もすごくいいの!」

 

 

アルペジオが補足する。

 

 

「火薬、だと?」

 

 

伊丹が一呼吸置いて尋ねた。

 

 

「ロンデルは学都だからな、多少の爆発などいくらでもカモフラージュできると思ってな。おかげで色々なことができた。まだ発展の余地はあるが、中世後期レベルの火薬と、それの代わりなら既に生成可能だ」

 

「代わり?」

 

「こいつだ」

 

 

加藤は小さな円筒状の真っ黒の物質を取り出す。サイズは親指ぐらい。

 

 

魔硝石(ましょうせき)。地球では生成できない物質だ」

 

 

そしてそれを懐に隠していた短小散弾銃に込めて少し離れた的に撃つ。

 

音は予想以上に小さかったが、的は何かが当たったかのように倒れた。

 

 

「「???」」

 

 

伊丹を除き、皆キョトンとする。

 

 

「加藤、てめえとんでもない物作りやがって……」

 

「ヨウジィどういうことぉ?」

 

「伊丹殿、あれはジエイタイの小銃よりも弱そうに見えるが?」

 

「まあ、初見はそう思うよな。客人たちよ、的を見てみるか」

 

 

加藤は倒れた的を見せる。

 

 

「嘘ぉ……」

 

 

的は真ん中に500円玉大の穴があり、焼け焦げた後があった。

 

 

「さしずめ、光線銃かレーザーガンあたりか?」

 

 

伊丹が尋ねる。

 

「そうだな。俺は世界初の魔導銃と呼んでるがな」

 

「反動は少ない、命中率は高い、威力も高く、音も小さい」

 

 

レレイが目を輝かせて分析する。

 

 

「まあ、まだ生産性は悪いが、火薬よりはマシだな」

 

「お前、この世界に火薬や銃の類を持ち出して何するつもりだ?」

 

「言わなくてもわかるだろ、戦争の準備だ。約5千年の戦争経験のある世界(地球)に対して、魔法や多種族というだけでは勝てるわけがない。だからその差を埋めるため、近代化させるのだよ」

 

「近代化させてどうする。戦争で始めるつもりか?」

 

「そうだ、と答えたら?」

 

「てめえをぶっ飛ばす」

 

「お前が。できるかな?」

 

「あらぁ、別にヨウジだけじゃないわよぉ?」

 

 

伊丹の後ろでロゥリィが不気味な微笑みを加藤に向ける。他の方々も一応戦う準備はできているという表情だ。

 

 

「……面白い、俺も一度あんたと(戦うという意味で)やり合ってみたかったんだな」

 

「ええ、いいわよぉ。お姉さんが(戦闘的な意味で)手取り足取り教えてあげるわぁ、ぼうやぁ」

 

「お前らはなんでこんな喧嘩早いんだぁ!」

 

 

伊丹の悲痛の叫びも虚しく、とりあえず戦闘狂(ロゥリィ)戦争変態(加藤)は一発(戦闘的な意味で)やり合うことにした。

 

広場に逆戻りし、取り敢えず戦いの位置に着く。

 

取り敢えず伊丹は審判としてお互いの位置の中央付近にいる。

 

 

「なんで俺が……」

 

「いや、だってあいつ(ロゥリィ)止められるのお前だけだし……」

 

 

加藤が何やらボソッと呟いた。

 

 

「ちょ、お前俺に止めてもらうつもりだったのか!?今からでもいいから土下座してでもやめとけ!」

 

「嫌だね。俺は負ける戦いは避けるが、負けない戦いは避けないからな」

 

「はぁ?お前本気で勝てると思ってるの!?」

 

「いいや。しかし負ける気はしない」

 

「……もう好きにしてくれ」

 

 

伊丹はとうとう諦めた。

 

 

「あらぁ、怖じつけたのかしらぁ。謝るなら今のうちよぉ?」

 

「そっちこそ、負けてヒーヒー言っても知らんぞ」

 

「きーっ!殺すぅ!殺してやるぅ!このハルバードでその身体真っ二つにしてやるぅ!」

 

 

ロゥリィは顔を真っ赤にして地団駄を踏む。

 

 

「んじゃ俺はこのままで」

 

 

加藤ら手をポケットに突っ込んだまま構えた。もちろん銃器などない。

 

 

「むかぁー!バカにしてぇー!ヨウジぃ、決闘(デュエル)開始の宣言してぇ!」

 

「え……決闘(デュエル)開始ぃぃい!」

 

 

その宣言と同時に伊丹の視界は真っ暗になった。

 

意識的なものではなく、物理的に黒煙と砂煙と爆風で視界が遮られたのだ。そしていつのまにか自分の下にクレーターができている」

 

 

「ゲホッ!ゴホッ!な、何が起きたんだ!」

 

 

煙が消えるとテュカたちが飛び込んできた。

 

 

「お父さん、よかった!生きてた!」

 

「え?」

 

 

伊丹は何が起きたか理解できなかった。

 

 

「お父さんの真下がいきなり爆発したんだからびっくりしたわよ!」

 

「え?えっ?」

 

 

テュカの言葉と、爆散肉片と化したロゥリィの姿を見てやっと理解した。

 

 

そして加藤はゆっくりと歩き、ロゥリィの頭を持ち上げる。

 

 

「獲ったどー!」

 

「きーっ!こんな奴にぃやられるなんてぇ!卑怯者ぉ!」

 

「方法や過程などどうでも良いのだ!勝てば正義だ!」

 

「加藤、てめえ!」

 

「許してくれよ、即席爆弾でこうでもしないと勝てないんだもん。というか、皆さん、落ち着いてくれ。

レレイ、その対戦車砲を応用した魔術を解除するんだ。俺に向けるなぁ!」

 

 

取り敢えず加藤はこの後、死なない程度にまためちゃくちゃボコられた。

 

 

***

 

 

満身創痍になった加藤を魔法で治療して、研究室を一通り見学した。

 

実際、軍事面以外にも農学、建築学、地質学等の研究も積極的に行われていた。

 

託児所のように子供を預かるところもあれば、簡易的な病院施設もあった。

 

アルヌスほどではないものの、この世界の基準よりはかなり上の方だと思われる。

 

 

「そしてこっちが講義室」

 

 

最後に、加藤の案内で広い講義室に通される。奥にはホワイトボードやらプロジェクターで映された資料やらが見える。

そして手前にはいろんな種族の者が抗議を受けていた。

 

 

「ヒト種獣人種問わず、知能が高い者はこちらで教育をしている」

 

「まるで大学の講義室だな」

 

「ああ、教育は大事だ。大事なのは確かだ……」

 

 

加藤のため息混じりの言葉に伊丹は理解した。

 

日本の男子学生よろしく、多くの者が講師の目を盗んでは資料を陰に食事をしていたり寝ていたりとしていた。

 

 

「教育って難しいわ……」

 

加藤は嘆く。

 

 

これならまだいい。

 

一部は某流行りの芸術(BL)の研究を熱心にしていらっしゃった。

 

というかそれを研究していたのが薔薇騎士の令嬢だったりピニャ殿下だったり。

 

 

「ありゃ、なぜピニャ殿下が……」

 

 

たまたま最後列にいたので声をかけてみた。

 

 

「加藤教官殿!?そして伊丹殿!?なぜここに!?妾は別に悪いことなどしてないぞ、少し疲れたから芸術の教養を深めようと……」

 

「いや、聞いてないから……」

 

 

加藤はため息を吐く。

 

 

「政治学など、退屈……じゃなくて妾は既に熟知しておる!」

 

「いや、そういう問題でもないから……」

 

 

伊丹もため息を吐く。

 

 

「加藤少佐、今講義中ですので……」

 

 

と講義をしていた女性が注意する。

 

 

「あ、すまんねJ(ジュリエット)。ピニャを借りていくぞ」

 

「もうご勝手に……」

 

 

そして一同は外に出る。

 

 

「ジュリエット……日本人だよな?あの顔つき?」

 

 

伊丹がふと尋ねる。

 

 

「コードネームだよ。アルファベットの『J』」

 

「コードネーム……あ、そうだ!お前のよくわからん『SAW』という秘密部隊の説明してもらおうか!?」

 

 

伊丹は思い出したと言わんばかりに詰め寄る。

 

 

「まあもちろん説明するが、順序を得てからな。まだ時期尚早だから、これを見てもらってからにしようか」

 

 

一同はスクリーンのある部屋に通される。

 

そしてプロジェクターを通して映像が映し出される。

 

 

いきなり共産圏の軍事パレードを彷彿させるような映像から始まった。

 

ただ、これが仮装パレードではないのなら、ここが特地であることが明らかだった。

 

背景からして帝都、つまりここである。

 

そしてパレードの行進者は獣人と人間。全員が小銃(多分エアガン)か何か見覚えのない武器を担いでいる。

 

種族ごとに分かれた部隊がそれぞれの隊旗をもって近代国家の軍事パレードを行っていた。

 

しかしこんなもので驚いている暇は無かった。

 

歩兵の後ろにはどう見ても戦車、しかも米軍のMBT(主力戦車)、M-1エイブラムズがゆっくりと走行していた。

 

 

「おい加藤!これは一体……」

 

「伊丹、説明は後でするからとりあえず終わるまで見てくれよ」

 

 

しぶしぶ続きを見ることにした。

 

戦車の上ではヒトやキャットピープル、ヴォーリアバニーなど比較的中型の人型種が敬礼しながら乗っていた。

 

戦車はよく見るとボロボロで、あちこち修復して使ってるように見えた。

 

 

(鹵獲したやつか?)

 

 

そして画面は変わって敬礼して相手に移る。

 

 

草加拓海

 

 

ヘリの墜落で死んだと思われていたが、前回の建国放送で生存の可能性が浮上した男。

 

海自の礼装に似た純白の制服で、敬礼をしていた。

 

しかし画面は少しずつズームアウトしていき、後ろには礼装姿のピニャとヴォーリアバニーの部族の正装に身を包んだテューレがいた。後者は目が死んでいたが。

そしてらさらにその後ろには少し高めに設置されたやけに馬鹿でかいお皿型の台があった。

 

 

『これより、建国式を開催します』

 

 

アナウンスが流れる。

 

 

『まずは、新帝国のヒト種代表、ピニャ代行よりお言葉を頂きたいと思います』

 

(ん?)

 

 

伊丹は何か違和感を感じた。

 

 

『妾は、前帝国の皇帝の娘の一人として、君臨し、ヒト種の帝国のために尽くしてきた。しかし、ヒトは強欲だ。自らの民のためとはいえ、多種族を蔑ろにした上に、他国との戦争によって栄えた。しかしその結果、異世界からの軍隊による大敗を招いた。

妾は和平交渉に尽力した。光が見えたと思えば消えた。それはなぜか。

個人個人の欲によって、全てがめちゃくちゃになった。

妾の和平も独りよがりの欲かもしれない。しかし、少なくとも私情によるものではなく、公共の安全のためと、尽力したが無駄だった。

だから、妾は……いや、我々は神に等しき強大な力の下、ヒトと多種族は手を取り合って共栄しなければならないと考えた。

その結果、()()()()()()の下、2つの王政、ヒト種の代表と非ヒト種の代表による連立王政を樹立する』

 

 

歓声と拍手がわき起こる。

 

 

(なんだこの違和感は……なにか……あと少しでうまくピースがはまりそうな……)

 

 

なんともいえない気味の悪い感覚が伊丹たちを襲う。

 

 

『続きまして、国賓の代表としまして、ジパングの最高司令者、クサカ・タクミより……』

 

 

ここまで聞いて伊丹は勢いよく立ち上がる。

 

 

「な……ジパングと新帝国は、別の国!?」

 

「伊丹、頼むから最後まで静かに見てくれ」

 

 

『国家承認及び同盟締結の儀を行います』

 

 

映像で草加が何かに署名し、ジゼルが見慣れない魔法(スゥーム)で封をした。

 

 

『続きまして、ジパング最高司令者補佐、兼新帝国臨時軍事顧問のカトー・ソーヤ少佐より最後の言葉を頂きます』

 

 

草加とは真逆で、黒の迷彩服にベレー帽だった。

 

 

『ここに、この世界における(システム)が完成した。

一つの管理者(アルドゥイン)

二つの国家。

三人の代表者。

これにより、この世界の秩序は保たれるだろう』

 

 

そして一呼吸おく。

 

 

『諸君 私は戦争が嫌いだ

諸君 私は戦争が嫌いだ

諸君 私は戦争が大嫌いだ

 

殲滅戦が嫌いだ

統合戦が嫌いだ

接近戦が嫌いだ

防衛戦が嫌いだ

包囲戦が嫌いだ

突破戦が嫌いだ

退却戦が嫌いだ

掃討戦が嫌いだ

撤退戦が嫌いだ

救出戦が嫌いだ

電子戦が嫌いだ

情報戦が嫌いだ

ゲリラ戦が嫌いだ

 

平原で 街道で

塹壕で 草原で

凍土で 砂漠で

海上で 空中で

泥中で 湿原で

宇宙で ネットで

 

この世界で行われるありとあらゆる戦争行動が大嫌いだ

 

戦列を並べた自走砲の一斉発射が轟音と共に敵陣を吹き飛ばすのが嫌いだ

 

空中高く放り上げられた敵兵が効力射でバラバラになった時など心が裂ける

 

伏兵が対戦車個人携行ミサイルで敵戦車を撃破するのが嫌いだ

 

悲鳴を上げて燃えさかる戦車から飛び出してきた敵兵を機関銃でなぎ倒した時など心に穴が空く思いだ

 

ガチガチに装備を揃えた特殊部隊でロクな訓練も受けてない少年兵しかいないゲリラを蹂躙するのも嫌いだ

 

恐慌状態の新兵が既に息絶えた民兵を何度も何度も刺突している様など吐き気すら覚える

 

敵の逃亡兵、民間人達を木に吊るし上げていく様などはもう泣きたい

 

泣き叫ぶ虜兵達が私の振り下ろした手の平とともに金切り声を上げるカービン銃にばたばたと薙ぎ倒されるのも最悪だ

 

哀れな民兵やゲリラ達が雑多な小火器で健気にも立ち上がってきたのをA-10のナパーム弾が都市区画ごと業火にさらして焼き尽くした時など背筋が凍る

 

敵の戦車部隊に滅茶苦茶にされるのが嫌いだ

 

必死に守るはずだった村々が蹂躙され女子供が犯され殺されていく様はとてもとても悲しいものだ

 

敵の物量に押し潰されて殲滅されるのが嫌いだ

 

攻撃ヘリに追いまわされ害虫の様に地べたを這い回るのは屈辱の極みだ

 

諸君 私は戦争を

地獄の様な戦争を憎んでいる

 

諸君 私に付き従う異国の大軍団の諸君

 

君達は一体何を望んでいる?

 

更なる戦争を望むか?

情け容赦のない糞の様な戦争を望むか?

 

何もかもやり尽くし、私の祖国が体験したような最期は虫ケラのように扱われる闘争を望むか?』

 

 

平和(ピース)平和(ピース)平和(ピース)!』

 

 

『よろしい ならば平和(ピース)

 

我々は満身の力をこめて今まさに振り下ろさんとする握り拳だ

 

だが異世界とは科学技術の差があり過ぎる我々にタダで平和はやってこない。これ以上の戦争はこりごりだ。ならば君達に捧げよう。

 

大平和を‼︎

 

未来永劫栄のある大平和を!!

 

我らは数は多くとも技術の差は大きい

 

だが諸君は一騎当千の古強者だと私は信仰している

 

ならば我らは諸君と私で総兵力100万と1人の軍集団となる

 

平和を忘却の彼方へと追いやり踏ん反り返っている連中をぶちのめそう

 

髪の毛をつかんで引きずり降ろし眼を開けさせ思い出させよう

 

連中に恐怖の味を思い出させてやる

 

連中に我々の本気を見せてやる

 

天と地のはざまには奴らの哲学や科学では思いもよらない事がある事を思い出させてやる

 

100万の混成軍で世界に平和を。

 

新帝国の建国と同時に作戦を始動する。

 

絶対的国防権(やられたらやり返す)

 

征くぞ 諸君。我々は永遠の平和のために、最後の戦争を行う。

 

Ad Victorium (勝利のために)

 

 

 

ここで映像が途切れる。

 

もうツッコミどころだらけだった。最後なんて某マンガのほぼパクリじゃねえかと普段なら言ってる。

 

ただ、状況的に今はその普段ではないのだ。

 

 

「取り敢えず、沢山聞きたいことはあるが、1ついいか?」

 

「どーぞ」

 

「これ、プロパガンダ動画で元の世界に流すやつだろう?」

 

「お、さすが伊丹殿。俺の行動パターン読めるようになってきたね」

 

「悪いことは言わない。公開はやめろ」

 

「残念」

 

「え?」

 

「もう既に公開した。たった今」

 

「「「ええぇぇぇっ!?」」」

 

 

この件により元の世界がさらに混乱に巻き込まれることとなった。

 

わかりやすくいうなら国連(特に例の5カ国)は激おこだった。

 

 

「それに……」

 

 

あまり表情を変えない加藤が嗤った。

 

 

「絶対的国防権は既に発動している」

 

 

***

 




かなり遅いペースで誠に申し訳ありません。
どうか末永く見守ってください、アルドゥイン様。

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