オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし   作:ArAnEl

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もうストーリーの構成は出来ております。あとは文字に起こすだけ。
100話以内には収まる予定です。


ユーターンしちゃった

***

 

時を遡ること数ヶ月

(第46話:ご注文はヴォーリアバニーですか?いいえ、巨龍ましましで、参照)

 

 

「さあ来やがれ。貴様の情報を得るまで俺は死なんぞ」

 

 

加藤はそう言ってカメラを漆黒龍に向ける。

 

そして漆黒龍はこちらを見ると、嗤

った。気がした。

 

 

「ほう、なかなか面白いことを言うではないか。それに興味深いジョールだ。緑のジョールがいれば黒いジョールもいるのだな。特に、貴様は非常に興味深い」

 

「…………嘘だろ」

 

 

加藤は耳を疑った。

 

龍が喋った。

 

しかも、日本語。

 

異世界とはいえ、今まで資料にはそんな事一切書いていなかった。

 

これは喋っているのか、それともテレパシーなのか……

 

テレパシーなら、まだ魔法のある世界だからありうると考えられる。

 

しかし、日本語を話している場合、人間以上の知能、能力を持つ可能性が高い。

 

加藤は急いでカメラに録画されているはずのデータを再生する。

 

しかし全て砂嵐状態で音も割れて聞こえない。

 

 

(嘘だろ……肉眼、耳でははっきりと伝わるのに電子機器をジャミングしてるのか!?)

 

 

「どうした、人間(ジョール)よ、何を恐れている?」

 

(ジョール……特地では聞かない単語だ……それよりも、なんだこの重圧(プレッシャー)は!?)

 

 

加藤は形容し難いオーラとプレッシャーに押しつぶされて胃液を吐きそうになる。

 

防衛大学校、幹部候補生学校、特別警備隊、NAVY SEALS 研修、SAW及びWASの訓練ですらここまでの圧を感じたことはなかった。

 

それどころか秘密裏に中東やアフリカで作戦中に拘束された時よりも、ただの子供だと思っていた少年兵たちにロケットランチャー(RPG)を撃たれたときよりも恐ろしいと今感じている。

 

 

恐ろしい?

 

 

そんなはずはない。

 

向精神薬、麻酔や普通の人間に使えばアウトな薬物の服用や脳や神経を含む人体改造を施して痛覚やいらない感覚をコントロールできるはずのこの身体が……

 

恐怖してるだと?

 

 

(バカな……そんなバカな、ありえねぇ)

 

 

頭で否定しても証拠に冷や汗はどんどん溢れ、指先や膝は震え、息も荒くなっている。

先ほどの吐き気も強くなり、頭痛もして過呼吸を起こしそうになる。

 

加藤は持参している一番強力な薬を打ち込むが、全く効果は無かった。

 

 

(おいウソだろ……人間の身体は所詮化学物質の塊だろぉ!何で薬が、効かないんだ!?)

 

 

そして恐る恐るアルドゥィンを見た。

 

 

そして理解した。

 

 

怖い

 

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

今感じているその恐怖こそが、彼の心と身体の正直な反応であった。

 

理屈や理論で理解できるような感覚ではなく、もっと根本的な、本能に近い感覚……

 

絶対勝てない相手への……畏れ

 

ある出来事を境に枯れたはずの涙がボロボロと溢れ出た。

 

感動や悲しみ、悔し涙ではなく、恐怖による子供のような涙。

 

大の大人がこのように泣くなど普通なら恥ずかしくてできることではないが、彼の前にそんなことどうでもよくなった。

 

 

「死にたくない……でも、俺を……殺してくれ……」

 

 

今まで感じたことのない死への恐怖、そして矛盾するその恐怖から逃れたいがために死を選ぼうとする不可解な感情が加藤を襲った。

 

死ぬのは怖いが、どうせ失う物などない、家族も災害で失った。それよりもこの重圧から逃れたい、それだけで頭がいっぱいだった。

 

 

「貴様、興味深いな」

 

「……え?」

 

 

アルドゥィンの予想外の言葉に加藤は驚く。

 

 

「身体はいろいろと人間離れしているが、ここまで面白い魂を持った人間は久しぶりだ。まるで純粋な水晶を粉々にしてまたくっつけたような魂をな」

 

 

言ってる意味がわからなかった。

 

 

「貴様の過去を見た。面白い、非常に面白い。並大抵の経験ではそんな魂にはならない。やつに似てる、我を滅ぼした憎き偽りのドヴァ(ドヴァキン)にな……」

 

 

ドヴァ?また新しい単語だ、と加藤は思った。

 

 

「だが奴とは正反対の性質。奴が生まれながらにして能力を持つが、貴様は()()()()存在。気が変わった、我に服従しろ」

 

 

不思議な気分だ。

 

先ほどまでの恐怖は嘘のように消えた。

逆に今では安心感を感じている。

 

ストックホルム症候群だろうか。

しかし加藤はこれはもっと単純なものだと感じた。

 

先ほどの恐怖と同様に本能的なもの。

 

 

「どうした、ジョール(定命の者)よ?」

 

 

そう、自分は『定命の者(人間)』だから。

 

例え人権を棄てようと、骨格、神経系列の改造を行い、周りから兵器として扱われても、どんどん人間から離れていても……

 

 

「主人よ、貴方に魂の全てを捧げます」

 

「クックック……それで良い……我に従え、さすれば貴様の望ものを与えん」

 

 

自分は人間だ。加藤はそう確信した。

 

 

***

 

日本、尖閣諸島、魚釣島より北西約1000海里

 

 

「まもなく、特殊揚陸艇が魚釣島の100海里圏内に入りマス」

 

 

空母広東のCIC(戦闘指揮所)内にて、海軍士官が艦長に報告する。

 

 

「ヨロシイ、同士が上陸すると同時に我々侵攻、支援を行う。これで魚釣島は我々が実効支配するこのになるダロウ」

 

 

中華人民解放軍海軍の艦長はほくそ笑んだ。

 

 

「マモナク上陸作戦開始します。10、9、8……」

 

 

カウントダウンが始まった。

 

 

「7、6、5……」

 

 

CIC内の全員が固唾を飲んでレーダー画面を見守る。

 

 

「4、3、2……っ!?」

 

「おい、どうした!」

 

「揚陸艇が全てレーダーから消えたぞ!」

 

「こちら広東CIC、鳄鱼(ワニ)1号、2号、3号、応答セヨ!」

 

「一気に消えタ……」

 

「何か反応はあったカ!?」

 

「……先程、斥候部隊から水中爆発の感アリと……」

 

「……機雷カ?」

 

「おそらく……」

 

「おのれ、日本鬼子(リーベン・グイズ)(日本人を罵る言葉)め……作戦は失敗だ。撤収する……」

 

 

空母広東は母港へと撤収した。

 

 

 

 

そのほぼ真下の深海に日本の新型潜水艦『おうりゅう』が機関停止で文字通り息を潜めていた。

 

 

「……どうも敵さんは撤収始めたな」

 

「そのようですな……」

 

 

潜水艦の音響員が耳をすませている。

 

 

「しかしS0(シエラゼロ)、いえ分隊長、揚陸艇を破壊したところで、生存者がいたら不味くないですかね?上陸でもされたら」

 

「まあ心配はいらんさ。お偉いさんもバカじゃないハズさ(まあ例え上陸できたところで、Y0(ヤンキーゼロ)たちの餌食だな……)」

 

 

潜水艦乗組員の予想通り、魚釣島の準備も万端であった。

 

 

「こちらZ0(ズールーゼロ)。水機団の隊員に島の内部を捜索させた。潜入はされてない模様」

 

『こちらY0(ヤンキーゼロ)。了解、こちらは生存者2名が泳いで上陸しようとしているところを拘束した。他、遺体なども確認できた』

 

「了解、ではこちらも万一見つけた場合は予定通り後方に待機中のX0(エックスゼロ)を通じて公安に引き渡す」

 

『了解』

 

 

そして各々の特殊部隊たちは闇夜に紛れて任務を続行した。

 

 

***

 

 

伊丹たちは加藤から貸された翼竜に乗ってアルヌス近くまで移動した。

 

 

「どうよ、乗り心地は?」

 

「馬より難しいけど意外と乗れるもんだな」

 

 

加藤の問いに伊丹は答えた。他の者たちもあまり苦戦してなかった。

 

まだアルヌスには徒歩では遠いが、翼竜で近づき過ぎて自衛隊や米軍のレーダーに探知されて撃墜でもされたら元も子もないので、少し遠くで降りることにした。

 

 

「黒川さん、うちの衛生兵及び看護師の指導感謝します」

 

「いえいえ、他に何もやらせていただけなかったので不本意ながらも協力いたしただけですわ」

 

「……黒川さん、もしかして怒ってらっしゃる?」

 

「いいえ。しかし国家を名乗るのでしたらもう少し国際法勉強なさっては?」

 

 

黒川の言葉が加藤の心にブスリブスリと刺さって行くのが見えた気がした。

 

 

「栗林さん、貴方はどうされるの?」

 

 

黒川は栗林に尋ねる。

 

 

「もちろん残り……」

 

「栗林、君に伊丹2尉の護衛を命ずる」

 

 

栗林が言い終わる前に加藤が栗林に命令をする。

 

 

「え、何で私がこんなおっさんの……」

 

「嫌か?」

 

 

加藤はさらに近づいて栗林の顔を冷たい視線で見下ろす。

逆に栗林はかなり見上げる形になる。

 

 

「い、いえ!」

 

「よろしい。何があっても伊丹の命を守れ」

 

「はいっ!」

 

「あとお前にこれをやる。小柄だがお前ならこの銃を扱えるだろう」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 

加藤はFN SCAR(特殊部隊仕様小銃)を渡す。

 

栗林は新しいおもちゃを渡された子犬のように喜んだ。

否、喜んでいると言うか、変な意味で興奮していると言った方が正しいかもしれない。絶対喜んでドキドキハアハアの表情だと伊丹は察した。

 

 

(俺、一応あいつの元上司なんだけど……何で同僚と俺でこんなに扱い違うんだ。俺も特殊部隊(S)なのに!?)

 

 

伊丹は静かに心で泣いていた。

 

 

周りもピニャの騎士団一同と伊丹の一同と別れを惜しんでいた。

 

 

「ピニャ、死ぬんじゃないわよぉ」

 

「猊下もお元気で。また安定したら会いましょう」

 

他にも古田などの自衛官、騎士団や亜人の一部も伊丹たちとアルヌスに向かうことを決めた。

 

各々のやり取りを終え、加藤が伊丹に近づいた。

 

 

「じゃあな、耀司。次会うときは、多分お互いに銃口を向ける時だ」

 

「そうかもな。蒼也、もし帰ってくるというなら、俺は全力で協力するぞ」

 

「ありがたいな。気持ちだけもらっておく。ただ、お前がどんだけ頑張っても俺がそちらへ一歩踏み込めば俺は抹殺される」

 

「さすがにそれは……」

 

「なんせ、SAWもWASも……人権を剥奪されたか棄てた所謂『兵器』だからな」

 

「えっ、何だって……!?」

 

「お前たちの身のためにもこれ以上は教えられん。お前にもこれをやる」

 

 

加藤は伊丹には一度返されたM4小銃をさらにアップグレードしたものを渡す。

 

 

「加藤、一つ言い忘れたが……話が長くなるので割愛するが、(マオ)は、異世界出身ということが分かった……」

 

 

それを聞いた加藤は少しおいてため息を吐く。

 

 

「もしかして、今更知ったのか?」

 

「え?もしかして知ってた?」

 

「まあな。ありとあらゆる想定はしていたし、その可能性は高いと昔から思っていた。絶対バカにされるのは目に見えていたから誰にも言ってないがな。それに……」

 

「それに?」

 

「俺はマオから直接教えてもらった、3年前に俺がWASとして奴の下で働いていた時にな」

 

「はあ!?なぜそんな重要なことを教えてくれなかったー!」

 

「話すつもりだったが、タイミングが難しくてな。話しすぎるとお前の命も危うい。それに、奴は俺が始末する」

 

「元部下として?」

 

「そんなもんじゃない……言葉では表せないがな」

 

 

そう言って加藤たちは翼竜にまたがった。

そして飛び立とうとしたところ、レレイが加藤の裾を引っ張った。

 

 

「レレイじゃないか。これでお別れなのにちゃんと挨拶してなかったな」

 

「カトー教官、これ返す」

 

 

そう言ってレレイはタブレットを渡す。

 

 

「俺にそれはもう必要ない。お前にやる。新しいデータは伊丹に入れてもらえ」

 

「伊丹はアニメや漫画しか持ってない……もっと色々な本を教えて欲しかった」

 

「元教官にとっては最高の褒め言葉だな。もう、俺が教えられることはない。あとは自分で探求してくれ」

 

 

そう言って加藤たちは飛び立った。

 

そして見えなくなって、伊丹たちも動き出す。

 

 

「よし、俺たちも行くか」

 

 

そして振り向くとみんな仰天した。

 

米軍が偽装して立っていた。

 

気がつかなかった。

 

 

「やべっ、見つかった!」

 

「リューテナント・伊丹、お待ちしておりました」

 

「へ?」

 

 

てっきり拘束されるものかと思っていたが全く異なる反応に逆に驚いた。

 

 

「アルヌスまでお送りします」

 

 

そして一同はトラックへと案内される。

 

 

「あのう、皆さんは誰の命令で……」

 

「……申し訳ありませんが、いくら英雄とはいえそれはお答え兼ねます」

 

「ですよねー、ははは……」

 

「あともう一つ、先ほどのことは我々は何も見てませんし、我々はそこで彷徨っていた貴方方を保護しただけです」

 

「わ、わかりました」

 

 

程なくしてトラックは出発した。

 

トラック内でしばらく皆黙っていたが、ロゥリィが何か頭を悩ませていた。

 

 

「ロゥリィ、どうした?」

 

「いやね、ちょっと腑に落ちないことがぁ……」

 

「何が?」

 

「……ほらさ、あいつ(加藤)がパイパーを超える色んな情報網を持っているのは確かだけどぉ、知り過ぎなんじゃないのかなぁ、って」

 

「何で?」

 

「だって、あいつ私とヨウジぃの秘密知ってるのよぉ」

 

「秘密って、なんの?」

 

「あんたが私の眷属でぇ、貴方の傷を私が受けることぉ!じゃないと初めての決闘でそれを利用されるわけないじゃないのぉ!」

 

「あ……!?」

 

 

伊丹はやうやく事の重大さに気づいた。

 

そう、彼らはずっと監視されてる。

 

 

伊丹がロゥリィの眷属にされた時も。

 

 

学都ロンデルでレレイの命を狙ったシャンディーの右手が吹き飛ばされた時も。

 

 

おそらく奴らがいつも近くにいた。

 

 

「つまり、俺たちの情報は筒抜けと……」

 

 

急に小声になる。

 

 

「そうよぉ、だから気をつけないと……」

 

「迂闊に何もしゃべれんな……」

 

 

伊丹はM4を見る。

 

 

(あいつのことだ、発信機とかつけてるかもな……後で確認しなくちゃ)

 

 

少ししてトラックはアルヌス内で止まった。

 

 

「ありがとう!」

 

「では我々これで」

 

 

米軍たちは伊丹に敬礼するとすぐにどこかへ行ってしまった。

 

 

「取り敢えず、俺たちも支度しなくちゃ。帰ってきたばかりだけど……」

 

 

伊丹たちが自衛隊施設内に入るのを確認すると、先ほどの米軍の一人が無線に連絡する。

 

 

「こちらグリーンゴブリン。対象は無事着いたとジョーカーに伝えてくれ」

 

『こちらサンドマン、了解』

 

「あともう一つ、ポイズン・アイヴィから例のものを受け取った。後ほど送付する」

 

『……了解』

 

 

***

 

 

伊丹たちが基地へ帰っても、色々と慌ただしい状況のおかげで特にお咎めなども受けることもなかった。

 

というか、伊丹たちが特地のあちこちにいたことすらバレてない模様。

 

 

「にしても、なんでこんな慌ただしいんだ?」

 

「さあ、しかし内装や外装も綺麗にしているところをみると誰が偉い人でも来るのでは?」

 

 

ヤオが窓内側から基地の様子を見て言った。

 

 

「まさか総理大臣やアメリカの大統領が来たりして」

 

「そのまさかだよ……」

 

 

伊丹は笑えない冗談を言うと後ろから女性の声がした。

 

かつてゾルザルに奴隷とて扱われていた望月紀子である。

 

 

「あ、望月さん具合は大丈夫ですか?」

 

「だいぶよくなったよ」

 

「さっきの……冗談ですよね?」

 

「私が冗談言ってるように見える?」

 

「……ええーー!?何で首相と大統領がぁ!?」

 

 

伊丹は仰天のあまり大声を上げてしまった。

 

 

「それどころじゃないよ。他に常任理事国のロシア、中国、イギリスにフランスの代表も来るんだから」

 

「な、なぜ?」

 

「その様子じゃしばらくニュース見てないようだね。だって、新帝国やらがあんな軍事パレード放送して、各国が黙ってるわけないでしょ?それで抗議声明文を日本を通して送ったら、では話し合いしましょうよと言うことになったさ。連中ふざけてるよ」

 

「……あの、それはいつ?」

 

「今日の昼から。場所は非武装地帯(DMZ)のイタリカみたいよ……あ、行っちゃった」

 

 

伊丹は話を聞かないうちにダッシュで勤務先へと向かった。

 

 

「あんのやろ〜!なぜ教えなかったー!」

 

「全くよね、お父さん。きっと何か企んで時間稼ぎしていたのよ」

 

「テュカ、俺が怒ってるのはそんなことじゃない」

 

「え?」

 

「こんなめんどくさい行事があるならもう少し新帝国でのんびりしていた方がマシだ!」

 

「「「そ、そっち〜!?」」」

 

 

 

伊丹がすぐ準備を終えて間も無くして各国代表が(ゲート)を通してアルヌスへと足を踏み入れた。

 

 

「ふむ、資料で読むよりなかなかいい場所ではないか」

 

 

米国のディレル首相は興味深く辺りを見渡す。

 

 

(これは良いフロンティア(市場)になるな……)(米)

(現在問題の移民をこちらに送れば……)(仏)

(大量の人口をこちらで労働力として使えば……)(中)

(資源開発は是非我が国が……)(露)

(EUを離脱して大英帝国の輝きを復興できるな……)(英)

(頼むからこれ以上問題を大きくしないでくれ……)(日)

 

 

米国だけではなく、各国は野心を燃やして異世界へとやってきた(日本を除く)。

 

 

「ねえねえ、ヨウジ。あのおっさんたち誰え?」

 

「ロゥリィ、声が大きい……俺の世界で実質最強の国のトップ5の代表だよ。あと付き添いの日本人」

 

「あ、確かにあの日本人なら見たことあるわぁ。でも日本がベスト5じゃないのねぇ、どれくらいすごいのぉ?」

 

「あの少し恰幅のいい金髪の白人のおっさん……じゃなくて男がいるだろ?アメリカの大統領で、アメリカは残り2から5番手が束になっても勝てないとか言われてる……」

 

「カトウはバカなの?自分の世界のそんなやばいたち全員に喧嘩売ってぇ……」

 

「バカというより、狂人だな」

 

「案外単なるおバカさんかもよ」

 

 

ヤオの呟きに対してテュカが面白おかしく言う。

 

 

「……多分、勝てる自信があるのだと思う」

 

 

レレイが唐突に呟く。

 

 

「彼には教官として色々教えてもらったけど、決して馬鹿ではないと思う。狂人と言われてもおかしくない思考はしてるけど、かなり常識破りなだけだと思う」

 

「……」

 

 

レレイはなぜこんなことを言ったのだろうか。庇った?それとも短期間でも師として仰いだ者を馬鹿にされるのは許せなかったのだろうか?

 

 

「それに……」

 

 

このときのレレイの表情が一番、何かを悟ったような感じがした。

 

 

「彼は、負ける戦いはしない。今までこちらの世界の全ての戦いで負けと認められる結果がない」

 

「……確かにぃ」

 

 

一番納得したのはロゥリィだった。

 

卑怯な手を使われたとはいえ、あの亜神ロゥリィにタイマンで勝利している(そのあとボコられたけど)。

 

 

「となると、あいつの傾向からして……」

 

「もしや、ロゥリィ猊下と同じように全員まとめて爆殺……」

 

「いや、流石にそれはないじゃない?流石に破天荒なあいつでもそれは一番やっちゃダメなのは知ってるはず……」

 

「いーえ、きっとそれよ!あいつは主神エムロイに仕える亜神であるこの私を躊躇せずに爆散させたのよぉ!しかもヨウジ、友人である貴方を爆散させてぇ!」

 

「え、あ、うん……」

 

「友人を爆散させるような奴にまともな神経はないわよぉ!よし、決まったわぁ!あいつ(加藤)を爆散させるわよぉ!」

 

「ロゥリィ、目的が変わってないか……?」

 

 

世界を救う名目に個人的な恨みを晴らそうとしている。いや、個人的な復讐がメインで世界平和はおまけかもしれない。

 

 

「おお、伊丹2尉、ここにいたか。ちょうどいいところにいた」

 

 

どこからもなく伊丹の直属の上司が現れた。

 

 

「あ、はい。何でしょう」

 

「例の各国の代表をイタリカに送るのだけど、案内と警護の責任者として行ってくれないか?適任者がなかなか決まらなくてな。それに自衛隊はいま色々と行動に制限がついてるが、米軍も『二重橋の英雄』なら、だそうだ」

 

「ええ……帰ってきたばかりなのにユーターンか……」

 

「ユーターン?」

 

「いえ、なんでもありません……ぐはっ!?ロゥリィ、お前何を……」

 

 

ロゥリィが伊丹の肩に肩車をしてもらうような形で乗っかる。

 

 

「行きますぅ!是非ヨウジを行かせてください!ついでに私たちも行きますぅ!」

 

「え、そんな勝手な……」

 

「だって、自衛隊は制限あるのでしょぉ?なら現地人の私たちなら大丈夫でしょぉ?」

 

「……確かに、一理あるな。よし、では君たち是非とも……」

 

「よっしゃぁあ!ヨウジ行くわよぉ!」

 

「ロゥリィ!そこ襟!襟引っ張って走らないで、首締まる!ぐえっ」

 

 

伊丹の足が浮くほど勢いでロゥリィは走り去った。

 

 

「よし、我々もいくぞ!」

 

 

残された少女たちも走っていく。

 

 

「な、なんだったんだ……ん?」

 

 

呆気に取られた上司の目の前にレレイがペコリとお辞儀する。

 

 

「あとは手続きよろしくお願いします」

 

 

そして皆の後を追った。

 

 

***

 

 

「この程度か?」

 

 

アルドゥィンは精神世界で地獄のような特訓をしている……はずだった。

 

彼の足元には生き絶えた銀火竜と金火竜がいた。そしてすぐに煙のように消えた。

 

 

幻影(イリュージョン)だからか?それとも地獄とはこの程度か?なら地獄など生温いわい」

 

 

デイドラの加護を失い、大幅に弱体化したと思われたアルドゥィンだが、依然世界を喰らいし者(ワールドイーター)の異名を持つだけの実力は十二分に有していた。

 

 

「まさかリオレウス希少種とリオレイア希少種両方を同時に倒すとは……」

 

 

ミラルーツは息を吐くと次の相手が形を作る。

 

 

「ほう、次は少しは持ちそうだな」

 

 

アルドゥィンの前に現れたのは金獅子(ラージャン)。明確に牙獣種と区別されながらも、不明な点の多い古龍の一部を凌駕する力を持つとされる超攻撃的生物である。

しかもスーパー●イヤ人超怒りモードである。

 

姿が形成されると同時にアルドゥィンに襲いかかる。

 

が、アルドゥィンが霊体化する方が早かった。

 

 

(ふむ、やはり近接型か……霊体化で正解だな。さて、ドラゴン・レンド(龍殺しスゥーム)が効かない相手ならこれに限る……)

 

 

アルドゥィンはかつてアンヘルに浴びせたロックオンとメテオの連携技を繰り出す。

 

一発当たりは小さいものの、流星群が一点に集中してラージャンに襲いかかる。

 

そして砂煙が晴れて肉塊を想像していたが、煙が晴れる前に閃光が走ったので、アルドゥィンはドラゴン・アスペクト(龍の装甲)を展開する。

 

ラージャンの電撃砲は防げた。

 

 

(ふむ、メテオを防ぐとは……なかなか知恵もあるようだ)

 

 

ラージャンの近くにほぼ粉々になった石や岩があるので、おそらく大きな岩ん盾にしたのだろうと推測する。

 

そしてラージャンはさらに追撃として電撃砲を放つ。

 

今度はアルドゥィンも負けじと青いビームを放つ。名前はないが、全身及び空中のエネルギーを凝縮して放つ技を巨大イカ(オストガロア)戦で学んだ。

 

アルドゥィンのビームのほうが格段に威力が上のようで、ラージャンは耐えきれず横に避けるが、アルドゥィンは追撃を逃さなかった。

 

 

Fo(冷気) Krah(冷凍) Diin(凍結)!」

 

 

フロストブレスによりラージャンの動きが急に遅くなる。

 

 

Iis() Slen(氷体) Nus()!」

 

 

そしてトドメに相手を氷漬けにしてしまった。

 

 

「ガハハハ!他愛もない!」

 

 

氷漬けのラージャンに尻尾を叩きつけると相手は粉々に散って消えた。

 

 

(グフフフ、相手の弱点も見える……相手が何を恐怖しているかも見えるぞ!)

 

 

心眼と呼ぶべきか、この無の空間において精神を極限まで研ぎ澄まさせることで神の心眼、又は神眼とも呼ぶべきか能力を習得していた。

 

 

「次はこいつじゃ」

 

 

次の相手は浮岳龍(ヤマツカミ)

 

 

「ドラゴン・レンド!」

 

 

現れるや否やアルドゥィンから先制攻撃を行う。しかしヤマツカミは龍を強制的に落とすドラゴン・レンドにほぼ効果は見られなかった。

 

 

「物理飛行タイプか……よくそんな巨体でしかも短い腕で飛んでるな。だいたいそういう場合というものは……」

 

 

アルドゥィンが近づくとヤマツカミはまるごと飲み込んで噛み砕こうと空間を吸い込み始めた。

 

 

「何か別の物質を飛行の触媒としているはずだ」

 

 

ヤマツカミのその大きな口の奥にフロストブレスを叩き込む。

 

するとヤマツカミはみるみるしぼんでいき、浮力を維持できずにゆっくりと落ちて行った。

 

 

「逃すか!」

 

 

アルドゥィンは青いビームでヤマツカミを消し去った。

 

 

「つ、強い……強すぎる」

 

 

次の相手はまさかの煌黒龍(アルバトリオン)であった。

 

 

「ククク……せいぜい我を楽しませてくれ」

 

 

そんな様子を見てミラルーツは理解に苦しんだ。

 

 

なぜ笑っていられる?

 

 

アルバトリオンとなれば祖龍(ミラルーツ)といえど一目置く存在である。

 

なぜ恐れない?

なぜ笑い続ける?

なぜ喜んでいる?

 

アルドゥィンの戦いを見て一つわかったことがある。

 

圧倒的な経験値を積んでる。

 

ゲームのレベルのような経験値ではなく、純粋な経験による技術、知識の量である。

 

これまでの戦いでいかに効率よく相手を倒すか、という明確な目的がどんどん洗練されて行く。

 

難易度が上がっているのにも関わらず、倒す時間はどんどん早くなってゆく。

 

 

そうこう考えているうちにアルバトリオンが倒されて消えてしまった。

 

 

「グフフフ……我はまだ足りんぞ……」

 

「なぜ……彼は神を超えし存在とも言われてるのに……」

 

「グフフフ、教えてやろうか?」

 

「なぬ、そんな教えられるものなのか?」

 

「なーに、簡単なことよ。こいつらは生物ではなく、幻影(イリュージョン)だからな」

 

「そんなバカな……幻影でも通常より遥かに強いはず……」

 

「だろうな。しかしな、それはあくまでも理論上では、の話だ。命を持たない存在が命を持つ存在に敵うとでも?」

 

 

アルドゥィンは続けた。

 

 

「命あるからこそ、痛み、恐怖などの負の感情が芽生える。同時に、生きたい、という生存本能、つまり正の感情が生じる。極限まで上がった生命力は、幻影など敵ではない」

 

「なるほど、そういうことなのか」

 

 

そしてミラルーツが翼を広げた。

 

 

「ならば、生者の魂を持つ妾()()がお相手しよう」

 

 

そういうと、ミラルーツの影が紅い影と黒い影の二つに分かれた。

そしてそれぞれの影から紅色と黒色の同型龍が現れた。

 

ミラボレアス

ミララース

ミラルーツ

 

3体同時の狩りの時間(戦い)が始まろうとした。

 

 

「ふん、数を増やせばよい、というわけではないぞ?」

 

「ああ、妾もそれは承知している。だが、そのセリフは妾を倒してからにするのだな)

 

***

 

「……」

 

居心地が悪い。

伊丹が心の中で思ったことだ。

 

各国の代表はそれぞれ6機の米軍のオスプレイに一人ずつ搭乗した。もちろん護衛も引き連れて。

 

ほとんどの場合、護衛に黒服のSPが4人と軍人(おそらく、否、絶対に特殊部隊)4人の計8人と搭乗していた。

 

対して、伊丹が護衛する日本の代表の護衛はというと……

 

伊丹、ロゥリィ、レレイ、ヤオ、テュカ、セラーナ、栗林、そしてSATの隊員1名。

 

明らかにおかしい面子だ。

搭乗するとき米軍のパイロットにはこいつら正気かという目で見られ、同乗してるSATはイライラしていそうで冷静に見えて少しイライラしていて、日本の代表はなぜワシが……と顔に出ていた。

 

 

(なんかごめんなさい……)

 

 

伊丹は心の中で謝る。

 

それに、いつもは興味津々で歩き回るレレイも初めてオスプレイに乗る割には静かだった。

 

半吸血鬼で太陽の影響もあるかもしれないが、おそらく今はそんなことしている場合ではないことを理解しているのだろう。

 

自分たちが監視対象なのは皆感じていた。

 

 

『まもなくイタリカの広場に着陸します』

 

パイロットのアナウンスが入る。

下の広場にはたくさんの人影が見える。

 

 

「お前たち、よく見ておけ。あれが異世界(地球)で最強の5カ国の代表たちだ」

 

 

加藤はゆっくりと垂直降下するV-22(オスプレイ)たちを見上げて言う。

 

周りには様々な種族の兵士が一緒に見上げていた。

 

オスプレイが着陸し、しばらくしてゆっくりと扉が開いた。

 

 

「捧げー、(つつ)!」

 

 

デリラ少尉の号令で一斉に全員が銃を掲げる。

 

同時に、米国大統領を筆頭に各国の代表が次々と地に足をつける。

 

 

「ようこそ、新帝国へ」

 

 

先導はピニャが行った。

 

 

「ふむ、急ごしらえで作った軍隊にしては上出来だな」

 

 

ディレル大統領は少し小馬鹿にしたような表情をする。

 

 

「お褒めの言葉、心より受け賜わります」

 

 

それが見下していると知りつつも、ピニャはあえて顔には出さず、淡々と受け入れる。

 

 

「まあまずは話し合いだな。タクミ・クサカの元まで案内していただきましょうか」

 

「ではこちらへ」

 

 

ピニャは城内へと案内する。

 

護衛も前後左右に要人を囲むように移動する。

 

日本の代表だけ伊丹とSAT(特殊急襲隊)を除けば美少女たちに囲まれて護衛されてるので異質を放ってるのは言うまでもない。

 

そしてそれぞれの要人が待機室へと案内される。

 

 

「ピニャ殿下……」

 

「伊丹殿、ご無沙汰というほどではないな」

 

「領主のミュイは?」

 

「今は安全な場所へ退避させている。流石に非武装地帯とはいえ、何が起きるか分からないからな」

 

「それを聞いて安心した。他に何か変わりは?」

 

「今の状況が一番の変わりだな。妾もそちらの世界の大国代表と対面してなかなか緊張しておるぞ」

 

「わかりました。ただ、何かあれば自身の命を守ることに専念してください」

 

「うむ、伊丹殿もご武運を」

 

 

そしてピニャは去っていった。

 

 

ちょうど控え室に入る直前、伊丹は()とすれ違った。

 

顔は真っ黒のバラクラバの上に真っ黒のホッケーマスクのようなフルフェイスマスクをしていて分からないが、()と確信した。

 

 

「よう、一日とたたず戻っちまったよ」

 

 

お互い背を向けたまま、伊丹から話しかけた。

 

 

「……なぜ戻ってきた。次会うときはお互い銃口を向けるときと言ったはずだ」

 

「そうだな。正確には、()()向ける時と言ってたがな」

 

「よく覚えてたな、そんな細かいところまで。せいぜい後ろから撃たれないよう注意しな」

 

「お前もな」

 

 

そう言って二人は振り向きもせず歩いていく。

 

そして加藤が角を曲がったところで加藤の断末魔が聞こえた。

 

その時初めて振り向くと、ロゥリィがご機嫌な様子で角から現れた。

 

 

「ふぅ、スッキリしたぁ!」

 

「おい、まさか……」

 

「大丈夫よぉ、死なない程度に痛めつけたから。それにすぐ治るし」

 

「……俺は何も聞かなかったことにしよう」

 

 

伊丹は何も聞かなかったし、何も見なかったと自分に言い聞かせた。

 




お気に入りが増減するたびに一喜一憂している豆腐メンタルの駄作者です。
読んでいただけるだけでもありがたいと思ってます。
いつもありがとうございます!
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