オブリビオンゲート 異世界龍 彼の地にて 斯く集えし 作:ArAnEl
ー数時間前、防衛医科大学校、疫学研究室ー
「鷹野三四1佐、お電話です」
「あらぁ、どなたかしら?」
白衣を着た初老の女性が電話の対応に出る。初老でありながらまだ美しさを残す高身長医務官らしい。
「はい、鷹野1佐です」
『ご無沙汰しております、ポイズン・アイヴィー』
「その名前で呼ぶのは、マスターね」
『ええ。例の物は無事頂戴致しました。約束通り、スイス銀行の貴女の口座に指定額分振り込むよう手配します』
「そんなものいいわ。久しぶりに面白い物を見せて頂いたもの」
『ではお言葉に甘えます』
「もう会うことはないのでしょう?」
『そうですね。残念ですが、最後に教授の美しい顔を見たかったです』
「クスクス、上手いんだから。ジョーカーにも伝えておきなさい。無理しないようにと」
『了解です。公安に傍受される危険もあるので私はこれで』
「ええ。それにしても、特地の病原菌はなかなか面白かったわ。そちらに送った
返信はなかった。受話器からは相手が切れた音だけを伝える。
「……まさかあのバカたちがこんな騒ぎを起こすなんてね」
鷹野は机に置いてある写真立てを見る。
中に若かりし頃の自分と紺の制服を来た大学生くらいの若い青年が2人写っている。
しかし、鷹野の目は懐かしむというより、これからのことに期待している野心的な目と言った方が正確かもしれない。
写真には『防衛学研究室、NBC部門』とメモが書かれてあった。
***
「皆さま、特地へようこそ」
会議の開始の合図として、草加拓海がまず挨拶を行った。
広い会議室には、横長のテーブルに向こう側にこちらから見て左からピニャ、草加拓海、テューレが座っており、こちら側は左からフランス、中国、日本、アメリカ、イギリス、ロシアの代表が座っていた。
そして護衛たちは……
(怖えよ……)
それぞれの代表を守るために、後ろに立っているのだがスペースが足りないのですぐ隣に外国の特殊部隊がいる。
伊丹のお抱えの美少女たちが男がか弱い女を守れ、ときかないので、左端を伊丹が、右端をSATの隊員が美少女たちを挟むように日本代表の後ろに並んでいる。
ちなみに伊丹の右はロゥリィで左は……
「
中国人の特殊部隊である。
(これが、13億人のトップにいるエリートか……)
身長は2メートルは超え、筋肉質でいかにもという感じである。三国無双に出てきても違和感はなさそうだ。
(怖えよ、マジで……)
隣人だけではなく、周りの特殊部隊、SPの目は狩る側の目をしてる。
入室前に一切の武器を預けたとはいえ、ほとんど全員素手でも勝てる気がししなかった。
(こいつら絶対人を殺しているだろ……いや、人のことは言えないか……)
よくよく考えてみたら特地に来た時もアルヌス防衛で人を撃った気がする。あまり自覚はないけど……
余談だが、向こうの壁には加藤、ジゼル、デリラや他多種族の複数名が草加たちの後ろに立っていた。
などと考えていたらいきなりディレル大統領がテーブルを叩いて立ち上がる。
「単刀直入に言おう。タクミ・クサカ、君たちはテロリストだ。速やかに武装解除し、投降すれば悪いようにはしない」
「なんと無礼な!それが一国の代表が元首に対して言う言葉か!」
珍しくピニャが怒る。
「ピニャ殿下と言いましたかな?別に我々は君達の国家全てを解体しろとは言っていない。元々、貴女は帝国の皇女だ。なら、条件次第では新帝国の維持を認めてもよい」
と言ったのはロシアの代表だ。
「その条件は?」
今まで廃人同然のテューレが珍しく発言する。よく見ると前よりだいぶ具合が良さそうだ。
「これだ。5カ国で協議した結果だ」
「何?日本はそんなこと聞いてないぞ!」
日本の代表が驚く。
その条件は特地の言語、英語と日本語で以下のように書かれていた。
・ジパングの解散、首謀者その他の引き渡し
・ゲートの管理は5か国が行う
・賠償金の要求(とんでもない額)
・無理なら土地の割譲又は資源の採掘権の譲渡
・一切の武装を解除し、進駐軍がしばらく管理する
など、ハルノートもびっくりの条件が他にも記載されていた。
「こ、これでは自ら占領されるも同じではないか!」
ピニャがまたも声を荒げる。
「それがどうした。我々は君達を国家とまだ承認していない。それらは国家として承認した上で、まだ未熟な国家として保護するということだ」
中国の代表が補足した。
「な、なんたる屈辱……」
「ちなみに、交渉の余地はない。これに従うか、それとも君達は国賊として処罰されるかだ」
(おのれ……またヴォーリアバニーの首長となるチャンスなんだ……ここでまた国を失えば、私は一体どうしたら……)
テューレは忍ばせていた小刀を静かに抜いた。
(!?)
後ろからものすごい殺気を感じ、それ以上手を動かさなかった。後ろをチラ見すると、加藤と同様の服装と覆面をした女性が静かにテューレを見ていた。
しかしその目が全てを語っていた。
それ以上動けば命の保証はないと。
そんな修羅場で、草加が発言する。
「流石にこれは酷い、に尽きますね」
草加は静かに言った。
「貴方たちは新帝国をまだ国家承認していないと言ったが、我々ジパングは承認している。それに、魔術による承認の誓いもしている」
「ジェネラルかアドミラルか知らないがミスタークサカ、貴方は社会学について小学生からやり直してはいかがかな?」
イギリスの代表が皮肉めいて言う。
「君は国家とは何か知っているのかね?」
フランスの代表もチャチャを入れる。
「……国家の三要素は、領土、国民、主権(政府)である」
「なら我々は君達の樹立宣言したジパングとやらの国家を承認するわけにはいかないことはわかっている筈だ」
「そんな前例もないしな」
代表たちが嘲笑う。
「……啓蒙思想発祥の国とは思えない発言だな」
草加は静かにフランスの代表の言葉に返す。
「なに?」
フランス代表の口元が一瞬引きつる。
「フランスやイギリスは、啓蒙思想の発祥の地として現在の思想に大きな影響を与えたのは事実だ。そして、欧州人が日本人などと比べて新しい発想などに長けているのも事実……」
「何が言いたい?」
「その欧州人が、日本人のように過去の
そして沈黙が訪れた。
「ダーハッハッハ!面白い、実に面白いお話だ!」
ディレルが大声で笑った。
「だがB級映画は所詮B級。大ヒットには到底及ばんよ、そんな
「晩餐会の用意はしてありますが、いかがですかな?」
草加はさりげなく招待する。
「我々は別室で食べるのでお構いなく」
ディレルは遠回しにお断りする。
そう言ってディレルは会議室を去ると、他の代表もボディガードたちを引き連れて去る。
伊丹も日本の代表に追従して去る前に、
(あの野郎、居眠りしてやがる!?)
加藤は目を瞑り、立ったまま居眠りしていた。
(どんな神経してるんだ……)
あの場の殺気に溢れた空気でよく眠れたもんだと逆に感心しながら部屋を出た。
「隊長、起きてください……」
「うん、
「な!?加藤殿、こんな重要な会談で寝ていたのか!?」
ピニャが振り向きざまに驚く。
「もし妾たちの身に何か起きたときはどう責任とってくれるのだ!」
「……問題ない。奴らは我々に危害は加えられんよ。しかしこのマスク蒸れるわ……」
加藤はあくびしながら答える。
「なぜ断言できるのだ!」
「まあまあ、ピニャ殿下、とりあえず我々も夕食を摂り、明日へ備えようではないですか」
草加は興奮気味のピニャをなだめた。
(……確かに、あの殺気に満ち溢れた空間で居眠りなど正気の沙汰ではないわ。でも思い出してみれば攻撃的な殺気ではなかったわ……)
テューレは一人で首を傾げた。
***
「ふあ、トイレトイレ……」
夜間の護衛担当となった伊丹は、その前に用をたすことにした。
「なんで俺が野郎のトイレの付き添いなんかに……」
少し柄の悪いSATの隊員とともに。
「なぜって、そりゃあんた、トイレに一人で行くとき一番狙われやすいからだよ。それに女子と来るわけにはいかんからね」
「んなこと聞いてるじゃねえよ」
「わかったよ、さっさと済ませるから怒らないでよ……」
「……俺もついでに済ませるわ」
そしてトイレで仲良く三人並んで用を足す。
三人で。
「どわぁ!?加藤!加藤なんで!?」
「うるさいぞ、真夜中だぞ。普通にいたのに何驚いてるんだ」
「気配消すのやめろ!」
「そんなつもりではなかったが……まあいい、それにしても坂東、久しぶりじゃねえか」
「……」
しかしSATの隊員ら無言を貫く。
「え、もしかしてお前たち知り合い?」
伊丹は左右にいる人物を見る。
「それとも、
「その名で呼ぶんじゃない、
「え、坂東さんあんたもSAWかWASだったの?」
「なっ!?なぜそれを!おい加藤、てめえこいつに喋ったな!?生かしてはおけn……」
坂東が伊丹の頭部に拳銃を向けようと抜いたが、それよりも速く加藤のナイフが坂東の首元に当てられていた。
「そんなこと言うと、本来はお前も処分されるべきなんだがな。誰のおかげで生きているのか忘れたか?」
加藤は片手で器用にズボンのチャックを締める。
「加藤、命を助けてくれたのは嬉しいが、俺の前にお前の腕があってすごく出しにくいのだが……」
伊丹の視界を加藤の腕が邪魔してうまく小便器に
「うん、ああ、すまんね」
「ちっ」
加藤がナイフを引くと同時に坂東も拳銃を納める。
「まあ坂東、カッカするな。だが妙な気を起こすなよ」
そして加藤はそのまま去っていった。
「あいつは一人だったな」と伊丹。
「まあ昔からそんなやつだったよ」と坂東。
「詳しくは聞かんよ。また銃口向けられたら叶わなないし……」
「頼むからそうしてくれ」
そして二人も戻る。
「……やれやれ、やっと消えたか」
ほんの少し開けた扉から様子を伺っていたのはロシアの代表だった。
「明日の会議だが……」
「ああ、もし彼らがこれに同意しない場合は……」
「強硬手段に出る」
その薄暗い部屋には、日本を除く代表が全員いた。
***
会談2日目、交渉は難航したのは言うまでもない。
「では、どうしてもジパング建国の撤回、及び新帝国を国連の保護下に置くことを拒否する、と言うことだな?」
静かに、ゆっくりかつ力強くディレルは念を押した。
「何度も言うが、我々はジパング建国は撤回しない。そして新帝国の庇護については自由意思だが……」
草加は落ち着いた様子で静かに答える。
「妾は新帝国がそちらの大国共々と単独交渉するには時期尚早と考える」
「私も同意見です」
ピニャとテューレが追従するように返答する。
「……よかろう、その言葉をもって我々に宣戦布告したと見なそう」
ディレルはニヤリと笑った。
「な、なんだと!?」
「あの、もっと穏便に……」
ピニャが唐突に立ち上がる。日本の代表の発言は
「貴様ら、あまりにも無礼だぞ!宣戦布告したとみなすとは、妾たちはまだそんなつもりは微塵もないぞ!」
草加は特に何もせず、ピニャを見守った。
(そんなことを帝国の人が言ってもね……)
対して、テューレは半ば冷ややかな目でピニャを見ていた。
(当事者本人では無いとはいえ、帝国も似たようなことしてたしね……
「ほう、では撤回するのか?」
「そ、それは……」
ピニャは以前より講和派だったので戦争だけは避けたいという気持ちが強かった。しかしここで撤回を認めれば丸裸にされるも当然だった。
返答に困ったピニャに助け船を出したのは草加だった。
「言った筈だ。我々は撤回しない」
「分かっているだろうな、君たちが宣戦布告したとみなした我々は、何するか分からんぞ?」
「我々は戦線布告する、と一言も言ってないが」
「黙れ!このジャップが!貴様らに残されたのは開戦か建国の撤回だ!」
議論がどんどんやばい方向に向かっていた。そもそも議論ですらない。一方的な押し付けだ。
(え、ちょ……マジで戦争する気なの?)
伊丹の不安はどんどん募る。
「……」
草加は目を瞑って沈黙を続ける。
「先程、貴方たちは私に社会学を小学生からやり直した方が良いと仰った。その言葉、そのままお返ししよう」
草加はゆっくり立ち上がる。
「貴方たちは国連の代表なのか?ならば国連の許可を取ったのか?」
「……貴様らは国連に加盟してないのだろう?ならば関係のない話だ。そもそも国家承認してないのだがら無理だろうが」
「そうだな、国連とは弱者ではなく、加盟国のためにあるものだな。たが、貴方がたは一つ大きな間違いを犯した」
「はあ?」
「『宣戦布告をしたとみなす』と仰ったが、間違いないか?」
「だからどうしたというのだ?」
「撤回するつもりはないな?」
草加が念を押す。
「無論だ。我々に二言はない」
ディレルは吐き捨てるように言う。
「それを聞いて安心した。最後通牒、宣戦布告は国家間でしか生じないものだ。つまり……」
草加がどこか微笑んだ気がした。
「先ほどの言動をもって、ジパング及び新帝国の国家承認をしたとみなす」
「き、貴様っ!?そんなことを認めんぞ!」
「なぜだ?貴方たちは国連の代表なのだろう?」
「我々は国連の代表などではない!あっ……」
しまったと言わんばかりに中国の代表が口を滑らす。
「では、君たちは国連とは別でやってきたわけだ」
「それに対するコメントは控える。貴様の態度は気にくわんが、度胸は褒めてやろう。
いいだろう、どうせ我々貴様らを潰す口実が必要なだけだ。我々に勝てたら国家承認は確実にしてやろう」
化けの皮が剥がれたようにディレルは吠える。自暴自棄かもしれない。
「なかなか気前がいいな。何か裏があるのかな?」
「裏?そりゃああるさ。何故なら貴様らは全員ここで死ぬのだからな!」
刹那、部屋中に機関銃の如く甲高い連続音、閃光、そして赤いしぶきが舞い散った。
今回ばかりは伊丹たちも反応できなかった。
「ひ、ヒィ〜!?」
情けない声を上げだのはディレルたちの方だった。
そして辺りを見回すと、
だが加藤たちは微動だにしていない。手に武器すら構えていない。
「き、貴様ら裏切るつもりか〜!?」
ロシアの代表が情けない声で叫ぶ。
彼らに銃口を向けていたのは、各国の特殊部隊である。
「裏切る?背任行為をしたのは貴方たちだ。祖国の恥さらしめ」
「ま、待て!国の代表にこんなことして済むと思うのか!」
「国の代表?笑わせるな。我々も騙しておいて、貴様らが偽物というのは裏が取れている」
フランスの代表に対し、フランスの特殊部隊が冷徹に言葉を投げる。
「お、おのれ……確かに我々は偽物だ。だが、国が国民を見捨てると思うなよ!」
偽ディレルは性懲りもなく吠え続ける。
「いやさ、あんたバカなの?あんたら使い捨てっていうこと気づいてないの?」
米軍の特殊部隊は呆れた様子だ。
「だ、だが、私が死ねば米国を本気で敵に回すぞ、いいのか?」
「勝てば、国家承認してくれるんでしょ?あたいならやるよ?たとえ負けるかもしれない戦でも、ここまでコケにしたらやるよ、あたいなら」
「まあ、なぜか負ける気がしないけどな!」
デリラとジゼルが笑いながら答えた。
「お、おのれ〜、貴様ら全員核の炎で焼きつくしてくれる!」
「ほう。で、どこに落とすのだ?銀座のど真ん中に?もしかして日本を三回目の被爆国にするつもりか?あ?」
「……あ」
偽ディレルは加藤の言葉に我に返る。
そう、特地のどこかに核兵器を落とそうにも、落とせないのだ。衛星もICBMも、大型爆撃機も、特地にはない。
「その反面、我々も核兵器なら保有している」
加藤は続ける。
「大軍で押し寄せたところで、我々は使用に関する条約は締結してないから使用は自由だ」
「そんな、聞いてない……」
先ほどの威勢はどこに行ったのやら、偽ディレルの勢いはどんどん削がれる。
対して伊丹は、ああ、
と呆れた感じで納得していた。
「だが我々は核という旧式兵器を使うつもりはない」
「へ?」
「そんなものより、さらに強力な戦略兵器を持っている、としたら?」
「なんだ、それは……」
「知りたいか?いいだろう、メイドさんの土産、じゃなくて冥土の土産に教えてやろう」
核兵器を超える新戦略兵器?
伊丹は半信半疑だったが、その名前を聞いて背筋が凍った。
「もし我々が
加藤は今までにない邪悪な嗤いを見せた。
***
冥土の土産とは言ったものの、偽の代表たちは処刑されずに済んだ。とりあえずしばらく拘束される方針で決まった。
ついでだが、日本の代表は今回はハブられて関与しておらず、代表も本物だったのでお咎めなしだった。
「伊丹、驚かせてすまんな」
加藤がSPの遺体を運びながらいう。
「謝るならこの仕事させないでくれる?」
伊丹も遺体を運びながら毒を吐く。
「んで、ここだけの話
「……さあ、どうだろうねえ」
(何だ、ブラフか?)
伊丹は少し安心した。この様子だと、本格的な戦いはしないのかもしれないと心のどこかで感じた。
「しかし、まさか全て仕組んであったとはな」
「まあな。伊達に
「は?ロジスティックス・マスター?なぜ兵站?」
「俺、元々補給幹部って言ってなかったけ?」
「そういえば、そんな気がする」
「必要なものは全て手に入れる。撃ち空薬莢から核兵器まで。捕虜も特殊部隊も情報も全て、必要な時に必要な場所に必要な分だけ揃える。その結果ついたあだ名だよ」
「なんちゃって特殊部隊と呼ばれる俺よりはマシだな」
「なんちゃって特殊部隊か、俺も似たようなもんかね」
「お前が?まさか、はは」
「なあ、知ってるか伊丹……」
加藤はゆっくり続ける。
「俺が自衛隊いた時の特殊部隊ってのはな、俺にとってはおまけに過ぎないんだよ」
「どゆこと?」
「いや、なんでもないさ」
「マスター、そろそろ処理が全て完了します」
「了解」
新たに配下になった特殊部隊が加藤に進行状況を報告した。
「なんかマスターというと
と
「そう?俺はスター●ォーズの方だな」
と
「そういや昔やった島嶼奪還統合訓練でさ、俺たちSがチーム・サーバントとかいう名前で参加した時、海自のオペレータにコードネーム、マスターってやつがいたけどさ……」
「もしかして、その時のチームにコードネーム、アベンジャーってやつがいた気がするな……」
二人はしばし黙る。
「「お前だったのか」」
二人は笑った。
「俺はてっきりF●teのマスターかと、いいオタクがいたもんだ思ってた」
「こっちはマー●ルのアベンジャーかと思っていたのにさ」
遺体の運搬しながらオタクの話で盛り上がるとはなかなか二人はサイコパスかもしれない。
それとも、単に心理的負担をあえて別の話題で紛らわせていたかもしれない。
「んで、どうするよ、これから」
「既に計画は進行している。変更はない」
「そっか……」
「お前たちをアルヌス帰還までエスコートする。ついでに、正式な最後通牒と戦線布告をそこで行う」
「止めても無駄だから止めないけどさ」
伊丹は大きなため息を吐く。
「俺も腐っても自衛官だ。日本を守るためには、俺も手段は選ばないからな」
「……いい心がけだ」
「それじゃあさっさと支度して俺たちは帰るからな。ロゥリィ、テュカ、もうその辺にして帰る準備だ」
伊丹は少女たちに指示しながら去っていった。
「……伊丹、強くなったな」
加藤はどこか寂しげな笑みを浮かべた。
***
驚くべきなのか、当たり前といえば当たり前かもしれないが、オスプレイも全て買収済みだった。つまり全部ジパングと新帝国の物になった。
日本代表と伊丹が乗ってる機体に、加藤も載っていた。
「坂東、お前はどうするんだ?」
加藤が坂東に尋ねる。
「もうあんたの下で働くのはごめんだ。それに俺以上に戦力になる駒は手に入れただろ?」
「まあな。能力は高いものの、性格に難あるお前はこっちからもお断りだ。合法的に人殺しがしたいからってさ」
「あ?お前には言われたくないぞ」
「まあどっちみち、俺を処分できなかったのは残念だな」
「ふん、お見通しって訳か」
「公安のお偉いさんがお前を寄越すとしたらそれしか理由がないだろ」
「まあ、変な気を起こさないで正解だぜ、まったく。じゃねえと俺も今頃蜂の巣よ」
「……少しは丸くなったんじゃねえの?」
「うるせえ」
坂東は加藤の執拗な質問に無視で対応した。
「そろそろ到着する」
パイロットがアナウンスした。
「しかし、オスプレイ1機しか帰ってないから絶対怪しんでいると思うよ」
伊丹が不安になって言う。
「まあ、一応根回しはしたけどさ」
オスプレイが着陸し、扉が開くとそれはそれは盛大な歓迎を受けた。
出ると海兵隊がうじゃうじゃ、しかも銃口をしっかり向けている。
見えないが、狙撃手もいるだろう。
とりあえず加藤以外は全員出たが、銃口は微動だにしなかった。
(やはりあいつを狙ってるのか……出た瞬間に撃たれたりしなきゃいいけど)
伊丹は機体に残っている加藤のことを気にかける。
しかし待ってもなかなか出なかった。
『管制塔、管制塔、こちら加藤少佐』
なんとオスプレイの無線機を使って管制塔と拡声器に発信していた。
『米海兵隊及び、日本国自衛隊が背信行為をしないことを信じているが、万一に備えて連絡する。今回私は特使としてきた訳であるが、もしなんらかの攻撃をされた場合、私の生死問わず、帝都より巡航ミサイルをゲートに向けて撃つ』
この宣言に皆がざわめいた。
『さらに、この巡航ミサイルは通常弾に非ず。魔力によって探知不能で、弾頭についても通常戦力を大きく超えるものである』
無論、皆どよめく。
事実かどうか定かではないが、十分な牽制にはなったと思われる。あちこちの無線機から撃ち方待ての指示が聞こえた。
『私は特使である。重要な連絡のため、ここにきた。よって米海兵隊司令及び狭間陸将の面会を要求する』
そして加藤はゆっくりと出てきた。
しばらくすると、米海兵隊司令と狭間陸将が近づく。
加藤は二人に対し敬礼をし、二人は答礼する。
「加藤3佐、いや、それとも少佐かな。久しぶりだな」
「狭間陸将、ご無沙汰しております」
「
「それを聞いて安心しまさした」
米海兵隊司令の言葉に加藤は笑顔で返す。
「本題に入りましょう。我々は今回のトラブルを受け、国家の承認の賛否に関わらず、そちらの世界に戦線布告をします」
加藤の言葉に二人は特に驚きを見せない。なるべくしてなった、とでも思っているのか。
「本日と明日の境目、つまり0時を持って開戦とします。何か質問は?」
「ない」
海兵隊司令が答える。
「加藤少佐、はやりもう、避けられないか?」
「もう、避けられないですね」
「わかった」
そう言って二人は今回のトラブルの証拠の音声、映像のUSBを貰う。
「では失礼します」
そして加藤はオスプレイに乗って去った。
「これより戦闘準備に入る、各人行動開始!」
米海兵隊司令はすぐに行動に移す。
「アンダーソン少将、自衛隊も動いて良いですかな?」
「……よかろう、只今を持って自衛隊の制限を解く」
「ありがとうございます。全隊員戦闘用意!」
自衛隊も直ぐに動きだした。
(我が国が、約70年ぶりに戦争をせざるを得ない状況になったか……日本はどう出る)
狭間陸将はゲートの方をしばらく見つめた。
***
日の境目、0時になった。
「……」
日米の隊員は息を飲んで防御陣地で待った。
日本にとっては特地において2度めの大規模戦を予想していた。しかし前回よりも緊張するのは、やはり今回の相手の戦力及び戦術が全く予想できないことだ。
歴戦の米軍にとっても、気を張る状況である。特地の戦闘は初めてである上に、日本から貰った情報である特地は中世レベルの科学技術である、という情報が役に立たないからである。戦車の鹵獲や、火器の扱いが今回は懸念されるからだ。
そして双方にとっても脅威なのは……
『新魔法』
今までの魔法とこちらの世界の科学技術が組み合わさったことにより、どうなるのかまだ前例がない。
もしかしたら加藤のハッタリかもしれない。
もしかしたらこたたらの世界の科学技術の水準を超えるかもしれない。
そんな疑心暗鬼にもなりながら彼らは待った。
待った。
とても待った。
すごく待った。
大変長らく待った。
そしてまた待った。
結局、正午になったが、誰も来なかった。
そろそろ日米双方とも集中力の切れたものもたくさん出てきた。
「ガッデム。何も来ないじゃないか!」
「くそぉ、眠ぃよ……」
アルヌスではそんな感じだが、帝都は全く逆だった。
「あのさ、少佐……」
「なんだい?」
デリラが呑気にタバコを蒸してる加藤に尋ねる。
「あたいら、いま戦争中なんだよね?なんでいつも通りなんだい?」
「なんでって、別に血を流すだけが戦争じゃないぜ?」
「そういうものなのかい?」
「まあ、何が起きても大丈夫なようにいつでも出発できるようなもの準備はしとけよ」
「はいはい」
デリラは呆れたように去る。
そして加藤はアルヌスの方向に向けてタバコの吸い殻を投げ捨てる。
「日本人よ、これが戦争だ」
加藤はニヤリと笑う。
ゲスト出演
・鷹野三四:「ひぐらしのなく頃に」より。もし原作で目立った悪さをしなかった場合のルート、という妄想
・坂東:「エルフェンリート」より。もし原作みたいなことにならなかった場合、という妄想
ちなみに加藤の最後の言葉はどっかの映画より。